シチューにカツいれるほう?

とき

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5章 決意

22話

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 思い立ったら吉日というけれど、そんなにいいものではない。
 真理子は志田の家から帰るなり、決戦をしかけようと思った。
 絶対に勝たないといけない戦い。
 でも絶対に勝てない戦い。
 真理子は討死覚悟で母との戦いに臨んだ。

「お母さん、話があるの」

 真理子が帰ると、両親はリビングでテレビを見ていた。
 別に会話はない。二人とも黙ってテレビを見ているだけ。

「なに?」

 不機嫌そうな声で答える。
 テレビを見るのを中断させられたためか、真理子ごときが何か話を持ちかけるのが許せないためかはわからない。

「私、家を出るね。もうお母さんの言いなりにはならない」

 自然な感じで言ったつもりだったけど、声は歯が当たってかちかちで震えていた。
 母は言葉の内容よりも、その違和感を感じ取り、一瞬にして鬼の形相に変わる。
 父はこれまで二人の会話に興味を持ったことがなかったが、さすがにこの緊迫した雰囲気に振り向いた。

「あんた、なに言ってるの!?」

 どこからそんな声が出るんだろうという声量で怒号が飛ぶ。
 空気が震え、真理子の皮膚に痛いほど突き刺さる。冷や汗がぶわっと吹き出してくる。そして心臓が痛い。
 怖い。死ぬ。
 本能的にここにいてはいけないと、体が告げているのだった。
 でも逃げない。逃げたらすべて無に帰してしまう。
 奮い立て、自分!

「ずっと嫌だったの、お母さんの言いなりになるの! いつもいつも私に命令して、うまくいけば自分の手柄、ダメだったら全部私が悪い。そういうの、もううんざりなの!」

 これまで腹にため続けて言葉を一気に吐き出す。もちろんこれだけじゃ足りない。

「なんてこと言うの!? あんたって子は!! 私がどれだけ苦労してあんたを育てたかわかってるの! この親不孝者め!」

 火に油。怒りはヒートアップ。
 別に怒らせたいわけじゃない。
 でも、それだけは絶対に言わないといけなかった。娘が母のやることにずっと不満だったという主張は伝えないと、真理子は先に進めないから。

「私は私。お母さんの物じゃない! これからは生きたいように生きるから!」

 母の言うように、自分は親不孝かもしれない。
 親元を急に飛び出す娘。一般的には娘のほうが悪いというだろう。なぜなら子供が小さいうちは親子が一緒に暮らすのが普通で、理想的だから。それからはみ出す奴はおかしくて間違っている。
 でも、真理子は自分が悪いとは思っていない。この家は理想とは大きくかけ離れている。
 シチューはもともと茶色だった。でも、食材が不足していたがために、白になってしまった。茶色が本来あるべき姿で、当時は惜しまれたかもしれないけど、今となっては別にどっちでもいい。
 本来だとか原則だとか正しいだとか。どっちでもいいじゃないか。好きなほうを取ればいい。なったほうがいずれ普通になっていく。

(今日からは、私が思う道を選ぶ!)
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