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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

315 マーガレットからの手紙

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 朝食はタマゴサンドと、昨夜の夕食に残ったスープにした。
 スープは温めるだけなので、手間は掛からない。
 タマゴサンドはパンにタマゴサラダを挟むだけなので、今のビワでも簡単に出来るので、それにした。
 焼きたてのパンとスープの匂いに誘われ、アレナリアとレラも目を覚まし馬車から降りてきた。
 久しぶりのタマゴサンドを見たアレナリアは喜び、一人で三つも食べて満足していた。

 朝食を済ませると、カズは【アイテムボックス】から一枚の手紙を出した。
 マーガレットからだと渡された手紙は、国境を越えてから読むようにと言付けされていたので、カズはここで手紙を開けて読むことにした。

 手紙の書かれていた内容は、デイジーとダリヤの頼みを聞きマーガレットの薬を作る材料である、氷結の花を探し届け呪いを解いてくれた事など、様々な事にたいするお礼が、改めてつづられていた。
 カズがオリーブ・モチヅキ家で過ごした日々や、レラと暮らした短い日々の事も。
 手紙の後半には、マーガレット知るビワの事が幾つも書かれていた。
 そして無事に目的地へとたどり着き、ビワの忘れている辛い過去を取り戻し、向き合うことを祈っている、と。
 国境を越える前に読んでしまうと、決心が鈍り戻って来てしまうかも知れないからと、開封する時をジルバの言付けたとも書いてあった。
 ビワは大事な家族、いつでも喜んで迎え入れるから、どんな結果になろうとも、一度は必ず戻って来てほしい、と。
 それを聞いたビワは、手で口元を押さえ涙ぐむ。

「だれのビワ? 続きを読むよ」

 ビワがコクリ頷き、カズは続きを読みだす。
 手紙が最後の一枚になったところで、急に声に出して読むのを止めるカズ。
 アレナリアが不思議に思い声を掛ける。

「どうしたの、カズ?」

「あ、いや……」

 言葉に詰まるカズの後から静かにレラが回り込み、手紙を覗き見する。

「……にっちっち。それは読めないわよね」

「あッ、レラ」

「何が書いてあるの?」

「カズとビワのことだよ」

「貸して!」

 カズの気がレラにいったとき、手紙を奪い取り声に出して読むアレナリア。

「──この旅を終えて次会う時には、二人の子供が見れるの期待してるわ。もちろん一人じゃなくて、何人も」

 わなわなと震えるアレナリアの手に力が入り、手紙がぐしゃりと折れ曲がる。
 くしゃくしゃになった手紙をビワに渡し、アレナリアはゆっくりとカズに詰め寄る。

「なによ……ビワとはもうそういう関係なの」

「違う違う。あれはマーガレットさんの冗談、悪ふざけで書いたことだから(半分は本気だろうけど)」

「王都に住む貴族が、あんなこと悪ふざけでも書かないでしょ!」

「貴族でもマーガレットさんは、そういう人なんだよ(ころころと、情緒不安定か。このストーカーのヤンデレちびエルフは。俺の話を信じろ)」

「アレナリアさん落ち着いて。奥様は本当に、そういう方なんです」

「そうそう。だから面白いんどけどねぇ~。あちしの話した事が切っ掛けで、マーガレットやミカンと一緒に、ビワをからかったりするんだよね」

 カズとビワの二人でアレナリアをなだめ落ち着かせる。
 レラは昔の事だからと、面白そうに自白する。

「レラは暫くの間、カニもプリンもお預け」

「えぇぇー! マーガレットの悪ふざけは、いつもの事じゃない。なんであちしが」

「今、自分で白状したじゃないか。元々はレラの話が切っ掛けだって」

「ぁぅ……ねぇビワは、ビワはあちしから、カニを取り上げるようなことはしないよね」

「たまには反省した方がいいと思うよ」

「ガーン。これなら以前の引っ込み思案だったビワのままの方がよかったかも」

「何がガーンよ。レラは反省」

「アレナリアの心が狭いから、こうなったんじゃない。あちしは、わる…少ししか悪くないもん」

「なんですって!」

「なによ!」

 顔を近づけ睨み合うレラとアレナリア。
 カズは大きな溜め息を一つ付き、二人の間に割って入り引き離した。

「そこまで。森を抜けるまでは、我慢すること。二人とも分かった」

「……うん」

「……はい」

 マーガレットからの手紙を読み終わり、カズ以外の三人が馬車へと乗り込む。
 アレナリアに馬車の操作をさせて、カズは馬車の前を歩き、荒れた道の草木を除去しながら進む。
 進むにつれて、生える草木が多くなる。

 かれこれ数時間、昼を過ぎても進んだ距離はほんの少し。
 途中休憩を挟みつつ更に数時間、まだまだ森を抜ける気配はしない。
 相変わらずじめじめして湿度は高い。
 暗くなる前に馬車を停め、野宿する場所を確保したカズは、馬車が見える範囲を移動して周囲の見回る。
 馬車を停めた所から道を外れ、辺りを見回すと、木々や草に覆われた数軒の建物があることに気付いた。

「少し離れるから、警戒しててくれ」

「分かったわ」

 アレナリアに一声掛けたカズは、草木を掻き分けて見つけた建物に向かった。

 奥にもまだ何軒か家があるみたいだ。
 どうやらここには、小さな村があったようだな。
 さすがにもう誰も住んでないようだが、モンスターの反応が一体、あそこの家か。

 モンスターが潜む建物を後にして、先にその周りの建物を探索するカズ。
 しかしどの建物の内部にも木々が多く密集しており、中を調べることはできなかった。

 危険なモンスターでなければと期待したが、そうじゃなさそうだ。
 トラベルスパイダートラちゃんのような友好的なモンスターの方が珍しいか。

 そんなことを考えているカズだが、視線の先にある建物の一角に、尻尾らしきものがある、人の形をした死骸があるのに気付いた。
 ただ腐敗している訳ではなく、枯れ木のように痩せ細り干涸びていた。
 カズは警戒しつつ、モンスターの反応がある建物に向かった。
 そこは他の建物以上に多くの木が密集し、完全に建物が木に飲み込まれていた。
 カズがその建物に近づいて行くと、赤黒い枝がガサガサと動きだした。
 足を止めたカズは《分析》を使い調べた。


 名前 : レッドトレント
 種族 : 兇食植物
 ランク: B
 レベル: 42
 力  : 774
 魔力 : 387
 敏捷 : 258
 全長 : 3m30㎝(本体)~25m(枝)
 スキル: 擬態 
 魔法 : ソーン・スプラッシュ
 補足 : レッドトレントは単体で行動する。
 ・ レッドトレントは枝や蔓で生物を捕らえ、血を吸収して赤黒くなる
 ・ 吸血生物を従える個体もあるが、大抵は小さな虫など。
 ・ 火に弱いため、湿気の多い森など隠れて生息し、夜になると活動する。
 ・ 成長して大きくなるにつれて、地中の根を伸ばし、縄張りを広げる。


 ってことは、赤黒くなってるのがモンスターの本体か。
 兇食きょうしょくなんて危なっかしい名の付く植物がいるなんて。
 だとすると、マップに表示された森に生息するモンスターは、全部が兇食植物の可能性があるってことか。
 皆を危険にさらさないように、見なかった事にして戻るか。

 カズはレッドトレントが隠れる建物から離れようとすると、赤黒い枝が急速に伸び、カズを絡め取ろうとする。
 カズはとっさに回避して、建物から距離を取る。
 日が暮れるにつれて、赤黒い枝や蔓が無数に動きだし、カズを襲う。

「〈ウィンドカッター〉」

 風魔法で三日月状の風の刃を放ち、襲い来る枝や蔓を切断した。
 すると激怒した本体が建物を破壊し、カズの前に姿を現した。
 その見た目は、荒野に佇む枯木こぼくのよう。
 カズに斬られた枝を新たに生やすと、周囲にあった死骸が木っ端微塵に砕け散った。
 血が無くなった死骸から、更に血を吸収しようとしたので、そうなったのだろう。

 調べた通り、夜になると獲物を狙って動き出すってことらしいな。
 このまま放っておいたら、明らかに馬車に向かって来る。
 三人が気付く前に倒すか。

「お~いカズ~。ごはんの支度するから、道具と材料出してほしいってビワが」

「分かった。少ししたら戻るから、こっち来るな」

「なになに? あれ、よく見ると建物らしきものと、死んでるっぽいのも……うわッなんかウネウネ動いてる!」

「だから、こっち来るなって」

「そうす…ヒャ!」

 赤黒い枝がレラ目掛けて急速に伸びる。
 寸前のところで枝を避けるレラ。

「捕まると血を吸収されてミイラになるぞ」

「ヒィィーやだやだ!」

「だったら早く戻ってろって。コイツを倒したら、俺も…」

「了解! あちしは逃げるー」

「あ、おい。二人には、はな……(レラの奴、二人に喋るな)」

 状況を理解したレラは、カズの話を最後まで聞かずに、慌てて馬車へと戻る。
 レラに向かって伸びていた枝が捕らえる対象を失い、狙いをカズに変更した。
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