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四章 異世界旅行編 1 オリーブ王国を離れ東へ

310 ついに遭遇、砂漠の逸品

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 オアシスの街を出てから十日、何事もなく砂漠の旅は順調に進んでいた……この日までは。
 幸か不幸か、カズは遠く離れた所に、デザートクラブの群れを見つけた。
 数はざっと数えても三十体以上。
 進行方向ということもあり、戦闘は面倒と考えたカズは馬車を停めて、休憩としょうしてデザートクラブの群れが離れて行くのを待った。 
 気付かないでほしいと思っていたカズだが、そううまくはいかない。
 アレナリアがモンスターの気配に気付き、レラに偵察を頼んだ。
 オアシスの街を出てから一度もデザートクラブを発見できず、レラとアレナリアはなんとしても見つけようと意気込んでいた。
 こういった事は面倒がって普段はやらないレラだが、デザートクラブカニの可能性があるからと、毎回率先して確認に動いていた。
 今回もカズが止める間もなく、レラは馬車から飛び出した。
 上空から目的のモンスター発見したレラは、慌てて馬車に戻ってくる。

「カニ! カニ! しかも大量!」

「やったわねレラ。行くわよカズ!」

「あぁ……う~ん……やめとかない?」

「なんでなんで!? どうしてカズ?」

「そうよ。念願のカニを見つけたのよ」

「二、三体ならまだしも、三十体以上の群れだぞ。モンスターだからって、こっちから仕掛けることないだろ。討伐の依頼を受けてる訳でもないんだし、襲って来てる訳でもないんだから」

「だったら、襲って越させるようにすればいいんでしょ」

 置いてある杖を持ち、馬車から出るアレナリア。

「待った。どこに行くつもりだ」

「運動不足だから、ちょっと散歩に」

 アレナリアの服の襟首を持ち、馬車に引き戻すカズ。

「こっちから仕掛けるなって言っただろ。わざわざ危険を呼び込むな!」

「だってだって、やっと見つけたカニが」

「あんな数襲ってきたら、ビワが怖がるだろ」

「私は…カズさんが守ってくれるから」

「ビワ……(そこは怖いからって、俺の味方になってほしかった)」

「ほら、ビワは大丈夫だって。それにカズだったら、あちし達を守りながらでも、カニの十体や二十体倒せるでしょ」

「ハルチアも言ってたでしょ。そんなに食べたければ、カズに頼めって」

「言って……あれ、俺の居ない間にハルチアさんと会ってたのか?」

「……! 会ってない、会ってない」

「そうそう。カズならあちし達ことを思って、ハルチアにカニのことを聞いててくれたんじゃないかなぁ~って」

「ふ~ん……(やっぱり卸したデザートクラブを、買いに行ったか)」

 目を細めレラとアレナリアを怪しんで見るカズ。
 二人は自然と目線を反らし、ハルチアの所に行った事実を知られないように誤魔化そうとする。

「何か、隠してる?」

「全然してない」

「そうそう。隠し事なんかしてないもん」

「……そう(これは行ったな)」

 気付かれてないと思い安堵する二人だったが、そんな訳がない。

「『カズのだんな』」

 珍しくに馬の『ホース』が気になる事があったらしく、カズに話し掛けてきた。
 今更ながら名前がホースって、いったい誰に付けられただと、初めて聞いた時にカズは思っていた。
 しかし深く考えてもしょうがないと、その事には触れずスルーしていた。
 そんなホースと話すため、カズは馬車を降りながら聞き返した。

「どうしたの?」

「『あれを』」

 ホースが顔を向けた先に、砂煙がモウモウと上がり迫って来ているのが見えた。
 カズは【マップ】で砂煙が上がる方を確認した。
 すると先程まで離れていたモンスターの反応が二手に別れ、片方が自分達の居る方へ向かって来ているのが分かった。

「どうしたんですか? カズさん」

 急に馬車を降りたカズを気にして、ビワが声を掛けた。

「どうしてなんだか、群れの半分がこっちに向かって来てるんだよ」

 カズの言葉を聞き、レラとアレナリアが馬車から顔を出し、モウモウと上がる砂煙の元を目を凝らし見る。
 数体のデザートクラブが砂上を移動してくるのが見えると、レラとアレナリアは喜んだ。

「あのなぁ、モンスターが向かって来てるんだぞ。なんで笑ってるんだよ」

「だってほら、カニがあんなに。これでお腹いっぱい……じゅるり」

「私は何もしてないわよ。向こうから襲って来るんだから、倒すのは仕方ないわよね。あれだけあれば、かなり持つわ……ごくり」

 本音を漏らしながらよだれ垂らす二人を、冷ややかな目で見るカズ。
 そんなやり取りをしている間に、モウモウと砂煙を上げている存在が、すぐそこまで来ていた。
 馬車を視界にとらえたデザートクラブは、ガチガチと大きなハサミを閉じたり開いたりして、音を立てながら迫る。

「ほらカズ。やっちゃって!」

「安心してカニをゲットして。レラもビワも馬車も私が守るから」

「ハァー……分かった」

 カズは馬車から離れて、迫るデザートクラブに向かう。
 カズに気付いた五体のデザートクラブが、大きなハサミで挟みにかかる。
 するりとその攻撃をかわすと、今度は四体のデザートクラブが砂中から姿を現し、大きなハサミを叩き付けてくる。

「〈ライトニングバースト〉」

 広げた右手を上へとあげて魔法を放つ。
 四方八方に飛んだ電撃は、カズの周囲に居るデザートクラブを襲う。

「こそこそと、そっちには行かせない〈アースハンド〉」

 倒れ動かなくなった九体のデザートクラブをよそに、砂中を移動して馬車に迫る二体のデザートクラブを、砂で出来た巨大な手が掴み出し、高くへと放り上げる。

「加減して〈ファイヤーストーム〉」

 放り上げられたデザートクラブを、炎の渦が包み込む。
 高火力の炎からデザートクラブが砂上にドスンと落ちると、程好く焼かれ香ばし匂いが漂う。

「これを夕食にすれば、二人も満足だろう」

 群から離れたデザートクラブを全て倒たカズは、それらを全て回収して皆の所に戻った。
 香ばしく焼かれデザートクラブの足を、カズは一本だけ切り取っておいた。
 それを人数分に切り分け、減った小腹を満たしてから馬車を進める。
 その日の夕食は、二人が所望したデザートクラブカニを多く振る舞ってやった。
 レラとアレナリアはお腹いっぱい食べると、馬車疲れの不満も吹き飛び、満足した様子で眠りについた。


 珍しく風の弱い深夜、焚き火を絶やさないようにしているカズの元に、毛布を羽織ったビワが馬車を降りてきた。

「カズさん……」

「眠れないの?」

「はい……なんたが目が覚めちゃって」

「その寒冷耐性がある指輪をしてても、馬車の外に出ると冷えるから、焚き火の近くに」

「はい」

 ビワはカズの横に座った。

「今夜は星がよく見えます」

「いつもは風避けに壁を作ってるから、馬車を出ないとよく見えないんだよね。これからは星が見えるように、少し壁を低くしようか」

「私達が安心して寝れるように作ってくれてるんですから、今までと同じで大丈夫です」

「そう」

 二人はしばし黙って、星が瞬く夜空を見上げる。

「ねぇビワ」

「はい?」

「気を使わないでいいから」

「私…足を引っ張っるだけで……この旅に出て自分の無力さを実感しました」

「ビワは自分に出来る事をしてるじゃい。あの二人を見てて分かるでしょ。アレナリアは暑いからって、ろくに手伝いもしないし、レラは殆ど食べるか寝てるだけだしさ。オアシスの街を出てからは、少しは手伝えって言ったのに、結局はビワに任せっきりで」

「私は楽しいです。カズさんと一緒に皆のごはんを作れて。本当に…迷惑ではないですか」

「迷惑?」

「故郷かどうかも分からない場所を目指して…私なんかを……。ここまで来て今更ですよね。もうオリーブ王国を出てしまったのに。私、奥様が調べてくださった好意を無駄にしたくなくて……。カズさんならきっと……。勝手なこと言ってごめんなさい」

 焚き火の揺らめく火を見ながら、憂鬱ゆううつな顔をするビワ。

「迷惑なんてことはない。マーガレットさんに頼まれたからって訳でもない。ビワが自分自身の事を知る為に、勇気を出して旅に出たんだから。俺はそれに応えたかったんだ。駄目だったかな?」

「駄目……じゃないです。ありがとうカズさん。目的地に着くまでに、自分の過去を思い出せるようにします」

「無理しないで。なんでも話してくれていいから。目的地に着いても、ビワがまだ自分を探すと言うなら、付き合うから。別に急ぐ旅でもないからさ。俺は」

「はい。……ありがとう(旅に出て良かった)」

 顔を上げて焚き火から夜空に目を移し、笑顔で涙ぐむビワだった。
 カズがビワの笑った横顔を見て、ホッと安心する。
 トンっ、とビワがカズの肩に寄り掛かかる。
 カズはそっとビワを見ると、微笑んだままスゥスゥと眠ってしまっていた。
 ビワを抱き上げて馬車へと運び寝かせて、カズはいつものように焚き火の側に戻り眠た。
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