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間章1【瘴脈討伐】

勇者様御一行のお仕事(2)

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 ラグ市から見て真北にあるのがラグ山である。そのラグ山を大きく迂回するように川が流れていて、これをレファ川という。レファ川はラグ山よりさらに北から、ラグ山の東寄りを流れてラグ市の南東をかすめて海に向かう。海はラグの南西側にある。
 そのレファ川沿いを遡っていけばラグ山の北東側の山地帯に入ってゆく。これが竜翼山脈の一端で、山間部をしばらく登っていけば山間やまあいの渓谷に出る。
 ここが“レファ渓谷”だ。

 ラグの市街がレファ川から少し離れているのには理由がある。この川は竜尾平野でも比較的大きな河川のひとつに数えられるが、かつては治水も利水もままならぬ暴れ川で、毎年のように氾濫を繰り返したため沿岸部に定住できなかったのだ。
 だが今は竜骨回廊周辺を中心に治水がなされ、ラグ市内にも運河が引かれて人々の生活用水を提供している。この利水運河を安全に利用するためにも、渓谷の瘴脈を抑えることが必要なのだ。

「…で、この村に脚竜車ば預けとけばよかっちゃね?」

 御者台に座っているミカエラが確認する。
 彼女の操る脚竜車は蒼薔薇騎士団が普段から移動用に使っているもので、今回もパーティを乗せて来ている。今回はラグ山の北、レファ川が竜尾平野に流れ出てきたあたりにある小さな集落までやって来ていた。
 ここがレファ渓谷にもっとも近い集落で、普段から瘴脈の定期巡回のベースキャンプとして利用されている。

「ええ。村長が責任持って預かってくれるそうよ」

 集落に話を通してきたヴィオレがそれに答える。一行はここで脚竜車を預け、ここからは徒歩で竜翼山脈に分け入っていくのだ。

 今回ここまで御者を務めてきたのはミカエラだった。普段はヴィオレと分担して御者を務めていて、だから帰りはヴィオレが御者になる。
 ミカエラは村長宅の前に脚竜車を横付けしてレギーナたちを下ろし、自分はそのまま脚竜車を裏手に回していった。
 降り立ったレギーナたちはすっかり装備も整っていて、今にでも瘴脈に向かえそうに準備万端だ。

「ようこそおいで下さいました勇者様。歓迎の準備ができておりますので、ささ、中へどうぞ」

 玄関前で待ち構えていた村長が満面の笑みで出迎えて、レギーナたちを中へ案内しようとする。

「要らないわ。あらかじめ要請してあった物資だけ出して頂戴。すぐに渓谷へ向かうから」

 だがレギーナはにべもない。
 物資の拠出要請は昨日の依頼を受けて辺境伯からこの集落に出されている。昨日の今日ですぐ揃えられるのはこの集落が拠点として活用されているからで、普段から物資が集積されているのだ。

「い、今から向かわれるのですか?」
「そうよ。今なら日暮れまでには見張り小屋にたどり着けるでしょう?」

 朝の間にラグを出たため時刻はまだ昼下がり、ちょうど貴族たちがお茶をするくらいの時間帯である。まあこんな山村には貴族なんていないが。

「いや…しかし、お疲れになってはいけませんから今日のところは村へ泊まって頂いて…」
「大丈夫よ鍛えてるもの。半日遊ぶよりもさっさと現地へ乗り込んだ方がいいわ」
「そ………そうですか…」

 何とか歓待して歓心を買いたかった村長の思惑は、そんな誘いに一切乗らないレギーナ相手には何の効果も及ぼさなかった。
 渋々、といった態で村長が用意した物資を村人たちに出させると、ミカエラとヴィオレが持参した荷物袋に手早く分類して収め、車両を牽かせていた脚竜サウロフスの背中に括りつける。
 ちなみに用意させたのは食料と水、それに山中で狩りをする場合に備えた狩猟道具一式だ。

「要請した物資はちゃんとあった?」
「きっちり揃っとったばい」
「じゃ、行きましょっか」

 そうして彼女たちは、唖然とする村長以下集落の人々を後目に川沿いを渓谷に向かって歩き出した。



 ー ー ー ー ー ー ー ー ー

【注記】
 この世界、無限収納やマジックバッグみたいな便利アイテムも魔術もありません。そういうのは『神理』、つまり世界の法則を侵すので成立しません。
 なので荷物は全て担ぎます。人力だと限界があるので、荷物持ちとしても脚竜は大活躍です。


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