最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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エターナル・マザー編

北の砦にて

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10年ほど前


第三騎士団長のザイナス・ルザールは後継者を探していた。

それは自分の容姿を毎朝、鏡で見るたびに思うことだった。
髪は白髪になり、シワの深まった顔を色んな角度から見るに明らかな老いを感じていた。

だが、現在の第三騎士団には自分と対等に渡り合える人間はおらず、それ以前に魔物相手でも苦戦する者ばかりだ。

実力的に第一騎士団長とまでは言わないし、波動数値なんてものも正直どうだっていい。
若くして第二騎士団長になったヴォルヴエッジ家の長男ほどの才覚があればそれでよかった。

だが、そんな人間はそう簡単にはいない。

ザイナスは求めていたのだ。

自分が培った能力を継承するに値する人間を。

____________


王都から少し北に行ったあたりに第三騎士団が駐在する砦があった。

名をベンツォードと言う。

ベンツォード砦の近辺はレベルの高い魔物が多い。
この魔物たちが南下し、王都への侵攻するのを防ぐために作られた砦だった。

石を数十メートル積み上げて、広く円形に一周させた外壁は見るからに重厚だ。
中央にそびえる石の砦はそれ以上に高く、数十キロという距離まで見渡せると言われる。

この場所を実力不足の騎士団で守り切れるのかという懸念はあったが、ザイナスの卓抜たくばつなる指揮によってそれを可能にさせていた。


ザイナスは砦の自室にいた。
団長ともありながら日当たりが悪く、狭い部屋を選んだ。

家具はほとんどない。
小さなテーブルとベッド、そして自分の屋敷から運ばせた大きな鏡だけ。
寒がりなザイナスとしては毛布だけが高価な代物と言えた。

テーブルについていたザイナスは趣味の書き物がひと段落すると目頭を摘む。

「やはり、日の光が少ないな」

真昼間といえど部屋は明るくはない。
いつも通りため息混じりに小さな窓から外を見た。

この日も、いつも通りで何気ない1日……のはずだった。
今日は違った。
妙に外が騒がしい。

ザイナスは部屋を出た。
すぐに騎士団の団員が1人、ザイナスの元を訪ねようと廊下を歩いてきているのが見える。

「あ、団長。また小説ですか?」

「ああ」

「今度はどんなやつです?」

「昔の友人から面白い話を聞いてね。がらにもなく恋愛小説を書いてるよ」

「へー珍しいですね」

「しかし性分なのか、やはり殺伐としてきたな。あとラストに面白い"ギミック"を仕込もうと思ってるんだ。まぁ誰も気づくことは無いと思うがね」

「おお、それは楽しみです」

「それより何か騒がしいようだが、どうした?」

団員は苦笑いしていた。
その表情を見るに大したことではないのはすぐわかった。

「それが、近くの町で窃盗があって……例の盗賊団の仕業だと思って行ってみたら、犯人は子供だったんですよ」

「子供?」

「ええ、中庭にいますよ」

「なぜ中庭にいるんだ?」

「"賭け"の申し出です」

「"賭け"だと?」

ザイナスは団員と共に中庭へ向かった。
砦の中庭は演習場だった。
決して広くはないが数十人しかいない第三騎士団だけなら容易に収まるほど。

数メートル間隔に立たされたカカシや、弓矢を当てるマトなどがある。

外は寒く、吐く息は白い。
雪が少し降っていた。

中庭に集まる騎士団員たちは円形になり、何かに声援を送る。

ザイナスは砦の2階まで降りると中庭を見渡せる場所まで来た。
団長たちは円形の、ちょうど中央でおこなわれる"何か"に夢中でザイナスには気づかなかった。

「あいつら……」

ザイナスの隣にいた団員が叫ぼうとした。
騎士団長がいる前で失礼極まりないものだったが、それをザイナスは止めた。

「あの子供か?」

「え、ええ」

「私の娘と同じくらいの歳か」

それは10歳ほどの少年だった。
黒髪に少し銀色が混ざったボサボサ頭で目つきが悪い。
ボロボロの布の服を着ているが、"風通しが良さそう"で、この寒さに耐えれる作りとは思えない。

「それで、どんな賭けをした?」

「それが"自分に一回も触れらなかったら釈放しろ"と」

「なんだと?」

ザイナスは無理だと思った。
いくら魔物相手に苦戦する騎士団員といっても、毎日訓練に明け暮れている大人たちだ。
しかも団員らが囲った円は、そう広くはない。
逃げ場所が少なすぎるのだ。

だが、どんなに団員が触れようと手を伸ばしても、少年に触れることはできなかった。

軽やかに回避を続ける少年の表情は涼しげ。
まるで未来でもわかっているかのような動きだった。

その後も3人、4人と入れ替わりで団員が出るが、誰も触れられない。

「まさかな……」

「凄いな、あの少年」

「私が出ようか」

「え?」

ザイナスはニヤリと笑うと中庭へ向かう。
その表情を見た団員は驚いた。

なにせザイナス・ルザールという男は滅多に笑うことはない。
このような高揚に満ちた笑みを見たのは初めてだったのだ。
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