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追われる者
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深夜、ある山の森の中、草の中を早く静かに駆ける足音一つ、少女は何かから逃れて、走っていた
周りには誰も居ない、姿すら確認出来ない、それでも走っていた、何から逃れているのか、分かっているのは当人だけだった
もうどれだけ走ったのか、何時間なのかそれすら分からない程。そのうちそれの影響、疲労からか足がもつれて雑草の一面に倒れて滑った
泣き言等言わない、ただ、その場で数十秒息だけ整え、再び飛び上がる様に立ち、また走った
そうする理由は次の出来事で判明する。少女が走り出した先、鼻先に何かが飛んできて木に突き刺さった
「飛びクナイ」
「?!」声も挙げず少女は飛び退ってより障害物「盾」の多い森の奥へ方向転換する
森を駆け、山を登る、だがその先でも彼女を追う者に追い詰められる。両者一定の距離で対峙して姿を晒した
「どこまでも逃げれるものではない‥諦めよ‥」
彼女を追って来た者、彼はそう言った。全身黒尽くめ、明らかに「忍」である
「それでも、私は‥」少女はそれには答えないただ只管逃げるしかなかった
彼は忍者刀独特の直刀を抜いた
「その意思はいい、だが、それなら俺を斬って逃れよ」
彼女はその言にも答えない
「嫌です‥もう、誰も斬りたくない!」
「我侭を言うな、あれもこれも嫌、等通じんよ」
そう言って彼は跳び掛かり、剣を袈裟に斬った。それをかわし、後ろに逃れる少女
自分に武器が無い訳では無い、だが、何も使わなかった。しかし何時までも避けれる訳でもないが、少女には「アテ」があった
真っ暗闇の月すら無い夜、ここは彼女の「能力の発揮為所」だった、耳で、肌、でそれを確かめた
彼の剣を下がってかわし、同時、大きく後ろに跳んだ少女は剣を顔を反らしてかわしつつ、闇の中に姿を消した
彼には分かって居た「ム!?」と攻めていた彼が逆に下がって間を取る
しかし、それは想像したのとは違った、闇の中「バシャ!」という水音がする
少女は山の道、崖から外れ、跳んで下の川に飛び込んで逃れたのだ
「‥あくまで、戦わぬ‥という事か‥」
彼は山道の崖に寄って下を見た、が、もう少女の姿は無かった‥
「無茶をする‥高さも、深さも、流れも分からん川に飛び込んで逃れるとは‥」
そう言って、背を向けた
「いや、‥分かっているのか‥「そういう才能の持ち主」だからな‥」
兎に角少女は追ってから逃れた、一方彼は仕切りなおしだが、不愉快そうにはしていなかった
体感、時間の概念が死んでいた、川の深さ、流れの速さから流れの中で石等に当らぬように必死だった、それ故である
どうにか流れの緩やかになった所で岸に上がり四つんばいのまま
「ガハッ!」と自ら飲んだ水を吐き出して、倒れ、体を仰向けにひっくり返して呼吸を整えた。意識があったのはそこまでだった
少女が目を覚ました時、布服のベットと布団に寝かされていた、ハッとして体を起こすが、まだ、自由が利かない
思わず「クッ!」と声が出る、体には手当ての跡、自分の手持ちの荷物も無かった。咄嗟に刀を探して周囲を見回すがそこで声が掛かった
「荷物なら後ろだ」と
それを聞いて思わずビクッとして相手を見た
「手当てするのに邪魔だったんでね、外させて貰った」
それを聞いて相手が善意の者、自分を手当てしてくれたのだと気がつき謝意を述べた
「も、申し訳ありません‥恩人に対して‥」
相手は背の高いサムライ、中性的な面持ちと、優しさを佇ませた、空気を持っていた
「何構わんよ、そうせざる得ない事情あっての事だろう」
場所は少女が上がった岸からそう遠くない開けた草地、彼は一種キャンプの様な物を張って生活していたようだ
「翠です」
「京だ」
「兎に角、もう少し寝ていろ、かなり疲労が蓄積されている」
「はい、有り難う御座います」
安心したのか数日振りに深い眠りに着いた、そこから目が覚めたのはまる一日経った翌日昼頃であったろうか
両者は火を囲んで話した、川で釣ったと思われる魚が焼かれていて、それを差し出した
「腹減ってるだろ、たくさんあるから食え」
「あ、有り難う御座います、食事まで‥」
と申し訳無さそうに言いつつ、盛大に鮎を7匹食った、睡眠どころかまともな物も口にしていなかったからだ。食べきって、冷静になって、また頭を下げた
「す、すみません!1人でガツガツ‥」
「何、構わんよ、どうせ釣ってきたもんだ、タダだしな」
一旦落ち着いた所を見計らって事情を聞いた
「で、何でこんな所で行き倒れに」
「は‥」
翠は一瞬戸惑った事情が事情だけにだが間髪いれず京は言ってそれを話させた
「小刀、クナイ、色米‥持ち物から見て、忍者だろうなぁ‥」
そう見抜かれると黙っては居られなかった、まして彼は恩人でもある、話すのが筋だとも思った
「ハイ‥お察しの通り、忍です‥任務を放棄して、逃げてきました‥」
「何故?」
「人を‥斬れなくなったのです‥」
「と言うと、人斬りの仕事か」
「はい、暗殺‥です」
「まだ、若いのにな‥」
「は‥私にはその才能があった故です‥また、拾って貰った、そういう借りがあったので‥」
「つまり追っ手は、元、味方という事か」
「左様です‥」
「抜け忍は許さぬ、か、時代錯誤な事だ、しかし腕に自信があるなら、倒して逃れればよかろうに」
「刀を向けられない相手、が、追っ手故に‥」
「そうか‥まあいい、もう少し休んでから行け」
京はそう言って沸かした茶瓶と器を出した
「薬湯だ」
「はい」
「京様は、何故この様な山奥に?」
「野宿、この時期は実りが多い、薬草なんかもよく取れるからな」
「薬学知識が御有りで‥しかし、薬師には」
「趣味と実益、だな、まあ、剣士でもあるが」
「成程」
「で、斬れなくなったとは、どういう事だ?」
「いえ、それは‥」
「ふむ、なら、私の心に留めて置こう」
京は翠が言いにくかった理由も勿論了解していた。だからそう言って促した
「はい、ある小家の娘の暗殺でした、潜入して寝首を掻く、ですが、目の前まで行って、刀を振り上げて‥動けなかったのです」
「それは?」
「私と‥いえ、私より幼い子でした‥どうしても、殺せなかった。それで、逃げてきました」
「なるほどな」
「情けない、と思いますか‥」
「いいや、私も殺生は好かん、癒す業もやっているだけに別に恥とは思わぬがね」
彼は剣士でもある、だから愚かしいと思われるかと思いそう言った、だが違った
「人斬り、というのも簡単ではない、特に誰かを失った者にとっては難しい事だ、それを知ったのは悪い事ではない」
「しかし、私はそれを生業として居る者‥やはり情けないです‥」
ああ、そういう両端のせめぎあいがあるのだな、と京も思ったが、それに一度躊躇いを覚えた者には簡単に割り切れるモノでもない、それも事実である
「まあ、いいさ、逃れるにしても、もう少し、体力の回復を待て、でなければそれも果せん」
「はい、すみません‥」
京の言に翠も従って再び休んだ
翠は目だけ閉じて横になり、体を休めた、夕方近くに成り、パッと起きて身支度を整えた、そのまま京の元へ行き座ってから頭を下げた
「本当に有り難う御座いました、私は行きます、もう直ぐ夜に成りますので」
「そうか、降りた所に小さい町がある」
「はい‥」
そう言って立った。そのまま振り返って背を向けて
「何れかならず、このご恩に報いたいと思います‥」
京は、そういう翠の意思を流した
「気にする事では無いさ、偶々私が拾っただけ。まず、自分が生きる事を考えよ」と
「重ね重ね‥」翠は頭をもう一度下げて歩き出した
翠はそのまま「町がある」と言われた為、獣道の緩やかな下り道を降りた
「人が多い」方がまぎれ易いというのもあった。彼女が10分程、早足で歩き、広間の様な平地に出た所で正面右の森の中から声を掛けられた
「別れの挨拶は済んだか?翠‥」と
見る必要も無い「追っ手」である、思わず身構え、背中腰の小刀に手を掛ける、だが抜けなかった
ゆっくりと相手は立ちはだかる様に前に出て刀を抜いて構えた
「覚悟を決めよ、戦うのか、死ぬのか」
そこでも翠は躊躇った、しかし、刀に手を掛け抜いた
「どちらもするつもりもありません、は、通じないんですね、義兄様」
ようやく決めたか、それを確認して言った
「お前なら、戦って勝つ事は難しくなかろう‥」
そうして二人は対峙する、だが、そこへ二人に声が掛かり何かが飛び出してくる。一瞬二人は戸惑って離れた
「まて!」とその間に京が踊り込み、制した
「京様!何故?!」
京は手をかざして止めつつ言った
「狙うなら「1人に成った時」だと思ったからね、付いて来て正解だった」
「な!?」
三者共、時間が止まった様に動けなかった
それを破って京が問いかけた
「無意味な事は止めよ、斬り合って何になる?」
京のその言が不愉快だったのか、相手は
「無意味と感じるのはお前だけだ、これは「掟」だ」
「それがくだらんと言っている」
「何?」
「お前は義兄と呼ぶ相手を斬るのが使命か?それで満足か」
「‥どう思おうとソチラの勝手だ」
彼は前にジリっと出た、それを迎撃するように京も刀に手をかけ、牽制する
だがそれを翠は止める、当然だこの二人が斬り合う理由も無い
「良いのです、京様が戦う意味こそ有りません!私が‥!」
そういって翠は服を引っ張るが
「自分が死んで丸く収まれば良い、等と言うのではあるまいな?翠」
「!?」
「第一、斬れぬ、と言ったお前がまともに戦えるのか?」
「だ、だからと言って‥代わりにやる必要など‥!」
「いいや、その命は私が拾ったものだ、易々と捨てられては困る」
「?!」
京はそう言って、彼女の手を離して相手と対峙した。背中越し言って翠を離した
「どうせ捨てて良い命なら、私に預けてみよ‥覚悟の無い御主がやるより、まだ、マシだろう」
図星だった、斬る事を躊躇う自分が、まともにやりあえる訳は無い。ましてあの義兄に勝てるなど思っては居なかった。何も言えず、翠は引くしかなかった
そして京の自信有りげな姿、頼って見ようと思わせる物があった、だから引いて任せた
それを見て義兄はやる気だった
前傾姿勢で刀を片手に構える
一方京は右手を軽く添えたまま抜かず。体を背中が見える程横にやはり前傾姿勢に
誰が見ても分かる、所謂「居合い」である。長柄の細い長刀、その距離と射程を見せない
「この様な野戦で居合いとは」そう心で言った
彼にとっては優位な状況、と思った。あれだけ長い刀では「喧嘩戦」では崩しやすかった
それを裏付ける様に、前に踏み込むと同時に空いた左手で、クナイを顔面目掛けて打った。別に当らなくてもいい「バランスを崩させれば」
京はそれを体を傾けてかわし、反撃に移ろうとした、しかし、相手はその隙に潜り込み、距離を詰めた「抜くに不自由な距離」それを作れればよかっただけだ
「やられた?!」誰もがそう思う場面だろう、だが弾かれて武器を失ったのは相手だった
「な?!」
右手の激痛と共に、武器を払い飛ばされた。二手目が来る、咄嗟に飛び退いて距離を取ろうとしたが。跳んだ所へ胴への横斬りを打ち込まれて後ろに転がって倒れた
上半身を起こして、相手は京を見た、がそのまま意識を失って仰向けに倒れた
一体何が起きたのか?それは翠にも疑問だった
「何故あの状況から‥」そう誰に問うでもなく口にした
「柄打ち」さ」
京のそれを聞いて合点した。武器射程の違いから密着して戦おうとした義兄、それは成功し、京が抜き難い状況を作った
だが、京は抜かずその長い柄を打撃武器として。彼の片手持ちの右手に打ち込んで忍者刀を落とさせた。そして飛び退いた所へ腹部への追い討ちの斬りで倒した
勝った、が、義兄は斬られた、複雑な心境である
それを見て京は抜いた刀を翠の目前に置いて見せた
「切れはせんよ、私のは真剣じゃないんでね」と
「?!」
「打撃刀、竹光だよ」
「な?!じゃあ!」
「ああ、死にはせん」
「何故?‥」
「殺生は嫌いでね」
そう、初めから京は「殺さぬ為」の武器しか持って居ない、そして、その為の「様々な技」なのである
「とは言え、問題はこの先だな」
「先?」
「うむ、翠、御主の髪を切ってよこせ」
それが意味不明だったのか怪訝な顔を見せたが、考えあっての事であるのも明白、それに素直に従って小太刀を抜いて、後ろに束ねた髪をバッサリ自分で切った
「これで宜しいですか?」
「うむ、これを束ねて」と京はその長い髪を紙に包んで仕舞った後
倒れている義兄の体を起こし背中を押して目を覚まさせる
「ぐ‥」と小さく声をあげ、痛みのある腹を押さえて体を折り曲げた。その腹を背後から京はさすって診た
「当て所も完璧だ、骨に異常無い」
「貴様‥何のマネだ‥」
「大怪我でも困るんでね、お前さんには戻って報告して貰わねばならん」
「どういう意味だ‥」
そこで京は立ってから先ほど用意した髪の束を渡した
「翠の髪を切って纏めてある、それを持って帰れ。そして上に「任務は果した」と報告すればよい」
「!」
その言には流石に驚いた様で、即座
「‥こんな小手先のごまかしが通用するとでも?」
「さあね、けど、殺さずに済むなら、賭けてみるのも悪くないのでは?」
「‥」
「御主も「妹」という立場の人間を殺したくは無かろう?ま、少なくとも時間稼ぎにはなろう」
「フ‥、一理ある、か」
「上手く行くか、は、分からんが試してみたらどうだ」
「‥よかろう、だが、失敗したら別の者が任務を変わるだけの事」
「そうはならんよ」
「まあ、いいさ、お前の策に乗ってやろう‥」
彼はゆっくりと立ち上がり、刀を拾って収め、重い体を引きずる様に森に向かって歩き出した、一度止まって翠を見た
「翠」
「は、はい」
「達者でな、死ぬなよ‥」
「に、義兄様も‥」
たったそれだけ交わし、姿を消した。恐らく今生の別れであろう、だから翠は義兄の姿が見えなくなってもずっと見送って居た
「我々も一旦戻ろう、翠」
どれほど時間が経ったのか、京にそう、声を掛けられハッとして回りを見た際にはもう周囲は暗かった
「す、すいません」
思わず翠も謝罪したが京は微かに笑っていた
「荷物を置いてきてしまったからな」
そうして二人はそこを離れた
翌朝、荷物を纏めて、二人は出立する、緩やかな坂を下り、町へ向かった、そこで
「上手くいくでしょうか?」そう翠は呟いた
「コレばかりはなんとも、ただ、可能性は多い」
「それは?」
「追っ手、に何故、君の近しい者を充てたのか、そしてそれが1人だったのは何故か、良く考えれば、こうなる事を期待して、というのは考えられないかな?」
「成程‥」
「都合のいい解釈、ではあるけどね」
「いえ‥義兄は近しくは有りますが、技の師ではありません、まして私の技は隠密の物「武」に傾倒する兄を送るのは確かに、人選から不自然、しかもお互いとは言え「ためらい」も多い。当っているかもしれませぬ」
「希望的見解、過ぎるかな」
「だとしても、京様が言った通り、時間稼ぎ、にはなります」
「そうだな」
「それにしても‥」
「ん」
「京様の技は見事でした、義兄は武芸者としても一角の人物。それに剣で勝つとは‥」
「そうでもないさ‥私のは撹乱戦法、兵法戦の意味合いが強い、それにハマったというだけの事さ」
「そうなんでしょうか」
「うむ、向こうが居合いと信じて距離を詰めた事、それで大体決まっている」
「居合いが得手ではないので?」
「使えなくはない、が、刀身を見せない意味もある」
「あ、確かに‥」
「何しろ真剣ではないからな。尤も、こちらの策に嵌める「技」は複数あるがね、あれはその一つの戦法でしかない」
「‥」
「卑怯、と思うか」
「いえ、斬らずに勝つ‥素晴らしい事だと思います」
京は一旦目を伏せて間を取ってから言った
「私も君と同じなんだ」
「え?」
「殺生が嫌い、無論ある、が、殺せないのさ」
「では、その為にああした技を‥」
「そういう事だ」
二人はそこまで来て、山道の終わり、平地の街道に辿り着いた
「さて」と京が言った所で、翠は傅き
「お願いです京様、私も旅にお加えください」と
「‥‥ん‥何か、恩とかそういう物でも感じているのか?」
「当然です、二度救われたのです、それに忍が誰かに仕えるは自然な事です」
「気にする様な事でも無いんだがなぁ‥」
そう京は言って、それを断ろうとしたが。翠はテコでも動かない構えだった
「どうか!」とだけ言って動かなかった
「まあいいさ、1人旅よりは面白かろう‥来ればいい」
「ほ、本当ですか?!」
「ああ、ただ「様」は止めてくれよ」
「は、はい」
こうして京の旅が二人旅になるのであった。仲間、仕える者、という二人の思惑は当初違っていた、が後それは無くなる
さて、一方翠の髪を持って戻った彼はどうなったかというと
「任は果しました、証に髪をもいできました」
と頭を垂れたまま、包みを床に置いて差し出した。里の頭領は疑った風は見せなかった
「‥そうか‥ご苦労だった、下がって休め」とだけ言った
正直義兄からすれば(助かった‥)としか思わなかった。屋敷から彼が去った後、横に控えた妖艶な女性「胡蝶」が頭領に言った
「良いのですか?孤狼の奴、ウソを付いてますが」
孤狼、とは先ほどまで居た義兄の事である、そしてこの策は見抜かれていた
しかし「どちらでもいいのだよ」頭領はそう返して咎めなかった
「と言うと?」
「ヘタを打って翠が窮鼠と化して反撃してきたらどうする?」
「フフ‥成程‥」
「お前が止めてくれる、というなら追い込んでもいいが?」
「冗談‥翠に夜、勝てる者等この里には居りますまい?」
「そういう事だ」
「拾った宝、としては惜しくありますが‥」
「そうだな、だが「人斬り」ができぬ、等欠陥品には違いない」
「ご尤もで‥」
「だから孤狼が見逃した、というならそれでいいし倒したというならそれでいい、それだけの事」
「よく分かりました」
「この件は洩らすなよ」
「はい」
「ま、お前の言う通り、惜しくはあるが敵に回られるよりはいい」
「左様ですね、基礎中の基礎の業しか使えぬのにあれほどの力を発揮する者は、そう出ないでしょうね」
「うむ、忍び足、気殺、音切り、たったこれだけで誰も姿を掴めぬのだからな。だからこその人選ではあったが‥」
「所で、後の事が気掛かりですが」
「そうだな‥どこに拾われるかによっては、大事に成りかねん追調査を頼めるか?胡蝶」
「かしこまりました」
こうした「見逃された」事情あって、翠の「命の危険」は去り
京の一人旅が二人旅に成るのであった
周りには誰も居ない、姿すら確認出来ない、それでも走っていた、何から逃れているのか、分かっているのは当人だけだった
もうどれだけ走ったのか、何時間なのかそれすら分からない程。そのうちそれの影響、疲労からか足がもつれて雑草の一面に倒れて滑った
泣き言等言わない、ただ、その場で数十秒息だけ整え、再び飛び上がる様に立ち、また走った
そうする理由は次の出来事で判明する。少女が走り出した先、鼻先に何かが飛んできて木に突き刺さった
「飛びクナイ」
「?!」声も挙げず少女は飛び退ってより障害物「盾」の多い森の奥へ方向転換する
森を駆け、山を登る、だがその先でも彼女を追う者に追い詰められる。両者一定の距離で対峙して姿を晒した
「どこまでも逃げれるものではない‥諦めよ‥」
彼女を追って来た者、彼はそう言った。全身黒尽くめ、明らかに「忍」である
「それでも、私は‥」少女はそれには答えないただ只管逃げるしかなかった
彼は忍者刀独特の直刀を抜いた
「その意思はいい、だが、それなら俺を斬って逃れよ」
彼女はその言にも答えない
「嫌です‥もう、誰も斬りたくない!」
「我侭を言うな、あれもこれも嫌、等通じんよ」
そう言って彼は跳び掛かり、剣を袈裟に斬った。それをかわし、後ろに逃れる少女
自分に武器が無い訳では無い、だが、何も使わなかった。しかし何時までも避けれる訳でもないが、少女には「アテ」があった
真っ暗闇の月すら無い夜、ここは彼女の「能力の発揮為所」だった、耳で、肌、でそれを確かめた
彼の剣を下がってかわし、同時、大きく後ろに跳んだ少女は剣を顔を反らしてかわしつつ、闇の中に姿を消した
彼には分かって居た「ム!?」と攻めていた彼が逆に下がって間を取る
しかし、それは想像したのとは違った、闇の中「バシャ!」という水音がする
少女は山の道、崖から外れ、跳んで下の川に飛び込んで逃れたのだ
「‥あくまで、戦わぬ‥という事か‥」
彼は山道の崖に寄って下を見た、が、もう少女の姿は無かった‥
「無茶をする‥高さも、深さも、流れも分からん川に飛び込んで逃れるとは‥」
そう言って、背を向けた
「いや、‥分かっているのか‥「そういう才能の持ち主」だからな‥」
兎に角少女は追ってから逃れた、一方彼は仕切りなおしだが、不愉快そうにはしていなかった
体感、時間の概念が死んでいた、川の深さ、流れの速さから流れの中で石等に当らぬように必死だった、それ故である
どうにか流れの緩やかになった所で岸に上がり四つんばいのまま
「ガハッ!」と自ら飲んだ水を吐き出して、倒れ、体を仰向けにひっくり返して呼吸を整えた。意識があったのはそこまでだった
少女が目を覚ました時、布服のベットと布団に寝かされていた、ハッとして体を起こすが、まだ、自由が利かない
思わず「クッ!」と声が出る、体には手当ての跡、自分の手持ちの荷物も無かった。咄嗟に刀を探して周囲を見回すがそこで声が掛かった
「荷物なら後ろだ」と
それを聞いて思わずビクッとして相手を見た
「手当てするのに邪魔だったんでね、外させて貰った」
それを聞いて相手が善意の者、自分を手当てしてくれたのだと気がつき謝意を述べた
「も、申し訳ありません‥恩人に対して‥」
相手は背の高いサムライ、中性的な面持ちと、優しさを佇ませた、空気を持っていた
「何構わんよ、そうせざる得ない事情あっての事だろう」
場所は少女が上がった岸からそう遠くない開けた草地、彼は一種キャンプの様な物を張って生活していたようだ
「翠です」
「京だ」
「兎に角、もう少し寝ていろ、かなり疲労が蓄積されている」
「はい、有り難う御座います」
安心したのか数日振りに深い眠りに着いた、そこから目が覚めたのはまる一日経った翌日昼頃であったろうか
両者は火を囲んで話した、川で釣ったと思われる魚が焼かれていて、それを差し出した
「腹減ってるだろ、たくさんあるから食え」
「あ、有り難う御座います、食事まで‥」
と申し訳無さそうに言いつつ、盛大に鮎を7匹食った、睡眠どころかまともな物も口にしていなかったからだ。食べきって、冷静になって、また頭を下げた
「す、すみません!1人でガツガツ‥」
「何、構わんよ、どうせ釣ってきたもんだ、タダだしな」
一旦落ち着いた所を見計らって事情を聞いた
「で、何でこんな所で行き倒れに」
「は‥」
翠は一瞬戸惑った事情が事情だけにだが間髪いれず京は言ってそれを話させた
「小刀、クナイ、色米‥持ち物から見て、忍者だろうなぁ‥」
そう見抜かれると黙っては居られなかった、まして彼は恩人でもある、話すのが筋だとも思った
「ハイ‥お察しの通り、忍です‥任務を放棄して、逃げてきました‥」
「何故?」
「人を‥斬れなくなったのです‥」
「と言うと、人斬りの仕事か」
「はい、暗殺‥です」
「まだ、若いのにな‥」
「は‥私にはその才能があった故です‥また、拾って貰った、そういう借りがあったので‥」
「つまり追っ手は、元、味方という事か」
「左様です‥」
「抜け忍は許さぬ、か、時代錯誤な事だ、しかし腕に自信があるなら、倒して逃れればよかろうに」
「刀を向けられない相手、が、追っ手故に‥」
「そうか‥まあいい、もう少し休んでから行け」
京はそう言って沸かした茶瓶と器を出した
「薬湯だ」
「はい」
「京様は、何故この様な山奥に?」
「野宿、この時期は実りが多い、薬草なんかもよく取れるからな」
「薬学知識が御有りで‥しかし、薬師には」
「趣味と実益、だな、まあ、剣士でもあるが」
「成程」
「で、斬れなくなったとは、どういう事だ?」
「いえ、それは‥」
「ふむ、なら、私の心に留めて置こう」
京は翠が言いにくかった理由も勿論了解していた。だからそう言って促した
「はい、ある小家の娘の暗殺でした、潜入して寝首を掻く、ですが、目の前まで行って、刀を振り上げて‥動けなかったのです」
「それは?」
「私と‥いえ、私より幼い子でした‥どうしても、殺せなかった。それで、逃げてきました」
「なるほどな」
「情けない、と思いますか‥」
「いいや、私も殺生は好かん、癒す業もやっているだけに別に恥とは思わぬがね」
彼は剣士でもある、だから愚かしいと思われるかと思いそう言った、だが違った
「人斬り、というのも簡単ではない、特に誰かを失った者にとっては難しい事だ、それを知ったのは悪い事ではない」
「しかし、私はそれを生業として居る者‥やはり情けないです‥」
ああ、そういう両端のせめぎあいがあるのだな、と京も思ったが、それに一度躊躇いを覚えた者には簡単に割り切れるモノでもない、それも事実である
「まあ、いいさ、逃れるにしても、もう少し、体力の回復を待て、でなければそれも果せん」
「はい、すみません‥」
京の言に翠も従って再び休んだ
翠は目だけ閉じて横になり、体を休めた、夕方近くに成り、パッと起きて身支度を整えた、そのまま京の元へ行き座ってから頭を下げた
「本当に有り難う御座いました、私は行きます、もう直ぐ夜に成りますので」
「そうか、降りた所に小さい町がある」
「はい‥」
そう言って立った。そのまま振り返って背を向けて
「何れかならず、このご恩に報いたいと思います‥」
京は、そういう翠の意思を流した
「気にする事では無いさ、偶々私が拾っただけ。まず、自分が生きる事を考えよ」と
「重ね重ね‥」翠は頭をもう一度下げて歩き出した
翠はそのまま「町がある」と言われた為、獣道の緩やかな下り道を降りた
「人が多い」方がまぎれ易いというのもあった。彼女が10分程、早足で歩き、広間の様な平地に出た所で正面右の森の中から声を掛けられた
「別れの挨拶は済んだか?翠‥」と
見る必要も無い「追っ手」である、思わず身構え、背中腰の小刀に手を掛ける、だが抜けなかった
ゆっくりと相手は立ちはだかる様に前に出て刀を抜いて構えた
「覚悟を決めよ、戦うのか、死ぬのか」
そこでも翠は躊躇った、しかし、刀に手を掛け抜いた
「どちらもするつもりもありません、は、通じないんですね、義兄様」
ようやく決めたか、それを確認して言った
「お前なら、戦って勝つ事は難しくなかろう‥」
そうして二人は対峙する、だが、そこへ二人に声が掛かり何かが飛び出してくる。一瞬二人は戸惑って離れた
「まて!」とその間に京が踊り込み、制した
「京様!何故?!」
京は手をかざして止めつつ言った
「狙うなら「1人に成った時」だと思ったからね、付いて来て正解だった」
「な!?」
三者共、時間が止まった様に動けなかった
それを破って京が問いかけた
「無意味な事は止めよ、斬り合って何になる?」
京のその言が不愉快だったのか、相手は
「無意味と感じるのはお前だけだ、これは「掟」だ」
「それがくだらんと言っている」
「何?」
「お前は義兄と呼ぶ相手を斬るのが使命か?それで満足か」
「‥どう思おうとソチラの勝手だ」
彼は前にジリっと出た、それを迎撃するように京も刀に手をかけ、牽制する
だがそれを翠は止める、当然だこの二人が斬り合う理由も無い
「良いのです、京様が戦う意味こそ有りません!私が‥!」
そういって翠は服を引っ張るが
「自分が死んで丸く収まれば良い、等と言うのではあるまいな?翠」
「!?」
「第一、斬れぬ、と言ったお前がまともに戦えるのか?」
「だ、だからと言って‥代わりにやる必要など‥!」
「いいや、その命は私が拾ったものだ、易々と捨てられては困る」
「?!」
京はそう言って、彼女の手を離して相手と対峙した。背中越し言って翠を離した
「どうせ捨てて良い命なら、私に預けてみよ‥覚悟の無い御主がやるより、まだ、マシだろう」
図星だった、斬る事を躊躇う自分が、まともにやりあえる訳は無い。ましてあの義兄に勝てるなど思っては居なかった。何も言えず、翠は引くしかなかった
そして京の自信有りげな姿、頼って見ようと思わせる物があった、だから引いて任せた
それを見て義兄はやる気だった
前傾姿勢で刀を片手に構える
一方京は右手を軽く添えたまま抜かず。体を背中が見える程横にやはり前傾姿勢に
誰が見ても分かる、所謂「居合い」である。長柄の細い長刀、その距離と射程を見せない
「この様な野戦で居合いとは」そう心で言った
彼にとっては優位な状況、と思った。あれだけ長い刀では「喧嘩戦」では崩しやすかった
それを裏付ける様に、前に踏み込むと同時に空いた左手で、クナイを顔面目掛けて打った。別に当らなくてもいい「バランスを崩させれば」
京はそれを体を傾けてかわし、反撃に移ろうとした、しかし、相手はその隙に潜り込み、距離を詰めた「抜くに不自由な距離」それを作れればよかっただけだ
「やられた?!」誰もがそう思う場面だろう、だが弾かれて武器を失ったのは相手だった
「な?!」
右手の激痛と共に、武器を払い飛ばされた。二手目が来る、咄嗟に飛び退いて距離を取ろうとしたが。跳んだ所へ胴への横斬りを打ち込まれて後ろに転がって倒れた
上半身を起こして、相手は京を見た、がそのまま意識を失って仰向けに倒れた
一体何が起きたのか?それは翠にも疑問だった
「何故あの状況から‥」そう誰に問うでもなく口にした
「柄打ち」さ」
京のそれを聞いて合点した。武器射程の違いから密着して戦おうとした義兄、それは成功し、京が抜き難い状況を作った
だが、京は抜かずその長い柄を打撃武器として。彼の片手持ちの右手に打ち込んで忍者刀を落とさせた。そして飛び退いた所へ腹部への追い討ちの斬りで倒した
勝った、が、義兄は斬られた、複雑な心境である
それを見て京は抜いた刀を翠の目前に置いて見せた
「切れはせんよ、私のは真剣じゃないんでね」と
「?!」
「打撃刀、竹光だよ」
「な?!じゃあ!」
「ああ、死にはせん」
「何故?‥」
「殺生は嫌いでね」
そう、初めから京は「殺さぬ為」の武器しか持って居ない、そして、その為の「様々な技」なのである
「とは言え、問題はこの先だな」
「先?」
「うむ、翠、御主の髪を切ってよこせ」
それが意味不明だったのか怪訝な顔を見せたが、考えあっての事であるのも明白、それに素直に従って小太刀を抜いて、後ろに束ねた髪をバッサリ自分で切った
「これで宜しいですか?」
「うむ、これを束ねて」と京はその長い髪を紙に包んで仕舞った後
倒れている義兄の体を起こし背中を押して目を覚まさせる
「ぐ‥」と小さく声をあげ、痛みのある腹を押さえて体を折り曲げた。その腹を背後から京はさすって診た
「当て所も完璧だ、骨に異常無い」
「貴様‥何のマネだ‥」
「大怪我でも困るんでね、お前さんには戻って報告して貰わねばならん」
「どういう意味だ‥」
そこで京は立ってから先ほど用意した髪の束を渡した
「翠の髪を切って纏めてある、それを持って帰れ。そして上に「任務は果した」と報告すればよい」
「!」
その言には流石に驚いた様で、即座
「‥こんな小手先のごまかしが通用するとでも?」
「さあね、けど、殺さずに済むなら、賭けてみるのも悪くないのでは?」
「‥」
「御主も「妹」という立場の人間を殺したくは無かろう?ま、少なくとも時間稼ぎにはなろう」
「フ‥、一理ある、か」
「上手く行くか、は、分からんが試してみたらどうだ」
「‥よかろう、だが、失敗したら別の者が任務を変わるだけの事」
「そうはならんよ」
「まあ、いいさ、お前の策に乗ってやろう‥」
彼はゆっくりと立ち上がり、刀を拾って収め、重い体を引きずる様に森に向かって歩き出した、一度止まって翠を見た
「翠」
「は、はい」
「達者でな、死ぬなよ‥」
「に、義兄様も‥」
たったそれだけ交わし、姿を消した。恐らく今生の別れであろう、だから翠は義兄の姿が見えなくなってもずっと見送って居た
「我々も一旦戻ろう、翠」
どれほど時間が経ったのか、京にそう、声を掛けられハッとして回りを見た際にはもう周囲は暗かった
「す、すいません」
思わず翠も謝罪したが京は微かに笑っていた
「荷物を置いてきてしまったからな」
そうして二人はそこを離れた
翌朝、荷物を纏めて、二人は出立する、緩やかな坂を下り、町へ向かった、そこで
「上手くいくでしょうか?」そう翠は呟いた
「コレばかりはなんとも、ただ、可能性は多い」
「それは?」
「追っ手、に何故、君の近しい者を充てたのか、そしてそれが1人だったのは何故か、良く考えれば、こうなる事を期待して、というのは考えられないかな?」
「成程‥」
「都合のいい解釈、ではあるけどね」
「いえ‥義兄は近しくは有りますが、技の師ではありません、まして私の技は隠密の物「武」に傾倒する兄を送るのは確かに、人選から不自然、しかもお互いとは言え「ためらい」も多い。当っているかもしれませぬ」
「希望的見解、過ぎるかな」
「だとしても、京様が言った通り、時間稼ぎ、にはなります」
「そうだな」
「それにしても‥」
「ん」
「京様の技は見事でした、義兄は武芸者としても一角の人物。それに剣で勝つとは‥」
「そうでもないさ‥私のは撹乱戦法、兵法戦の意味合いが強い、それにハマったというだけの事さ」
「そうなんでしょうか」
「うむ、向こうが居合いと信じて距離を詰めた事、それで大体決まっている」
「居合いが得手ではないので?」
「使えなくはない、が、刀身を見せない意味もある」
「あ、確かに‥」
「何しろ真剣ではないからな。尤も、こちらの策に嵌める「技」は複数あるがね、あれはその一つの戦法でしかない」
「‥」
「卑怯、と思うか」
「いえ、斬らずに勝つ‥素晴らしい事だと思います」
京は一旦目を伏せて間を取ってから言った
「私も君と同じなんだ」
「え?」
「殺生が嫌い、無論ある、が、殺せないのさ」
「では、その為にああした技を‥」
「そういう事だ」
二人はそこまで来て、山道の終わり、平地の街道に辿り着いた
「さて」と京が言った所で、翠は傅き
「お願いです京様、私も旅にお加えください」と
「‥‥ん‥何か、恩とかそういう物でも感じているのか?」
「当然です、二度救われたのです、それに忍が誰かに仕えるは自然な事です」
「気にする様な事でも無いんだがなぁ‥」
そう京は言って、それを断ろうとしたが。翠はテコでも動かない構えだった
「どうか!」とだけ言って動かなかった
「まあいいさ、1人旅よりは面白かろう‥来ればいい」
「ほ、本当ですか?!」
「ああ、ただ「様」は止めてくれよ」
「は、はい」
こうして京の旅が二人旅になるのであった。仲間、仕える者、という二人の思惑は当初違っていた、が後それは無くなる
さて、一方翠の髪を持って戻った彼はどうなったかというと
「任は果しました、証に髪をもいできました」
と頭を垂れたまま、包みを床に置いて差し出した。里の頭領は疑った風は見せなかった
「‥そうか‥ご苦労だった、下がって休め」とだけ言った
正直義兄からすれば(助かった‥)としか思わなかった。屋敷から彼が去った後、横に控えた妖艶な女性「胡蝶」が頭領に言った
「良いのですか?孤狼の奴、ウソを付いてますが」
孤狼、とは先ほどまで居た義兄の事である、そしてこの策は見抜かれていた
しかし「どちらでもいいのだよ」頭領はそう返して咎めなかった
「と言うと?」
「ヘタを打って翠が窮鼠と化して反撃してきたらどうする?」
「フフ‥成程‥」
「お前が止めてくれる、というなら追い込んでもいいが?」
「冗談‥翠に夜、勝てる者等この里には居りますまい?」
「そういう事だ」
「拾った宝、としては惜しくありますが‥」
「そうだな、だが「人斬り」ができぬ、等欠陥品には違いない」
「ご尤もで‥」
「だから孤狼が見逃した、というならそれでいいし倒したというならそれでいい、それだけの事」
「よく分かりました」
「この件は洩らすなよ」
「はい」
「ま、お前の言う通り、惜しくはあるが敵に回られるよりはいい」
「左様ですね、基礎中の基礎の業しか使えぬのにあれほどの力を発揮する者は、そう出ないでしょうね」
「うむ、忍び足、気殺、音切り、たったこれだけで誰も姿を掴めぬのだからな。だからこその人選ではあったが‥」
「所で、後の事が気掛かりですが」
「そうだな‥どこに拾われるかによっては、大事に成りかねん追調査を頼めるか?胡蝶」
「かしこまりました」
こうした「見逃された」事情あって、翠の「命の危険」は去り
京の一人旅が二人旅に成るのであった
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