夏の日の出会いと別れ~霊よりも怖いもの、それは人~

赤羽こうじ

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二人きりの旅行

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 数日後。
 その日も夏空が広がり、楓の海の家は賑わいを見せており、昼を回った午後二時頃には叶達もクタクタになって座り込んでいた。

「毎日これだと流石に痩せれるかも」

 座り込んで苦笑いを浮かべながら咲良がそんな事を言うと、叶が呆れた様に頭《かぶり》を振った。

「咲良ちゃん、痩せるのとやつれるのは違うわよ。それに咲良ちゃんは別に痩せる必要ないでしょ?」

「そうかもしれませんけど、最近ちょっと食べ過ぎだなぁって思ってて……実際二キロぐらい増えてたんですよ」

 叶の耳元に来て、咲良がそう囁くと叶も眉尻を下げて苦笑いを浮かべる。
 そんな二人の背後に楓が立ち、二人を見下ろす。

「貴女達はちょっとぐらい太ったって大丈夫だって。それにまだ若いんだからすぐに落とせるでしょ」

「楓さんもまだ十分若いじゃないですか」

「私はもう十分おばさんよ。最近は疲れも中々取れないしさ」

 そう言って楓が自虐的に笑うと、叶と咲良がそれを否定しながら笑っていた。
 幸太と弘人はそんな三人を調理場から見つめていた。

「あの三人、なんであんなに元気なんだ?俺達は立ってるのもやっとだぞ」

「そりゃ俺達はこのくそ暑い中、鉄板前にして食材焼き続けてりゃ倒れそうにもなるさ」

 実際弘人は昼前から、幸太も忙しくなる昼頃から前左右と三方向で熱された鉄板で、ひっきりなしに入る注文の品を焼き続けていた。
 そんな灼熱地獄の中、水分補給は必須だったが、水分は飲んだ瞬間から汗となり体内から失われているんじゃないだろうかと思う程、汗だくになっていた。

 脱水症状と熱射病でフラフラになっている幸太達の元へ叶が笑顔で駆け寄る。

「ねぇ、楓さんがそろそろ休憩入っていいってさ。弘人君咲良ちゃんと二人で行って来る?それとも私と幸太君で先に休憩入ってもいい?」

「幸太は元々まだ休みだった筈だし、叶さんは臨時で入ってくれてるんだから二人が先に休憩入って下さい。俺と咲良はまだ後でいいですから」

 そう言われ幸太は叶と共にバックヤードへと歩いて行く。バックヤードへ入ると二人は狭いスペースに腰掛け、二人並んでまかないを頂く。

「今日も手伝いに来てくれたんだね。まだ休んでていいんじゃないの?」

 おにぎりを頬張りながら叶が覗き込むと、幸太は苦笑いを浮かべて頭を振る。

「いや、一人部屋で休んでてもする事もないし。それに叶さんまで頑張ってくれてるのに部屋で一人でいたら、なんか取り残されてるようで」

「怪我してるんだからあんまり無理しちゃ駄目だって。まぁその怪我の原因作った私が言うのもどうかと思うけどさ」

「いや、だから怪我は叶さんのせいじゃないって」

 慌てて幸太が否定すると、叶は笑顔で頷いていた。
 暫く二人でまかないを食べながら会話を弾ませていると、叶が突然幸太の顔を覗き込む。

「ねぇ、今度二人で出掛けない?楓さんにはさっき休みたいって言ったら許可もらえたし」

「えっ、勿論いいけど何処か行きたい所でもあるの?」

「実はね、隣町にあるリゾートホテルに行きたくてさ。どうせだったら二人でどうかなって思って」

「えっ?リゾートホテル?えっ、それって泊まりでって事?」

「そりゃそうでしょ。一泊二日でどうかな?」

 平然とそう言う叶とは裏腹に、幸太の頭は少し混乱していた。

 えっ、二人っきりで泊まりで出掛けようって事だよな?えっ、それって期待していいんだよな?叶さんと二人で――。

 幸太が様々な妄想を抱きながらふと我に返ると、叶が冷たい目をして見つめていた。

「あっ、帰って来たかな。何か面倒臭い事になったら嫌だから君について来てもらおうかと思ったけどなんか身の危険を感じるからやっぱり一人で行こうかな」

「えっ、いや、ちょっと待って、なんで?……あれ?何か勘違いした?」

 幸太が冷静になって問い掛けると、叶は含みのある笑みを浮かべて首を傾げた。
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