人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ

文字の大きさ
上 下
691 / 807
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

670 延長、あと二日滞在

しおりを挟む
 聞かなかった事にして席を立てばよかったと思ったが、話を聞き返してしまった自分の失態。
 話に出た冒険者パーティーの名前が引っ掛かり、退室をしなかった自分の甘さ。
 このまま双塔の街を出たとしたら、どうなったか気になり、結果を帝都の冒険者ギルド本部のサイネリアに頼んで調べてもらい、悪い結果にでもなったらと、頭を過ってしまう弱さ。
 冒険者ギルドが管理しているのだから、そんな事は起きる筈はないだろうが、絶対ではない。
 例え自分が残ってそれを受けたとしても、同じなのかも知れない。

 レオラ第六皇女専属冒険者と認識されているカズに対して、これはズルい言い方だ。
 断った事がどこからか漏れて噂にでもなったら、第六皇女レオラだけなら兎も角として、双塔の街で第五皇女アイリスの悪い噂が流れる可能性が高いとカズは考えてしまった。

「その模擬戦てのは、明日だけですか?」

「明日の午後は主に訓練だ。模擬戦は明後日の午前と午後の二回だ」

「ならその依頼は、明日と明後日の二日だけですね」

「受けてくれるのか?」

「明後日の午後の模擬戦が終わったら、すぐに街を出ます。それでいいですね。それ以上はやりません。他の依頼も受けません。文句ならレオラ様に直接言ってください」

「わかった。それで十分だ。粗暴な冒険者バカ共に、恐怖心を植え付けてやってくれ。一応、オレも見に行くつもりだ」

「はぁ(恐怖心ねぇ。そういうの苦手なんだよなぁ。それこそレオラを呼んでやった方が…無理か。一応、この国の皇女だし)」

「そうだ! 冒険者の多くが街の西にある歓楽区に娼婦目当で行くが、カズも行ってみたらどうだ? 街が管理しているから、怪しい娼館はないはずだ。種族も人族だけじゃなく、少ないが獣人やドワーフにエルフや小人族と多様だぞ。好みの娼婦を見つけて、疲れを癒やしてもらったらどうだ」

 どんな妄想をしたのか、鼻の下を伸ばしながらカズに娼館を薦める。

「申し訳ないですが、その手の話は遠慮します(俺にはアレナリアとビワがいる。あとレラも。もしかしてレオラの入れ知恵か?)」

「聞いた話だと、男が相手をしてくれる店もあるらしいぞ」

「そっちの趣味はありません(アイリス様が知ったら喜びそうな話だな)」

「そうか。じゃあ、明日の正午にはギルドに来てくれ」

「わかりました(戻るのが二日遅れる事を、あとで連絡しないと)」

 バナショウに軽く一礼して、カズはサブ・ギルドマスターの執務室を出た。
 五階からカズの気配が消えると、立ち去った執務室では、バナショウが独り言をブツブツと。

「たまたま知り合った〝光明の日差し〟冒険者がいたら、それの名を出して利用すれば、頼みを聞いてくれるとレオラ様から助言を受けたが、まさかその通りだとは。お人好しなのか、状況に流されてしまう性格なのか。上手く扱えればギルドにも街にも利益をもたらすだろう。だが、潜在的にはレオラ様を凌駕する強さがあるとか。危うい存在とレオラ様が忠告した理由が、対話していて何となくわかった気がする。カズを本気で怒らせたら、この街に居る冒険者だけでどこまで……。レオラ様以上だとしたら、何十…何百人が倒されたとして二十分と耐えられるかどうか、か。恐怖心を与えるどころか、手加減を間違えて死なせるなんて事にならなければいいが。まあ大丈夫だろう。おしとやかな第六皇女アイリス様の専属でもあるらしいんだ」

 バナショウは執務室から廊下に出る扉を見て、カズに頼む依頼を間違えたんじゃないかと思った。
 どうせやってもらえるなら、ここ一ヶ月以上行き詰まってる第五迷宮フィフス・ラビリンスの探索を、九十一階層のメモリー・ストーンまで探索してもらえばよかったのではと。
 レオラからはカズが帝都に永住するような魅力を見せてほしいと頼まれていたが、冒険者として考えるなら、正直第五迷宮フィフス・ラビリンスしか魅力のない街だとバナショウは考えていた。
 他に紹介できるような場所は、様々な土地からやって来た多くの冒険者が、ダンジョンや迷宮の探索後に向かう歓楽区の娼館くらいだが、カズには断られたのでもう紹介できる場所はない。

 帝国内でも多くの種族と人数が揃ってる事から、冒険者達はダンジョンや迷宮での稼ぎを歓楽区の娼婦に貢ぎ楽しむ。
 娼婦はその稼ぎで、街に家を買い娼婦を辞めて、観光客相手の土産物屋で働き、結婚して子供を産み家族を持つ。
 街の北側の住宅地で暮らす一割程が、永住する覚悟をして家を買い住んでいる。
 中には連れ合いとの生活が噛み合わず、家を売り払い街を出た者。
 娼婦としての稼ぎでなければ暮らしていけないと、贅沢な暮らしから抜け出せなくなり、独り身のまま高齢になって、淋しく孤独死なんてのも年に数件ある。
 双塔の街は冒険者だけではなく、歓楽区で女性が大金を稼げるチャンスがある街。
 自ら進んで借金を返すために、または快楽と贅沢を得るためにと、働く者達の思いは様々。


 カズは受付がある一階に下りると、今回は受付に居るプルーンに一声掛けて、休憩所で待つゴーヤとアプリコットの二人と合流する。
 そしてカリフが待つ店に向かう。
 賑わう大通りのでも聞こえるほど盛大にお腹を鳴らしたアプリコットが、顔を真赤にしながら、双塔の街に来てから行き付けとなった酒場だと教えてくれた。
 その様子を見たゴーヤは吹き出して笑い、それをアプリコットがぷんスカと怒った。

 二人がじゃれ合ってる間に、カズは《念話》でアレナリアに連絡をする。

「『は~い』」

「お(機嫌が良いのか?)『俺だけど俺。…オレオレ詐欺じゃないぞ』」

「『おれおれさぎ? 何それ?』」

「『すまん。なんでもない』」

「『私に念話してくるなんて珍しいわね』」

「『ビワはまだ仕事中だろ。レラは昼寝でもしてたら、連絡しても寝ぼけて言伝頼めないだろ。だからアレナリアを選んだんだよ』」

「『そゆことね。でもレラは起きてるわよ。ビワは今日休みになったもんで、三人でプリンを作って食べてたとこなの』」

「『そうなのか。ならちょうといい。戻るのが明後日になるって、ビワとレラに伝えておいてくれ』」

「『見つからなかったから、延長して探すの?』」

「『あ、いや。例のアイテムは手に入れた』」

「『だったらどうしたの? レラがスゴく期待して待ってるわよ』」

 カズは目的の大きさは憧れか欲望かアイテムを探しに入った第五迷宮フィフス・ラビリンスでの事を手短に説明し、知り合ったCランク冒険者パーティー〝光明の日差し〟の事と、サブ・ギルドマスターのバナショウから頼まれた件で、あと二日双塔の街に居る事になったと説明した。

「『なんで迷宮にアイテムを探しに行くだけで、サブマスと知り合って、依頼を受ける事になったの?』」

 アレナリアは疑問はもっともだったので カズは双塔の街に到着した日の事を話した。
 第五迷宮フィフス・ラビリンスに入るには、入場許可証が必要と冒険者ギルドで聞き発行を頼んだが、受付のギルド職員のミスで、受け取るのが明朝から正午になった事を話した。

「『カズって初めて行くギルドで、何かしら問題のある職員を引き当てるわよね。そのプルーンて職員には悪いけど、もう人災よね』」

「『人災って……まぁ否定はしないが、アレナリアもそこ入るんだぞ』」

「『……わ、私はいいの。だってもうギルドを辞めて、カズの奥さんなったんだもん』」

「……」

 最初会った時はどういう態度を取っていたのか、カズは詳しく語ってやろうかと思ったが、やめておいた。
しおりを挟む
感想 84

あなたにおすすめの小説

器用貧乏の底辺冒険者~俺だけ使える『ステータスボード』で最強になる!~

夢・風魔
ファンタジー
*タイトル少し変更しました。 全ての能力が平均的で、これと言って突出したところもない主人公。 適正職も見つからず、未だに見習いから職業を決められずにいる。 パーティーでは荷物持ち兼、交代要員。 全ての見習い職業の「初期スキル」を使えるがそれだけ。 ある日、新しく発見されたダンジョンにパーティーメンバーと潜るとモンスターハウスに遭遇してパーティー決壊の危機に。 パーティーリーダーの裏切りによって囮にされたロイドは、仲間たちにも見捨てられひとりダンジョン内を必死に逃げ惑う。 突然地面が陥没し、そこでロイドは『ステータスボード』を手に入れた。 ロイドのステータスはオール25。 彼にはユニークスキルが備わっていた。 ステータスが強制的に平均化される、ユニークスキルが……。 ステータスボードを手に入れてからロイドの人生は一変する。 LVUPで付与されるポイントを使ってステータスUP、スキル獲得。 不器用大富豪と蔑まれてきたロイドは、ひとりで前衛後衛支援の全てをこなす 最強の冒険者として称えられるようになる・・・かも? 【過度なざまぁはありませんが、結果的にはそうなる・・みたいな?】

転生した体のスペックがチート

モカ・ナト
ファンタジー
とある高校生が不注意でトラックに轢かれ死んでしまう。 目覚めたら自称神様がいてどうやら異世界に転生させてくれるらしい このサイトでは10話まで投稿しています。 続きは小説投稿サイト「小説家になろう」で連載していますので、是非見に来てください!

不遇な死を迎えた召喚勇者、二度目の人生では魔王退治をスルーして、元の世界で気ままに生きる

咲阿ましろ
ファンタジー
異世界に召喚され、魔王を倒して世界を救った少年、夏瀬彼方(なつせ・かなた)。 強大な力を持つ彼方を恐れた異世界の人々は、彼を追い立てる。彼方は不遇のうちに数十年を過ごし、老人となって死のうとしていた。 死の直前、現れた女神によって、彼方は二度目の人生を与えられる。異世界で得たチートはそのままに、現実世界の高校生として人生をやり直す彼方。 再び魔王に襲われる異世界を見捨て、彼方は勇者としてのチート能力を存分に使い、快適な生活を始める──。 ※小説家になろうからの転載です。なろう版の方が先行しています。 ※HOTランキング最高4位まで上がりました。ありがとうございます!

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

異世界に来たようですが何も分かりません ~【買い物履歴】スキルでぼちぼち生活しています~

ぱつきんすきー
ファンタジー
突然「神」により異世界転移させられたワタシ 以前の記憶と知識をなくし、右も左も分からないワタシ 唯一の武器【買い物履歴】スキルを利用して異世界でぼちぼち生活 かつてオッサンだった少女による、異世界生活のおはなし

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...