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エターナル・マザー編

ダーク・ナイツ戦(3)

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闘技場


静まり返る観客席。
ステージ上で起こった出来事を見た観戦者は一同に身を震わせた。

ルガーラが放った正拳突きを耐えた少年。
自らが、あの拳を受けていたらひとたまりもないことは当たった時の轟音で容易に想像がつく。

少年はかろうじて立ち上がり、悲痛に歪む表情。
だが折れたダガーを捨て、右腰に差したダガーのグリップを握ると逆手で引き抜き前に構える。
驚いたことに未だに戦意は失われてはいなかった。

観客の注目は少年へと向けられる。
所々で声援が上がり始め、それは次第に大きくなってきた。
そのほとんどは少年へ放たれるものだった。


ルガーラは右の拳を握りしめた。
メリメリと音を鳴らすと同時に奥歯も噛み締める。
いくつかの骨は折れているのだ、その激痛は尋常では無い。
だがそんな痛みをものともせず、ルガーラは左足を前に出して踏み締め、構えを取った。

「名を聞こうか」

「ガイ・ガラードだ」

「ガラード……」

ルガーラは笑みを一転させ眉を顰める。
何か考え事をしているように見えた。

「なんだよ」

「いや、なんでも。続きをやろか。まだ戦えるのだろ?」

「もちろんだ」

前に構えたダガーを握る手に力を入れる。
そしてガイは瞬時に飛び出した。

数十メートルの距離を一気に疾走すると、あっという間にルガーラへと到達。
逆手に握ったダガーを横に流すように振う。

先ほどと同じ状況になりかねない動きだ。

案の定、ルガーラは左腕につけたアームガードでダガーを受けると衝撃でダガーは砕けた。
一瞬、止まったと思われたガイの腕は振り抜かれていた。

ルガーラは再び右拳を腰に溜める。
スー、と息を吐き筋肉を最大に引き締めて正拳突きを放つ準備を整えた。

ガイはその動きを見逃さなかった。
腕を振り抜き様、体を回転させる。
ルガーラの顔面狙いの回し蹴りを放っていた。

「狙いは面白い。だが私には効かん」

ルガーラは構えたまま体勢を低くしてガイの蹴りを回避した。

「なに!?」

ルガーラの動きに驚愕するガイ。
それもそのはずで、猛スピードで不意打ちに近い攻撃をいとも簡単に回避するなどありえない。

"その動きはまさに未来がわかっているかのようだった"

ガイの蹴りはルガーラの頭上を通り過ぎると、完全に無防備になる。
そこにルガーラの正拳突きは放たれた。

狙いは心臓付近。
間一髪、ガイはクロスガードで正拳突きを防ぐ。
凄まじい威力に再び吹き飛ばされるが、ガイはすぐさま太もものダガーのグリップに手を伸ばし引き抜く。
同時に勢いよくルガーラ目掛けて投げた。

これこそ完全な不意打ち。
数メートルしかないほどの距離を猛スピードで飛ぶダガー。
こんなものに対応できるはずがない。
しかしルガーラはそれすらも最初から知っていたかのように簡単にアームガードで弾き落とす。

「やはり、闘気を操ってるな。ここまで硬いと拳だけだと限界があるか……」

ルガーラから笑顔が消えた。
渾身の正拳突きのダメージがほとんど無い。
それは感覚だけで簡単にわかった。


吹き飛んだ先、ガイは地面を転がりながらも、途中で起き上がり滑るように止まる。
吐く息は荒かった。

「なんで俺の攻撃がわかるんだ……」

「少し教えてあげようか。"闘気"ってやつはね、とても"せっかち"なんだよ」

「……は?」

「私の能力は手品でもなんでも無い。"闘気"はね、んだ。ただそれだけなのさ」

ガイはなんとなく理解した。
なぜルガーラがガイの動きがわかるのか。

「私に触れられたのは、かつての私の師匠、ただ"1人"だけだ。一瞬で見抜かれて対策されたよ」

ルガーラは笑顔を取り戻す。
昔を懐かしんでいるようだった。

「ちなみに師匠は闘気は感じれないし、もちろん見ることもできない」

「じゃあ……どうやって?」

「簡単なことなんだが……まぁ、それがわかったら、もしかしたら私に勝てるかもね」

ルガーラはそう言って構え直した。
"受け"の姿勢を崩すことはないようだ。
それは絶対に攻撃が直撃することはないという自信のあらわれからだった。

この勝負に勝つには、未来を予測できる"闘気"を攻略する以外ない。
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