盗賊だけど大剣しか使えません! 〜VRゲームで盗賊になったのに、大剣しか装備することが出来ず絶望していたけど、それはそれで最強だった! 〜

中島菘

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五章 ドリーム・リゾートです!

三十五話 南国行きの手助けです!

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 トルクは、関所の見えない壁に阻まれたのだ。

「あれ、僕だけ通れませんよ。」

「そうだった。まだトルクだけエリア進出条件を満たしていないんだった。」

最初のエリアから次のエリアに進むために必要な条件は特別指定のモンスター一匹の討伐だ。

 「これってさっき倒したあの虎はカウントされないんですか?」

「フォレストファング」を倒したのはトルクが正式に加入する前だったからね。そういえば忘れてたよ。条件が設定されているの。」

このままではトルクだけがこのエリアを出ることができない。

 俺たちは一旦エリアの中に戻った。

「特別指定を倒さなきゃいけないらしい。これってパーティーで倒せばトルク本人がとどめをささなくてもいいんだよな。」

「確かそうだったはずです。スケルトンを倒したときだって、トドメをさしたのは私でしたけど、ロータスさんも条件クリアになってましたから。」

それじゃあ、もう一度特別指定のモンスターを探して倒さなければならないということか。

 というわけで、二度手間も甚だしいが、ギルドに戻った。

「クエストの中に、特別指定のモンスターと戦えるやつがあるはずですよ。」

ミヤビはガサゴソと掲示板をいじくり回したあげく、一枚の紙を引っこ抜いてきた。

「これ、どうですか?」

「ふーん、『ラビットホーンの討伐』か。いいんじゃないか。」

「僕が太刀打ちできる相手なんですか?」

「いやいや、心配しなくても大丈夫だよ。」

ラビットホーン、名前からしてウサギの魔物だろう。懸賞金は、3,500ゴールドと出ていた。

 さっきの森の中に現れるようだ。まるっきりさっきまでと逆行している。

 森の中まで行くのに、苦労するわけはなかった。ただし、このエリアで派手な攻撃をするのは憚られるので、俺は攻撃を控えた。代わりにミヤビが現れる敵全てを処理してくれた。

「強いんですね、お二人とも。」

「そりゃあ二つ先のエリアまで進んでいますから。」

「それじゃあどうしてこのエリアに?」

「ゔっ、それは諸事情がありまして……」


 森の深くまで潜るにつれて、モンスターも多様化していくが、今はそんなものに興味はない。

 今、俺とミヤビは共にレベル28だ。敵と遭遇したところで、何も感じない。もはや倒しても経験値の足しにはならないし、ダメージも当然受けない。

 一方でトルクはまだレベル7。一般的なレベルだが、独りでいるには心許ない。実際、さっきのように特別指定に遭遇してしまったら万事休すだ。

 それだから、俺たちは彼を庇うようにしながら進んでいた。

「でも、寄生プレイみたいで申し訳ないですね。」

「いやいや、今はさっさとW4まで進むことが最優先だよ。そこから始めよう。君にだって、ゆくゆくは活躍してもらうよ。」

 森の中の、依頼書で指定された場所に着いた。クエストなので、100%遭遇できるのが嬉しいところ。これが本来の次へ進む順路なのだ。

 一分もしないうちに、目の前に巨大なウサギが現れた。

「なんか見覚えがありますよね。」

「さっきも何回か見たしな。」

ラビットホーンは、グラスラビットをそのまま大きくしたような見た目だった。おそらくは群れのボスなのだろう。ただひとつだけ違ったのは、巨大な角が生えていることだ。

 体の大きさは軽自動車くらい。パワーもそれに見合ったくらいはあるのだろう。

「さあ、行きますよ。」

「オッケー、トルクは下がってた方がいいよ。」

「すいません、任せました。」

トルクは後ろの岩の陰に隠れた。

 俺とミヤビはいつも通り『隠密』を使って身を隠した。身を隠す必要もないくらいの敵だとは思うが、それでも念には念を入れて。

「おりゃ!」

「バキッ!」

ラビットホーンの脇腹を横殴りにすると、ラビットの体は浮き上がって吹っ飛んだ。

 そのままラビットホーンは近くの木々を道連れに薙ぎ倒しながら、地面に落ちた。

 一撃でカタがついてしまった。ラビットホーンの体は崩れていき、大きな角の部分だけが残った。

「あらら、一撃で沈んじゃいましたね。」

結局ミヤビは一度も攻撃することなく『隠密』を解いた。

 静かになったのを見計らって、岩陰からトルクが出てきた。

「おお、やっぱり強いんですね。」

「まあこんなもんだよ。」

我ながらちょっとカッコつけてしまった。

 ともかく、これでトルクの討伐実績にも、「ラビットホーン」の名前が追加されていた。

「よし! これで大丈夫なはずだ。」

「換金はW5でもできますよね?」

「うん、だから、さっきの関所に直行しよう。」

 行ったり来たりを繰り返しているが、もうこれで一区切りのはずだ。

 トルクだけ、受付で手続きをさっさと済ませると、俺たちと一緒に関所の向こう側へと抜けた。

「本当にありがとうございます。このままずっとここから抜けられないと思ってました。」

「ハハ、まだ気が早いよ。次のエリアだって突破しないといけないんだからね。」

 この前、リゾートでソロプレイが可能になるという話は聞いていたが、トルクを見ていると、難度が高すぎるように思えてしまう。

 でもまあ、今はパーティーを組めている。このままW4まで早く戻るためにも、俺たちはW5の砂漠に足を踏み入れた。
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