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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

672 早起きは成功

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 噂は本当だったのかと知ることができると思っていた三人は、カズの回答に落胆の色を隠せなかった。

「ただレオラ様のことだと、三人が聞いた噂は、どれも本当であったとしてもおかしくないと思う」

「そうなの!」

「全部本当の可能性がある!? ちょっと待ってくれ。混乱しそうだ」

「やっぱりレオラ様って、強いだけじゃなくて優しいんだよ」

 それぞれが思い描く第六皇女レオラの印象を壊さずにすむのなら、それはそれで良いとカズは余計なことは言わない。
 縁があれば会うこともあるだろう、とだけ言った。
 今度はカズが三人に「パーティー名の〝光明の日差し〟はどうやってつけたんだ?」と聞いた。
 今のパーティー名〝ユウヒの片腕〟は、帝国での身元保証と後ろ盾という意味で、知り合った帝国の守護者の称号を持つグリズから付けてもらったもので、今となってはパーティー名を変えた方が良いのだろうかと考えるようになった。
 そこで〝光明の日差し〟の三人に、パーティー名をどうやって付けたのか、参考にしてみようと聞いてみた。

「パーティーの名前……なんだったっけ?」

 酔い潰れる寸前のカリフが、ゴーヤにパーティー名の由来を聞く。

「特に考えたわけじゃなく、思いつきで決めた」

「思いつき?」

「ワタシ達ってね、朝早くから行動に移すと、すごく上手くいくの。ギルドの新人冒険者の合同の依頼ってのがあって、ワタシ達三人はその時に知り合ってパーティーを組んだんだよ」

「あの新人の合同依頼も、早朝からの出発だったか。懐かしい」

「そうそう。あの時もカリフが打ち上げで先に飲んじゃって、他の冒険者からスゴい突っ込まれてたっけ」

 パーティーを組んだ頃の事を思い出し、ゴーヤとアプリコットが楽しそうに笑いながら話し出す。
 カズが聞いたパーティー名の由来を、まだ答えてもらってないまま、二人は約十五分思い出話に花を咲かせた。

「あ! ごめんなさいカズさん。ワタシ達ったらつい」

「すまないカズ。なんだか今日は飲み過ぎ達みたいだ。話が楽しくなってしまった」

「死んでいたかも知れなかったんだ。それがこうして楽しくやってるんだ。そうもなるさ。気にするな」

「ありがとう。それで話を戻そう。確かパーティー名の由来だったか。それはアプリが言った通りで、早朝から行動すると上手くいく事が多かった。それである時にパッと思いついたんだ」


 何時も通り早朝からモンスターの討伐と素材採取の依頼に向かうと、幸先良く正午前に目的のモンスターを見付けて討伐に成功。
 昼食後も目的のモンスターを見付け、日暮れまでに八体を討伐して毛皮と角を採取。
 野宿をして成果を喜び、翌朝早く冒険者ギルドに戻る道すがらで、前日討伐したども個体よりも大型のモンスターと遭遇し、苦戦するも討伐に成功して素材と魔核コアを回収。

 冒険者ギルドに戻り依頼完了の報告と、素材を買い取に出す。
 翌日の早朝に素材の買い取り金を受け取りに行くと、考えていた十数倍の買い取り金。
 職員に話を聞くと、最後に討伐した希少レアな個体で、採取してきた毛皮と角は他の個体よりも高値が付き、コア魔石はそれだけで金貨十三枚130,000GLにもなった。
 この三日間を振り返ると、依頼として向かった先は日が指す方向。
 雲の合間から射し込む光の先で、希少レアな個体と遭遇した。
 そこで口を衝いて出た言葉が、光明の日差し。
 何気なく発した言葉だったのにも関わらず、アプリコットとカリフも良いと言い、その日から三人のパーティー名は〝光明の日差し〟になったと、ゴーヤから聞いた。


 それを聞いたカズが、ふと気になる事を口に出す。

「今回の迷宮には、早朝から挑まなかったのか?」

 カズの言葉にゴーヤとアプリコットは顔を見合わせる。

「カズも知ってるだろうが、あまり遅いと観光客で迷宮の入場口が混むだろ。だからいつも通り早朝にギルドで待ち合わせして、迷宮に向かったんだが……」

 どうしたのか、ゴーヤが口籠った。

「だが?」

「今朝は空が曇っていたんですよ」

「曇ってたら依頼に行かなかったり、迷宮に入らなかったりするのか?」

「そういうわけじゃないんだが、早朝に日差しが弱かったりした日は、何かしらミスをしたり、戦闘での連携がうまく行いかなかったりする事が多いんだ」

 ジンクス的な感じでパーティー名を付けていたので、思い込みでちょっとしたミスを大きくとらえてるだけだとカズは思った。
 だからとそれを言っても怒らせるけで、その後の戦闘では連携が毎回崩れ、仲間内でぎくしゃくしてパーティー解散なんて事にも。
 だからカズは下手な事は言わない。
 今以上のランクに上がるには、そういった事を乗り越えていくしかない。
 壁にぶち当たった時に誰かに意見を求めるか、自分達の今までを信じて同じで行くかを決めるのは〝光明の日差し〟の三人なのだから。

「そうだ。今さらなんだが、四十階を突破した祝いなんだろ。今日メモリー・ストーンで四十一階に来たなら、祝いをするなら前回迷宮を出た時だろ?」

「ああ、それなんだが……」

 またしても言いにくそうにゴーヤは口籠る。
 すると今度は、アプリコットが代わりに答える。

「お祝いでパーっとするお金がなかったんですよ。前回四十一階のメモリー・ストーンで迷宮を出で、素材を買い取ってもらったお金は、宿代と装備の修繕費で殆んどなくなっちゃったんです」

「なるほど。今日はお祝いをするための金を稼ぎにか」

「そういう事です。それがお祝いどころか……」

 四十階層突破の記念をする祝いをする金を稼ぐどころか、カズが来なければ全滅するところだったと、アプリコットは今日の出来事を思い返す。

「なぜか十階毎出現するモンスターは、次の階にあるメモリー・ストーンを使ってから下の階に戻っても、出現しないんですよね。なので先に進んで現れたモンスターを倒して、おまけに宝箱でも見つけられたらって考えたんですよ」

「今朝の不安がウソのみたいに、良い感じで迷宮を進む事ができたと思ったら、ブロフロの壁に閉じ込められてしまった。という訳だ。カズには感謝してる」

 話にゴーヤガ交ざり、改めてカズに感謝する。

「本当よ。ありがとうカズさん」

「俺にも目的はあったし、たまたま通りかかった時に気づいたんだ。気にする事はない。それよりも、そろそろあがった方がいいだろ。カリフは寝てしまったし、明日は正午から訓練場での依頼があるだろ」

「それもそうだ。今日はここまでにしよう」

「カリフを宿まで連れて行くの手伝うか?」

「大丈夫だ」

「ワタシ達の宿って、ここの上なんだ。部屋は狭い分安いけど、ここに泊まってると食事は安く食べれるんだよ。カズさんはどこに泊まってるの?」

「俺は今日街を出る予定だったから、これから探さないとならないんだ(昨日まで泊まってた宿屋行ってみるかな)」

「だったらここに泊まれば。ワタシ、部屋が空いてるか聞いてくるよ」

 カズが泊まる所が決まってないと聞き、アプリコットが自分達が宿泊してるこの飲食店の宿を勧め、飲食店兼宿屋の主人をしている店主に、部屋の空きがあるかを聞きに、カズが泊まるかどうかも確かめもせずに席を立った。
 一分少々で飲食店兼宿屋の店主と話を終わらせ、アプリコットが笑顔が戻って来る。

「今朝冒険者が街を出ていって、二部屋空いたんだって。三人部屋はもう決まっちゃったけど、狭い二人部屋は空いてるって言ったから頼んできちゃった」

「だそうだ。部屋が取れたが、構わなかったのか。カズ?」

「今から探すのも面倒だし、アプリがわざわざ聞いてきてくれたんだ。あと二日だけだからここに泊まることにするよ」
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