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リア・ケイブスの実情
しおりを挟むカレアの町を出発したガイ、メイア、クロードは徒歩で北東を目指していた。
リア・ケイブスまで約五日は掛かると思われる。
その間、村などは一切無いため野宿して進む。
道はしっかり整備されていたが、リア・ケイブス方面に向かう冒険者は全くいなかった。
カレアを出発して二日経つが、この道ですれ違ったのは商人の荷馬車が一つくらいで、それ以外、人と出会うことが無かった。
そんな昼下がりのことだった。
3人が道を進んでいると、道端に大きな荷馬車が停車していた。
それはリア・ケイブス方面へ向かうように停まっている。
「何かしら?」
「やけに大きな荷物だな」
ガイとメイアの驚きはもっともだ。
見たこともないくらい大きな箱のような物が荷台に積まれ、その上から隠すように全体に布が被さっていた。
ガイが目を細めて見ると、荷馬車の横には1人の黒髪のロングヘアでポニーテール、背の高い女性が立っている。
風貌からして女騎士であることはわかったが、身なりが異様だ。
「な、なんだあれは……」
「ガイには刺激が強いようだな」
「バ、バカにすんなよ!!」
クロードが笑みを溢しながらガイに言った。
それもそのはずで、女性の着ている服は白ワイシャツとブラウンのパンツと至って普通の格好だが、明らかに体に合っていなかった。
彼女の胸が大きいせいか、三つほどしか掛けていないワイシャツのボタンは今にもはち切れそになっている。
首から下げた波動石は胸の谷間に落ちる形で何色か見えなかった。
さらにパンツもぴちぴちでジッパーが閉まりきっていない。
それを大きなベルトで無理矢理締めているが、黒いショーツがチラリと見えている。
女性は近づく3人の気配に気づいたのか視線を向けた。
キリッとした顔立ちだが、絶世の美女と言っても過言ではないほどだった。
「あら?こんなところを冒険者が通るなんて珍しいわね」
「君は王宮騎士か?そっちの方が珍しいと思うけどね。騎士がたった一人とは」
「王宮騎士……?」
ガイとメイアは顔を見合わせた。
王宮騎士についてあまり詳しいことはわからなかったのだ。
「王宮騎士は魔物の討伐よりも、対人相手の任務が大半を占めると聞く。この大きい荷物もその関係かい?」
「ええ。ちょうど南の方で凶悪犯を捕まえてね。王都まで護送中なのよ」
女騎士がそう言って笑みを溢す。
すると、荷馬車の荷台がぐらぐらと揺れ、中からうめき声が聞こえた。
驚いたガイとメイアは後ずさる。
そんな2人を見た女騎士は笑みを溢した。
「凶暴なやつだから近づかない方がいいわ。噛みつかれちゃうかも」
「王都まで?なぜこんなところを通るんだ?遠回りじゃないか」
「"目立たないように護送せよ"との命令よ」
この道はリア・ケイブスへしか行かない。
ケイブスを通って王都まで行くことは可能だが、かなりの迂回路だった。
「それはわかったが、なぜこんなところにいる?」
「見ての通りなんだけど」
そう言って女騎士は荷馬車の片側の後部車両を指差した。
その車輪は木材で模ったネジが外れてズレていた。
このまま走り続ければ外れてしまい、完全に動けなくなってしまうだろう。
「中の囚人が暴れに暴れるからこうなったのよ」
「なるほど。だが僕達にはどうにも……」
クロードがそう言いかけた時、荷台がまた大きく揺れた。
構わず、ガイが前に出て口を開く。
「俺、修復できるけど」
クロードと女騎士は驚いた。
メイアも笑顔で頷いている。
「お願いできる?」
「ああ。いいぜ」
「ガイ、私も手伝うわ」
ガイとメイアはすぐに作業に取り掛かった。
2人の姿をクロードと女騎士が後ろに並んで立って眺める。
「あなた達はどこまで?」
「リア・ケイブスさ。あんた名前は?」
「私?私はセリーナよ。あなた達は?」
「彼らはガイとメイア。僕はクロード。駆け出しの冒険者さ」
「クロード……?へー」
セリーナと名乗った女騎士はクロードを横目で見てニヤリと笑った。
「修復完了!」
「ありがとう少年君。報酬は何がいいかしら?」
「いや、別に報酬が欲しくてやったわけじゃないさ」
セリーナはキョトンとした表情をした。
この世界では無報酬で働くということは、まずあり得ない。
「そう。なら」
そう呟くセリーナはガイの頬に軽くキスをした。
その行動に一瞬、固まったガイだったが、すぐに顔を赤らめる。
「これが青春か……」
「ガイ……顔、赤くなってるわよ」
ニヤニヤとガイを見つめるクロード。
メイアは細目で見ていたが、その表情は呆れ顔だ。
「う、うるせぇ!!」
ガイの叫び声を聞きながら、セリーナはニコリと笑い、手を振って荷馬車に乗り込む。
「またリア・ケイブスで会いましょう。あそこには数日滞在する予定だから」
「ああ」
ガイ達はセリーナに手を振ると、荷馬車はそそくさと道を走り出して行った。
「ガイったら、鼻の下伸ばして」
「伸ばしてねぇよ!!」
「まぁ、いいじゃないか。いつだって"ときめき"は必要さ」
そう言いつつ、クロードは荷馬車が走り去った方向をずっと無表情で見つめていた。
____________
3人はリア・ケイブスに到着した。
ここは寂れた小さな町で人口も少ない。
ほとんどの建物はボロボロで、それをなんとか修復して住んでいるといったところだ。
町は昼下がりで天気もいいはずなのに、なぜか薄暗く感じ、外を出歩いてる者もまばらだった。
そこに2人の後ろに立つクロードが口を開いた。
「とりあえずギルドへ行くか。ギルドマスターに会えるといいが」
「あ、ああ」
ガイとメイアは緊張していた。
この町のギルドマスターは剣の達人。
それだけでなく、もしかすれば六大英雄の1人の可能性もあった。
ギルドへ向かっている3人だが、この町の実情が浮き彫りになっていく。
「全く冒険者がいないな」
「何かあったのかしら?」
「ギルドに行けば、さすがに活気くらいあるだろ」
ギルドの前に到着した。
二階建ての木造建だったが、かなり傷んでいる。
木材は割れ、さらに草のツタが至る所に這っていた。
「こ、これがギルド?カレアとは全然違うんだけど」
「ここまでとは……何があったんだ?」
ガイがギルドへと入る。
中は薄暗く、歩くとギシギシと床が音を立てた。
見渡すと横のテーブルに1人だけ白いローブ着た小柄な冒険者だけがいた。
フードを深く被っており、男なのか女なのかすらわからない。
ギルドのカウンターへ向かう3人は、ふと掲示板に目をやる。
「え?」
「なんだ、これは……」
「依頼書が、"たった一枚"だけ?」
その依頼書は大きな掲示板のど真ん中に貼られていた。
3人は困惑しつつも、ギルドのカウンターへと向かう。
カウンターに立つのはショートカットでブロンドヘア、グレーのスーツ姿の女性。
目が虚で今にも倒れそうなほど顔色が悪い。
クロードが前に出て受付と思われるブロンドの女性に話しかけた。
「すまない。ここのギルドマスターに会いたい」
「はい?」
「だから、ギルドマスターに会いたいんだが」
「ギルドマスターはお忙しいです。要件がそれだけならお帰り下さい」
3人はその言葉に唖然とした。
対応があまりにも素っ気ない。
「なら、一つだけ聞きたい。ここのギルドマスターの本名は"ミル・ナルヴァスロ"か?」
「違います。仕事を受けられないのであれば、お帰りください」
クロードはため息をつき、ガイとメイアにアイコンタクトを送ると、そのままギルドを後にしようと入り口へ向かう。
その際、クロードは掲示板に貼られた依頼書を再度見た。
____________
手配書
デレク・ヴァディア
報酬 650000ゼク
東の湿地帯に逃走した盗賊団員の捕縛。
*もう一人、仲間がいると思われる。
必ず生きて連れてくること。
殺した場合、報酬は無い。
____________
たった1人の盗賊にありえない報酬額だった。
これほどの報酬は魔物でいえばレベル10並。
どこまで重罪を犯したら、ここまでの賞金額になるのか想像がつかないほどだ。
しかし、これが"ナイト・ガイ"の運命を動かす重要な依頼であることは3人はまだ知らない。
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