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【第一部】五章 ロイのポーション屋さんと工房
66 売店と夢2
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「お話しは、勿論この『キラキラポーション』のことよぉ? ぼくも分かってるでしょう? これはトラブルの元だわぁ」
いつもの甘ったるい話し方のベアトリスさんだけど、その瞳は甘くない強さだ。僕を見る目はなんだか『先生』みたいな、ちょっと厳しい感じ。
「この『キラキラポーション』はお金になるわぁ。師匠もなく、薬師登録もない子供の手には負えない。……まぁ、だからギュスターヴがお墨付きを与えて、ギルドの売店でちぃっちゃく扱ってるんだろうけど」
ベアトリスさんはチラリとギュスターヴさんを見て「浅いわぁ~」と言い紅茶を飲む。
「浅いとか言うな。ま、アルベール様が目を付けちまうのは想定内だし、ここらでロイの『キラキラポーション』をどう扱うか改めて考えようと思ってな。こちらに案はいくつかあるんだが、ロイ。お前はどうしたい?」
「え? 僕……?」
どうしたいかって、そんなことを聞かれると思ってなかったので目をぱちぱち瞬く。
「ぼくぅ? あなた、目標や夢はないのぉ?」
目標、夢……?
夢なら、この前リディと話したばかりだ。
「夢は……僕、魔法薬師になって、いつか自分のお店を持ちたいです……!」
はっきりと言った言葉にギュスターヴさんは目を丸くして、そして嬉しそうに目を細めた。
きっと、僕が『夢』なんて不確かなことを口にするのが初めてだからだろう。
その温かい目はちょっと恥ずかしいけど、一番お世話になってるギュスターヴさんが喜んでくれるのは嬉しい。
それに僕が口にしたこの夢は、無謀だとか馬鹿にされるような夢じゃないことが嬉しい。
遠い昔、塔で外を夢を見ていた僕だけど、今は外にいて、自由に新しい夢を見られるんだって改めて実感した。
「いい夢だな、ロイ」
「はい! あ、でも目標もあります! 家と安定した仕事が欲しくて、あと美味しいごはんをお腹いっぱい食べたいし……あと、お店の前に自分の工房が欲しいです! あ、でもこれは夢になっちゃうかな……」
工房を構えるのは設備面で大変だし、手続きも色々と面倒だって聞いている。
僕の場合は器具はほとんどいらないから、そういう面の大変さはないけど、逆に設備が貧弱すぎて工房としての認可が下りないかもと思う。
「……。ちょっと、ギュスターヴ? 食事くらいお腹いっぱい食べさせてあげなさいよねぇ? 私だってほら、子猫ちゃんにオヤツをあげてるのよぉ」
「食わせてるって。ただ、コイツの場合は奉公先が酷すぎてだな」
「ロイ……かわいそうにゃ。カヌレ食べるといいにゃ!」
「ククルルくん……」
僕の手にカヌレがそっと置かれた。直置きだから掌がベトベトになったけど、その分美味しそうだ。
ていうか、まさか食いしん坊のククルルくんがオヤツを分けてくれるなんて……! 僕、そんなに不憫なこと言ったのかぁ……と、あらためてこれまでの環境を思った。
「ま、いいわぁ。ぼく。それなら店を持ちましょ?」
「えっ」
「おい。いくら何でも飛躍しすぎだ。ロイに店はまだまだ早い!」
僕もそう思う! 僕は大きく頷いた。だってお店は夢であって、まだ現実味はない遠いものなんだ!
「ええ? でもぉ、このまま冒険者ギルドの売店で売ってたら、そのうち魔法薬師や薬師ギルドに反感を買うわよぉ?」
「それは……。俺が交渉する」
「ギュスターヴがぁ? ポーションの稼ぎ時が来たっていうのに、冒険者ギルドが稼ぎを掻っ攫うのよ? 交渉になるわけないわぁ」
うっ、とギュスターヴさんが眉根を寄せる。
「だから、さっさと店を持てばいいのよぉ。私の弟子の店ってことにしちゃえば問題ないわぁ」
私は魔法薬師ギルドに入っていないけど、顔がめちゃくちゃ利くものぉ。うふふ。ベアトリスさんは笑ってそう言う。
でも、ちょっと待って!?
「あの、ベアトリスさん! ありがたいですけど僕、無理です! だって僕、お店を開くお金もないし、経営とかよく分からないし、その前に僕、まだ成人前ですよ!?」
成人していなければ店は持てない。そういう決まりだってことは、いくら僕が子供でも知っている。
それにお店や商売のことだって、売店のお手伝いをしながら勉強しているところなんだから!
「あらぁ。そういえば、ぼくはまだ小っちゃかったのねぇ? んー……ギュスターヴ、お店がまだ早いならどうすればいいと思ってる?」
「そうだな……。俺の名義で露店か屋台……いや、商業ギルドが面倒だな。薬師ギルドからも守るなら、やっぱり冒険者ギルドでやるのが一番だと思うんだが……」
少し考える仕草を見せ、ギュスターヴさんは戸棚から数枚の書類を取り出した。そして、そのうちの一枚に署名と押印をして、僕の前に置いた。
「ロイ。これは『冒険者ギルドからのキラキラポーションの販売願い』だ。それからこっちは『冒険者ギルド内での特別出店許可証』だな」
ん? 『冒険者ギルドからのキラキラポーションの販売願い』は、売店で委託販売をする時にも書いたものだ。でも、『冒険者ギルド内での特別出店許可証』って……何? 売店で委託販売するとは違うの?
「体裁としてはこれまで通りだ。ギルドからロイに依頼して、ポーションを販売してもらう。売り場の広さは、モーリスに任せている売店と同じ。だが、委託販売ではなく、お前の店だ」
「えっ」
僕の店……!?
いつもの甘ったるい話し方のベアトリスさんだけど、その瞳は甘くない強さだ。僕を見る目はなんだか『先生』みたいな、ちょっと厳しい感じ。
「この『キラキラポーション』はお金になるわぁ。師匠もなく、薬師登録もない子供の手には負えない。……まぁ、だからギュスターヴがお墨付きを与えて、ギルドの売店でちぃっちゃく扱ってるんだろうけど」
ベアトリスさんはチラリとギュスターヴさんを見て「浅いわぁ~」と言い紅茶を飲む。
「浅いとか言うな。ま、アルベール様が目を付けちまうのは想定内だし、ここらでロイの『キラキラポーション』をどう扱うか改めて考えようと思ってな。こちらに案はいくつかあるんだが、ロイ。お前はどうしたい?」
「え? 僕……?」
どうしたいかって、そんなことを聞かれると思ってなかったので目をぱちぱち瞬く。
「ぼくぅ? あなた、目標や夢はないのぉ?」
目標、夢……?
夢なら、この前リディと話したばかりだ。
「夢は……僕、魔法薬師になって、いつか自分のお店を持ちたいです……!」
はっきりと言った言葉にギュスターヴさんは目を丸くして、そして嬉しそうに目を細めた。
きっと、僕が『夢』なんて不確かなことを口にするのが初めてだからだろう。
その温かい目はちょっと恥ずかしいけど、一番お世話になってるギュスターヴさんが喜んでくれるのは嬉しい。
それに僕が口にしたこの夢は、無謀だとか馬鹿にされるような夢じゃないことが嬉しい。
遠い昔、塔で外を夢を見ていた僕だけど、今は外にいて、自由に新しい夢を見られるんだって改めて実感した。
「いい夢だな、ロイ」
「はい! あ、でも目標もあります! 家と安定した仕事が欲しくて、あと美味しいごはんをお腹いっぱい食べたいし……あと、お店の前に自分の工房が欲しいです! あ、でもこれは夢になっちゃうかな……」
工房を構えるのは設備面で大変だし、手続きも色々と面倒だって聞いている。
僕の場合は器具はほとんどいらないから、そういう面の大変さはないけど、逆に設備が貧弱すぎて工房としての認可が下りないかもと思う。
「……。ちょっと、ギュスターヴ? 食事くらいお腹いっぱい食べさせてあげなさいよねぇ? 私だってほら、子猫ちゃんにオヤツをあげてるのよぉ」
「食わせてるって。ただ、コイツの場合は奉公先が酷すぎてだな」
「ロイ……かわいそうにゃ。カヌレ食べるといいにゃ!」
「ククルルくん……」
僕の手にカヌレがそっと置かれた。直置きだから掌がベトベトになったけど、その分美味しそうだ。
ていうか、まさか食いしん坊のククルルくんがオヤツを分けてくれるなんて……! 僕、そんなに不憫なこと言ったのかぁ……と、あらためてこれまでの環境を思った。
「ま、いいわぁ。ぼく。それなら店を持ちましょ?」
「えっ」
「おい。いくら何でも飛躍しすぎだ。ロイに店はまだまだ早い!」
僕もそう思う! 僕は大きく頷いた。だってお店は夢であって、まだ現実味はない遠いものなんだ!
「ええ? でもぉ、このまま冒険者ギルドの売店で売ってたら、そのうち魔法薬師や薬師ギルドに反感を買うわよぉ?」
「それは……。俺が交渉する」
「ギュスターヴがぁ? ポーションの稼ぎ時が来たっていうのに、冒険者ギルドが稼ぎを掻っ攫うのよ? 交渉になるわけないわぁ」
うっ、とギュスターヴさんが眉根を寄せる。
「だから、さっさと店を持てばいいのよぉ。私の弟子の店ってことにしちゃえば問題ないわぁ」
私は魔法薬師ギルドに入っていないけど、顔がめちゃくちゃ利くものぉ。うふふ。ベアトリスさんは笑ってそう言う。
でも、ちょっと待って!?
「あの、ベアトリスさん! ありがたいですけど僕、無理です! だって僕、お店を開くお金もないし、経営とかよく分からないし、その前に僕、まだ成人前ですよ!?」
成人していなければ店は持てない。そういう決まりだってことは、いくら僕が子供でも知っている。
それにお店や商売のことだって、売店のお手伝いをしながら勉強しているところなんだから!
「あらぁ。そういえば、ぼくはまだ小っちゃかったのねぇ? んー……ギュスターヴ、お店がまだ早いならどうすればいいと思ってる?」
「そうだな……。俺の名義で露店か屋台……いや、商業ギルドが面倒だな。薬師ギルドからも守るなら、やっぱり冒険者ギルドでやるのが一番だと思うんだが……」
少し考える仕草を見せ、ギュスターヴさんは戸棚から数枚の書類を取り出した。そして、そのうちの一枚に署名と押印をして、僕の前に置いた。
「ロイ。これは『冒険者ギルドからのキラキラポーションの販売願い』だ。それからこっちは『冒険者ギルド内での特別出店許可証』だな」
ん? 『冒険者ギルドからのキラキラポーションの販売願い』は、売店で委託販売をする時にも書いたものだ。でも、『冒険者ギルド内での特別出店許可証』って……何? 売店で委託販売するとは違うの?
「体裁としてはこれまで通りだ。ギルドからロイに依頼して、ポーションを販売してもらう。売り場の広さは、モーリスに任せている売店と同じ。だが、委託販売ではなく、お前の店だ」
「えっ」
僕の店……!?
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