輪廻のモモ姫

園田健人(MIFUMI24)

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第一章 神生みの時代

月明かりでの対峙

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モモとスサノオは外に出て王宮の中庭まで歩くと、そこには一人の女性が月明かりの中、大きな岩に座って寛いでいた。不思議なのは、その女性を中心にして多くの動物たちが囲んでいるのである。
「あれは……ヨミではないか」
スサノオが動物たちを押し退け、ヨミという名の女性に近付いて声を掛けた。
「ヨミよ、ここでなにをしておる」
「ああ、スサノオ。ご機嫌麗しゅう」
「質問を誤魔化すでない。お主は俺たちが来るのを待っていたのか?」
「ははは、なかなか鋭いご指摘ですね」
ヨミはモモの姿を見てニコリと微笑んだ。
「そちらがナミの……どうりで勇ましい風格が感じられますな」
「ははあ、モモに興味があってここへ来たのだな。頭脳派のお主らしいわ」
ヨミは座っていた岩から立ち上がり、モモの前に歩み寄った。
「お初にお目に掛かります。私はスサノオの兄でヨミと申します」
兄という言葉を聞いてモモは目を丸くした。
「ええっ、お兄さんなの?私はてっきり女の人かと……」
「ああ、この見た目ならそう思われても仕方ありませんね。私の姉であるオカミの衣装を拝借しておりますので」
スサノオが憮然とした様子でヨミに向かって悪態を吐いた。
「ふん、そんな衣装では動き難いではないか、少しは武に励んだらどうじゃ!オカミを含め、俺の親族は強くなろうとする意志が欠けておる。そんなことでは国を守れないというのが分からんのか」
「いやはや、お耳に痛い忠告ですな」
スサノオは怒りの形相でヨミの胸ぐらを掴んだ。
「ふざけおって、その性根を叩き直してやろうか!」
「ち……ちょっと、止めなさいよ!」
モモが慌ててスサノオが止めようとすると、背後でブルルと獣の鳴く声が響いた。スサノオが振り向くと、そこには巨大な鹿が一頭、苛立たし気にこちらを睨んでいた。
「な、なんじゃこいつは!?」
「お止めなさいダイダラ。この人は私の弟ですよ」
ヨミは鹿の怒りを収めるため、近付いて頭を優しく撫でてみせた。
「ここに集まる動物たちは私を心から慕っておりますゆえ、攻撃的な素振りを見せるとこのようになってしまうのです。どうかお許しくださいませ」
「お……おう、そうか。危うく俺が返り討ちにするところじゃったわい」
強がるスサノオをモモは冷たい目で見ている。
「……さて、モモ殿。あなたの母君はナミで間違いないのですか?」
ヨミは鹿を撫でながらモモに尋ねた。
「そうだよ」
「では、こちらを訪れた理由をお聞きしたい」
「スサノオにも話したけど、ナギを倒すためにここへ来た」
そう言うとモモは肩を竦めながら話を続ける。
「だけどナギの姿を見たら興醒めしちゃった。あんな老体じゃ拳一発でぶっ飛ばせるからね。だからもう帰ろうかと思ってるんだ」
「ははは、それは手厳しい。あなたもナミと同じように、優れた武の素質を受け継いでいるのですね」
ヨミは目を細めながらモモを見つめると、彼女の淡い輝きを持つ鳶色の瞳に不思議な魅力を感じ始めていた。
(ふむ……言っていることに嘘はなさそうか)
ヨミはしばらく沈黙していたが、ようやく口を開くと「いいでしょう、お行きなさい」と一言だけ二人に告げた。
「言われんでもそうするわい。おいモモよ、こんなやつを相手にするだけ時間の無駄だ」
「……」
しかしモモはその場を離れずにヨミを睨んでいた。
「その言葉、信じていいんだね?」
「疑い深いですね、私は自分が言った言葉を守る男ですよ」
ヨミは相変わらず微笑みを浮かべている。スサノオはそんなヨミを無視するかのように二人を置いて中庭の外へと歩いて行ったが、それとは対照的にモモの足取りは慎重な様子だった。
「ああ、それから最後に一つだけ質問があります」
モモは背後から呼び止められ、思わずビクリと体を震わせた。
「スサノオの持っていた剣ですが、あれを手にした時に焔のようなものが立ちました。あれは一体なんですか?」
「ああそう、じゃああんたは剣に認められたってことだよ」
「……剣に認められた?」
「あの剣は王の資格を持つ者が手に取ると剣身に炎を纏うんだよ。その炎は宿主を求めて資格を持つ者に入り込むんだ」

そしてモモは不敵な笑みを浮かべながら「つまり、あんたは呪われたってこと」と言葉を残し、その場を去って行った。
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