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仮想空間でセカンドライフ

第19話 ひろし、おばあさんもVR

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 おじいさんはVRグラスを外して現実世界に戻ってくると、おばあさんが先に夕飯を食べていた。

「すまんすまん、またつい夢中になってしまって……」

 おじいさんがそう言うと、おばあさんは笑顔で答えた。

「あなた、こっちのゲーム、充電したら使えましたよ」

「あ! しまった、電池切れだったか。おばあさん、お金を使ってしまって申し訳ない」

「いえいえ、わたしもゲームやってみたら面白くて! お友達もできてケーキをたくさん食べたんです」

「おばあさんもゲームやったのかい? でも良かった。データーを移したから、そっちは最初からできたんだな」

「データー?」

「あ、いやいや何でもないよ。そのうちゲームの中で会うかもしれないな」

「うふふふ。でも、わたしを見つけられるかしら」

 おじいさんは不思議そうな顔をしたが、テーブルについて一緒に夕飯を食べはじめた。

「おばあさん、今日ゲームの友達とバンド組んだんだ。はは」

「バンド?」

「いやぁ、光って簡単に弾けるキーボードがあってな……」

「あら。孫たちも小さい頃に、そんなの弾いてたわね」

「ははは、そうだったな。ところで、おばあさんはゲームの中でどこかへ行ったかい?」

「わたしですか? 時計台の前でフラフラしていたら、若い女の子たちに助けてもらって、メインクー? をやってもらって」

「あ、おばあさん、メインクエストだろう?」

「そうそう、それです。わたしは見ていただけですけどね。うふふふ」

「すごいなぁ。わたしもメインクエストやらないとなぁ」

「わたしはそれよりも、みんなで食べたケーキが美味しかったわ。明日も会う約束したんですよ」

「はははは、おばあさんも楽しんでるんだな。良かったよ」

 二人はゲームの会話がはずみ、久しぶりに夜遅くまで話をした。


 ー 翌日 ー

 おじいさんとおばあさんはゲームをするために朝から忙しく働いて急いで昼食を食べると、一緒にVRグラスをかけてゲームの世界に入った。


 二人は一緒に時計台に来たはずだが、おじいさんはおばあさんを見つけられなかった。

「おや? おばあさん居ないなぁ。もう、お友達のところへ行ってしまったのだろうか」

 おじいさんはそう呟くと、ゆっくりと歩いてG区画の家へ向かった。

 ◆

 ガチャ

「こんにちは」

 おじいさんが家に入ると、すでにみんな集まっていてバンド練習をしていた。

 アカネはおじいさんに気づくと嬉しそうに大きい声で言った。

「あ、じいちゃん! ちょっと聴いてよ!」

 ♪ブンブン、ブブン、ブーン♫

 アカネはベースを弾いてみせると満面の笑顔になった。

「どう、じぃちゃん。カッコイイでしょ!」

「ええ。アカネさん、とっても格好良いですよ!」

「でしょ! ありがと、じぃちゃん!」

 アカネはおじいさんの言葉に喜ぶと、また嬉しそうにベースを弾いた。

 すると、めぐがおじいさんに駆け寄ってきた。

「おじいちゃん、イリューシュさんが作ってくれた曲、すごくカッコイイの! デモ音源聞いてみてよ!」

 めぐは手を動かすと、おじいさんの視界に「megu01.mp3」と「再生」という文字が現れた。

「おじいちゃん『再生』の文字を押すとデモ音源が聞けるよ。これ、わたしが歌詞書いたんだ」

 めぐはそう言うと、おじいさんに手書きの歌詞を手渡した。

 おじいさんは歌詞を受け取ると、笑顔を浮かべて歌詞を読みながら「再生」ボタンを押してみた。

 ーーーーーーーーーーーーーー
 『仮想のこの世界で』
 作詞:めぐ 作曲:イリューシュ

 なまえは知らない
 あなたの声だけ

 離れた場所から
 つながるこの気持ち

 揺れて溢れる

 あなたに会いたい
 仮想のこの世界で
 想いよ届いて

 声が聴きたいよ
 それだけで構わない

 お願い
 この気持ち気づいて
 いま……
 ーーーーーーーーーーーーーー

 おじいさんは曲を聞き終わると目に涙を浮かべながら言った。

「あぁ、とてもいい曲ですね。歌詞も最高です」

「やった! 嬉しい、おじいちゃん!」

 めぐは、おじいさんの手を握って喜ぶと、イリューシュも嬉しそうにした。

 するとアカネがベースをまじまじと見ながら言った。

「それにしても、3つだけ押さえる場所覚えたら弾けるなんてなぁ」

 それを聞いためぐがアカネに説明した。

「それはイリューシュさんが3つのコードだけで作ってくれたからだよ。でもアカネも上手だよ!」

「へへ。だろ!」

 ブブーン♪

 アカネはポーズを決めてベースを鳴らした。


 ー その頃、時計台の前 ー

 おばあさんはVRグラスをかけた時に、実はおじいさんと一緒に時計台の前に来ていた。

 しかし、おばあさんは初期設定の時に自分の顔をスキャンしたが、年齢設定を20歳にしていたのだった。

 そのお陰で、おばあさんはスッとした顔立ちに黒髪ロングヘアの若い頃のおばあさんになっていた。

「洋子ちゃん!」

 すると、おばあさんの名前を呼ぶ若い女の子たち3人が駆け寄ってきた。

 おばあさんはプレイヤーネームを自分の名前の「洋子」にしていた。

「あ、マユさん、メイさん、ナミさん。昨日はありがとうございました。わたし、あんなに楽しかったのは久しぶりで」

 おばあさんが深々と頭を下げると、マユが嬉しそうに答えた。

「ううん、洋子ちゃん。わたしたちも本当に楽しかったよね」

 メイとナミも大きく頷いた。

 おばあさんはとても礼儀正しかったので、女の子たちに人気だった。

「洋子ちゃん、今日は車で海へ行こうよ」

「まぁ、素敵! 車が運転できるのね」

「うん、免許とったばっかりなんだけどね。村の外にモービル用意してあるんだ。こっち来て!」

「ええ!」

 おばあさんは女の子たちに連れれられて、一緒に村の外へ出た。

 そしてマユが用意したモービルに乗り込むと、マユの運転で海へと向かった。


 マユは真剣な表情でハンドルを握りしめながら、おばあさんに言った。

「洋子ちゃん、運転下手だったらごめんね」

「いえいえ、とてもお上手ですよ」

「ありがとう、自信つく!」

 すると後ろの席に座っていたメイが顔を出した。

「マユいいなぁ。あたしも早く免許取りたい」

「メイとナミは誕生日まだだから、もうちょっと我慢だね」

「だよねー」
「ぅん」

 おばあさんは自分の孫くらいの女の子たちの会話を聞いて笑顔になった。


 しばらく車を走らせると、砂浜の綺麗な海に到着した。

 おばあさんと女の子たちは車から降りると砂浜にパラソル立てて、その下にシートを広げて座った。

 そしてアイテム欄からジュースとお菓子を取り出すと、一緒に食べながら恋愛話で盛り上がった。


 その頃、おじいさんは人差し指をプルプルさせながらキーボードと格闘していた。

「ひろしさん、そうです。とってもお上手ですよ。これなら一緒に演奏できますね。やってみましょう」

「は、はいっ! ええと……」

 おじいさんは直立不動で人差し指を立てて固まると、イリューシュはドラムに座ってカウントを始めた。

「ふふふ。みなさん、いきますよ。One two three four!」

 おじいさんは機械のように、必死に光るキーボードを押した。

『なまえは知らない~……』

 こうして、おじいさんのバンドマン生活が始まったのであった。
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