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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

316 兇食植物系モンスター と 朽ちた村

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 伸びてくる枝を切って埒が明かない、本体に攻撃しないと。
 だがここから攻撃しても、枝を重ねて盾にされたら本体にダメージが入らないか。
 接近するしかない。
 威力を上げれば離れた所からでも倒せるだろうが、あまり大きな音を立てると、他のモンスターが寄って来るかもしれない。
 そうすると、皆を危険にさらす事になるからな。
 さて、どうやって近付くかだ。
 日が落ちてから行動ってことは、夜行性か? なら明るくしたら。

 カズが〈ライト〉の魔法を使うと、強い光がレッドトレント本体を照らし出す。
 ゆっくりと動き出すレッドトレントの根本には、前日大量発生した蛭がうじゃうじゃと蠢いていた。

 あの蛭の量を見ると、俺達は昨日から狙われてたって事か……近付きたくねぇ。

 カズが近付くのを躊躇っていると、レッドトレントの赤黒い枝が無数に伸び、それと同時に根本で蠢いていた蛭が、一斉にカズに向かって飛び掛かる。

「この蛭跳ねるのかよ! 蛭まみれなんて冗談じゃない〈エアーバースト〉〈ウィンドカッター〉」 

 迫る大量の蛭を突風で暗い森の奥へと吹き飛ばし、赤黒い枝を風の刃で切る。
 続けて伸びる赤黒い枝を避け、レッドトレントに間合いを詰める。
 2m程手前まで接近すると、レッドトレント本体から、今まで以上に太い枝がニ本生えてきた。
 その太い枝の先から更に細い枝が数多く伸び、カズを絡め捕らえようとする。

「あくまでも俺を生きたまま捕まえて、血を吸うつもりか。〈スラッシュトルネード〉」

 カズが放った小さな竜巻は伸びる枝をへし折りながら移動し、レッドトレントを中心に渦巻き、多数の風の刃で切り刻む。
 スラッシュトルネードの効果が切れると、レッドトレントから伸びていた細い枝はバラバラになり辺りに散乱し、本体とニ本の太い枝には多くの切り裂かれた傷が出来ていた。
 ギシギシと動き、新たな枝を生やそうとするが、それをカズが待つわけない。
 レッドトレント本体に付けられた傷の中で、最も深い傷に触れて〈ファイヤーボール〉放ち、すぐさま後方へと距離を取る。
 多くの傷から炎が噴き出すとレッドトレントは動かなくなり、倒れて燃え尽き灰となった。
 すると建物とその周囲を侵食していた殆どの木々が急速に枯れ、バラバラと朽ち果てていった。
 これにより隠れていた他の建物全てを目視できるようになった。
 カズは一旦馬車へと戻り、三人に事情を説明して、建物全てを一人で調べると伝えた。

「アレナリアさん、私達も手伝いましょう」

「そうね。亡骸があれば、手厚く埋葬してあげましょう」

「その気持ちだけでいいよ。建物はいつ崩れてもおかしくない状態だし、たぶん原形をとどめたのは……」

「そう、分かったわ。私達はここから、安らかに眠るよう祈っておくわ。ビワもそれでいい」

「はい」

 アレナリアとビワは両手を胸の前で握り、建物の方を向いて目を閉じ、少し頭を下げ祈った。
 横で見ていたレラも同じ様にして、この場所に住んでいた人々に、安らかな眠りをと祈る。
 カズは合掌してから、建物の調査に移った。
 建物を調べている最中に、亀裂が入り重さに耐えきれず崩れる建物もあった。
 建物の下敷きにならぬように、気を付けながら崩れてない建物を全て調べ終えた。
 崩れた建物は後回しにして、カズは皆の待つ馬車に戻った。

「どうでしたか?」

 ビワの質問にカズは顔を横に振った。

「この森がこんなに密集して広がった理由は、トレント系のモンスターが多く住み着いたからのようね」

「ハルチアさんが砂漠を抜けたら、村の一つでもあるようなことを言ってたのに、森の道がこんな状態だから変だとは思ったんだ」

「見るからにニ、三年前には既に村の人々は、レッドトレントの餌食になってしまったんでしょうね。オリーブ王国に東からの商人や冒険者が殆どが来なくなったのも、森がこんな状態になってしまったのが原因かもしれないわね」

「森を抜けるまでに、兇食植物を見かけたら、できるだけ倒してこうと思う」

「カズがそう思うなら、良いんじゃないかしら。レラとビワと馬車は、私が守るから安心して。二人もそれでいい?」

「このような村が増えるのは、とても悲しい事です。私もそれに賛成です」

「あちしもそれに賛成でいいんだけど」

「だけど?」

「そろそろごはんにしない? あちしお腹空いた」

 ふわふわと浮かんでいたレラは疲れたと言い、ホースの背中に座って自分のお腹をさする。

「いつもより遅くなったから、作り置きしてあるのでいいか?」

「なんでもいいから、早く食べよ」

「分かった分かった。俺は崩れた建物を少し調べてくるから、ごはんは三人で食べててくれ(レラはブレないな)」

 カズは馬車内に〈ライト〉を使って、小さな光の玉を出現させて明るくすると【アイテムボックス】から幾つかの料理を出した。
 食事の用意をしたカズは、一人馬車を離れた。
 崩れた建物の瓦礫を退かしながら、情報になりそうな物を探す。
 崩れてしまっている建物は三軒、その内ニ軒は何も見つからなかった。
 最後は他よりも小さめ建物。
 倒れて砕けた壁を退かしていると、錆びた装備品が出てきた。
 更に瓦礫を退かしいると、折れ曲がったギルドカードを発見した。
 傷と汚れで書かれている内容を、判別することはできなかった。
 カズはそのギルドカードを回収して、〈クリーン〉を使ってから馬車へと戻った。
 
「カズの分、残してあるよ。食べるでしょ」

「ああ」

「収穫はあった?」

「ギルドカードを見つけて回収してきた。ただし傷が多くて殆ど読み取れないが」

「ギルドに持って行けば、誰の物か判別できるはずよ。しっかり管理をしていればだけど。それに消滅してないってことは、Bランク以上じゃないかしら」

「Bランク以上か、なるほど。とりあえず先決は、この森を抜けることだ。明日からは一気に進もう。今日と同じ様に、俺が馬車の少し先に進み、邪魔な草木と現れたモンスターを倒して進む」

「なら馬車の操作はビワに任せて、私は周囲を警戒するわ」

「ビワ、馬車の操作は大丈夫?」

「大丈夫です。アレナリアさんに教わりましたから」

「なら明日は頼むよ」

 翌日の事を決めると、レラ、アレナリア、ビワの三人は馬車で横になり、カズはいつものように外で夜を過ごした。


 ◇◆◇◆◇


 少し先に二体、そこから更に先にゆっくりと移動するのが四体か。
 この道を目指して、移動してるようだな。
 俺が先に行き道を確保してから、皆には後から来てもらう方が安全か。
 アレナリアには、よりいっそう警戒してもらわないと。

「おはようカズ。朝から難しい顔して、問題でも?」

「おはよう、アレナリア。今日は早いじゃないか」

「たまにはね。それでカズは考え事?」

「昨日レッドトレントを倒した事に気付いたのか、道の先にモンスターが移動してきてるんだ」

「って事は、待ち伏せしてるモンスターも、トレントの可能性は高いわね」

「レッドトレントは群れないらしいんだけど」

「レッドトレントはそうでも、他のトレントは違うわ」

「アレナリアはトレントに詳しいのか?」

「詳しいってほどじゃないけど、これでも元サズマスだから」

「ああ!」

「忘れてたの?」

「そ、そんな訳ないよ(忘れてた)」

「……まあいいわ。私が知ってることを、手短に説明するわ。トレントは──」

 トレントには幾つかの種類があり、それぞれ特徴があるとアレナリアは説明する。
 ・レッドトレントは、生物の血を求めて単体で夜に行動する。
 ・グリーントレントは、主に他の植物からマナを吸収して、辺り一帯を縄張りにしてしてしまい、最も広範囲に広がり、数体で同じ縄張りもつ。
 ・ブルートレントは、多くの水を吸い上げ吸収するため、水場に現れることが多く、小さな池なら十体程で枯渇させてしまう。
 ・シルバートレントは、金属を取り込むことで、本体が鉄のような表面をもつ変わったトレント、より良い金属を求めて人々が暮らす村や街に現れる事もある。
 ・幻のトレントと言われるのがゴールドトレント、金を体内に溜め込み不純物を排出するため、純度の高い金を保有してる。

「──とまあ、こんなところね。冒険者なら一攫千金を夢見て、一度はゴールドトレントを探し求めるでしょうね」

「イエローやピンクなんかもいたら、特撮ネタとしか思えん」

「とくさつ?」

「いや、なんでもない」

「因みにこんな話があったのを思い出したわ。三人組の冒険者がゴールドトレントを偶然見つけたら、地中の深い場所にある金鉱石に根を伸ばし取り込んでいたから、隠れて終わるのを待っていたんですって」

「じゃあそのパーティーは、運良く大金を手にしたんだ。まさに一攫千金」

「それがね」

「違うの?」

「ゴールドトレントを倒して体内の金を回収しようと意気込んで出ていったら、そこに金を好むモンスターが集まって乱闘になって、命からがら逃げたんですって。欲をかくと、ろくな事ないって話」

「俺達は欲に負けて、そうならないようにしよう」

「そうね」

「朝と昼のごはんはここに出しておくから、レラとビワの二人と一緒に食べてくれ」

「カズは?」

「俺は先に行って、馬車が通れるようにするから。二人と馬車の護衛は、アレナリアに任せる。朝ごはんを食べたら、道なりに馬車を進めて来てくれ。昨日の予定とは変わっちゃったけど」

「私達の安全を考えてのことでしょ。護衛は任せて」

「一応俺もマップを見て、用心はしておく」

「信頼してカズ。二人と馬車は、私が守るわ。のアレナリアが」

「あ…あぁ、うん。頼りにしてる(適当に流すと、後々面倒そうだからなぁ)」
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