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最後の16歳

68.例のテンプレ自分語り聞く方はツライ

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「俺は本当の『神様』じゃなくて本物の『神様』が別にいるってことだな。俺は元日本人のただのお兄さんってわけ。
 あ、ラズはさっき言ってた通り、元からこの世界の住人だ。その可愛いラズを俺が『日本』へ転生させてやり直させたんだなー」

 いきなり始まった異世界転移ものプロローグ。
 付け足したように、生き直しの詳細をさらっと言った。

 いつもの捉えどころのない神様復活だ。

 まあ、……色々思うところはあるけど。
 さらっと大事なこと言っちゃうのはよろしくないよな、とかね。
 でも、知りたいことは知れたから良し!!
 時間無いし、もうわけわかんないから考えたくないとかではない。決して。

 神様自分語りを簡単に要約すると。
 日本人だった彼は、突然ここに連れてこられた。
 目の前に浮かび上がったウインドウに「世界滅亡阻止」を命じられ、『神様』になったってこと。

 異世界ラノベまたはゲームでありそうな状況だ。
 そして、僕にしてきた仕打ちと一緒だ。
 このウインドウを使う方法を参考にしたんだな、と察した。

 ふとした疑問が浮かぶ。

 僕が生きる世界はゲームの世界なのか。

「えっと、僕が生きている世界はゲームの世界なの?」
「ラズの世界がゲームの世界なのかは言い切れない。
 でも、俺はこの世界が、人類が滅びる度に幾度となく初めから繰り返してる。世界滅亡を阻止する為に、だ」
「……何度もやり直してるんだ」
「そ。でも、ラズが初めて自らこの世界を壊した。何度も繰り返して来たのに、たった1人で世界を滅亡させたのはラズだけ」
「……ごめんなさい」

 神様は気にするなと言うように肩をすくめ、首をゆるく横に降った。

 でもさ、1人で何回も長い時を繰り返して過ごすのは辛いよね。
 しかも見守ることしかできない。苛立たしいよね。
 それをもう一度させてしまったのは僕だ。

 生活感の無いこのお部屋。
 いつ来ても窓の外にはぽっかり浮かぶ満月しか見えない。
 日が昇らない常夜のお部屋でひとりぼっち。

 ⸺寂しくないわけ無いじゃないか。

「むしろ、俺にとってはチャンスだと思ったんだ。クソみたいな制約が多過ぎる中、もう何も方法が浮かばない、諦めかけた時だったからめちゃくちゃ嬉しかった」
「え?制約なんてあるの?!」
「気になるのそこかよ?!」

 呆れながら軽く教えてくれたけど、かなり縛りがエグい。

 神様は直接この世界へ干渉がほぼできない。

 世界滅亡を引き起こす脅威は、神託として知らせるだけ。
 対抗するため、自身の能力の一部をこの世界の人間へ譲渡はできる。
 だが、世界滅亡の脅威へ直接神様は能力を使えない。

 また、人の気持ちや記憶を操作することはできない。

 あくまで神様の役割は、この世界で暮らす人類達がその脅威を打ち払うため、サポートし環境を調整するだけ。

 僕へウインドウ越しに指示を出し、報酬を授ける形にしたのはこの制約があったからなんだね。

「……神様は頑張ってたんだね」

 途方もない月日をひとりぼっちで送ってきただろう神様。
 さらに彼へ後ろめたさい気持ちが胸にじわりと広がる。俯きながら、唇をきゅっと噛みしめる。

 神様は僕の横髪を1房掬い、チュっと大きな音をたてながらキスを落とす。

「ぅえッ?!」
「ははっ!でも、ラズが俺の希望そのものになった。ラズなら世界を救ってくれるって!」

 掬った髪をそっと耳にかける神様は甘く囁く。

「希望?」
「そう。希望であり、救い。
 白髪が似合う可愛くて綺麗な心を持つ子で。世界を滅ぼすほどの絶望で今にも崩れそうなの時。……世界を救いたかった、愛されたい、と相反する願いを持つラズにさ。
 愛を求めて脆く歪んだ姿が、堪らなくいじらしくて、俺が愛してあげたいと思った。……愛されて幸せになって欲しいとも」
「…………」
「ラズの願いを叶えつつ世界を救わせて。俺だけのラズにした後、無理矢理どっぷり愛してやろーと思った」

 神様が浮かべるとても甘い笑みに体は勝手に反応してしまう。
 だって……恋人へ向けるみたいな笑顔なんだよ。
 頬は熱をもち、心臓の拍動はどくどく早まっていく。

 もしかして、勘違いじゃないのかな。
 神様も僕を『愛してる』ってうぬぼれても良いの?

「……で、他に気になることは?会いたくて仕方がないラズから会いに来てくれたんだ。俺が答えられるものはぜーんぶ答えるよ」

 覗き込むように近づく神様の前髪が頬に当たる。
 今さらながら近すぎる体勢に気づく。
 頬へ触れた髪の毛が擽ったいし、さっきから声から態度まで甘い。
 このバックハグ体勢も合わさり、甘々な雰囲気に慣れなくて恥ずかしい。

「じゃ、じゃあ。なんでわざわざ1回『日本』へ僕を転生させたの?そのままやり直しても良かったのにさ……。神様のその、あれが遅くなっちゃうよ」

 必死にひねり出した問いかけ。
 最後はモゴモゴ小さくなってしまった。

 これは文句ではない。心配した上での言葉だったんだよ。

 なのに、神様はなぜか声に緊張を滲ませた。

「……ラズに普通に愛されて欲しかったんだ。愛を知って、ラズが真っ当に誰かを愛するためにもな」
「僕が……真っ当に愛するため?」
「ああ。普通に愛されたこともなく、愛するのも慣れていないから、ラスボスになっただろ?また生き直しても、愛を知らないラズは同じことを繰り返す可能性があるなーって。
 愛って見えないから、自分で体験しないとわからないと思ったんだ。
 わかりにくい、言葉にもされない不器用な愛は特に気付けないしな」
「……っ」
「だから、日本でさ。当たり前に見た目を気にされず、どこにでもある愛を両親、周りの人間から真っ直ぐ注がれて。……自分は愛されるべき人間だ、と自信つけて、色んな愛し方があるのを知って欲しかった。
 戻ったこの世界で、既に愛されていたと気付いて、今回は真っ当に愛を返せたら。……ラズは『幸せ』になれるなーと思いまして」

 俺のお節介かも知れねーけど、と僕の頭に顎をのせる。

「……うん。日本で浴びるほど愛されたよ。今も……もったいないくらい愛されてる。いろんな形の、不器用な愛にも気付けた……」

 愛されたことの無い以前の僕。
 愛されてたなんて気づかなかったし、愛されている自信も無かった。

『日本』で貰った真っ当な『愛』。
 顔は覚えていないけど、僕のなかへ確かに残っている。

 お母様の厳しい言葉の奥へ潜めた、僕の未来を見据えた愛
 お父様の無表情に隠された不器用な愛。
 神様のそっと寄り添い、穏やかに包み込む愛を。

 愛っていっぱいあるってやっと気付けたよ。

「それに、人を真っ当に愛すると、本当に温かくて優しい気持ちになれるんだって知ったよ……」

 愛しい人へ向けた『愛』が返される受け入れられる奇跡的な『愛』を。
 とってもぽかぽかな『幸せ』に包み込まれる愛。
 僕のなかにいくつも育った『愛』があるのも。
 今、みんなを愛しく思えるのも。

「すべて神様のおかげだよ……」
「……そっか。良かったな」

 嬉しそうに僕の頭を優しく撫でる神様。
 声や手付きが優しさを伝え、想いがとめどなく溢れて止まらない。
 神様の手を無理やり両手で取り、僕の胸にぎゅっと押し付ける。

 大きな手を取っただけで、ぶっ壊れた心臓。
 苦しくなるほど早く動く心臓が僕の気持ちを伝えてくれるはず。
 神様が僕にくれた。
 ぽかぽか温かくてずっしりのしかかる気持ちをなんとか形にする。

「神様。愛してるよ」
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