上 下
63 / 84

第63話 それぞれ

しおりを挟む
 朝の陽光が部屋の隅々を金色に染め上げる中、何故かエリスが俺の布団にいた。
 暖かいのでついギュット抱きしめる。
 ごめんなさい。エリスの気持ちを知っているけど、俺の漢は眠ったままで湯タンポとして堪能しているんだ。

 朝食の後俺たちはそれぞれの使命に忠実に取り組んでいた。

 エリスは机に丁寧に置かれた上級水系の魔法書に目を通している。
 その魔法書は先日俺が山の中で見つけた宝箱の中にあった戦利品で、かなり価値のあるものだ。
 その理由はその書には古代の知識が詰まっているからだ。
 上級は時折市場やオークションに出回るが、特級は数年に一度オークションに出され、屋敷が買える金で落札されるらしい。

 しかし、この世界の文字は俺には読めないので、エリスに使ってもらうことにした。
 別にお金には困っていないし、それほど持っていても使い道がない。
 彼女の興味はその魔法書で一心に引きつけられていた。彼女の指は複雑な魔法の理論と呪文が記されたページを慎重にめくり、その深遠な知識を吸収しようとしていた。
 読むだけで駄目なのだ。
 きちんと内容を理解していかないと、最後のページを読んでも魔法が身に付かない。

 一方サキは、俺たちが遭遇したモンスターハウスの一件をギルドマスターに報告していた。

 彼女の話は明快で、その言葉はギルドマスターを唸らせた。サキはまるで戦場を行き来するかのような迫力をもって、事の顛末を語り尽くした。

 俺はリアンと共に街の外れにひっそりと佇む鑑定屋じゃなくて魔道具屋へと足を運んでいく。リアンは貴族の令嬢でありながらも騎士という道を選んだ理由、それが俺の知りたいことだった。

 彼女にはどこか謎めいた魅力がある。この隙を逃さず、彼女の過去や動機、そして夢について聞き出そうと思っていた。

 一方レオンは、俺が頼んだ品々の買い出しに忙しい。彼の姿は人々でごった返す市場の中でも一際目立ち、あらゆる店を巧みに渡り歩き、俺たちの冒険に必要な物資を手に入れていた。

 そして昼が来れば俺たちはダンジョンへと向かう。
 そう、冒険者の日常とも言えるダンジョン探索だ。
 時折、俺の心には疑問が浮かぶ。なぜ、俺たちはダンジョンに入るのか?それはただの職務なのか、それとも何かより大きな意味があるのか。
 しかし、そんな思考はすぐに頭の片隅に追いやられる。今はリアンとの時間を大切にし、彼女の話に集中することにした。

 そして、この日の俺たちには忘れがたい喜びもあった。盗賊討伐の報酬金だ。俺がやらかしたギルドの修繕費を引いて手元に残った金貨は600枚。それは俺たちのこれからの冒険に向けて、大いなる助けとなるであろう財宝だった。これはまだ手を付けない。
しおりを挟む
1 / 4

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!


処理中です...