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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス
670 延長、あと二日滞在
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聞かなかった事にして席を立てばよかったと思ったが、話を聞き返してしまった自分の失態。
話に出た冒険者パーティーの名前が引っ掛かり、退室をしなかった自分の甘さ。
このまま双塔の街を出たとしたら、どうなったか気になり、結果を帝都の冒険者ギルド本部のサイネリアに頼んで調べてもらい、悪い結果にでもなったらと、頭を過ってしまう弱さ。
冒険者ギルドが管理しているのだから、そんな事は起きる筈はないだろうが、絶対ではない。
例え自分が残ってそれを受けたとしても、同じなのかも知れない。
レオラ専属冒険者と認識されているカズに対して、これはズルい言い方だ。
断った事がどこからか漏れて噂にでもなったら、第六皇女だけなら兎も角として、双塔の街で第五皇女の悪い噂が流れる可能性が高いとカズは考えてしまった。
「その模擬戦てのは、明日だけですか?」
「明日の午後は主に訓練だ。模擬戦は明後日の午前と午後の二回だ」
「ならその依頼は、明日と明後日の二日だけですね」
「受けてくれるのか?」
「明後日の午後の模擬戦が終わったら、すぐに街を出ます。それでいいですね。それ以上はやりません。他の依頼も受けません。文句ならレオラ様に直接言ってください」
「わかった。それで十分だ。粗暴な冒険者共に、恐怖心を植え付けてやってくれ。一応、オレも見に行くつもりだ」
「はぁ(恐怖心ねぇ。そういうの苦手なんだよなぁ。それこそレオラを呼んでやった方が…無理か。一応、この国の皇女だし)」
「そうだ! 冒険者の多くが街の西にある歓楽区に娼婦目当で行くが、カズも行ってみたらどうだ? 街が管理しているから、怪しい娼館はないはずだ。種族も人族だけじゃなく、少ないが獣人やドワーフにエルフや小人族と多様だぞ。好みの娼婦を見つけて、疲れを癒やしてもらったらどうだ」
どんな妄想をしたのか、鼻の下を伸ばしながらカズに娼館を薦める。
「申し訳ないですが、その手の話は遠慮します(俺にはアレナリアとビワがいる。あとレラも。もしかしてレオラの入れ知恵か?)」
「聞いた話だと、男が相手をしてくれる店もあるらしいぞ」
「そっちの趣味はありません(アイリス様が知ったら喜びそうな話だな)」
「そうか。じゃあ、明日の正午にはギルドに来てくれ」
「わかりました(戻るのが二日遅れる事を、あとで連絡しないと)」
バナショウに軽く一礼して、カズはサブ・ギルドマスターの執務室を出た。
五階からカズの気配が消えると、立ち去った執務室では、バナショウが独り言をブツブツと。
「たまたま知り合った〝光明の日差し〟がいたら、それの名を出して利用すれば、頼みを聞いてくれるとレオラ様から助言を受けたが、まさかその通りだとは。お人好しなのか、状況に流されてしまう性格なのか。上手く扱えればギルドにも街にも利益をもたらすだろう。だが、潜在的にはレオラ様を凌駕する強さがあるとか。危うい存在とレオラ様が忠告した理由が、対話していて何となくわかった気がする。カズを本気で怒らせたら、この街に居る冒険者だけでどこまで……。レオラ様以上だとしたら、何十…何百人が倒されたとして二十分と耐えられるかどうか、か。恐怖心を与えるどころか、手加減を間違えて死なせるなんて事にならなければいいが。まあ大丈夫だろう。おしとやかな第六皇女アイリス様の専属でもあるらしいんだ」
バナショウは執務室から廊下に出る扉を見て、カズに頼む依頼を間違えたんじゃないかと思った。
どうせやってもらえるなら、ここ一ヶ月以上行き詰まってる第五迷宮の探索を、九十一階層のメモリー・ストーンまで探索してもらえばよかったのではと。
レオラからはカズが帝都に永住するような魅力を見せてほしいと頼まれていたが、冒険者として考えるなら、正直第五迷宮しか魅力のない街だとバナショウは考えていた。
他に紹介できるような場所は、様々な土地からやって来た多くの冒険者が、ダンジョンや迷宮の探索後に向かう歓楽区の娼館くらいだが、カズには断られたのでもう紹介できる場所はない。
帝国内でも多くの種族と人数が揃ってる事から、冒険者達はダンジョンや迷宮での稼ぎを歓楽区の娼婦に貢ぎ楽しむ。
娼婦はその稼ぎで、街に家を買い娼婦を辞めて、観光客相手の土産物屋で働き、結婚して子供を産み家族を持つ。
街の北側の住宅地で暮らす一割程が、永住する覚悟をして家を買い住んでいる。
中には連れ合いとの生活が噛み合わず、家を売り払い街を出た者。
娼婦としての稼ぎでなければ暮らしていけないと、贅沢な暮らしから抜け出せなくなり、独り身のまま高齢になって、淋しく孤独死なんてのも年に数件ある。
双塔の街は冒険者だけではなく、歓楽区で女性が大金を稼げるチャンスがある街。
自ら進んで借金を返すために、または快楽と贅沢を得るためにと、働く者達の思いは様々。
カズは受付がある一階に下りると、今回は受付に居るプルーンに一声掛けて、休憩所で待つゴーヤとアプリコットの二人と合流する。
そしてカリフが待つ店に向かう。
賑わう大通りのでも聞こえるほど盛大にお腹を鳴らしたアプリコットが、顔を真赤にしながら、双塔の街に来てから行き付けとなった酒場だと教えてくれた。
その様子を見たゴーヤは吹き出して笑い、それをアプリコットがぷんスカと怒った。
二人がじゃれ合ってる間に、カズは《念話》でアレナリアに連絡をする。
「『は~い』」
「お(機嫌が良いのか?)『俺だけど俺。…オレオレ詐欺じゃないぞ』」
「『おれおれさぎ? 何それ?』」
「『すまん。なんでもない』」
「『私に念話してくるなんて珍しいわね』」
「『ビワはまだ仕事中だろ。レラは昼寝でもしてたら、連絡しても寝ぼけて言伝頼めないだろ。だからアレナリアを選んだんだよ』」
「『そゆことね。でもレラは起きてるわよ。ビワは今日休みになったもんで、三人でプリンを作って食べてたとこなの』」
「『そうなのか。ならちょうといい。戻るのが明後日になるって、ビワとレラに伝えておいてくれ』」
「『見つからなかったから、延長して探すの?』」
「『あ、いや。例のアイテムは手に入れた』」
「『だったらどうしたの? レラがスゴく期待して待ってるわよ』」
カズは目的の大きさは憧れか欲望かを探しに入った第五迷宮での事を手短に説明し、知り合ったCランク冒険者パーティー〝光明の日差し〟の事と、サブ・ギルドマスターのバナショウから頼まれた件で、あと二日双塔の街に居る事になったと説明した。
「『なんで迷宮にアイテムを探しに行くだけで、サブマスと知り合って、依頼を受ける事になったの?』」
アレナリアは疑問はもっともだったので カズは双塔の街に到着した日の事を話した。
第五迷宮に入るには、入場許可証が必要と冒険者ギルドで聞き発行を頼んだが、受付のギルド職員のミスで、受け取るのが明朝から正午になった事を話した。
「『カズって初めて行くギルドで、何かしら問題のある職員を引き当てるわよね。そのプルーンて職員には悪いけど、もう人災よね』」
「『人災って……まぁ否定はしないが、アレナリアもそこ入るんだぞ』」
「『……わ、私はいいの。だってもうギルドを辞めて、カズの奥さんなったんだもん』」
「……」
最初会った時はどういう態度を取っていたのか、カズは詳しく語ってやろうかと思ったが、やめておいた。
話に出た冒険者パーティーの名前が引っ掛かり、退室をしなかった自分の甘さ。
このまま双塔の街を出たとしたら、どうなったか気になり、結果を帝都の冒険者ギルド本部のサイネリアに頼んで調べてもらい、悪い結果にでもなったらと、頭を過ってしまう弱さ。
冒険者ギルドが管理しているのだから、そんな事は起きる筈はないだろうが、絶対ではない。
例え自分が残ってそれを受けたとしても、同じなのかも知れない。
レオラ専属冒険者と認識されているカズに対して、これはズルい言い方だ。
断った事がどこからか漏れて噂にでもなったら、第六皇女だけなら兎も角として、双塔の街で第五皇女の悪い噂が流れる可能性が高いとカズは考えてしまった。
「その模擬戦てのは、明日だけですか?」
「明日の午後は主に訓練だ。模擬戦は明後日の午前と午後の二回だ」
「ならその依頼は、明日と明後日の二日だけですね」
「受けてくれるのか?」
「明後日の午後の模擬戦が終わったら、すぐに街を出ます。それでいいですね。それ以上はやりません。他の依頼も受けません。文句ならレオラ様に直接言ってください」
「わかった。それで十分だ。粗暴な冒険者共に、恐怖心を植え付けてやってくれ。一応、オレも見に行くつもりだ」
「はぁ(恐怖心ねぇ。そういうの苦手なんだよなぁ。それこそレオラを呼んでやった方が…無理か。一応、この国の皇女だし)」
「そうだ! 冒険者の多くが街の西にある歓楽区に娼婦目当で行くが、カズも行ってみたらどうだ? 街が管理しているから、怪しい娼館はないはずだ。種族も人族だけじゃなく、少ないが獣人やドワーフにエルフや小人族と多様だぞ。好みの娼婦を見つけて、疲れを癒やしてもらったらどうだ」
どんな妄想をしたのか、鼻の下を伸ばしながらカズに娼館を薦める。
「申し訳ないですが、その手の話は遠慮します(俺にはアレナリアとビワがいる。あとレラも。もしかしてレオラの入れ知恵か?)」
「聞いた話だと、男が相手をしてくれる店もあるらしいぞ」
「そっちの趣味はありません(アイリス様が知ったら喜びそうな話だな)」
「そうか。じゃあ、明日の正午にはギルドに来てくれ」
「わかりました(戻るのが二日遅れる事を、あとで連絡しないと)」
バナショウに軽く一礼して、カズはサブ・ギルドマスターの執務室を出た。
五階からカズの気配が消えると、立ち去った執務室では、バナショウが独り言をブツブツと。
「たまたま知り合った〝光明の日差し〟がいたら、それの名を出して利用すれば、頼みを聞いてくれるとレオラ様から助言を受けたが、まさかその通りだとは。お人好しなのか、状況に流されてしまう性格なのか。上手く扱えればギルドにも街にも利益をもたらすだろう。だが、潜在的にはレオラ様を凌駕する強さがあるとか。危うい存在とレオラ様が忠告した理由が、対話していて何となくわかった気がする。カズを本気で怒らせたら、この街に居る冒険者だけでどこまで……。レオラ様以上だとしたら、何十…何百人が倒されたとして二十分と耐えられるかどうか、か。恐怖心を与えるどころか、手加減を間違えて死なせるなんて事にならなければいいが。まあ大丈夫だろう。おしとやかな第六皇女アイリス様の専属でもあるらしいんだ」
バナショウは執務室から廊下に出る扉を見て、カズに頼む依頼を間違えたんじゃないかと思った。
どうせやってもらえるなら、ここ一ヶ月以上行き詰まってる第五迷宮の探索を、九十一階層のメモリー・ストーンまで探索してもらえばよかったのではと。
レオラからはカズが帝都に永住するような魅力を見せてほしいと頼まれていたが、冒険者として考えるなら、正直第五迷宮しか魅力のない街だとバナショウは考えていた。
他に紹介できるような場所は、様々な土地からやって来た多くの冒険者が、ダンジョンや迷宮の探索後に向かう歓楽区の娼館くらいだが、カズには断られたのでもう紹介できる場所はない。
帝国内でも多くの種族と人数が揃ってる事から、冒険者達はダンジョンや迷宮での稼ぎを歓楽区の娼婦に貢ぎ楽しむ。
娼婦はその稼ぎで、街に家を買い娼婦を辞めて、観光客相手の土産物屋で働き、結婚して子供を産み家族を持つ。
街の北側の住宅地で暮らす一割程が、永住する覚悟をして家を買い住んでいる。
中には連れ合いとの生活が噛み合わず、家を売り払い街を出た者。
娼婦としての稼ぎでなければ暮らしていけないと、贅沢な暮らしから抜け出せなくなり、独り身のまま高齢になって、淋しく孤独死なんてのも年に数件ある。
双塔の街は冒険者だけではなく、歓楽区で女性が大金を稼げるチャンスがある街。
自ら進んで借金を返すために、または快楽と贅沢を得るためにと、働く者達の思いは様々。
カズは受付がある一階に下りると、今回は受付に居るプルーンに一声掛けて、休憩所で待つゴーヤとアプリコットの二人と合流する。
そしてカリフが待つ店に向かう。
賑わう大通りのでも聞こえるほど盛大にお腹を鳴らしたアプリコットが、顔を真赤にしながら、双塔の街に来てから行き付けとなった酒場だと教えてくれた。
その様子を見たゴーヤは吹き出して笑い、それをアプリコットがぷんスカと怒った。
二人がじゃれ合ってる間に、カズは《念話》でアレナリアに連絡をする。
「『は~い』」
「お(機嫌が良いのか?)『俺だけど俺。…オレオレ詐欺じゃないぞ』」
「『おれおれさぎ? 何それ?』」
「『すまん。なんでもない』」
「『私に念話してくるなんて珍しいわね』」
「『ビワはまだ仕事中だろ。レラは昼寝でもしてたら、連絡しても寝ぼけて言伝頼めないだろ。だからアレナリアを選んだんだよ』」
「『そゆことね。でもレラは起きてるわよ。ビワは今日休みになったもんで、三人でプリンを作って食べてたとこなの』」
「『そうなのか。ならちょうといい。戻るのが明後日になるって、ビワとレラに伝えておいてくれ』」
「『見つからなかったから、延長して探すの?』」
「『あ、いや。例のアイテムは手に入れた』」
「『だったらどうしたの? レラがスゴく期待して待ってるわよ』」
カズは目的の大きさは憧れか欲望かを探しに入った第五迷宮での事を手短に説明し、知り合ったCランク冒険者パーティー〝光明の日差し〟の事と、サブ・ギルドマスターのバナショウから頼まれた件で、あと二日双塔の街に居る事になったと説明した。
「『なんで迷宮にアイテムを探しに行くだけで、サブマスと知り合って、依頼を受ける事になったの?』」
アレナリアは疑問はもっともだったので カズは双塔の街に到着した日の事を話した。
第五迷宮に入るには、入場許可証が必要と冒険者ギルドで聞き発行を頼んだが、受付のギルド職員のミスで、受け取るのが明朝から正午になった事を話した。
「『カズって初めて行くギルドで、何かしら問題のある職員を引き当てるわよね。そのプルーンて職員には悪いけど、もう人災よね』」
「『人災って……まぁ否定はしないが、アレナリアもそこ入るんだぞ』」
「『……わ、私はいいの。だってもうギルドを辞めて、カズの奥さんなったんだもん』」
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