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第二部 並行異世界地球編

25 白姫伝承を知る者

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 それからいくつもの魔法を奴にぶち込んでみたが、奴の爆発魔法自体もかなり強化されているのかあまり手ごたえは無かった。
 とは言え疲労は見えていた。目立ったダメージは入っていなくとも確実に相当な量の魔力を消費しているんだろう。

「はぁ……はぁ……本当に、なんなんだよお前は……!」
「何の変哲もないただの学生だけど?」
「そんなはずがあるか……もはや人間の領域を超えているじゃないか!!」

 人間の領域……か。確かにこの体の能力はとんでもない。
 他のプレイヤーがいたから気付きにくかっただけでとっくに人としての限界なんか超えているよな。
 
「またしても、僕はお前に勝てないのか……?」
「……っ!?」

 突然のことだった。奴の中で膨大な量の魔力が生み出されている感覚がした。
 けどこいつはただ事じゃない……それまでの魔力とは質が全く違った。

「お前、まさか……!」
「フッ、ハハッ最初からこうすれば良かったんだ!!」

 奴の体表が蠢き始める。と思えば次の瞬間には奴の体は作り変えられていた。
 数少ない奴の大豊としての姿が徐々に消えて行く。その意味が俺にはわかってしまった。

「お前、そこまでして俺に勝ちたいのか」
「ハッはは……ソの通リ。どうせ勝てナイのなラ、僕は自らを捨ててデも……復讐を果タしてやル!!」

 どんどん奴の声が全く別の物に置き換わって行く。
 それにつれて言語機能が薄れて行っているのを感じた。

「……グ、グガガァ」

 気付けばもうそこに大豊の面影は無く、一体のドラゴンがいるだけだった。
 奴は、己を形成する全てを魔力に変換してしまったんだろう。放っている魔力自体は奴の物だが、概念的にはもう別の存在になってしまっている。

「はぁ、まさかそこまでするとは思わなかったが……そっちがその気なら俺も応えるべきだよな」

 奴のことを許す訳にはいかないが、自身の全てを捨ててでも復讐を果たそうとするその覚悟には敵ながら天晴だ。
 だからお遊びはこれまで。

「せめて、一瞬で終わらせてやるよ」

 魔力を両手に集中させ、魔法の発動準備を行う。

「グアァァァ!!」
「ッ!?」

 しばしの牽制の後、奴の方が先に動いた。
 だがその攻撃方法は大豊のそれとは大きく違っていた。

 奴は自身すら巻き込むほどの規模と数の爆発魔法をいくつも同時に発動させていた。
 いくらドラゴンとしての強靭な肉体を持とうが無事では済まない。まともな思考があればまずやらない攻撃手段だった。

 だが今の奴にはまともな思考が無いように見える。だからこそ自爆特攻のような攻撃すらも平気で行えるんだろう。

 直撃しても大丈夫な保証はないため寸前で避ける。こんな風に肌がピリピリするような緊張感は久しぶりだ。

「思ったよりもやるな……! ならこちらからはこれだ!」

 なんだか楽しくなってしまっている自分がいた。
 思えばこれほどに力を出せるのは久しぶりだった。

「複合魔法の感覚はさっきので何となくわかったからな……コイツでも試してみるとするか」

 右手に氷属性の上級魔法「グレイシャルフォース」を、左手に炎属性の上級魔法「ギガファイア」を発動させる。
 そしてその二つを複合魔法で合体させた。

「ぐっ……流石に反動が凄いな」

 相反する属性だからか反発し合っていた。気を抜けば今にも腕が吹っ飛んで行きそうだ。
 だがその分、異常な程の魔力の高まりを感じる。これは凄まじい威力になる……瞬時にそう理解した。

「受けてみやがれ……!!」

 奴に向けて合体させた魔法を放つ。
 超低温と超高温。矛盾した魔法同士が重なり合い奴の体を飲みこんでいく。
 そしてすかさずマジックプロテクションで奴の周囲を覆った。

「グガッ、ガアァァッッ……!!」

 氷属性の魔法を複合したことで爆発が起こらず、純粋な魔力衝突によるダメージが奴の体を襲っていた。
 どうやらこの攻撃は奴の能力では無効化できないらしい。

 これでも威力的には超級魔法には及ばないが、逆にそれがちょうどいい。
 この威力なら「中火力以上、超高火力以下」のちょうど間くらいの魔法になる。
 反動こそデカいものの使いこなせれば戦術に幅が出るな。

「……終わったか」

 そうこうしている内にマジックプロテクションの内部が静かになっていた。
 奴の姿は影も形もなく、奴の魔力すらも感じない。完全に消滅したと見て良いだろう。

「うん……?」

 地面を見ると奴がいたであろう場所に水晶のような物が落ちていた。

「なんだこれ……?」

 まるで一切の光を反射していないんじゃないかとすら思えるドス黒いそれは禍々しい雰囲気を纏っていた。
 それを拾い上げようとしゃがんだ瞬間、殺気を感じたため即座に後ろへと飛び退いた。

「なるほど、今のを避けるのですね」

 どこからか現れた女性は水晶を拾い上げながらそう言う。
 少なくとも奴と戦っている時には既に近くに来ていたのだろうが、辺りには隠れられそうな場所も無い。
 それに一切の気配も感じなかった。魔力すらもだ。

「やはり貴方が……貴方様こそが、白姫様なのですね」
「白姫……だって?」

 目の前の女性は嬉しそうな表情を浮かべながら、聞き捨てならない単語を放った。
 白姫伝承なるものがあるのは聞いている。だがそれは一部の者にしか開示されていないもののはず。
 得体のしれないこの女性がその名を知っているのは正直怪し過ぎた。

「どうしてその名前を知っているんだ?」
「それはもちろん、私共が白姫様を崇拝する者だからですわ」

 崇拝って……なんかまた随分とややこしい話になりそうだな?

「貴方の情報が最初に入って来た時から私共はこの時を待ち望んでおりました。これも全てあの大豊と言う駒のおかげです。彼には感謝しなければ」
「おいおい、まだ俺が白姫だって確定したわけでは無いだろ」
「……? では何故貴方のような少女が白姫様の名を知っているのでしょう?」

 ……あ。
 しまった。これはとんでもないやらかしだ。
 最初からはぐらかしておけば良かったんだ。変に情報を得ようとしたせいで墓穴を掘ったか。

 そうだよな。普通に考えて政府ぐるみで秘匿されている情報をこんな少女が知っているのはおかしい。

「白姫様。どうか私共をお導きください」
「いや、そう言われても俺がアンタらの言う事聞く訳無いだろ?」
「どうしてでしょう? 白姫伝承では白姫様は迷える者たちを導く存在だと記されていますのに」

 ……一体どういう風に書かれているんだその伝承とやらには。

「どうやら貴方様は私共の知る伝承の存在とは少しばかり違うようですね」
「……少しと言うか大分違うと思うがな」
「ふむ……これは少し困ったことになってしまいました。ですがこの程度のことで諦める訳にはいきません。白姫様、またいつかお会いいたしましょう」
「逃がすと思ってるのか? ……消えやがった」

 俺が魔法を発動させるよりも速く女性は靄になって消えてしまった。
 結局何者だったのかも、どういう目的なのかも、何もかもがわからないままだ。
 けどこの感じだと近い内にまた出会うことになりそうだし、その時はどんな手を使ってでも全てを聞かせてもらうとしよう。
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