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五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

580 女心の分からぬバカ者

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 ネックレスの入った長方形のケースをカズの前にサイネリアの前に、と。

「こんな高価なのは受け取れません」 

「だから迷惑掛けてるお詫びだと思って」

「同じ様に言われる職員もいます(皇女レオラ様のような高貴な方の担当になる同僚なんて、本当は他にいないのだけれど)」

 埒が明かないと、カズはレオラの名前を出す事にした。

「今回の事はレオラ様が仕組んだと、俺はもう知ってます。ギルドの決まりで受け取れないのなら仕方ありませんが、そうでなければ貰ってください」

「でもこれは……」

「失礼ながらハッキリと言いますが、サイネリアさんに求婚してるとかではないので」

「だ、だったら! アレナリアかビワ奥さんのどちらかに渡したらどうですか!」

「奥さんて、俺はまだ結婚してないから!」

「だったら余計に──」

「だから大丈夫だから──」

 二人の間で真珠のネックレスが行ったり来たりと、何度か繰り返す。

「俺が持って帰ったら、それこそアレナリアとビワに怒られる。これはもうサイネリアの私物なんだら、絶対に受け取れない。嫌で無理にでも返そうと言うなら捨ててくれ」

「捨てる!? そんな事出来る訳ないでしょ! んあぁもうッ! わたしの負け」

 カズは別に勝ち負けじゃないんだがと思いながら、サイネリアが折れたて真珠のネックレスを受け取ってくれたので安心した。

 サイネリアに正直に話すという用は終わったので、フジの所に解体したバレルボアを持って行こうかと、早くギルドを出る事にし、カズはスッと席を立つ。

「ちょっと待ってください」

 サイネリアは後ろを向き、真珠のネックレスを着けて振り返る。

「今は仕事中なのでギルドの制服ですが、どうでしょうか? 一応、カズさんから頂いたので感想を…」

 ここでカズは、ビワが言っていた事を思い出す。

「似合ってる。綺麗だと思うよ(女性はほめれば、喜ぶんだよな)」

 カズのこの軽率な考えが、のちに説教を受ける事になる。

「そ、そうですか。ありがとうございます」

 カズから視線を反らし、サイネリアは顔を赤らめた。

「いただいたパールネックレスこれ大事にします」

 サイネリアへの用件が済んだカズは、人目のない場所で〈空間転移魔法ゲート〉を使いフジに食料を届けに。
 バレルボアの肉を与えながら、サイネリアへの対応を間違ってなかった筈だと、自分に言い聞かせた。

 この日の夕食後に、アレナリアから「それで、どうだったの?」と聞かれ、ありのままをカズは話した。
 するとアレナリアから「サイネリアを狙ってるの?」と怖い顔をする。
 思ってもない返答が返って来たので、カズは驚いた。
 似合ってるは良いけど、綺麗は言い過ぎだと説教が始まり、風呂に入る時間が何時もより一時間遅くなった。
 彼女でもない女性に、宝飾品なんて贈るもんじゃないと、カズは実感した。

 ギルド本部に行くと、担当のサイネリアと顔を合わせる事になるので、アレナリアの説教を受けた翌日からなんとなく足が向かず、昼間は毎日レラを連れてフジの所で過ごした。
 レラもフジも喜んでたいたので、カズとしては不満はなかった。
 ふたりが遊んでる間は、あれこれと元居た世界の事や、これから先どうするかと一人物思いにふける。
 ほんの数日、数時間だけだったが、カズには現状とこれから先を考えるには、この時間は良かったかも知れない。



 そしてアレナリアがヒューケラの護衛兼、付き添いとして出掛けるため前日の日暮れ前に、ブロンディ宝石商会へ泊まりに。
 アレナリアが留守の間に、レオラが夕食に来ないよう、明日ビワに伝えてもらうようにしようとカズは考えた。
 でないと酒を酌み交わす相手を、自分がしなければならない事になると、考えたからだった。

「あちしが相手するよ」

「レラだけだとすぐに潰されて寝るだろ。アレナリアと三人で飲んでても、そうなんだから」

「じゃあカズが一緒に飲めばいいじゃん」

「それを避けたいから、アレナリアが留守だって、ビワに伝えてもらうんだ」

「カズが酔い潰れてるとこなんてに見たことないんだから、アレナリアの変わりにレオラと飲んだらいいじゃん」

「そうならないように、適度に酒を飲むようにしてんの。レラと違ってな(酒に対して耐性があるから、酔い潰れるまで飲む事はないんだよな。よしか悪しか)」

「カズがべろんべろんの、ぐでんぐでんになってるとこ見てみたいな。あちし」

「そんな言葉をどこで覚えた?」

「温泉に行った時に、アレナリアが言ってた」

 カズは灼熱と極寒のダンジョンに行く前の事を思い返す。

「……おかしいな。あの時はヒューケラがいるから、酒は控えろと言ったはずだが」

「寝た後に少しだけだよ」

「一緒に飲んだな」

「ぁ…あはは! もうすぎた事じゃん。そんなの気にしちゃ、モテないんだよ」

 隠していた事がバレて、レラは開き直る。

「ビワに言って、レラの夕食はパン一枚にしてもらおう」

「ぬあッ! 待て~い、あの時はビワも一緒にお酒を……あ」

「ビワも!? ハァ……もういい。そうだな過ぎた事だ。なにもなかったんだから良しとしよう(サイネリアの事が済んだばかりで、過ぎた事を持ち出したら、なんかまた疲れそうだ)」

「あちしとアレナリアに厳しいのに、ビワには甘いんだ。アレナリアが聞いてたら怒るよ」

「レオラの所で仕事をしてるのに、炊事に洗濯に掃除と、家でも家事をしてくれるんだ。ビワに優しくするのは当然だろ」

「た、確かに」

「アレナリアは最近アイリス様の騎士に魔力操作を教えに行ったりしてるし、今回はヒューケラの護衛で出掛けたんだ。だからアレナリアにはこれから優しくして、構ってやってもいいとは思ってる。レラは家で何かしてるかの?」

「し、してない。食べるか、寝るかしてる」

「だろ。だからこれからは、少しでも自分の身を守れるように、フジの所で魔法と…あれだ、作ってもらったナイフを使う練習をすること。以前作ったレラ専用のナイフをあまり使ってないだろ」

「そういえば、そんなの作ってもらったっけ」

 風属性の金属で作ってもらった自分専用のナイフの事など、レラはすっかり忘れていた。
 レラに使い慣れるように言うカズもすっかり忘れて、話してる内にナイフのことを思い出した。

「アレナリアが戻って来るまでは、俺が教え…(ナイフの扱い方知らないや)」

「カズが?」

「いや、ナイフの練習は、アレナリアが戻って来てからにしよう」

 使い方が分からない武器を教えて、変に覚えては宝の持ち腐れになるので、レラ専用のナイフの扱いは、レオラとアレナリアに任せることにした。
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