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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

309 オアシスの街を離れ、砂漠を東へ

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 50m程離れた所から姿を現したのは“砂漠のオアシス”が倒したサンドワームよりも大きなポイズンワームが二体、毒の体液を出しながら四人の居る方に向かって来る。
 ダッホとスコは慌てて立ち上り走り出そうとするが、足がもつれて転び、歩くのもままならない。
 トーリは毒液を出すポイズンワームが接近するのを見て、恐怖で足が震えて立てなくなっていた。
 カズは一人冷静に、迫るポイズンワームの進行方向に〈アースホール〉で深い穴を作り落とした。
 突如として大きな穴がポッカリと口を開け、ポイズンワームが一瞬にして穴の底へと落ちた。
 それを見た“砂漠のオアシス”の三人は、目の前の出来事が信じられずにいた。

「こういった場所では常に周囲を警戒すること。疲れきって動けなくなると、モンスターの餌食にされるからな〈ファイヤーボール〉」

 カズが穴の中に向けて火の玉を放つと、次の瞬間巨大な火柱が穴から吹き上がり、穴の底に落ちたポイズンワームは黒焦げになり動きを止めた。
 次第に砂が穴の中に流れていき、黒焦げになったポイズンワームを埋めていった。

「ほら回復薬これ飲んで。動けるようになったら街に戻るから(これでやっと頼まれ三人のお守りも終わる)」

 討伐を終えた四人は、オアシスの街に戻って行った。
 ギルドが見える所まで来ると、ハルチアが外で待ち出迎えてくれた。
 わざわざギルドマスターが出迎えるなんて、やはりこの街のギルドはかなり暇なようだ、とカズは思った。
 トーリはハルチアに三人だけでサンドワームを倒したことを、嬉しそうに話していた。
 カズは一人ギルド裏へと回り、三人が討伐したサンドワームを【アイテムボックス】から出してから中に入った。
 ギルドに入るとハルチアに呼ばれ、ギルドマスターの部屋に行く。
 部屋には“砂漠のオアシス”の三人も居たが、疲れはて長椅子に倒れ込み寝入っていた。

「街に戻って、張っていた緊張の糸がほぐれたんでしょう。そのまま寝かせておいて。起きたら改めて話を聞くから」

「討伐前に三人のステータスを見ましたが、Cランクどころか実力としてはDランクがいいとこでしょ」

「そうね。ここ最近やる気がなくなってたから、自信を持たせる為にランクを上げたんだけど、逆効果になっちゃったようなのよね」

「自分達の実力を分からせる為に、今回の討伐を俺に頼んだんですか」

「ええ。あなたなら、うまくやってくれると思って」

「それもフローラさんの入れ知恵ですか?」

「まあそんなとこね。はい、Bランクのギルドカードと今回の報酬」

「どうも」

「午後には街を出るの?」

「出発は明日の朝にします。ああそうだ、俺が出掛けてる間に、アレナリア達が来ませんでした?」

「来てないわよ。どうして?」

「俺が卸したデザートクラブを、買い取りに来たかと思いまして。かなり気に入ってましたから」

「まだ砂漠は続くから、道中見つけて食べさせてあげればいいじゃない。あなたなら楽なもんでしょ(あの娘達の行動は、お見通しって訳ね)」

「考えておきます(レラとアレナリアも、さすがにそこまではしないか)」

 アレナリアとの約束を守り、ギルドに来た事を黙っていたハルチア。
 多少外見は似ている気もするが、この性格を見る限りでは、ディルと姉妹だとは誰も思えないだろう。

 ギルドから宿屋に戻ったカズを待っていたのは、予想通りデザートクラブの身を使った昼食だった。
 三人に出発を翌日の朝と伝え、午後はカズも一緒に買い出しに行った。
 砂漠にある小さな街だけに、魚介類なく、数少ない野菜も殆どがサボテンだった。
 サンドワームは相変わらず拒否していたので、買ったのは結局サボテンだけになった。
 それでもカズのアイテムボックス内には、砂漠を越えるには十分の食料はある。
 宿屋に戻ったカズは、馬の調子と馬車の点検をして翌日の出発に備えた。

 外はすっかり暗くなった頃、冒険者ギルドで寝ていた“砂漠のオアシス”の三人が目を覚ました。
 ハルチアは起きた三人に、コップに注いだ冷えた水を出し、サンドワームを討伐に行った時の話を聞く。
 砂漠のオアシスの三人、ダッホとスコとトーリは、出されたコップの水を一気に飲み干した。
 喉を潤わせて一息つくと、お互いの顔を見たのち、自分達が経験した事を興奮しながらハルチアに話を聞かせた。

「あのカズって冒険者は、何なんですか?」

「探検家の俺よりも、探索にけてるようだった」

「わたしはDランクだけど、カズあの人はCランクなんですのねぇ? それなのに使える魔法の威力が桁違いなんですけど」

「お前達の疑問は分かる。だが、その前に言っておくことがある」

 ハルチアの真剣な面持ちに、黙って話を聞く三人。

「ダッホとスコがCランクなのは、ワタシの裁定が甘かったからだ。王都ギルドでの判断では、まだまだDランク止まりだろう」

 思いもしない発言に、内心ウソなのかと思うダッホとスコ。
 その表情を見たハルチアは、更に話を続ける。

「先に謝っておく…すまない。さびれつつあるこの小さな街で、冒険者になって活気を取り戻すようにしてるお前達を見たら、自信とやる気をつけてやろうとしてランクを上げてやったんだが、逆効果になってしまったようだ」

「おれ達は、そんなに弱いんですか?」

「弱いわね。三人一緒に王都を目指しても、着くことは難しいでしょう。モンスターと出会った時点で終わり。例え倒せたとしても、疲労困憊で動けなくなって終わりね」

「わたし達どうしたら……」

「生まれ育ったこの街を、これ以上寂れさせたくないんでしょ」

 三人はハルチアの質問に、首を縦に振って答える。

「だったら他の冒険者に絡んだり、危険性の少ない依頼ばかり受けてないで、少しは自分を追い詰めてみなさい。今日みたいに」

「強くなるには、格上のモンスターと戦う必要があるのは分かってるが……」

「街を活気づかせる為には、最低でも王都に行く必要があるわよ」

「それは……」

「……」

「……」

 現実を突き付けられて、三人は黙ってしまう。

「ハァー、しょうがないわね。あんた達がなんとか討伐できそうな依頼を回してあげるから、死ぬ気でやってみなさい。これから逃げるようであれば、もう」

「分かった」

「やってやる」

「わたしも!」

「最低限はCランクでやっていける実力がつくまで」

 自分達を見捨てないでいてくれたギルドマスターに、決意を固めた三人は頭を下げ感謝した。
 
「挫折してワタシをがっかりさせないでよ」

 三人は互いの顔を見て苦笑いをする。

「ギルドマスター。それでさっきの質問なんですが」

「ん? ああ、カズとトーリで魔法の威力が違う事と、カズに関してだったわね。それは──」

 ハルチアは王都であった事件に、カズが関わっているのを姉のディルから聞かされており、カズが何をしてきたのかを三人に聞かせた。
 貴族区に放たれたモンスターと巨大なゴーレム倒し、白き災害と言われているフロストドラゴンを従える実力がある者だと。
 ダッホはだらだらと冷や汗を流し、顔面蒼白になっていた。
 スコとトーリもぶるぶると小刻みに震えていた。

「カズが怒らなくて良かったわね。もし暴れられでもしたら、ワタシじゃ彼を止められない。そんな事するような人じゃないでしょけど。彼はそれほど強いわよ」

 限界を越えたダッホは、白目をむいて気絶した。
 暫くして落ち着いたスコとトーリは、ダッホを担いで自分達の家に戻って行った。

「お仕置きのつもりで話したんだけど、少し効き過ぎたかしら?」


 ◇◆◇◆◇


 朝食を済ませて宿屋を出ると、空は曇って日差しが弱く、砂漠を行くにはよさそうな天候だった。
 四人は馬車に乗り込み、街の東へと馬車を進めた。
 街の出口にはハルチアが見送りに来ていたので、カズは馬車を止めて降りた。

「昨日はありがとう。カズのお陰で、あの三人も冒険者としての覚悟が出来たみたい」

「お陰って……俺はハルチアさんのいいように使われただけでは?」

「ハッキリ言うわね。でも感謝してるのは本当よ。本来は自分達で気付いてほしかったんだけど」

「こらからあの三人を甘やかさないで、厳しく鍛えてやったらどうですか」

「一応は、そのつもり」

「そうですか。それじゃ、俺達はもう出発します。お世話になりました」

「違うわよカズ。お世話してやった、でしょ」

「そうそう」

 馬車から顔を出し嫌みを言うアレナリアと、それに同意するレラ。

「おいッ(本当の事でも言うなよ)」

「ハハはッ、確かにそう、お世話になったわ。道中気を付けて。順調に進めば、20日程で砂漠の終わりが見えるはずよ」

 ハルチアに軽く会釈をしてから、カズは馬車に乗り込み走らせた。
 見える姿が小さくなるハルチアに手を振り、四人の乗った馬車はオアシスの街を離れて行く。
 また暫くは砂ばかりの景色が続く旅が始まった。
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