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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

671 〝光明の日差し〟との打ち上げ と 第六皇女の噂話

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 サブ・ギルドマスターのバナショウに、レオラが何か吹き込んだ事で発生した依頼かも知れないと、アレナリアに伝えた。
 そこで念話を繋ぎ直すよりも早いと、直ぐ側に居るビワに何か知っているか、アレナリアに聞いてもらった。
 だが、ビワは何も知らないようだった。
 
 他に何か頼まれたりしたかとアレナリアに聞かれ、口を滑らせてしまい言わなくてもいい事を話してしまった。(念話だから口は動いてないが)
 サブ・ギルドマスターのバナショウから、歓楽区の娼館を勧められたと聞いたアレナリアが「『なッ! まさかその娼館に行ったりなんてしてないわよねえ!』」と、念話とは思えない声量でど怒鳴ってきた。

「『落ち着け。行ってないし、行く気もない。そもそも今までだって、俺はそういった場所に行ってないだろ』」

「『確かにそうだけど……』」

「『それにだな、娼館なんかに行かずとも、俺にはアレナリアとビワがいるんだ。レラもな。それで十分すぎるほど癒やされる』」

 念話から伝わって来たアレナリアの怒気が、スッと薄れたのを感じ、声色が優しく変わる。

「『ムフッ。そ、そうよね。帰ってきたら、またいっぱい癒してあげるわね』」

 アレナリアが恍惚の笑みを浮かべ、舌舐めずりをしているのをカズは想像してしまい、背筋がゾクゾクっとした。

「『て、程度でいいからな。程度で』(さすがに毎回あれだけの回数は……)」

「『そうね。ビワもいるんだし、今度はレラだって。独り占めはダメよね。わかったわ。明後日の夜には帰って来るのね。二人に伝えておく』」

「『ああ、頼むよ』」

 繫げていた《念話》切り苦笑いを浮かべるカズに、恥ずかしさと怒りで顔を赤くしていたアプリコットが「あそこです」と、見えてきた行き付けの酒場を指差して教えてきた。
 冒険者ギルドから二十分弱歩き、大通りから路地に入って数分の所に、冒険者が集まる酒場というよりは、街で働く人々集まる大衆食堂といった感じの店があった。
 店の扉は全開にしてあり、店前の道までテーブルと椅子を出し、どこまでが店の敷地なのか分からないような状態になっていた。
 道だと思える所も、ギリギリ店の敷地内なのかも知れないが、パッと見は完全に道の端。
 まだ時間的には少し早いから数人しかいないが、外にまでテーブルと椅子を出しているということは、それだけ繁盛する店なのだろう。

 行きつけの場所という事で、ゴーヤとアプリコットは慣れた足取りで店の中に入り、先に奥の席を取っていたカリフと合流する。
 カリフは既に麦シュワを頼み、先に飲んでいた。
 ゴーヤとアプリコットはその状況に何も言わず席に着く。
 一人だけ先に飲み始めているのに、なんで文句の一つも言わないのだろうかと、カズは不思議に思った。
 四十階層を突破して、死ぬかもしれなかった状況から助かった祝の席なのだから、飲み始めるのは集まってからではないのか? と。

 店の席取りをしてもらったのだから、合流するまでの一杯や二杯先に飲むのは当たり前なのか、ゴーヤとアプリコットはやはり何も言わず席に着いた。
 別に先に酒をやっていたとしても、今日知り合ったばかりの冒険者なのだと割り切り、カズからは何も言わない。
 そうしてカズが席に着くと、ゴーヤとアプリコットがカリフの脳天と後頭部を同時に叩いた。

「痛ッ。何すんだ!」

「毎回毎回カリフが店を確保するとこうなる。ハァ、なんで先に飲んでんのよ!」

「アプリの言う通りだ。しかも今回は四十階を突破した祝いだと言ったろ。合流するまで待てないのか」

 カリフが一人で店を確保すると、ゴーヤとアプリコットが来る前に先に飲み始めてしまうのは、三人の会話からして何時もの事らしい。

「いいじゃねぇか。一杯や二杯くらい」

「今日はワタシ達三人だけじゃないでしょ。危ないところを助けてくれたカズさんが一緒なの。しかも買い取りに出した素材は、カズさんがくれたものなのよ」

「そうだ。こういう時くらいは、我慢して待て」

「す、すまない。つい、いつものノリで」

 カリフは持っていた麦シュワが入ったコップを置き、ゴーヤとアプリコットに謝罪する。

「ワタシ達だけじゃないでしょ。肝心な人に謝らなくてどうするの」

 最初にカズに謝罪しなくてどうするのと、アプリコットがカリフに注意し、ゴーヤは謝れとカリフに視線を送った。

「申し訳ない。誘っておきながら、先に一人で始めて」

「冒険者は無作法だと思われていると誰もが考えるだろう。だがランクが上がればギルドの代表者や、それに近しい人達と会うことがある。だから面倒でも、少しは礼儀を覚えた方がいいぞ。別に貴族や皇族相手にとまでは言わないが、曲りなりでもな」

 ゴーヤとアプリコットがカリフをたしなめたのだから、怒る事や文句を言う事はしない。
 ただこれから〝光明の日差し〟のランクが上がった時の事を考えて助言をした。
 カリフ自身がそれを聞き入れるかは知らないが。

「ごめんなさいカズさん。うちのお調子者が」

「うちのカリフバカがすまない」

「大丈夫だ。気にしてない。それより四十階を突破した祝いなんだろ。それくらいにして、始めたらどうだ」

「許してもらったし、アプリはフルーツミルク酒いつもので、あとは麦シュワでいいだろ。乾杯しよう」

 反省の色を見せたと思ったら、すぐ元に戻り、カリフは四人分の酒を注文する。
 その変わり様にゴーヤは呆れ顔をして、アプリコットは苛立ちの表情を浮かべた。
 ただカズの手前なので、ここは怒らず我慢した。
 頼んだ飲み物が運ばれて来ると、四人はそれぞれの飲み物を手に取る。
 それを確認した〝光明の日差し〟リーダーのゴーヤが乾杯の音頭をとる。

「迷宮の四十階踏破と、カズとの出合いに」

 テーブルの中央で、それぞれ酒の入った容器を当てて口に運び、ぐいっと喉に流し込む。
 ゴーヤは兎も角として、カリフは三杯目だというのに、ゴクゴクと喉を鳴らして麦シュワを飲み干す。
 カズも合わせて一杯目は飲み干し、アプリコットは半分程まで飲んで容器から口を離す。
 カリフが追加で麦シュワを三人分頼む。
 今度は飲み物と一緒に、サラダと肉の串焼きと焼き魚が運ばれ、続いて拳大に大きく切られた鶏の唐揚げが出で来る。
 三人は空腹に耐えきれず、勢いよく食べて飲む。

 運ばれて来た料理を粗方食べ終えると、不意にカリフが「カズはどうやって、皇女専属冒険者になったんだ?」と聞いていた。
 完全に酔っているので、遠慮というものがない。
 流石にレオラ第六皇女に関する質問は不味いと思ったが、内心では聞いてみたいと、酔ってきていたゴーヤはカリフを止める事をしなかった。
 アプリコットも目はとろ~んとして顔が赤くなり、気持ちよさそうに出来上がっていた。

「旅の途中で知り合ったんだ。俺は帝国出身でもないんで、皇女様の顔なんて知らなかったから、あとから聞いて驚いた。それに皇女様からの申し出を断るのは難しいだろ(酔っ払い相手だが、ウソは言ってない)」

「じゃあさ、レオラ様って噂通りの人なの? 不正をしていたギルド職員や冒険者を、何十人も再起不能にしたとか」

「睨みつけただけでBランク以下の冒険者が気を失った。オレはそう聞いた」

「ワタシが聞いたのは、子供達をからかっていた冒険者数人を指一本で吹っ飛ばして、その子供達にお菓子をあげて、一緒に遊んであげたって」

 余程第六皇女レオラの噂が気になったのか、ゴーヤとアプリコットも質問に加わってきた。
 カズ自身も帝都の冒険者ギルドのサイネリアから聞いただけで、実際に何があったのかは知らない。
 なので双塔の街で起きた事に関しては、隠したり誤魔化したりする必要はなく話す。

「その頃の事は俺も知らないんだ」
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