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五章 ドリーム・リゾートです!

三十四話 遭難者も盗賊でした!

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 男の身なりをみると、盗賊の初期装備をしていた。

「君、盗賊かい?」

「あ、はい! そうなんです。まだ盗賊らしいことはさっぱりできないですけど。」

男は、口調からするに、僕よりも若そうだった。褐色肌に紫の髪色だ。

 盗賊だという彼に、しばらく事情聴取をした。

「そういえば君、名前は?」

「あ、はい。トルクっていうプレイヤー名です。」

「そうか、俺はロータス。こっちにいるのが……」

「ミヤビって言います。よろしく!」

 トルクはようやく落ち着いたようだった。

「でもどうして初心者が一人でこんなところにいたんだ? さっきだって危なかっただろ。」

「僕、全然パーティーに入れてもらえなくって、それで途方に暮れてたんです。」

あれ? どこかで聞いたような話。

「でも、今度一人で進めるようになるみたいですから僕一人でなんとかならないかと町の外に出てきてみたんです。そしたらこのザマでした。」

「けれどもどうしてパーティーに入れてもらえなかったんだい?」

 聞くとトルクは苦い顔をして、背中を見せてきた。

「これですよ。僕盗賊なのに……。」

彼が背に持っていたのは、巨大なハンマーだった。

 ハンマーというのはもちろんこのゲームの正式な武器である。ただし、戦士やその上級職の武器であるのだが。

 「君、やっぱりそういう?」

「ええ、これしか装備できなくなってるんです。」

そう、彼もまたあのバグの犠牲者の一人なのだ。

 ゲームを始めた段階で、俺たちと同じように彼もまたハンマー一つしか装備できなかったのだろう。

 それで、ハンマーを一回でも使ってしまったものだから、バグの修正が利かなくなってしまい、俺たちのような状況になってしまったというわけ。

 しかし彼は俺たちのようにパーティーを組むことはかなわなかった。それで、こんな森の奥深くを一人で徘徊していたのだ。

 このトルク、俺たちとしては、なかなか興味深い男だった。なんせ俺たちと同じ境遇のプレイヤーだ。今までバグに遭ったやつは、俺とミヤビしか見ていなかった。

 トルクが進めずに困っているのは、明らかだった。そこで、その場の思いつきだったが、俺はミヤビにアイコンタクトをとった。

 ミヤビは俺の意図をすぐに受け取ったようで、イエスの意を示してくれた。



 座り込んでいるトルクに話を切りだした。

「なあ君、もしもパーティーが組めなくて困っているなら、俺たちのところに来ないかい?」

トルクは数秒フリーズした。

「え、それって……。」

「だから、俺たちのパーティーに入らないかいと誘っているのさ。」

トルクはバグに見舞われた盗賊だ。我が『バグ・バンデット』に入るには申し分のない人材だ。

「本当にいいんです?」

「そりゃあ、誘うんだからいいに決まってるだろ。」

「でも僕ハンマーしか使えませんよ?」

「俺だって大剣しか使えない。こっちのミヤビも杖しか使えなくなっている。いわば俺たちは同族なのさ。」

そこまで言うと、ようやくトルクの表情は和らいだ。

 トルクは少し間を置いた後で、のっそりと立ち上がった。

「本当に、あなた方が本当にいいのなら、パーティーに入れてください!」

「もちろん! 最初からそのつもりですよ。」

ミヤビは力強くグーサイン。トルクはそれをみて嬉しそうに笑った。

「嬉しいです。同じような状況の人に会えて。しかもその上仲間に入れてもらえるなんて、夢にも思いませんでした。このゲームを始めてからずっと孤独でしたから。」

こうして、確認できた三人目のバグプレイヤー、トルクが俺たちのパーティーに加入した。


 さて、正式にパーティーに加入するには、口約束だけではダメだ。ギルドに申請しなければならない。俺たちは一路町まで帰還した。

 思えばこの最初の町に来るのも久しぶりだ。いや、数字にすればたった数日なのだけれど、あまりにいろいろなことがありすぎて、もうずっと昔のことのような気がするのだ。

 ギルドまで行くと、前よりも人が多くなっているような気がした。いや、気のせいではない。本当にプレイヤーが増えているのだ。

 このゲーム自体の人口がどんどん増えているのだろう。それだけ活気もあって、いいことだ。ギルドの中も心ばかし明るくなっているように感じる。

 ギルドの受付にいくと、前と同じお姉さん。

「ギルド加入をしたいのですが。」

「はい、ではプレイヤー名を教えてください。」

「トルクです。」

このやりとり、デジャヴだ。

 お姉さんはすぐにトルクの書類を持ってきてくれた。もちろん、所属ギルドのところだけが空欄になっている。

「加入するギルド名を教えてください。」

「『バグ・バンデット』です。」

「分かりました。」

例に漏れず加入の手続きはすぐに終わった。

 トルクは晴れて俺たちのパーティーの一員となった。今までずっと二人でやってきたから、三人になってようやくパーティーらしくなってきた。

 ついでにフォレストファングの換金もしておいた。この金欠の状況で3,000ゴールドが入ったのはデカい。

「よし、これでもうゴールドもいいだろう。南国へ戻ろう。」

俺たちは、W6を抜けようとした。

 もう通るのは三回目となるエリア境界の関所。俺とミヤビは何の気無しに通ったが……

「ガン!」

「痛っ!」

「ん?」

俺とミヤビが振り返ると、トルクが何もないはずのところで顔面を打っていた。

「「あ……。」」
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