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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

642 近い内に必ず

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 午後女性達は雑談をして過ごし、カズは侍女が持ってきた気球用バスケットが載った資料に目を通す。
 日が傾く時間になると、カズ達はアイリスの屋敷を出て川沿いの家に戻った。
 翌日は本の街の隠し部屋に行くので、この日も夕食を済ませたら順に風呂に入り、早めに就寝する。
 明日の事を考えての事かも知れないが、今夜もアレナリアは誘って来ない。
 心の想うままに任せて求めれば、ビワが拒む事はないだろう。
 だが、ずっと想いを寄せてくれていたアレナリアの気持ちに応えず、ビワと二度目を迎えても良いのだろかと、経験の乏しいカズは堅苦しい考えを持つ。
 結局カズは今夜も、アレナリアを抱きに行こうとしなかった。

 自分の勝手な理由で、アレナリアの想いをないがしろにしていたんだと、カズは反省する。
 今更告白して受け入れてくれたからと、アレナリアが求めて来るのを待つなんて。
 リビングのソファーに座り考えていると、またうとうととしだし、そのまま眠ってしまった。


 ◇◆◇◆◇


 階段を下りてリビングに入って来るビワの気配でカズは目を覚ます。

「またここで寝てたんですか」

「考え事してたら、なんかそのまま寝落ちしちゃって」

「帝都は年中通して温暖だと聞いてますけど、それでも朝晩は冷えるんですよ」

「そうだね。気を付けるよ」

「三階に上がるのが面倒でしたら、私の部屋ででも……」

「あ、うん。ありがとうビワ」

 ここのところ寝る前にアレナリアの事を考えているのが分かっているかのように、ビワが自分の事も考えてと、誘って来ているような発言と取ってしまう。
 確かにまだ一度しかビワを抱いてなく、それから抱こうともしないので、不安になっているのではとカズは考える。
 実際ビワの考えは言葉のままで、カズの体調を心配しての事で、夫婦なら一緒に寝るのになんら問題はない、と。
 一緒のベッドで寝るという事は、当然体を重ね合わせるというのも分かっている。
 ビワが途中で口籠ってしまったのは、まだ自分から誘うような言葉は、恥ずかしいと思っているから。

 カズは顔を洗いシャキッと目を覚まして、ビワが朝食の支度をしている間に、アレナリアとレラを起こしに二階に上がる。
 今日レラはビワの部屋で寝ているとの事だったので、先にアレナリアの寝室に行く。
 扉を軽く叩いてから部屋に入る。
 寝ているので当然返事はない。
 窓に掛かるカーテンの隙間から射し込む光に背を向けて、ベッドで寝息を立てているアレナリアに近付く。
 膝立ちしてベッドに肘を置き、間近出アレナリアの寝顔をじっと見る。

 物事をハッキリと言いキリッとした表情をしている時や、機嫌を損ねてツンケンしている時の表情とはまるっきり違い、寝顔はとても愛くるしい。
 起こしに来たのに声を掛けず、寝顔を間近で見ている気配を感じたのか、アレナリアがゆっくりとまぶたを開けて目を覚ます。

「……カズ?」

 寝惚けているのかと思い、アレナリアはカズの名前を呼んでみた。

「おはよう。アレナリア」

 寝ぼけてるのではなければ夢なんだと、アレナリアは間近にあるカズの顔に、ちょこっと唇を突き出してみた。
 久し振りにするアレナリアの行動に、受け入れてみたらどんなに反応をするのかと思い、カズは顔を近付けて軽く触れる程度に自分の唇を接触させたした。

「……カズ!」

 唇に触れた感触で、これは夢でもなければ寝ぼけてる訳でもないと、アレナリアは驚き飛び起きる。

「なな、なんで!?」

「起こしに来たんだけど。寝顔がかわいかったから、つい近くで見入っちゃったんだ」

「ね、寝顔…ずっと見てたの?」

「ほんの一、二分くらい(かわいかったはスルーするのか)」

 アレナリアは顔を赤らめ、よだれを垂らしてなかったか口の周りを拭く。
 そして今起こった出来事が本当にあった事なのかカズに尋ねる。

「キスした?」

「してほしかったんじゃないのか?」

「……してほしかった。でもどうして」

「どうして?」

 アレナリアのどうしてが何を言っての事なのか、カズはよく分からなかった。

「全然誘いに来てくれないのに、朝から急に寝顔を見てキスするなんて」

「俺はいつも通りアレナリアが誘って来るのかと。それにキスはアレナリアがしたそうにしてたからって言ったろ」

「私はいつでも……そうよね。今まであれだけカズを誘っておいて、告白してくれたとたんに待つだなんて、私らしくないわよね」

「いや、悪いのは俺だよ。ずっとアレナリアを待たせて。やっぱり俺から来るべきだよな。ごめん」

「カズから来てくれるの?」

「ああ、来るよ。アレナリアの気がすむまで相手をする」

「本当に!」

「本当に」

「約束よ!」

「約束する」

 アレナリアは喜びベッドの上で、子供のように二度と飛び上がり、三度目はカズに飛び掛かり抱き付く。
 カズの首に腕を回して引き寄せ、アレナリアは吸い付くように濃厚なキスをした。

「今日は出掛けるから、今から無理なのわかってる。だからこれで我慢するね」

「なら俺も」

 今度はカズが約束の印として、アレナリアの細く長い耳の先を甘噛み。
 アレナリアから「ぁッ」と微かに声が漏れる。

「この続きは必ず近い内に」

「着替えるからレラを起こして、先に下に行ってて」

「わかった」

 アレナリアの寝室を出て、レラを起こしにビワの寝室にカズは移動する。

「変な事するんだから(我慢するって言ったのに、その気になっちゃうじゃない)」

 朝から御機嫌になったアレナリアは、前日のローラが奏でた二曲目を、着替えながら口ずさむ。
 レラを起こして一階に下りてアレナリアを待ち、揃ったところでビワの作った朝食を取る。
 食器を洗い後片付けを済ませて〈空間転移魔法ゲート〉で本の街キルケ・ライブラリーに移動する。
 そしてもう一度〈空間転移魔法ゲート〉を使用して隠し部屋に入る。

 相変わらず部屋の中は薄暗く、慣れればどうという事はないが、不気味な雰囲気なのは変わらない。
 この部屋にある知性ある本インテリジェンス・ブックの複製本が、以前と同じ場所にあるとは限らないとカズは考えて、同種の本を持つ自分が訪れた事を、部屋全体に聞こえるよう少し声を大きくして喋った。
 すると一ヶ所の机にある燭台しょくだい蝋燭ろうそくに火が灯る。
 カズがその机に向かい歩き出し、三人が後ろから付いて行く。
 机の上には前回の時と同じく、白紙の本が開かれて、羽根ペンが三本置いてあった。

「尋ねたい事があって来た。今回は前回いなかったアレナリアを連れて来た」

 カズの言葉に反応して、ふわりと羽根ペンが動き出して『よく来た。同種の本に選ばれた者よ』と、白紙の本に文字が書かれた。

「本当に本と会話するのね」

 疑っていた訳ではないが、実際目の当たりにしてアレナリアは驚いていた。
 カズは【アイテムボックス】から二冊の本を取り出して机の上に置く。

「前回借りた本を先に返しておく」

 『持って来ずとも複製本故に、なんじが破棄すれば消滅した。持って来る必要無し』

「それはわかっていたけど、借りたんだから返さないとと思ってさ」

 知性ある本インテリジェンス・ブックが書いた事に対してのカズの返答に、何か納得のいかない答えだったのか、数秒間を置き羽根ペンが動く。

 『了承。確かに返却したのを確認した』

 前回持ってこの隠し部屋を出た複製本は、知性ある本インテリジェンス・ブックの返答後に、複製本が徐々に薄くなっていき消滅する。

 『では再度来た事についての問を聞かせよ』

 特に感情というものが無く、淡々と作業を進めるように、隠し部屋ここに再度訪れた用件を尋ねる。
 初めて来たアレナリアや、前回来た時に聞いた内容について、詳しく聞きたいと考えてるレラを後回しにしてもらい、カズは目的であるビワど同じ妖狐種が、今でも暮らしてる地域の詳しい場所などについて質問した。
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