最弱パーティのナイト・ガイ

フランジュ

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願いの代償

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リア・ケイブス


少し霧がある早朝。
宿の前にメイア、クロード、ローラがいた。
遅れて宿から出てきたのはガイだ。

すまん、すまんと苦笑いしながら頭を掻いているが、髪の毛が数本跳ねている。
目の下のクマは"寝不足"をいかんなく表現していた。

「おそいわよ」

先に口を開いたのはローラだった。
何気ない指摘ではあったが、ガイの心は簡単に揺れる。

「お前な、俺のパーティに入れてやるんだから文句言うなよ!」

「はぁ?あんたのパーティ?クロードのパーティの間違いでしょ!」

2人のおでことおでこがぶつかり、押し合いが始まる。
最初の出会いから薄々は感じてはいたが、この2人は完全に犬猿の仲であるとメイアは思った。

「2人とも喧嘩はよそうよ。これからのこと話し合わないと」

「メイアの言う通りだ。こんなところでモタモタしてはられないだろ?」

2人は同時にそっぽを向く。
妙な歯軋り音がするのは聞かないでおいた。

「次はどの町に行きましょう?私たちは町には詳しくないですから」

「そうだな。せっかくだからフィラ・ルクスにでも行くか」

「げ……」

クロードの提案に、ローラの顔が引き攣った。
ガイとメイアは"フィラ・ルクス"という町を知らない。

「ここは中央から南東へ行ったところにある町で、とても大きい。北のロスト・ヴェローからは少し遠ざかるが、この際に行ってみたいと思ってね」

「ロイヤル・フォースがあるのか?」

「いや、単に"芸術の町"と噂に名高い町だから興味があるだけさ。メイアも好きだろ?」

「え?ええ!」

メイアの瞳が一瞬で輝きを放つ。
"芸術"というものに深い関心があったのだ。

「それに、ここは有名な女学校もあってね。ローラ、君はそこの出身だろ?」

「……んー、どうだったかしら?」

「せっかく騎士団長殿に誘われたんだ。彼女の屋敷に行ってみようとも思ってる」

ローラは首を傾げた。
このリリアンとのやり取りは知らなかった。

「なんでだよ!別いいだろ行かなくても!それともなんか裏でもあるのか!?」

「あんた、動揺しすぎでしょ……何があったのよ」

「なんでもねぇよ!!」

ニコニコとそのやり取りを見ていたクロード。
だが、すぐに真剣な表情へと変わり、口を開いた。

「裏ならあるよ」

「は?どういうことだよ」

「それはまだ秘密だ。次の町に着いたら教える」

「なんだよそれ」

クロードの"裏がある"は波乱の予感しかしない。
また、依頼とは別のいざこざに巻きこれるのではないかとガイとメイアは思ってしまった。

「とにかく出発しよう。先は長い」

「フィラ・ルクスまで5日はかかるでしょうね……」

ローラはため息混じりに俯く。
彼女にとっては実家がある町であり、里帰りになる。
だが、家出という形での旅立ちだったため帰るのが嫌だったのだ。

「そういえば、メイア、これ返しとくよ」

「ええ。どうだった?この本」

そんなローラを無視してガイはメイアに本を渡す。
その本は、六大英雄譚のスピンオフである"ミル・ナルヴァスロ ふたつの愛の行方"という小説だった。

「いやぁ、最後が衝撃的だったなぁ。おかげで寝られなくなったぜ」

「そうよね!私もビックリしちゃった!」

そんなやり取りをしていると、聞き耳を立てていたローラがすぐに割って入ってきた。

「そうよね!凄いわよね!」

「なんだよ、いきなり元気になりやがって」

「ほう。そんなに凄いのか。メイア、早速で悪いが僕にも貸してもらえるかな?」

「ええ。いいですよ!」

メイアから分厚い表紙の本を受け取ったクロードは、そのタイトルを見ると苦笑いした。

「だけどさ、最後なんかおかしくなかった?」

「え?ああ。あれって誤字だと思ってたけど……」

「作者が間違えたんでしょ。最後くらいきっちり締めてほしかったけどね!」

クロードは少年少女、3人の他愛もない話に笑みを溢す。
彼らは町から出ようと歩き出していた。

「それにしても次の町、楽しみだな!」

「ええ!芸術の町……いろんな建物が見られそうで嬉しい!」

「あんなところ、そんなに面白くはないわよ」

こうして彼らは次の町を目指すこととなった。

この低波動が多くいる最弱パーティのナイト・ガイが次に目指すのは芸術の町フィラ・ルクス。

4人はまだ知らない。
この町で現在起こっている残虐な事件を……



リア・ケイブスの事件編 完
____________________




"ミル・ナルヴァスロ ふたつの愛の行方"

最終章 332ページ

***

これは一種の呪いなのだ。

私は死神と契約してしまった。

どんな契約かって?

それは、どんな者からも愛される人になりたい……ただ、それだけの簡単な願いだ。

願いは恐ろしいほど叶った。
だが、それはとても歪んだ形であった。

その証拠に周りは、無差別に不幸となる。

そして、ほら、いよいよ死神が取り立てに来たよ。

私が何を差し出したかって?

誰からも愛されるかわりに、この"命"を差し出したのさ。

***

333ページ

死神が目の前に立った。

「約束通り、お前の命はもらう」

「命は惜しくはない……私は十分に生きたし、愛された。もう疲れたんだ」

「君の願いが叶って嬉しく思う。では"命"をもらおうか」

ミル・ナルヴァスロは瞬く間に白骨化する。
"今度こそ"完全なる絶命だった。

「血塗られた英雄はあと"6人"……取り立てに行かなければ……願いの代償とは、とても重いものさ」

死神はこうして消える。

その行き先は、誰も知る由もない。

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