シチューにカツいれるほう?

とき

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5章 決意

21話

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 志田と付き合うことになった。
 すぐに川上にはお断りを入れた。
 「やっぱそうだと思った」と笑ってくれたけど、すごく申し訳なかった。引き延ばしてしまったし、迷惑をいっぱいかけてしまった。
 振った側に言われたくないだろうけど、「川上くんにはもっといい人ができるよ」と祈ってあげたかった。
 たぶん自分がそんなことしなくても、川上には自然といい恋人ができると思うので余計なことは控えた。
 志田と付き合う。これで毎日ハッピー……というわけにはいかない。
 母から、志田とは関わるなと言われている状況のままだった。見つかったらホントに殺されかねない。
 どうすればいいのか。何をすれば解決するのか。必死に考えるけれど、何も思いつかない。

「『話せばわかる』ってやっぱウソだよね……」
「あん?」

 今日は放課後にファーストフードを食べにやってきたが、二人でしゃべっているのに一人考え込んで独り言を言っていた。

「ごめん、なんでもない」
「なんでもないじゃないだろ。家のこと?」
「うん……。どう説得すればいいか考えてみても、絶対に失敗する未来しか見えない……」
「あのお母さん、そもそも話を聞こうとしないからな」
「そうなんだよね……」
「学校に相談してみるか?」
「無理無理。家庭の事情に介入できないって言われて終わる。小学校、中学校のとき、お母さんがクレーム入れて、学校あげての大問題になったけど、結局どうにもならなかったし」
「アイザワ自身に直接的な被害が出てない限りは、対応してくれないよなあ」

 親に暴力を振るわれている、食事を出してもらえない、など生きることが困難な状態でなければ、学校は相談に乗ってくれない。
 学校は子供にとって緊急避難のシェルターのはずなのに、いざというときに役に立たないものだ。

「子供ってほんと無力なんだよね……」

 自分に経済力があれば、今すぐ一人暮らしをするのに。そうすれば物理的にも精神的にも母から解放されてハッピーになるはず。

「無力か、そうだな……。なら、俺の家に来るか?」
「これから? さすがに帰り遅くなっちゃうからマズいかな」
「今日じゃなくて、ずっと」
「ずっと?」

 志田の言う意味がわからず、頭上にハテナマークがいくつも点灯する。
 でも次の瞬間に理解して、ハテナマークが大爆発する。

「ななな、なに言ってるの!?」
「住むところがないって話だろ?」
「そうだけど、それって……同棲……」
「ン? ……あっ」

 今度は志田の頭が爆破する。
 こんなに真っ赤な顔になった志田を見るのははじめてだった。

「いや、そういう意味じゃなくてな……。いやいや、そういうことになるのか……」

 志田としては、独り立ちするお金がないなら、自分の家なら部屋が空いているから無料で住める、と合理的に考えただけだった。
 でも、実際には二人で一緒の家に住むことになる。つまり、「一緒に暮らさないか?」とプロポーズしたようなセリフになっていた。

「うーん……」

 ジュースをずずっとすすって、頭を冷やしながら考える。
 その申し出はすごくうれしい。うれしすぎる。
 志田が思いついた理屈と同じで、お金がない自分が独立するには誰かの家に上がり込むのがベスト。
 そして、細かい理屈とか言い訳をなくして、頭をバカにすれば……。好きな人とずっと一緒いられる。なら飛びつくっきゃない!
 でもやっぱり、人間には理性がある。悩ましい理由は二つ。
 一つ目は、子供が二人一緒に暮らすのはいいことなのか。いろんな意味で。
 二つ目は、相手は志田に限らないけれど、誰かの家に上がり込んでも、ホントに母から離れることができるのか。母が了承するとは思えない。強引に出て行った場合、やっぱり追いかけてくるのではないだろうか。そしたら、相手にとんでもない迷惑をかけることになる。
 結局、母から逃げることはできないのかと気が重くなり、ため息を吐いてしまう。

「そうするか」

 真理子のため息を聞いて、志田が突然決断を下す。
 うれしそうな顔の種類で百面相していたのに、急に落ち込み暗くなった理由は言われなくてもわかった。

「そうと決まれば、すぐ用意しよう」
「ちょ、ちょっと待って!」
「嫌なのか?」
「あう……。嫌じゃないけれど……」
「ならいいんじゃないか?」
「そうじゃないの。やっぱり、親には話しておかないといけないし」
「説得は無理という話じゃなかったか?」

 志田の言う通り。真理子も無理だと思っている。
 だからこそ志田は即決したのだ。

「でも、筋は通さないと……。一回話してみるよ。一応、あれは親で、私は子供だからね。揉めるのはわかってるけど、やらないとダメ。あと……もう逃げたくない」

 母に関わるなと言われた志田と付き合うことになった。それは逃げるのをやめたということだった。ここでまた逃げるわけにはいかない。

「お母さんと話してみる」
「俺も行こうか?」
「ううん、これは自分でやらないと」

 志田は真理子の目を見たまま少し沈黙。そして口を開く。

「そうだな。いってこい。いざというときは……いや、何でもない」

 いざというときは頼ってくれ。
 そう言おうと思ったのは真理子にもわかった。
 でも、それを言うことで真理子の決心が鈍ることを避けたかった。
 もちろん、それで二度と手伝わない、という話でもない。うまく収まらなかった場合はきっと助けてくれるはず。

(志田くんは全部わかってくれてる)

 「いってこい」の一言で十分だ。
 真理子は千の言葉、万の言葉以上に勇気づけられた。
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