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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

641 初めての眺め と 遊覧飛行

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 カズが気球用のバスケットとフジを縄で繋いでいる間、ローラがやけに静かにしているとアイリスが気になり近寄る。

「どうしたのローラ?」

「フジに驚いて、固まってしまったんですよ。話してなかったんですか?」

「少し衝撃が大きかったようね。ローラ、ローラ正気に戻って」

 ローラの正面に立ち、アイリスは何度も呼び掛ける。

「………アイ…アイリス様!」

「正気に戻ったようね。よかった」

「大きなカズさんテイムの鳥が食べられそうで」

 ローラは思考停止状態から正気に戻ったかと思いきや、今度は混乱状態になってしまった。
 アイリスがどうしたものかと困っているのを見たアレナリアは、ローラを落ち着かせようかと行動に移す。
 アレナリアは「ちょっとごめんね」と言い、魚の胸ビレの様な二等辺三角形をしたローラの耳をクイッと引っ張る。
 混乱して早口で話していたローラが「ヒャッ!」と声を上げて驚く。

「な、何をするんです!」

「今度はちゃんと正気に戻ったようね」

 アレナリアに引っ張られた耳を押さえ、この場に居る全員か自分に注目している事にローラは気付く。
 落ち着いたところで、アイリスがこれからやる事の説明をした。
 目の前のフジ巨鳥で空を飛ぶと聞かされ、ローラの思考はまた停止した。
 アイリスは「説明したから乗せちゃって」と、女性騎士二人に指示を出す。
 ローラの脇を抱えて川から出し、気球用のバスケットに乗せる。
 続いてアイリスと高所は平気だという女性騎士一人が乗る。
 彼女も飛翔魔法フライを習得したいと言った五人の内の一人だ。

「水場から離れて大丈夫なんですか?」

 尾ビレを人型に変化させられないローラを、水から出たそのまま状態で平気なのかと、カズはアイリスに尋ねた。

「砂漠のような暑くて乾燥している場所でなければ、三十分くらいなら問題ないですよ。なのでローラが固まってる内に、飛ばしちゃってください」

 本人の意思を聞かずに、やってしまってもいいのだろうか考えるも、アイリス第五皇女が言うのだから聞くしかない。
 カズはフジに合図をし、羽ばたく際の風に気を付けるよう注意をして、ローラとアイリスと女性騎士の遊覧飛行を頼んだ。
 念の為に前回と同様に念話を繋げ、高度や飛ぶ速度を地上から指示を出すようにする。
 150メートルくらい上昇した所で、そこまでしなくてもと思うくらい、アイリスがローラの背中をバチーンと叩く。
 
「いったァァー!」

「一年前に大変な経験してるのよ。このくらいでパニックになったりしない。せっかくそれだけの歌声を持ってるのだから」

「歌声は関係ないんじゃ…(それにこの巨鳥と比べると、あの時の盗賊なんて)」

 ヒリヒリする背中を摩りながらローラは思わずボソッとツッコミ、自身を拘束していた盗賊とフジ巨鳥のどちらが恐ろしい存在か比べものにならないと考え感じていた。

「ほら、わたくし達がこの様に空からの眺めを望める事なんて、願ってもそうそうないのよ」

「そ、そうですね」

 アイリスの言葉で、ローラは上空200メートル近い場所から地上を眺める。

「うわぁ~! あんなに遠くまで見える!」

 思っていたのと違う反応に、アイリスは少しがっかりした。

「ローラは怖くないみたいね」

「わたし意外と高い所は平気みたいです。下のみんなが小魚みたいに小さい!」

「カズさんが帝都に戻って来てくれるのなら、いつでも頼めるのだけど」

「アイリス様。もっと高くに行けないのですが?」

「も、もっと…」

 ローラの高度を更に上げてほしいとの発言に、一緒に乗っていた女性騎士のバスケットを掴む手に力が入り、これ以上高度は上がらないと、アイリス主人に否定してほしかった。
 だが残念な事に、同乗していた女性騎士の願いは叶わなかった。

「頼んでみましょう。もっと高度を上げられます?」

 フジはアイリスの頼みを、そのまま念話でカズに伝える。
 もう少し高く飛んでもいいとカズから返答が来たので、池の上空を大きく旋回しながら少しずつ上昇していく。
 段々と高度が上がるにつれて、アイリスとローラは嬉しそうに上空からの景色を満喫する。
 200メートルを超えた辺から、高所は平気だと言っていた同乗する女性騎士に変化が現れた。
 内股になり腰は引けて、顔色は高度が上がるにつれて悪くなる。
 とうとう座り込んでしまい、バスケットの高さ以上に顔を上げようとしない。
 視線は上に向け、同乗するアイリス主人とローラだけを見て、決して外を見ないようにしていた。

 二十分程の遊覧飛行を終え、フジが降下して気球用のバスケットを地上に着地させる。
 地上で待機していたカミーリアと女性騎士がアイリスを降ろし、続いてローラを抱えて川へと運ぶ。
 同乗していた女性騎士は地上に降りると、半泣き状態でペタリと地面に座り込んでしまう。
 この様子では飛翔魔法フライを習得するのは、厳しいそうだとカズは判断した。

「カミーリアも乗って、あれ以上に高く上がってもらったらどう? 飛翔魔法フライを覚えたいんでしょ」

「あ、あれ以上ですか……」

 目の前でへたる女性騎士同僚の姿を見たカミーリアは、すぐに返答できなかった。

「なんだったらあと三人も連れて来て、ここでカズに判断してもらったらどう?」

「そう急かさなくてもいいだろ。アレナリア」

「甘いわねカズ。もう数回しか来れないんだから、出来るかできないか、習得したいのかしたくないのか、早めにハッキリさせないと」

「それはそうだが。じゃあアレナリアが次回来る時までに、決めておいてもらおう。それでいいか?」

「カズがそう言うなら。他の三人に話しておいて。お願いよカミーリア」

「わかりました」

 カミーリアに他の女性騎士四人と共に、飛翔魔法フライを習得したいかの最終判断するようにとアレナリアは伝えた。
 フジの遊覧飛行でローラを乗せるという今回の目的を達した。
 アイリスも十分に満足したので、カズは許可を得て気球用のバスケットとフジの脚を繋ぐ縄を解く。

「『これだけのために来てもらってありがとな』」

「『水浴びしたい。この池入っていい?』」

「『水浴び? ちょっと待って』」

 珍しい事を言い出したフジの頼みを聞く為に、カズはアイリスに池に入る許可を求める。
 
「アイリス様、フジが池で水浴びをしたいとの事なんですが、入ってもいいでしょうか? 一応先にクリーンの魔法を使って、汚れを落としてからにします」

「よろしいですよ。楽しませてもらってますからね」

「ありがとうございます」

 池に入る許可を得た事をフジに伝えると、カズは〈クリーン〉を使ってフジの汚れを落とした。
 フジは脚が浸かるくらいの深さまで入ると、翼を広げてバシャバシャと水浴びを始めた。
 全員が屋敷に着く頃には、水浴びに満足したフジは帝都南部の林にある住み家に戻って飛び立った。

 屋敷に戻ったカズ達は、アイリスとローラとコンルと一緒に昼食を頂いた。
 食後はローラの魔力操作についてアレナリアと相談し、とりあえず四日か五日後に来て教える事に決まった。
 あとはアレナリアの判断で、回数を増やすという事に。
 アイリスは少なからず書類仕事公務があるので、コンルにはローラが滞在する間居てもらい、相手をしてもらう事になった。
 なのでアレナリアが来る時にレラも連れて、一緒魔力操作の訓練をさせる事にした。
 レラ一人でやるよりは、一緒に訓練する仲間がいた方がいいだろうと。
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