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4章 思い
20話
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教室に戻ると、志田が一人残っていた。
川上はもう帰ってしまっていて、どうやら揉み合いは終わったようだった。
「お先に~」
バッグを掴むと、美紀はニヤニヤした顔でそそくさと教室を出て行ってしまう。
おかげで教室に二人っきりになってしまい、余計に緊張する。
「あ、あの……」
「帰ろうぜ」
しばらく逡巡してから声をかけるが、志田はすぐ立ち上がって教室を出ようとする。
「う、うん」
真理子も志田を追って教室を出た。
人生ではじめて好きになった人との下校。それはいいもののはずだけど、今回はそんなことを楽しんでいられない。
自分のせいで、志田と川上が揉めてしまっている。どうなったのか聞きたいけれど、どう聞き出せばいいのかわからず、無言で志田の後ろをついていくだけになってしまう。
「通り過ぎてるぞ」
最近毎日のように通った帰宅路。その道を通ることに何も違和感はなく、いつの間にか志田の家を通り過ぎてしまっていた。
「ええっ!? なんで止まってくれないの!?」
考え事をしながら歩いている真理子が通り過ぎてしまうならば、よくある話。でも、志田までもが自分の家を通り過ぎてしまっていた。
「あはは! ようやく口開いた」
どうやら、わざとやったようだった。
「どんだけぼうっとしてるんだよ。聞きたいことがあるなら悩んでないで聞け。ずっと近くにいただろ」
「もう……」
志田も人が悪い。真理子が何を考えているのかわかった上で、それを真理子から言い出すまで待とうとしていたのだ。
「川上とは大丈夫だ。あのあと、ちゃんと話して誤解は解けた」
「全部話したの?」
「心配ない。お前のことはできるだけ隠した」
「……川上くんはなんて?」
「ああ……お前のことが好きだとさ」
「なっ!?」
二人でちゃんと話したということは、互いの考えや気持ちを交換したに違いない。
いったいどんなことを言ったのか知りたいようで、知りたくない。
「私なんて好きになってもしょうがないのになあ……」
「そうか?」
「こうやって迷惑かけるだけの人間だよ。川上くんにはもったいない」
「ああ、もったいないな」
「ええっ……」
正直な感想を言われて、それも困ってしまう。
「あいつ、言ってたな。アイザワは俺が好きなんじゃないかって」
「うっ」
ボンッ!
頭が爆発する。
やっぱり余計なことを言われてしまっていた。一回、川上にはその気持ちを否定していたけれど、今や真実となっている。
「俺がアイザワさんのことを好きなんだから、リヒトは手を出すな!」みたいな展開があったんだろうか。けれど、ドラマのように、自分を取り合いしている姿をうれしいと思うには余裕がなさすぎた。
「おかしな話だよな。あいつ、アイザワが俺のことを好きだと思っているなら、いちいち口出してくるべきじゃないよな?」
「うう、どうなんだろ……」
爆発した頭の状態でその問いに答えるのは難しすぎた。
「ホント、あいつにやるにはもったいない。俺は好きだぜ。迷惑かけてくれ、頼ってくれるアイザワのこと」
志田と出会って以来、何回心が揺すぶられたことだろう。何度頭を爆破されたことだろう。
今回は完全に木っ端みじんだった。
感情があちこちに振り切りすぎて、しゃべることも動くこともできない。できるのは、ただ顔を伏せて自分のお腹を見ることだけ。
この人は急に何を言い出すんだろう。ホントのこと言ってるのか。冗談なのか。演出なのか。
「まあ、ここまで来たんだ。寄ってけよ」
志田は自分の家のほうへ歩き出す。
「ま、待って!」
真理子はとっさに志田の腕を掴む。
志田がウソなんて言ったことがあっただろうか?
志田はいつも正直に自分に向き合ってくれている。逃げたことなんてない。自分のために立ち向かってくれたことさえある。
頭が爆破されたのを理由に、自分は今日も逃げるのか。今日は自分の気持ちに気づいた日でもあるのに。
逃げるな! 戦え!
(言わなきゃ、言わなきゃ!)
いつも志田の優しさに応えたいと思っていた。
思いに応えるのは今しかない!
「私も、好きです!」
ついに言ってしまった。
この短い言葉にこんなに気持ちを込めたことははじめてだ。
これが不器用な自分に今できること。
伝わってほしい。知ってほしい。わかってほしい。そして受け入れてほしい。
「よし、よく言えたな」
志田は真理子をぎゅっと抱きしめた。
川上はもう帰ってしまっていて、どうやら揉み合いは終わったようだった。
「お先に~」
バッグを掴むと、美紀はニヤニヤした顔でそそくさと教室を出て行ってしまう。
おかげで教室に二人っきりになってしまい、余計に緊張する。
「あ、あの……」
「帰ろうぜ」
しばらく逡巡してから声をかけるが、志田はすぐ立ち上がって教室を出ようとする。
「う、うん」
真理子も志田を追って教室を出た。
人生ではじめて好きになった人との下校。それはいいもののはずだけど、今回はそんなことを楽しんでいられない。
自分のせいで、志田と川上が揉めてしまっている。どうなったのか聞きたいけれど、どう聞き出せばいいのかわからず、無言で志田の後ろをついていくだけになってしまう。
「通り過ぎてるぞ」
最近毎日のように通った帰宅路。その道を通ることに何も違和感はなく、いつの間にか志田の家を通り過ぎてしまっていた。
「ええっ!? なんで止まってくれないの!?」
考え事をしながら歩いている真理子が通り過ぎてしまうならば、よくある話。でも、志田までもが自分の家を通り過ぎてしまっていた。
「あはは! ようやく口開いた」
どうやら、わざとやったようだった。
「どんだけぼうっとしてるんだよ。聞きたいことがあるなら悩んでないで聞け。ずっと近くにいただろ」
「もう……」
志田も人が悪い。真理子が何を考えているのかわかった上で、それを真理子から言い出すまで待とうとしていたのだ。
「川上とは大丈夫だ。あのあと、ちゃんと話して誤解は解けた」
「全部話したの?」
「心配ない。お前のことはできるだけ隠した」
「……川上くんはなんて?」
「ああ……お前のことが好きだとさ」
「なっ!?」
二人でちゃんと話したということは、互いの考えや気持ちを交換したに違いない。
いったいどんなことを言ったのか知りたいようで、知りたくない。
「私なんて好きになってもしょうがないのになあ……」
「そうか?」
「こうやって迷惑かけるだけの人間だよ。川上くんにはもったいない」
「ああ、もったいないな」
「ええっ……」
正直な感想を言われて、それも困ってしまう。
「あいつ、言ってたな。アイザワは俺が好きなんじゃないかって」
「うっ」
ボンッ!
頭が爆発する。
やっぱり余計なことを言われてしまっていた。一回、川上にはその気持ちを否定していたけれど、今や真実となっている。
「俺がアイザワさんのことを好きなんだから、リヒトは手を出すな!」みたいな展開があったんだろうか。けれど、ドラマのように、自分を取り合いしている姿をうれしいと思うには余裕がなさすぎた。
「おかしな話だよな。あいつ、アイザワが俺のことを好きだと思っているなら、いちいち口出してくるべきじゃないよな?」
「うう、どうなんだろ……」
爆発した頭の状態でその問いに答えるのは難しすぎた。
「ホント、あいつにやるにはもったいない。俺は好きだぜ。迷惑かけてくれ、頼ってくれるアイザワのこと」
志田と出会って以来、何回心が揺すぶられたことだろう。何度頭を爆破されたことだろう。
今回は完全に木っ端みじんだった。
感情があちこちに振り切りすぎて、しゃべることも動くこともできない。できるのは、ただ顔を伏せて自分のお腹を見ることだけ。
この人は急に何を言い出すんだろう。ホントのこと言ってるのか。冗談なのか。演出なのか。
「まあ、ここまで来たんだ。寄ってけよ」
志田は自分の家のほうへ歩き出す。
「ま、待って!」
真理子はとっさに志田の腕を掴む。
志田がウソなんて言ったことがあっただろうか?
志田はいつも正直に自分に向き合ってくれている。逃げたことなんてない。自分のために立ち向かってくれたことさえある。
頭が爆破されたのを理由に、自分は今日も逃げるのか。今日は自分の気持ちに気づいた日でもあるのに。
逃げるな! 戦え!
(言わなきゃ、言わなきゃ!)
いつも志田の優しさに応えたいと思っていた。
思いに応えるのは今しかない!
「私も、好きです!」
ついに言ってしまった。
この短い言葉にこんなに気持ちを込めたことははじめてだ。
これが不器用な自分に今できること。
伝わってほしい。知ってほしい。わかってほしい。そして受け入れてほしい。
「よし、よく言えたな」
志田は真理子をぎゅっと抱きしめた。
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