上 下
600 / 774
五章 テクサイス帝国編 3 帝都テクサイス

579 求めるは安価 贈るは平均 だが実物は……

しおりを挟む
 ◇◆◇◆◇


 前日カズが持ち帰ったパンを食べて朝食を済ませたアレナリアは、ブロンディ宝石商会のヒューケラの所に行き、その日の夕食時に、約半月間の付き添い兼、護衛を受ける事にしたと言ってきた。
 出発は五日後の魔導列車に乗って、現在の最西端の駅クラフトを目指す。
 なので前日はブロンディ宝石商会に泊まり、翌日の早朝出発する魔導列車で、ヒューケラと二人でクラフトに向かうという事だ。


 サイネリアの休み明けすぐに会うよりも、二日程空けた方が良いかとカズは考えた。
 贈り物にしたネックレスの事について、アレナリアとビワから注意された事を話すと決めた。
 先送りにして話すタイミングを失い、アレナリアとビワからまた説教されるのはごめんだと考えた。
 謝罪をするなら早い方が良い、と。
 しかし何故、相手が欲しがっていた物を贈ったの、謝罪しなければならないのだろうかと、カズは一日考えてしまった。

 仕事上の知り合い女性に、迷惑やら感謝やらの気持ちとして、宝飾品を専門家に選んでもらって贈っただけなのに。
 現物を見てないのがそんなに駄目だったのか? それが大事なことなのか? 仕事上の知り合いの女性というだけのに、と。
 勿論、アレナリアやビワやレラが身に着ける宝飾品であれば、時間を掛けて念入りにじっくりと選びはするが。

 同じ様にして選んだのを贈り物にして、誤解されたり下心ありなんて思われては困ってしまう。
 だからカズは本人に試着させて、専門家に任せたのにと思っていた。
 たまたま今回の相手がサイネリアで、欲しがってい物を扱ってた専門家が、知り合いのコーラルだったというだけの事。
 と、話したところで、完全に言い訳にしか聞こえないので、喉元まで出て来た言葉を飲み込み、アレナリアとビワの注意を聞き、黙って大人しくしていた。
 自分が悪かろうがなかろうが、状況を考えて言葉を選ばなければ、状況は悪化する『口は災いのもと』だ。

 アレナリアとビワにサイネリア女性への贈り物の渡し方がなってないと、説教を受けたその日の夜、サイネリアは機嫌を損ねてないだろうかと、カズは悪い方に考えていた。


 同日の昼少し前、連休二日目はのんびりと自宅で過ごそうと予定していたサイネリアだったが、そうは出来なかった。
 昨夜カズから別れ際に受け取ったブロンディ宝石商会の紙袋を開け、入った長方形のケースの中身を見て「え! うそでしょ。どういう意味なの?」と。


 《 前夜 》


 カズから渡された紙袋の中身は、サイネリアの予想通り真珠パールのネックレスだった。
 ひと目見ただけで分かった、とても気楽になんて使える代物ではないと。
 サイネリアは長方形のケースからネックレスを取り出すのを躊躇ためらう。
 取りあえず落ち着こうと、一度のネックレスが入った長方形のケースを紙袋に戻し、カズから貰ったバレルボアを、根菜と煮込んで作り置きしたのを冷蔵庫にから出し、果実酒を用意して夕食にする。
 翌日も休みという事もあり、残っていた果実酒を飲み干して、何時も以上に酔っ払っう。
 酔って気が大きくなったサイネリアは、躊躇ちゅうちょしていた真珠のネックレスを着けて、めっきりと使わなくなった姿見の前で、昼間ブロンディ宝石商会の一室でしていた以上のポーズを決める。
 持っている服の中で、ここはという時の勝負服に合わせてみたり、下着姿で決めてみたりと、サイネリアは新しい果実酒を開けて深酒をし、自身の制御ができなくなっていた。

 翌日の昼過ぎ、下着姿のまま寝てしまったサイネリアは目を覚ます。
 二日酔いで頭痛はするも記憶はしっかりとあり、部屋は滅多に着ない服や下着がそこらに散乱している状態。
 昨夜自分は何をしていたんだと、またベッドに倒れ込むも、羽目を外してカズから渡された真珠のネックレスを着けていたのを思い出し、散らかった部屋の中を見渡す。

 無惨に放置された真珠のネックレスを見付け、傷や汚れがないかを確認し、元々入っていた長方形のケースに丁重にしまう。
 二日酔いで頭痛はするも完全に目が覚めてしまったので、飲み散らかしたままの食器やらを片付けて、水をコップ一杯分を飲むとベッドに座り一点を見つめて考え込む。

 休日初日は宝石商会の代表に接客され、高価で希少な宝飾品を試着する。
 非日常から抜け出そうと、子供の頃から行っていた老舗のデパートに行きパンを買い、さびれてはいるも落ち着く空間で昼食を取り、なんだかんだと悪くはない一日を過ごした筈だった。
 が、休日二日目問題にぶち当たる。

 生活が苦しいよう無理をせず節約をして、一年働いた自分へのご褒美にと、手が出せる程度の宝飾品を求めて行った宝石商だった。
 だが、目の前にある真珠のネックレスは、そんな安価な物ではないと分かる代物。
 サイネリアの頭が痛いのは、二日酔いのせいだけではなかった。
 折角の休日だというのに、二日目ものんびりと疲れを癒やす事は出来なかった。
 そしてそれは、サイネリアの休みが明けてから二日目続き、三日目にしてやっと元凶? のカズ人物がギルド本部を訪れた。
 

 《 現在 》


 カズはギルド本部を訪れ、何時もの個室で仕事上平静を装うサイネリアと会う。
 そこでアレナリアとビワから受けた説教を思い出し、サイネリアへの贈り物の事で、自分の至らない点を上げて謝罪をする。

「って事で、実は実物を見てないんだ」

「わたしの悩んだこの三日は、いったい……」

 カズの軽い考えを聞き、サイネリアにどっと疲れが押し寄せ、思った事がボソッと出る。

「へ?」

。謝るような事じゃないですよ。おほほほほほッ」

 サイネリアから聞いた事のない笑い声は怖く、本気で笑ってない事は嫌でも分かる。

「そ、そうは思えないけど」

「一人の女として少し残念ですけど、カズさんと付き合ってる訳じゃないんですからッ!」

「そう言ってもらえると、気が楽になる…よ(ならない。絶対に怒ってる)」

 サイネリアの怒ってる理由が、高価なネックレス宝飾品をプレゼントされ、もしかしたらと勘違いさせるような事をしたのにだった。
 婚期を過ぎてしまってる自分に、異性として興味がないのだと、サイネリアは更におかしな方向へ考えてしまう。
 婚期が過ぎ行き遅れと思っているのはサイネリア本人だけで、カズや周囲の者達はそんなこと考えてない。

 そんなことは露知らず、ここで怒ってしまっては、ブロンディ宝石商会を出た後と同じになってしまうと、サイネリアは軽く深呼吸して気持ちを落ちつかせ冷静になる。

「ふぅ……。実はわたしもカズさんに聞きたくて、これを持って来たんです」

 サイネリアは別れ際にカズから受け取った紙袋から、長方形のケースを出してテーブルに置いた。

「開けてみてください」

 そう言われたカズは、長方形のケースを開けて、中に入っている真珠のネックレスを見る。
 白の中玉真珠が二十数粒使われ、着けた時に胸元の位置にくる場所には、黄色の大玉真珠が一粒と、それを挟むようにして黄色の中玉真珠が二粒あった。
 三粒とはいえ人気の黄色真珠を使い、しかも一粒は大玉。

「わたし開けて驚きました。これっていくらするんですか?」

「俺は人気があって平均的なのが、金貨二十枚くらいって聞いてたから、それをコーラルさんに頼んだんだけど」

「金貨二十枚! わたしか元々デパートの即売会で買おうかと思ったのは金貨五枚くらいで、高くても金貨十枚もしない物なんですよ。しかもこれ、どう見ても金貨二十枚以上しますよね!」

「あの時に見せてもらったのを考えると、金貨三十枚はしそうだよね(サービスしてくれるのは嬉しいが、大玉の黄色真珠はやり過ぎでしょ。コーラルさん!)」

「こんな高価なのはもらえません」

 ネックレスが入った長方形のケースを、カズの方に動かすサイネリア。

「返されても困る。これまでのお詫びとお礼と感謝として、プレゼントしたんだから受け取ってよ」

 今度はカズがネックレスの入った長方形のケースを、サイネリアの前に動かす。

「そんなの悪いです!」

「そう言わずに。もう着けたんでしょ」

「…ッ! いいからッ!」

 着けたの言葉に、サイネリアは動揺して一瞬動きを止める。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でスキルを奪います ~技能奪取は最強のチート~

星天
ファンタジー
 幼馴染を庇って死んでしまった翔。でも、それは神様のミスだった!  創造神という女の子から交渉を受ける。そして、二つの【特殊技能】を貰って、異世界に飛び立つ。  『創り出す力』と『奪う力』を持って、異世界で技能を奪って、どんどん強くなっていく  はたして、翔は異世界でうまくやっていけるのだろうか!!!

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

誰も要らないなら僕が貰いますが、よろしいでしょうか?

伊東 丘多
ファンタジー
ジャストキルでしか、手に入らないレアな石を取るために冒険します 小さな少年が、独自の方法でスキルアップをして強くなっていく。 そして、田舎の町から王都へ向かいます 登場人物の名前と色 グラン デディーリエ(義母の名字) 8才 若草色の髪 ブルーグリーンの目 アルフ 実父 アダマス 母 エンジュ ミライト 13才 グランの義理姉 桃色の髪 ブルーの瞳 ユーディア ミライト 17才 グランの義理姉 濃い赤紫の髪 ブルーの瞳 コンティ ミライト 7才 グランの義理の弟 フォンシル コンドーラル ベージュ 11才皇太子 ピーター サイマルト 近衛兵 皇太子付き アダマゼイン 魔王 目が透明 ガーゼル 魔王の側近 女の子 ジャスパー フロー  食堂宿の人 宝石の名前関係をもじってます。 色とかもあわせて。

チート転生~チートって本当にあるものですね~

水魔沙希
ファンタジー
死んでしまった片瀬彼方は、突然異世界に転生してしまう。しかも、赤ちゃん時代からやり直せと!?何げにステータスを見ていたら、何やら面白そうなユニークスキルがあった!! そのスキルが、随分チートな事に気付くのは神の加護を得てからだった。 亀更新で気が向いたら、随時更新しようと思います。ご了承お願いいたします。

異世界召喚失敗から始まるぶらり旅〜自由気ままにしてたら大変なことになった〜

ei_sainome
ファンタジー
クラスメイト全員が異世界に召喚されてしまった! 謁見の間に通され、王様たちから我が国を救って欲しい云々言われるお約束が…始まらない。 教室内が光ったと思えば、気づけば地下に閉じ込められていて、そこには誰もいなかった。 勝手に召喚されたあげく、誰も事情を知らない。未知の世界で、自分たちの力だけでどうやって生きていけというのか。 元の世界に帰るための方法を探し求めて各地を放浪する旅に出るが、似たように見えて全く異なる生態や人の価値観と文化の差に苦悩する。 力を持っていても順応できるかは話が別だった。 クラスメイトたちにはそれぞれ抱える内面や事情もあり…新たな世界で心身共に表面化していく。 ※ご注意※ 初投稿、試作、マイペース進行となります。 作品名は今後改題する可能性があります。 世界観だけプロットがあり、話の方向性はその場で決まります。 旅に出るまで(序章)がすごく長いです。 他サイトでも同作を投稿しています。 更新頻度は1〜3日程度を目標にしています。

イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で最強に・・・(旧:学園最強に・・・)

こたろう文庫
ファンタジー
カクヨムにて日間・週間共に総合ランキング1位! 死神が間違えたせいで俺は死んだらしい。俺にそう説明する神は何かと俺をイラつかせる。異世界に転生させるからスキルを選ぶように言われたので、神にイラついていた俺は1回しか使えない強奪スキルを神相手に使ってやった。 閑散とした村に子供として転生した為、強奪したスキルのチート度合いがわからず、学校に入学後も無自覚のまま周りを振り回す僕の話 2作目になります。 まだ読まれてない方はこちらもよろしくおねがいします。 「クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される」

処理中です...