シチューにカツいれるほう?

とき

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3章 戸惑い

12話

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 真理子はいつものように志田の家で料理を教わっていた。
 でも料理になかなか集中できない。
 川上に告白されたことが気になってしょうがなかった。
 どうして自分のことなんか好きになったんだろ。なんて返事したらいいんだろ。
 頭がこれまで考えたことないことで埋まってしまい、他のことすべてが疎かになってしまう。

「おい、包丁持ちながらぼうっとすんな」

 志田のお叱りを受ける。

「あっ、ごめん! きゃっ!」

 志田の言葉に反応して、手から包丁が滑り落ちてしまう。
 本当にひどい。子供でもしないようなことをやってしまっている。でも後悔は先に立たない。
 包丁は真理子の足目がけてまっすぐ落下する。
 だけど、包丁は真理子に刺さらず、地面に落ちてカラカラと転がった。

「あっぶねえー」

 志田はため息を吐く。
 志田がとっさに真理子を引っ張りよせていたのだった。
 真理子の心臓のドキドキは、助けられてもなお、どんどん激しくなっていた。
 志田が真理子から包丁から放そうと引っ張り寄せられた結果、志田に抱きしめられた形になってしまったから。

「あ、あ……」

 男子から抱きしめられたことなんてない。
 美紀はよく抱きついてくるけれど、それと全く違う。
 大きくて強くて優しくて。
 自分を守ってくれているという感じが、彼の全身から伝わってくる。
 真理子が固まって動けなくなっていると、志田から離れて包丁を拾ってくれる。

「どうした? らしくもない」

 志田はさも当然のことをしたように、抱きしめたのは何も気にしてないみたい。
 そりゃ包丁からかばっただけなんだから、そうなんだけど。

「ごめん……」

 ホントらしくない。
 完璧を目指していて、完璧じゃないのは知っている。でも、ぼうっとして、行動がにぶることはなかった。
 その状況において一番効果的なことを考えて実行するのが、真理子の本質。

「気をつけろよ」
「うん、もう大丈夫!」

 今日の料理は肉じゃがだった。
 気合いを入れて答えたが、結論からいうと全然大丈夫じゃなかった。
 気づけば料理は出来上がっていて、食卓で肉じゃがをつついていた。

「シチューってさ」
「え? うん」

 いけないいけない。またぼうっとしていた。

「白いのが普通だと思うじゃん」
「うんうん、ホワイトシチューが一般的だよね。それで、茶色のがビーフシチュー」
「そう思うよな。だけど、それって日本だけなんだって。世界的には茶色がデフォルトらしくて、白いのはないんだと」
「えっ! うそー!?」

 シチューは白い。それが日本人のイメージ。
 でも志田曰く、発祥のヨーロッパではもともと茶色のものらしい。

「明治に日本に入ってきたときは、茶色だったらしいんだけど、戦後、食糧事情がよくなくて、脱脂粉乳を使ってシチューを作ったのが、日本の白いシチューの始まり」
「そうだったんだ。シチューは白だと信じて疑わなかったよ」
「カレーも似たようなもんだよな。西洋から入ってきて日本独自のアレンジが入ってる。具材も同じだしな」
「確かに!」
「アイザワはぼうっとしてて気づいてないかもしれないが、この肉じゃがも、具材ほとんど同じ」
「あ……」

 言われて見ればその通りだった。
 シチュー、カレー、そして肉じゃがを習ったが、具材や工程は似ていて、味付けや細かいところが違うだけだった。
 ぼうっとして、志田の好意を無視していたのはホントに恥ずかしい。

「何があったんだ?」
「うーん……。ごめん、今は話せないかな」
「そうか。別にそれでいい」

 そう言うと、志田は黙々と肉じゃがを食べ続けた。
 もちろん真理子に興味を失ったわけじゃない。真理子を気遣って深く追及しないという優しさを見せてくれた。

(ごめん……。私ばかり優しくしてもらっちゃって……)

 悪いのは一方的に自分。でも文句一つ言わない。
 志田からは与えられてばっかりだった。
 本当は気持ちに応えるために、事情を打ち明けたほうがいいんだろうけど、川上に告白されたということまで相談できない。
 そこには志田のことも深く絡んでいるから。
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