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京
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まだ都道府県が旧国名であった時代の日本。幕府が開かれ、それなりの年月、徳川政権前期頃の話しである
出雲の山近くの町、腹をすかせて立ち寄った飯屋で雑炊と漬物をがっついて食っていた
大きな背負い荷物に帯刀、あまり綺麗では無い、いでたちからサムライでは無く浪人であろうと思われた。本来ならあまり話しかけたく無い様な相手だが、そのお店のお膳を運んできた娘は話しかけた
「お侍さん見ない顔だね」と
そうした理由は単純、浪人は背が高くスラッとした体型、歳も若く顔も端正で中性的、中々の美男子であったからだ
「お侍、ではないがね、浪人、旅の者さ」
「そうかい、どこへ行くんだい?」
「特に何処と言う事もないね、日銭を稼いでは移動、そんな所さ」
「どんな稼ぎを?」
「そうだなぁ、薬を売ったり、読み書きを教えたり、かな」
「なら、この先の山寺に行ってみるといいよ、寺子屋をやっている」
「道場の類はあるかい?」
「ああ、町の東、外れに‥」
「判った有り難う」
浪人は立って、テーブルに勘定を置いて、荷物を担ぐ
「あんた名前は?」
「‥天谷 京」そう名乗って店を出た
「村と町の中間くらいかな、さてどうしたものか」
「道場があるなら行って見るのも面白い、今の所路銀はあるしなぁ」
町を見回しながら歩き独り言を続ける
しばらくそれが続いた後、おそらくそれが道場であろうという広さだけはそこそこある家に辿り着く
看板には「相馬道場」とあり、間違い無い事を確かめた、広い事は広い、が、あまり小奇麗とは言えない
人数はそこそこ居るようだ20~くらいは開かれた道場にて汗を流している
「あんまり強そうに見えない」が、御免と声を掛けとりあえず見学する事にした
それが別に珍しい事でも無いらしく、特にそれを気にする様子も無く 黙々と鍛錬に励む一同
そのうち道場の家の者と思われる娘が庭から見学する京の下に寄り
「見学ですか?」と声を掛けた
「お構いなく」そう返したが
「どうぞ、中へ」それでも言われたので上がって座りそれを続けた
どうやら先客、京と同じ立場の者が居り、並んで座る
(うーん、特にどこがどうという物でもないか‥)
実際見て、そう感じたのだが、来てそのまま直ぐに帰るのも不敬かと思いそのまましばらく見学を続けた
そのうち道場主らしき高齢の男が京らを一度見てから、一同に休憩をさせ、話しかける
「サムライのようだが、せっかくだから参加してはどうか?手を合わせてみるのもよかろう」
そういわれるが「いえ、拙者は」とまず隣に居た、同じ見学者の客が言い
「私も‥」京も言いたかったが、先に言われた為仕方なしなし立った
「では、軽く一度だけ‥」
そうしてそれを受けた、結果「一度」では無かったが
木刀で門下生と対峙したが、一度目の試合は一手だった。相手の上段に構えた振り下ろしの斬りをかわした後、剣を叩いて落とし終わらせる
「ほう‥」と声が挙がるが、二戦目、三戦目も
相手が打とうとする「斬り」に合わせて武器を払い落とさせ、あっさり終わる
別に道場破りの類ではないので、そのまま礼をして下がって終わらせた
相手と特に揉める事も無く「良い勉強になりました」と比較的和やかに終わる、見学に来た一同、道場を後にした
外に出て町に戻ろうかと考えていた所で同席していた「客」に声を掛けられる
「面白い技を使うな、一杯やりながら聞かせてくれないか」
そう言われて、別に断る理由も無く、特に目的があるわけでもない為同意して町に戻る
京も背が高いがその男は更に大きい、常に口の端に笑みを作っている様な男で歳の頃は二十台後半
京とは逆に「男らしい」いかにも浪人と言ったやはり小奇麗ではない男だ、彼は、十倉 慶次と名乗った
「正直、酒を嗜む趣味は無いのだが」
「奢りだ、気にするな」
「そういう問題ではなかろう‥」
移動の間にも、軽く雑談するがただ単に誘ったのではない、という所を見せられる
「変わった刀を使う、居合い術か、の割りに迎撃戦法の様だが」
京の帯刀している大刀、柄が異常に長く細めな所からそう聞いたのだろう
「力のある方ではないのでね、色々工夫している内、こうなった」
「ほう‥どこの剣術だ?」
「技自体は兄に習った物、それを自分なりに改良して自己流になった」
「珍しいな‥いや、今日日は珍しくはないか」
二人は適当な店に入った後、注文し、座った
「えらい大荷物だな、何をしている」
「旅、これは殆ど商売道具だな、薬草、茶なんかを煎じている」
「ほう、薬学知識があるのか」
「子供の頃、病が多くてね、自然、そうなった、無論習いはしたが」
「なるほどね、どうりで細い手をしている訳だ」
「御主に比べたらそうかもな」
「ハハ、まったく」
「これでも、意外に売れるし、路銀稼ぎには役立っている」
「苦労の跡が見れるな」
「で、そっちは」
「俺は単なる浪人者、特に目的は無いがね」
「こっちもだ」
「俺は南、だな」
「こっちは東、だな」
「そりゃ残念だ、一緒に、という訳にはいかんか」
「むさ苦しいだけだろ」
「まあ、そうかもな」
「で、そっちは何の剣術を?」
「ん、ああ、新陰流だ、とは言え、俺も相当自己流になってるが」
「いいんじゃないか?別に師になる訳でもなかろうし、そもそも人の事は言えんからな」
「違いない」
まるで正反対の見た目と性格に見えるがこの二人は不思議と気があった、正反対だけにとも言えるかもしれない
「幾日かはここに居るつもりだが」
「私もだ」
「ならどこか宿でも取るか?」
「うーん‥あまり泊った事がないんだが‥」
「どういう生活なんだ」
「大抵野宿かどっか宿付きの仕事」
「だったら付き合え、宿なら二人で別ける必要もなかろう」
「浪人、て割には羽振りがいいようだな」
「お前程貧乏旅じゃないからな」
1人部屋に二人というついでもあるが、そう言う事なら効率的ではある、それに慶次は京程貧乏ではなさそうだ
結局ずうずうしくもそれを受ける事になる、と言ってもどちらも「寝に帰る」だけの物になったが
京はその中でも「路銀稼ぎ」は続けた
主に読み書きの教え、薬剤を売ったり、医者に掛かれない者への低額診療等である
この時代の「医者」はそもそも余り信用も知名度もない上、診療代も言い値である事が多く、貧乏人はまず医者に掛かれない為、そういった者への診療をする事になる
「うーん、どこぞの寺かそれなりの家の出か?」と慶次も思ったがそれを追求する程野暮ではない
そう思った理由は単純、そこそこの家か寺の者、学者類で無い限り、そう言った専門知識を学ぶ等ほぼ無い事
読み書きが達者、京の見た目がどこぞかの役者かぼっちゃんの様な、端正で一見華奢な事。
となれば当然それなりの家の出であると思うのは自然な事ではあった
一方、滞在の期間、相馬の道場にも顔を出した。これと言った面白い物がある町でも無く、要するに暇にかまけてと、最初に伺った際の好感があった為でもある
こうした交流もあって道場での怪我人の類も診る様になり。狭い町での名が挙がっていく事にもなった
メリットは宿代や食事代をおまけして貰った事だろうか、実に有り難い事だ10日程過ぎた頃
「あまり儲かっている、という感じではないな」
二人で茶屋で団子を食いながら慶次は言った
「まあね、けどまぁ、別に大金が必要って訳ではないからな、普段は山に入ったりするしな」
「オイオイ‥」
「そう、可笑しな事でもないぞ?時期にも寄るが、薬草や実りがアテに出来るし、何しろタダだ」
「なんだか仙人みたいだな‥というより、低額で仕事しすぎだろうに」
「まあ、いいんじゃないか?、金銭以上に得られる物もある」
「たしかにそれはあるな」
言いつつ「金銭以上に」でおまけで出されたくし団子を食った
「ま、それにだ、移動しているだけに行商の様な事も出来るからな中々面白いぞ?」
「ふむ‥たしかに効率的ではあるな、どうせあちこち回っている訳だし」
「そういう事だ」
二人は茶を啜って間食と会話を終えた。そこへ、二人に遠くから声が掛かる
「京様ー!、慶次様ー!」
道の向こうからそう叫びならが駆けて来る女性。相馬道場の娘だ。どうも何か慌てた様子、何事かと思ったがそれは想像に易い
「どうした大怪我でも出たか?」
そう聞いたとおり、京に頼りであればそれしかない、が半分当りであった
「お力をお貸しください!‥道場破りが‥」
「怪我人が出たか?」
「腕と‥頭を‥」
それを聞き京は荷物を背負い立った
「判った向かおう、先に戻れ」
「は、はい!お願いします」
娘が走って戻ったのを見送った後、道場へ向かおうとする京
「全く重傷者を出すとはマトモな奴じゃないな‥」
「しょうがない、俺も行くか」
「御主の出番があるとは思えんが‥」
「まるで無視も出来んだろう、一応知った相手だ」
「判った行くぞ」
と京も慶次も駆ける
二人が相馬道場についた時には既に怪我人が5人に増えていた、即、上がりこんで怪我を見る京
二人はどうという事は無いケガだったが残り三人は重症、左前頭部の出血。左前腕部の骨折、左鎖骨、これも恐らく骨折だろう
それら原因を作った相手「道場破り」をチラっと見た
背は京より少し低いが、体格が良く、目つきが鋭い、木刀を右片手にだらりと下げて持ち、嘲笑するような笑みだ
怪我人の状態からも見て判ったが、強烈な一撃、右袈裟振りを使う相手だろう。だが、今はそれより手当てが先決である
骨折には添え木、がっちり布で押さえ、動かさない様に指示して寝かせ、頭の傷、これはパックリと割れて流血して居た為
血を拭って押さえ、軟膏を傷に埋める様にして流血を防いでこれも寝かせる
「どうした?もう相手が居ないのか!」
そう言われ、道場主は立つが、一同は不安でもある、道場主は高齢だ
京も慶次も同じ感想だった、初見からの印象で力も把握していただけに、正直「荷が重い」と言わざる得ない
これは流石にと思ったのか、落ちている木刀を拾い慶次が立つが京がそれを止めた
「なんだ?」
「悪いが代わってくれ、私がやる」
そう言って止めたのだ
やる気になっていた慶次には不快だったろうか、そうでは無かった彼は笑って京に譲って、木刀を差し出した
何時も笑っている様に見えるが、この時は口の端の笑みが少々大きかった
「いいけどよ、だが、強いぞアレ」
「判ってる」
そう短く答えて、京は剣を受け取って前に出た
道場の一同「ザワ」となる、緊張感、自分らの代わりに彼が受けた事に、だが相手はそれも構わない、どうせ、全部倒すつもりだった
対峙して睨みあう
「お前は?」
「道場の関係者だ、京という」
「大木 平蔵」
相手は木刀を上にかかげるように構えた。一方、京は中段からやや下、床に向けるように
京は我流に近い技だけに変わっている、相手は明らかに示現流の流れを受け継いでいると思われる構え
「成程、負傷の具合から見てもそうだろうな‥」
実際体験しなくても判る、門下生の被弾の傷、構え、強烈且つ早い右上段打ち、問題なのは「どの程度の速さ」なのかだ
相手がすり足で一歩出る、京は合わせて下がる、向こうのやる事は判っている、だからだ
故に敢えて向こうの射程の届くか届かないかの距離を維持する
そうしたやり取りが5度続いた後、大木はその距離を詰めるように大きく前に出て剣を振り下ろす
じれて前に飛び込んだのだ。それに付き合わず、京は大きく横に跳んで空振りさせた向き直って構えなおす、両者
相手は不愉快だったようだ、平静を装っているが眉間にシワが寄った
一方、京はここで優位を取った
構えを更に崩し、両手持ちから左片手持ちに変え、右肩を後ろに移動半身の構えで次を待つ
「何の真似だ‥?」とも思ったろう
だが、京からは仕掛けない、大木から一撃目と同じく仕掛ける、そういう「武」「先手取り」だからだ
略同じタイミングで相手は上から下への切り下ろし
京は片手で切り上げる。その一撃で決着はついた
大木の持っていた木刀は床を転がった。同時「グ‥」と声を挙げて大木は蹲った右手を押さえる
相手の振り下ろした、剣を握る手に剣を軽く返して武器を落とさせた、強い一撃である必要は無い、軽く合わせるだけでも強烈な痛みだ
それだけ、でもない「棒を握る指」に当てた、恐らく指の骨が折れた
その予想は当った、押さえている右手、の中指と薬指がだらんとしていた、当然の結果だろう、全力で振る手に当てて止めただけだ、軽く合わせただけでも強烈な被弾になる
余りの苦痛に暫く動けなかった、数分はそうしていただろうか、そしてそれが多少収まった後彼は立って言った
「俺の負けだ‥」と
それだけ言って背を向けて外に歩き、そのまま去った
彼が去ったのを確認してから
「お見事、だったな」そう慶次は声を掛け
「有り難う御座います、助かりました」
道場の一同も謝意を述べた
「治療のついで‥かなぁ」
「ほんとに面白い奴だ、全部小手うちで勝つとはね」
「ま、運が良かった、まともに当ったら厳しい」
「そうかねぇ」
「そうさ、戦う前に技が分かった、空振りを一回見せてくれた、これだけで大分有利だったからね」
そう言った通り、狙いは単純、それを達成する道筋も明確だった
怪我人は全員中心線から左側の負傷。相手は常に上段からの構え、容易に右上段袈裟斬りと分かる
更に誘って、から打ちをさせ、速度とタイミングを見た、後は京の手持ちの武器「技」を合わせるだけだった
「何にしても、これでアイツも当分何も出来まい」
「しばらく箸も持てんな」
「うむ」
「では、戻るとするか」
「ああ」
京は手当てした一同に細かい指示を出し安静にするよう伝えてから町へ戻った
一同はずっと頭を下げて何度も礼をしていた、手当てのハズが用心棒まがいの事までさせてしまったのだから。それ自体みっともない話しではある
だが「道場」としているが、実際は町の素人や若者に基礎剣術を教えているだけで元から、手合わせ、道場破りの類を撃退できる程の事では無い
そういう所に挑みかかる相手もマヌケとも言えるが、やりようからして「大した相手でない者を叩きのめしたいだけ」であったのだろう
尤も、それで京に指を折られ返したのだから、手痛いしっぺ返しと言えたろうか、あるいはその程度で済んだ、とも居えるだろうか
「俺なら叩き殺してるがな」
「殺生はいかん」
「剣士が何を言ってるのか‥やっぱりお前坊主か何かだろ」
「そうではないが‥」
と京と慶次が言ったとおりでもある
あのような状況でも尚、小手うちで済ませてくれる相手等そうは居ないだろう、本来なら袋叩きにあっても文句は言えない事態ではあろう
それから数日、朝
京と十倉は町の出入り口で、別れの時となった
「方向が別ではな」
「そうだな、ま、運がよければまたどこかで会えるだろう」
「ああ」
そう交わした後、例の道場主の娘が駆けて来る
「お待ちください!」
「どうした?」
「旅に出られると聞きまして、せめて、と思いまして」
紙に包んだ銭を渡した
「このくらいしか出来ませんが、旅のお役に‥」
「ん、あー‥」
差し出された金を断ろうとも思ったが一度迷って受け取った
「ありがたく貰っておくよ」
「はい、また、立ち寄ってください、お待ちしております」
「ああ、では」
どちらも「もう少し」と言いたい所だがそれをするとズルズルいくことも分かっていた、だからそう短く答えて打ち切った
娘が去るのを見送ってから二人は歩き出した
「しかしなんだな、あの道場大丈夫かね」
「心配なら残ったらどうだ?十倉殿」
「俺も用事があるんでね、そう長く居る訳にもいかん」
「まあ、大丈夫だろう、例の道場破りも、負けたところにまた来る程暇じゃない」
「二、三ヶ月はまともに剣は振るえんだろう、とは思うが」
「だろうな、とは言え、これ以上は向こうの問題でもある」
「うむ」
「さて、じゃあ、この辺で」
「ああ、またどこかで」
とだけ言って二人も分かれ、其々の進むべき道に戻って行った
まだ、日が沈むと肌寒い春の事である
出雲の山近くの町、腹をすかせて立ち寄った飯屋で雑炊と漬物をがっついて食っていた
大きな背負い荷物に帯刀、あまり綺麗では無い、いでたちからサムライでは無く浪人であろうと思われた。本来ならあまり話しかけたく無い様な相手だが、そのお店のお膳を運んできた娘は話しかけた
「お侍さん見ない顔だね」と
そうした理由は単純、浪人は背が高くスラッとした体型、歳も若く顔も端正で中性的、中々の美男子であったからだ
「お侍、ではないがね、浪人、旅の者さ」
「そうかい、どこへ行くんだい?」
「特に何処と言う事もないね、日銭を稼いでは移動、そんな所さ」
「どんな稼ぎを?」
「そうだなぁ、薬を売ったり、読み書きを教えたり、かな」
「なら、この先の山寺に行ってみるといいよ、寺子屋をやっている」
「道場の類はあるかい?」
「ああ、町の東、外れに‥」
「判った有り難う」
浪人は立って、テーブルに勘定を置いて、荷物を担ぐ
「あんた名前は?」
「‥天谷 京」そう名乗って店を出た
「村と町の中間くらいかな、さてどうしたものか」
「道場があるなら行って見るのも面白い、今の所路銀はあるしなぁ」
町を見回しながら歩き独り言を続ける
しばらくそれが続いた後、おそらくそれが道場であろうという広さだけはそこそこある家に辿り着く
看板には「相馬道場」とあり、間違い無い事を確かめた、広い事は広い、が、あまり小奇麗とは言えない
人数はそこそこ居るようだ20~くらいは開かれた道場にて汗を流している
「あんまり強そうに見えない」が、御免と声を掛けとりあえず見学する事にした
それが別に珍しい事でも無いらしく、特にそれを気にする様子も無く 黙々と鍛錬に励む一同
そのうち道場の家の者と思われる娘が庭から見学する京の下に寄り
「見学ですか?」と声を掛けた
「お構いなく」そう返したが
「どうぞ、中へ」それでも言われたので上がって座りそれを続けた
どうやら先客、京と同じ立場の者が居り、並んで座る
(うーん、特にどこがどうという物でもないか‥)
実際見て、そう感じたのだが、来てそのまま直ぐに帰るのも不敬かと思いそのまましばらく見学を続けた
そのうち道場主らしき高齢の男が京らを一度見てから、一同に休憩をさせ、話しかける
「サムライのようだが、せっかくだから参加してはどうか?手を合わせてみるのもよかろう」
そういわれるが「いえ、拙者は」とまず隣に居た、同じ見学者の客が言い
「私も‥」京も言いたかったが、先に言われた為仕方なしなし立った
「では、軽く一度だけ‥」
そうしてそれを受けた、結果「一度」では無かったが
木刀で門下生と対峙したが、一度目の試合は一手だった。相手の上段に構えた振り下ろしの斬りをかわした後、剣を叩いて落とし終わらせる
「ほう‥」と声が挙がるが、二戦目、三戦目も
相手が打とうとする「斬り」に合わせて武器を払い落とさせ、あっさり終わる
別に道場破りの類ではないので、そのまま礼をして下がって終わらせた
相手と特に揉める事も無く「良い勉強になりました」と比較的和やかに終わる、見学に来た一同、道場を後にした
外に出て町に戻ろうかと考えていた所で同席していた「客」に声を掛けられる
「面白い技を使うな、一杯やりながら聞かせてくれないか」
そう言われて、別に断る理由も無く、特に目的があるわけでもない為同意して町に戻る
京も背が高いがその男は更に大きい、常に口の端に笑みを作っている様な男で歳の頃は二十台後半
京とは逆に「男らしい」いかにも浪人と言ったやはり小奇麗ではない男だ、彼は、十倉 慶次と名乗った
「正直、酒を嗜む趣味は無いのだが」
「奢りだ、気にするな」
「そういう問題ではなかろう‥」
移動の間にも、軽く雑談するがただ単に誘ったのではない、という所を見せられる
「変わった刀を使う、居合い術か、の割りに迎撃戦法の様だが」
京の帯刀している大刀、柄が異常に長く細めな所からそう聞いたのだろう
「力のある方ではないのでね、色々工夫している内、こうなった」
「ほう‥どこの剣術だ?」
「技自体は兄に習った物、それを自分なりに改良して自己流になった」
「珍しいな‥いや、今日日は珍しくはないか」
二人は適当な店に入った後、注文し、座った
「えらい大荷物だな、何をしている」
「旅、これは殆ど商売道具だな、薬草、茶なんかを煎じている」
「ほう、薬学知識があるのか」
「子供の頃、病が多くてね、自然、そうなった、無論習いはしたが」
「なるほどね、どうりで細い手をしている訳だ」
「御主に比べたらそうかもな」
「ハハ、まったく」
「これでも、意外に売れるし、路銀稼ぎには役立っている」
「苦労の跡が見れるな」
「で、そっちは」
「俺は単なる浪人者、特に目的は無いがね」
「こっちもだ」
「俺は南、だな」
「こっちは東、だな」
「そりゃ残念だ、一緒に、という訳にはいかんか」
「むさ苦しいだけだろ」
「まあ、そうかもな」
「で、そっちは何の剣術を?」
「ん、ああ、新陰流だ、とは言え、俺も相当自己流になってるが」
「いいんじゃないか?別に師になる訳でもなかろうし、そもそも人の事は言えんからな」
「違いない」
まるで正反対の見た目と性格に見えるがこの二人は不思議と気があった、正反対だけにとも言えるかもしれない
「幾日かはここに居るつもりだが」
「私もだ」
「ならどこか宿でも取るか?」
「うーん‥あまり泊った事がないんだが‥」
「どういう生活なんだ」
「大抵野宿かどっか宿付きの仕事」
「だったら付き合え、宿なら二人で別ける必要もなかろう」
「浪人、て割には羽振りがいいようだな」
「お前程貧乏旅じゃないからな」
1人部屋に二人というついでもあるが、そう言う事なら効率的ではある、それに慶次は京程貧乏ではなさそうだ
結局ずうずうしくもそれを受ける事になる、と言ってもどちらも「寝に帰る」だけの物になったが
京はその中でも「路銀稼ぎ」は続けた
主に読み書きの教え、薬剤を売ったり、医者に掛かれない者への低額診療等である
この時代の「医者」はそもそも余り信用も知名度もない上、診療代も言い値である事が多く、貧乏人はまず医者に掛かれない為、そういった者への診療をする事になる
「うーん、どこぞの寺かそれなりの家の出か?」と慶次も思ったがそれを追求する程野暮ではない
そう思った理由は単純、そこそこの家か寺の者、学者類で無い限り、そう言った専門知識を学ぶ等ほぼ無い事
読み書きが達者、京の見た目がどこぞかの役者かぼっちゃんの様な、端正で一見華奢な事。
となれば当然それなりの家の出であると思うのは自然な事ではあった
一方、滞在の期間、相馬の道場にも顔を出した。これと言った面白い物がある町でも無く、要するに暇にかまけてと、最初に伺った際の好感があった為でもある
こうした交流もあって道場での怪我人の類も診る様になり。狭い町での名が挙がっていく事にもなった
メリットは宿代や食事代をおまけして貰った事だろうか、実に有り難い事だ10日程過ぎた頃
「あまり儲かっている、という感じではないな」
二人で茶屋で団子を食いながら慶次は言った
「まあね、けどまぁ、別に大金が必要って訳ではないからな、普段は山に入ったりするしな」
「オイオイ‥」
「そう、可笑しな事でもないぞ?時期にも寄るが、薬草や実りがアテに出来るし、何しろタダだ」
「なんだか仙人みたいだな‥というより、低額で仕事しすぎだろうに」
「まあ、いいんじゃないか?、金銭以上に得られる物もある」
「たしかにそれはあるな」
言いつつ「金銭以上に」でおまけで出されたくし団子を食った
「ま、それにだ、移動しているだけに行商の様な事も出来るからな中々面白いぞ?」
「ふむ‥たしかに効率的ではあるな、どうせあちこち回っている訳だし」
「そういう事だ」
二人は茶を啜って間食と会話を終えた。そこへ、二人に遠くから声が掛かる
「京様ー!、慶次様ー!」
道の向こうからそう叫びならが駆けて来る女性。相馬道場の娘だ。どうも何か慌てた様子、何事かと思ったがそれは想像に易い
「どうした大怪我でも出たか?」
そう聞いたとおり、京に頼りであればそれしかない、が半分当りであった
「お力をお貸しください!‥道場破りが‥」
「怪我人が出たか?」
「腕と‥頭を‥」
それを聞き京は荷物を背負い立った
「判った向かおう、先に戻れ」
「は、はい!お願いします」
娘が走って戻ったのを見送った後、道場へ向かおうとする京
「全く重傷者を出すとはマトモな奴じゃないな‥」
「しょうがない、俺も行くか」
「御主の出番があるとは思えんが‥」
「まるで無視も出来んだろう、一応知った相手だ」
「判った行くぞ」
と京も慶次も駆ける
二人が相馬道場についた時には既に怪我人が5人に増えていた、即、上がりこんで怪我を見る京
二人はどうという事は無いケガだったが残り三人は重症、左前頭部の出血。左前腕部の骨折、左鎖骨、これも恐らく骨折だろう
それら原因を作った相手「道場破り」をチラっと見た
背は京より少し低いが、体格が良く、目つきが鋭い、木刀を右片手にだらりと下げて持ち、嘲笑するような笑みだ
怪我人の状態からも見て判ったが、強烈な一撃、右袈裟振りを使う相手だろう。だが、今はそれより手当てが先決である
骨折には添え木、がっちり布で押さえ、動かさない様に指示して寝かせ、頭の傷、これはパックリと割れて流血して居た為
血を拭って押さえ、軟膏を傷に埋める様にして流血を防いでこれも寝かせる
「どうした?もう相手が居ないのか!」
そう言われ、道場主は立つが、一同は不安でもある、道場主は高齢だ
京も慶次も同じ感想だった、初見からの印象で力も把握していただけに、正直「荷が重い」と言わざる得ない
これは流石にと思ったのか、落ちている木刀を拾い慶次が立つが京がそれを止めた
「なんだ?」
「悪いが代わってくれ、私がやる」
そう言って止めたのだ
やる気になっていた慶次には不快だったろうか、そうでは無かった彼は笑って京に譲って、木刀を差し出した
何時も笑っている様に見えるが、この時は口の端の笑みが少々大きかった
「いいけどよ、だが、強いぞアレ」
「判ってる」
そう短く答えて、京は剣を受け取って前に出た
道場の一同「ザワ」となる、緊張感、自分らの代わりに彼が受けた事に、だが相手はそれも構わない、どうせ、全部倒すつもりだった
対峙して睨みあう
「お前は?」
「道場の関係者だ、京という」
「大木 平蔵」
相手は木刀を上にかかげるように構えた。一方、京は中段からやや下、床に向けるように
京は我流に近い技だけに変わっている、相手は明らかに示現流の流れを受け継いでいると思われる構え
「成程、負傷の具合から見てもそうだろうな‥」
実際体験しなくても判る、門下生の被弾の傷、構え、強烈且つ早い右上段打ち、問題なのは「どの程度の速さ」なのかだ
相手がすり足で一歩出る、京は合わせて下がる、向こうのやる事は判っている、だからだ
故に敢えて向こうの射程の届くか届かないかの距離を維持する
そうしたやり取りが5度続いた後、大木はその距離を詰めるように大きく前に出て剣を振り下ろす
じれて前に飛び込んだのだ。それに付き合わず、京は大きく横に跳んで空振りさせた向き直って構えなおす、両者
相手は不愉快だったようだ、平静を装っているが眉間にシワが寄った
一方、京はここで優位を取った
構えを更に崩し、両手持ちから左片手持ちに変え、右肩を後ろに移動半身の構えで次を待つ
「何の真似だ‥?」とも思ったろう
だが、京からは仕掛けない、大木から一撃目と同じく仕掛ける、そういう「武」「先手取り」だからだ
略同じタイミングで相手は上から下への切り下ろし
京は片手で切り上げる。その一撃で決着はついた
大木の持っていた木刀は床を転がった。同時「グ‥」と声を挙げて大木は蹲った右手を押さえる
相手の振り下ろした、剣を握る手に剣を軽く返して武器を落とさせた、強い一撃である必要は無い、軽く合わせるだけでも強烈な痛みだ
それだけ、でもない「棒を握る指」に当てた、恐らく指の骨が折れた
その予想は当った、押さえている右手、の中指と薬指がだらんとしていた、当然の結果だろう、全力で振る手に当てて止めただけだ、軽く合わせただけでも強烈な被弾になる
余りの苦痛に暫く動けなかった、数分はそうしていただろうか、そしてそれが多少収まった後彼は立って言った
「俺の負けだ‥」と
それだけ言って背を向けて外に歩き、そのまま去った
彼が去ったのを確認してから
「お見事、だったな」そう慶次は声を掛け
「有り難う御座います、助かりました」
道場の一同も謝意を述べた
「治療のついで‥かなぁ」
「ほんとに面白い奴だ、全部小手うちで勝つとはね」
「ま、運が良かった、まともに当ったら厳しい」
「そうかねぇ」
「そうさ、戦う前に技が分かった、空振りを一回見せてくれた、これだけで大分有利だったからね」
そう言った通り、狙いは単純、それを達成する道筋も明確だった
怪我人は全員中心線から左側の負傷。相手は常に上段からの構え、容易に右上段袈裟斬りと分かる
更に誘って、から打ちをさせ、速度とタイミングを見た、後は京の手持ちの武器「技」を合わせるだけだった
「何にしても、これでアイツも当分何も出来まい」
「しばらく箸も持てんな」
「うむ」
「では、戻るとするか」
「ああ」
京は手当てした一同に細かい指示を出し安静にするよう伝えてから町へ戻った
一同はずっと頭を下げて何度も礼をしていた、手当てのハズが用心棒まがいの事までさせてしまったのだから。それ自体みっともない話しではある
だが「道場」としているが、実際は町の素人や若者に基礎剣術を教えているだけで元から、手合わせ、道場破りの類を撃退できる程の事では無い
そういう所に挑みかかる相手もマヌケとも言えるが、やりようからして「大した相手でない者を叩きのめしたいだけ」であったのだろう
尤も、それで京に指を折られ返したのだから、手痛いしっぺ返しと言えたろうか、あるいはその程度で済んだ、とも居えるだろうか
「俺なら叩き殺してるがな」
「殺生はいかん」
「剣士が何を言ってるのか‥やっぱりお前坊主か何かだろ」
「そうではないが‥」
と京と慶次が言ったとおりでもある
あのような状況でも尚、小手うちで済ませてくれる相手等そうは居ないだろう、本来なら袋叩きにあっても文句は言えない事態ではあろう
それから数日、朝
京と十倉は町の出入り口で、別れの時となった
「方向が別ではな」
「そうだな、ま、運がよければまたどこかで会えるだろう」
「ああ」
そう交わした後、例の道場主の娘が駆けて来る
「お待ちください!」
「どうした?」
「旅に出られると聞きまして、せめて、と思いまして」
紙に包んだ銭を渡した
「このくらいしか出来ませんが、旅のお役に‥」
「ん、あー‥」
差し出された金を断ろうとも思ったが一度迷って受け取った
「ありがたく貰っておくよ」
「はい、また、立ち寄ってください、お待ちしております」
「ああ、では」
どちらも「もう少し」と言いたい所だがそれをするとズルズルいくことも分かっていた、だからそう短く答えて打ち切った
娘が去るのを見送ってから二人は歩き出した
「しかしなんだな、あの道場大丈夫かね」
「心配なら残ったらどうだ?十倉殿」
「俺も用事があるんでね、そう長く居る訳にもいかん」
「まあ、大丈夫だろう、例の道場破りも、負けたところにまた来る程暇じゃない」
「二、三ヶ月はまともに剣は振るえんだろう、とは思うが」
「だろうな、とは言え、これ以上は向こうの問題でもある」
「うむ」
「さて、じゃあ、この辺で」
「ああ、またどこかで」
とだけ言って二人も分かれ、其々の進むべき道に戻って行った
まだ、日が沈むと肌寒い春の事である
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