夏の日の出会いと別れ~霊よりも怖いもの、それは人~

赤羽こうじ

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二人の行方⑧

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 冷たい目をしたまま口元にだけ笑みを浮かべる叶を見て、幸太は僅かに恐怖した。
『見られてたのか!?でも焦るな、俺は誘いはちゃんと断ったしやましい事は何もない筈だ』

「ねぇまさか『あの時はまだ叶さん返事保留してたじゃん』とか思ってないよね?確かにそうかもしれないけど、前日に告白してくれて、私も少しは浮かれてたのにそんな所見せられたらさぁ……流石に少しは疑いたくもなるよね?」

 そう言って叶は冷笑を浮かべたまま幸太の頬を優しく撫でる。幸太も笑みを浮かべるが、その笑みは何処か強ばっていた。

「いや、あの子達旅行で来てたみたいで、声掛けられたけど予定があるからって言ったら何処か行ったから」

「そう、ちゃんと断ったんだ。確かにすぐ去って行ったもんね。お互い笑顔で手を振ってたけどね……二人共可愛かったもんね。少し残念だった?私と約束無かったら君はあの二人を連れて両手に花で何処かに消えて行ったのかな?」

「い、いや、そんな事しないって」

「本当かな?怪しいんだけどな……まぁちゃんと返事しないまま保留してる私には何も言う権利はないんだけどさ」

 そう言って叶は変わらない冷たい笑みを浮かべていた。その頃には幸太の胸の高鳴りはさっきまでとは別の物になっていた。

「いや、確かに疑われても仕方ない様な事だったけど叶さんへの気持ちは本当だから、その、信じてほしいです」

 少したじろぎながらそう言って俯く幸太を見て、叶は目を細めて更に口角を上げた。

「ふふふ、冗談だよ。女の子達の方から声を掛けて来たのは分かってるし、君がそんな奴じゃないのも分かっているからさ。ごめんね、ちょっと意地悪だったかな?」

「えっ、ははは、冗談?本当に?」

「ふふふ、どうだろね?それは自分で考えて」

 そう言って叶は少し冷たい目をして笑っていた。

 叶さん目が笑ってないんだけど――。

 幸太は戸惑いながら叶と二人並んで歩いて行く。

 二人は何時しか叶のマンションの前まで来ていた。

『やっぱり叶さんは帰るんだろうか?もう少しだけ一緒にいたい、何かないかな』

 自然と幸太の口数が減り、そんな幸太を叶は笑みを浮かべて見つめていた。

「ねぇ幸太君、今日は色々ありがとうね。一緒にいれて楽しかったし、このピアスも大事にするから、だから今日はここまでね」

 幸太の心を見透かしたかの様なセリフを言われ、幸太は顔を強ばらせたが、すぐに笑顔を作った。

「あ、やっぱり帰るよね?出来ればもうちょっと一緒にって思ったんだけど」

「ふふふ、私も本当はもう少し君といたいかな。だけど今日一日バイトで疲れたし、明日も朝からバイトでしょ?そこに慣れない環境もあって流石に帰って部屋でゆっくりしたくてさ」

 正面に立ち、眉尻を下げて少し申し訳なさそうな表情を浮かべる叶を見つめ、幸太も笑顔で頷く。

「ごめん、確かに疲れてるよね。今日はありがとう。帰ってゆっくり休んで」

 幸太の心になめまかしい笑みと少しのもどかしさを刻み叶はマンションへと帰って行った。叶を最後まで見送ると幸太は踵を返し一人帰路に着く。
 一人帰りながら幸太は今日一日を振り返る。叶とラーメンを食べて、ピアスを送り、望んでいた様に二人っきりで花火を見た。

「色っぽかったな叶さん……」

 噛み締める様に呟き、一人ニヤニヤと笑みを浮かべる。どれほど抑えようとしても笑みがこぼれてしまう。最近は災難続きだった幸太だったが、今は幸せを噛み締めていた。

 一方部屋に戻った叶はシャワーを浴び、少しラフな部屋着に着替えて部屋で一人くつろいでいた。

「ふぅ、疲れたな。まぁ楽しかったけど」

 そう言って叶も今日の出来事を振り返っていた。

『今日もバイトは忙しかったな。誰かさんは女の子と楽しそうに喋ってたけど……まぁ仕方ないんだけど……』

「……ごめんね幸太君。君には我慢ばかりさせてるね」

 ぽつりと呟き横に置いてあった鞄を探ると、奥底から電子煙草を取り出した。電子煙草の本体に煙草を差すと徐に咥える。

「ふぅー」

 深く吸い込んだ息と共に煙を一気に吐き出し天井を見上げた。

『君には煙草吸ってる事も言ってないもんね。君が知ったら幻滅するかな?ふふふ……肩肘張って自分を良く見せようとしてるのはどっちよ?って話ね……結局信用しきれてないのは私の方か。ごめんね、君は一緒にいたいって言ってくれたのに。疲れてるから?明日早いから?違う。自分がびびってるだけだね』

「……最低な自己中女……もう一度信じてもいいのかな?」

 静かな部屋に叶の呟く声だけが静かに響いた。
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