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3章 戸惑い
11話
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「アイザワさん」
休み時間、真理子の正しい名字を呼ぶのはクラスメイトの川上だった。
なんでもしっかりしている優等生。見せかけばかりの真理子と違って、本物という感じ。
クラスメイトは優等生コンビと思ってくれているけど、真理子が必死に食らいつこうとしているだけ。
彼に合わせておけば、優等生としてみんなの信頼を得られるという目標になっている。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「うん、なに?」
「向こうでいい?」
川上は教室の外を指す。
ここでは話せないこと、そんな深刻な事態があるのかとすごく不安になる。たとえば、先生に怒られるようなことが起きてしまったんだろうか。
真理子はこくんとうなずき、川上についていく。
「どうしたの?」
何を言われても驚かない覚悟を決めて聞く。
「リヒトと付き合ってるの?」
ぴたっと、思わぬ言葉に思考停止。
リヒトってなんだっけ、誰だっけととぼけたことを考えてしまう。
そしてワンテンポ遅れて、ぎょっと飛び跳ねる。
「志田くん!? な、なに言ってるの!?」
「最近一緒にいるから、そうなのかなと」
「ううん、違う違う! いろいろ頼まれたからやってるだけど、そんなことないよ!」
ウソは何も言ってない。
頼まれたというのは一応ホントだし、別に付き合っていない。
「あいつに関わらないほうがいいよ」
「ン、どうして?」
川上がそんなことを言うのは意外だった。
品行方正で悪い噂を聞いたことがないいい人。人を悪く言うなんて思いもしなかった。
「あ……」
頭のいい川上は真理子がどう思ったか、すぐにわかったようだった。
「そういう意味じゃないんだ。リヒトはいい奴だよ……」
「川上くんは仲いいの?」
「うん、中学のころからの一緒だから。家の事情が複雑でいろいろひねくれているところはあるけど、根は悪い奴じゃないんだ」
家の事情。それはきっと親の離婚のこと。それを知っているということは、本当に仲がいいみたいだった。
「アイザワさん、リヒトの家に行ったんでしょ?」
「ンっ!?」
志田の家にはあれから何回か行っているけど、どうやら見られてしまったようだった。
真理子は冷や汗が流れるのを感じた。
口が半開きになり、なんと言い訳したらいいのか考えるが、何も思いつかない。
「どういう関係?」
「どういうって言われても……」
すごく説明しにくい。
自分が家に帰りたくないから、志田が時間をつぶさせてくれている。そして、おまけとして料理を教えてもらっている。
そんな不思議な関係、説明しても理解してもらえないだろう。
それに、なぜ家に帰りたくないかは個人的な事情があって、やはり話したくない。
「あの……」
そこで川上が口ごもる。
続けるのかやめるのか逡巡したあと、決意してまた口を開いた。
「アイザワさん、リヒトのことが好きなの?」
ボンッ!
と頭が爆発したような衝撃と熱さを感じた。
タマゴを電子レンジに入れたみたいに、頭がはじけ飛んでいる。
「す、すすす好き!? ち、違うよ! 私なんかに好かれたら、志田くんが迷惑だし!」
「迷惑?」
「うんうん、すごい迷惑! 私、何もできないし、全部見せかけだし、ひねくれて変人だし!」
真理子は川上の連続攻撃により、やばいほどテンパって、みんなには決して言わないことを言ってしまっている。
「普段、みんなの前では偽の姿を見せている」なんて絶対にバレちゃいけないのに。
「そんなことないよ。アイザワさんはすごい人なんだから」
でも川上は真理子が謙遜して、わざと卑下したように思ったみたいだった。
「俺は好きだよ……アイザワさんのこと」
さらっと言われてしまうが、テンパっている真理子にもわかる。さらにとんでもないことを言われてしまった。
あまりの驚きに、目と口を見開いたままになってしまう。おかしくてマヌケな石像になり、言葉が出ない。
「お、おおお、お世辞なんていいよ! 私なんて褒めたって何も出ないよ!!」
普段ならお世辞でもうれしいけど、今はうれしさゲージを振り切ってしまっていて、戸惑うことしかできない。
「お世辞じゃないよ。これは本心。……アイザワさんがリヒトの家に行くところを見ちゃって、言わずにいられなかったんだ」
「あ……」
「ごめん、俺のやってることのが迷惑だよね……。でも、ウソじゃないから」
川上はそう言うと、真理子の返事を待たず、どこかに行ってしまった。
「へ……。告白された……?」
自分が恋愛の対象にされるなんて思ってもみなかった。
好きだと言われるのは嫌じゃない。むしろうれしい。すごくうれしい。
でも反面、申し訳なくも感じる。
川上ほどの人格者が自分なんか好きになっても、なんのメリットもない。偽りの姿にだまされてしまったんだ。
川上が志田に関わらないほうがいいと言ったのは、おそらく志田が変わり者だからというのと、川上が真理子を好きだから、そう言ってしまったようだった。川上らしくないので、やっぱり不思議に感じてしまう。
「どうしよう……」
なんて返事をすればいいんだろう。
そして、教室で常に顔を合わせるのにどう接していいのか、まったくわからなかった。
休み時間、真理子の正しい名字を呼ぶのはクラスメイトの川上だった。
なんでもしっかりしている優等生。見せかけばかりの真理子と違って、本物という感じ。
クラスメイトは優等生コンビと思ってくれているけど、真理子が必死に食らいつこうとしているだけ。
彼に合わせておけば、優等生としてみんなの信頼を得られるという目標になっている。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「うん、なに?」
「向こうでいい?」
川上は教室の外を指す。
ここでは話せないこと、そんな深刻な事態があるのかとすごく不安になる。たとえば、先生に怒られるようなことが起きてしまったんだろうか。
真理子はこくんとうなずき、川上についていく。
「どうしたの?」
何を言われても驚かない覚悟を決めて聞く。
「リヒトと付き合ってるの?」
ぴたっと、思わぬ言葉に思考停止。
リヒトってなんだっけ、誰だっけととぼけたことを考えてしまう。
そしてワンテンポ遅れて、ぎょっと飛び跳ねる。
「志田くん!? な、なに言ってるの!?」
「最近一緒にいるから、そうなのかなと」
「ううん、違う違う! いろいろ頼まれたからやってるだけど、そんなことないよ!」
ウソは何も言ってない。
頼まれたというのは一応ホントだし、別に付き合っていない。
「あいつに関わらないほうがいいよ」
「ン、どうして?」
川上がそんなことを言うのは意外だった。
品行方正で悪い噂を聞いたことがないいい人。人を悪く言うなんて思いもしなかった。
「あ……」
頭のいい川上は真理子がどう思ったか、すぐにわかったようだった。
「そういう意味じゃないんだ。リヒトはいい奴だよ……」
「川上くんは仲いいの?」
「うん、中学のころからの一緒だから。家の事情が複雑でいろいろひねくれているところはあるけど、根は悪い奴じゃないんだ」
家の事情。それはきっと親の離婚のこと。それを知っているということは、本当に仲がいいみたいだった。
「アイザワさん、リヒトの家に行ったんでしょ?」
「ンっ!?」
志田の家にはあれから何回か行っているけど、どうやら見られてしまったようだった。
真理子は冷や汗が流れるのを感じた。
口が半開きになり、なんと言い訳したらいいのか考えるが、何も思いつかない。
「どういう関係?」
「どういうって言われても……」
すごく説明しにくい。
自分が家に帰りたくないから、志田が時間をつぶさせてくれている。そして、おまけとして料理を教えてもらっている。
そんな不思議な関係、説明しても理解してもらえないだろう。
それに、なぜ家に帰りたくないかは個人的な事情があって、やはり話したくない。
「あの……」
そこで川上が口ごもる。
続けるのかやめるのか逡巡したあと、決意してまた口を開いた。
「アイザワさん、リヒトのことが好きなの?」
ボンッ!
と頭が爆発したような衝撃と熱さを感じた。
タマゴを電子レンジに入れたみたいに、頭がはじけ飛んでいる。
「す、すすす好き!? ち、違うよ! 私なんかに好かれたら、志田くんが迷惑だし!」
「迷惑?」
「うんうん、すごい迷惑! 私、何もできないし、全部見せかけだし、ひねくれて変人だし!」
真理子は川上の連続攻撃により、やばいほどテンパって、みんなには決して言わないことを言ってしまっている。
「普段、みんなの前では偽の姿を見せている」なんて絶対にバレちゃいけないのに。
「そんなことないよ。アイザワさんはすごい人なんだから」
でも川上は真理子が謙遜して、わざと卑下したように思ったみたいだった。
「俺は好きだよ……アイザワさんのこと」
さらっと言われてしまうが、テンパっている真理子にもわかる。さらにとんでもないことを言われてしまった。
あまりの驚きに、目と口を見開いたままになってしまう。おかしくてマヌケな石像になり、言葉が出ない。
「お、おおお、お世辞なんていいよ! 私なんて褒めたって何も出ないよ!!」
普段ならお世辞でもうれしいけど、今はうれしさゲージを振り切ってしまっていて、戸惑うことしかできない。
「お世辞じゃないよ。これは本心。……アイザワさんがリヒトの家に行くところを見ちゃって、言わずにいられなかったんだ」
「あ……」
「ごめん、俺のやってることのが迷惑だよね……。でも、ウソじゃないから」
川上はそう言うと、真理子の返事を待たず、どこかに行ってしまった。
「へ……。告白された……?」
自分が恋愛の対象にされるなんて思ってもみなかった。
好きだと言われるのは嫌じゃない。むしろうれしい。すごくうれしい。
でも反面、申し訳なくも感じる。
川上ほどの人格者が自分なんか好きになっても、なんのメリットもない。偽りの姿にだまされてしまったんだ。
川上が志田に関わらないほうがいいと言ったのは、おそらく志田が変わり者だからというのと、川上が真理子を好きだから、そう言ってしまったようだった。川上らしくないので、やっぱり不思議に感じてしまう。
「どうしよう……」
なんて返事をすればいいんだろう。
そして、教室で常に顔を合わせるのにどう接していいのか、まったくわからなかった。
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