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英雄達の肖像編
大都市フィラ・ルクス
しおりを挟む世界には、"色"というのは無数にある。
画家にっとては作品を彩り、引き立たせるためにある存在だろう。
その中でも、最も美しい"色"とはなんなのであろうか?
この答えに辿り着いたゆえに描かれた絵画は、それを見る者を魅了するのか……?
それとも……恐怖させるのか?
__________
ガイとメイア、クロード、ローラの4人はフィラ・ルクスが見える丘まで来ていた。
この町の大きさはカレアやリア・ケイブスとは比較にならないほど大きい。
貴族も多く住む、この町はセルビルカ王国でも三大都市と言われるほどだった。
ここまで4日半。
ほぼ休みなく歩きっぱなしだったので、少なくとも疲労の表情は見える。
特にローラの顔は青ざめていたが、みなのペースに合わせるためにか無理していた。
「おいおい、お前、大丈夫かよ」
「だ、大丈夫よ!!全っ然平気!大丈夫!」
顔色を伺うに全く大丈夫そうには見えない。
ここまでメイアが何度、"休もう"と言ったかわからなかった。
「まぁ、もう少しで町に着く。町に着いたら、ゆっくり休んだらいい」
クロードの言葉に皆が頷くが、ただ1人、メイアだけ目を細めて町の方を見ていた。
「メイア、どうしたんだ?」
「んー。何か列のようなものが見えるのだけど……」
「列?」
皆も一斉に町の方を見る。
確かに、"黒く長い何か"が伸びているように見えた。
「とにかく行ってみよう。日が暮れるまでには町に入りたいからね」
「ええ」
こうして町の方へ向かうこと数刻。
夕方になりかけた頃に町の前に到着した一向が目にしたのは、メイアの言う通り、ぞろぞろと並ぶ商人や冒険者たちの長蛇の列だった。
「なんだ……これは……」
「こ、こんな列、見たことないわ……」
一番驚いていたのはローラだった。
それもそのはずで、見慣れた町の入り口の門前が尋常ならざる状態であったのだ。
「何かあったのかしら?」
「聞いてみたらいいんじゃないか?」
「確かに」
クロードは前に立つ商人に話しかけた。
商人は振り向き、快く応対してくれた。
「すまない。何かあったのかな?」
「私にもよくわからないんだよ。前の方にいる奴の話だと、町で惨殺事件があったとかなんとか」
「惨殺事件?」
クロードはそう言いつつ、ローラの方を見た。
目が合ったローラは"あたしは何も知らないです"との意思表示で首を横に振る。
「ああ。詳細はわからないが、そのせいで検問が厳しくなってるって」
「そうか……ありがとう」
クロードは3人に向き直る。
するとメイアだけ首を傾げていた。
「おかしい……ですよね」
「どうして、そう思う?」
「だって、中で事件があるのに、なぜ入る側の検問が厳しいのかしら?」
クロードはメイアの言葉にニヤリと笑った。
ガイとローラは"確かに"という表情で頷く。
「いい着目点だ。だが、もう一歩だな」
「え?」
「僕らが、ここに着いてから、町から出てきた人間はいたかい?」
「い、いないです」
「つまり、この町に入ったら出られないんだ。中に入れる人間を厳しく検問しているというよりも、中に入れる人間を極力制限しているということになる」
「おいおい……それじゃあ俺たち……」
「このままだと、この町には入れないな。入れたとしても数日後か……。まぁローラが貴族特権を使うなら別だが」
「え……」
ローラの表情が固まった。
目があさっての方向へズレていくのを見ると、"やましい"ことがあると簡単に想像がついた。
「無理ならいいさ。この町に来たのは興味本意だからね。無理して入らなくてもいい。他の町を目指そうか」
「そ、そんな……」
メイアの悲しげな表情にローラは少し心を痛めていた。
クロードは少し笑みを溢すと口を開く。
「事件が収まったら、また来たらいい」
「は、はい……」
そんなやり取りをしていた時だった。
後方、列の横を数頭の馬が歩いてきていた。
ガイたちが見ると、それは騎士団の馬で、跨った女性に見覚えがあった。
「ん?」
「ん?」
先頭の馬に跨る女性はガイたちの横で止まった。
紫色の三つ編みにされた髪を肩に乗せ、上半身には軽装の銀の鎧を羽織る。
下は動きやすいようにか、短い赤色のスカートで、足にはブラウンのブーツを履いていた。
腰には細剣を差す。
「あら、君たちは……」
「君は、リリアン・ラズゥか」
クロードがそういうと、列に並んでいた商人や冒険者達が一斉に振り返る。
そして、皆が顔を赤らめ、まじまじと彼女を見ていた。
この周りの反応でリリアンという女性の人気ぶりが伺えた。
「数日ぶり……くらいかしら?まさかこんなに早く尋ねて来てくれるなんて」
「ガイが、"どうしても君が気になる"って言っててね。それなら行こうとなったわけだ」
「俺はそんなこと言ってねぇだろ!!」
顔を赤らめ反論するガイ。
メイアとローラが呆れ顔でそんなガイを見る。
嫌な視線を感じ取ったガイは2人を睨んだ。
一方、リリアンは笑みを浮かべていた。
「あら、それは嬉しいわね。是非、私の屋敷に招待したいわ」
「僕らも是非お邪魔させて頂きたいが、この列だ。残念だが入るとなると二、三日はかかるだろう」
「それなら私の貴族特権で入ればいい。ついて来なさい」
「それは助かる」
クロードがニヤリと笑った。
ガイとメイア、ローラは顔を見合わせていた。
あまりにもスムーズに事が運んだことに驚いていたのだ。
4人は、これ以上無いタイミングでの運命的な出会いによって、この日のうちに大都市フィラ・ルクスに入ることができのだった。
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