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第二章

102ー閑話 レオン皇子

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「父上! 僕は大きくなったら冒険者になります! だから、大きくなったら廃嫡していただいて城を出ます!」
「「ええーーーッ!!」」

 フンスッ!! と、言った本人は大人達の慌て様を気にもせず、言ってやった!と、ばかりに鼻息も荒くまだ小さい胸を張って自慢気に立っています。

 この少年、将来ルルーシュアの婚約者となる帝国第3皇子レオン・ド・ペンドラゴン。
 まだお互い存在さえ知らない、現在8歳です。

「レオン殿下、どうしてあの様な事を!」

 帝国第3皇子レオン・ド・ペンドラゴン。少しフンワリしたアッシュブロンドの髪にスカイブルーの瞳の小さな小さな皇子様です。
 本人はとてもスッキリした顔で、城の中を自分の部屋を目指して弾む様に歩いています。先程の台詞を言ったのはこの小さな皇子の、小さな従者見習いです。
 レオン皇子殿下の1歳上、まだ9歳になったばかり。従者見習いのケイです。前髪にゴールドのメッシュが入った少しくすんだマロン色の髪の男の子です。

「ケイ、僕は城を出るんだ! 大きくなったら冒険者になって自由に暮らすんだ!」
「レオン殿下、何故急にその様な事を」

 この9歳の小さな従者見習いの男の子、歳の割にはかなり大人びている様です。特別な教育を受けている所為でしょうか?
 しかし、この小さな小さな皇子様のこの一言で、大人達は大慌てです。

「レオンは頑固だからな、アレはなると言ったら冒険者になるぞ」
「皇帝陛下、いくら第3皇子とは言え冒険者など!」
「宰相、では何かレオンの気を引ける様な事はあるのか?」
「いえ、全く…… 」
「レオンは5歳の時に流行り病で生死を彷徨ってから、変わったな」
「はい、別人の様です。勉学も鍛練もとても真面目に取り組んでおられます」
「以前はまだ小さかった事もあるのだろうが、ボーっとした末っ子だったのだが。今は生まれ順が遅かったのが悔やまれる」
「陛下、レオン殿下はまだ8歳です。今でも小さいお子様です」
「大きくなるまでに気が変わるとでも?」
「そうなれば宜しいかと」
「無理だな。アレは変わらんだろう」
「…… 」
「そうだ! 宰相、お前のところの孫娘はどうだ?」
「は? 孫娘は既に婚約者がおりますが?」
「違う、息子の方ではない。テレスの娘だ」
「レオン殿下より1歳下ですね。王国の王家にやるのは絶対に嫌だと逃げております」
「丁度良いではないか!」
「陛下……?」
「テレスはティシュトリアに嫁いだのだろう? それも丁度良いではないか! これからティシュトリアは重要になって来るぞ!」
「陛下、モーガン前王弟殿下に関わるからですか?」
「ああ、あの前王弟殿下が何故王位を継承しなかったのか残念ではあるが、あれの次男がティシュトリア領主だろう? テレスの夫だろう? ティシュトリアは変わるぞ」
「陛下、早速テレスに文を送ります」
「嫌、文だと遅いかも知れん。魔道具を使え。早急に連絡を取るのだ。レオンとテレスの娘を婚約させるぞ!」

 そうした大人の思惑を、知ってか知らずか二人の婚約は成されました。

「宰相殿!」

 廊下の向こうから、アッシュブロンドの髪を弾ませて小さな皇子様が駆けてきます。

「これはレオン殿下。どうなさいました?」
「宰相殿は今はお忙しいですか?」
「いえ、少し庭でも歩いて気分を変えようと思っていた所です」
「僕もご一緒してよろしいですか?」
「どうしました? ルルーシュアのお話ですか?」
「はい! またお聞かせくださいますか?」
「構いませんよ。庭を歩きながらお話しましょう」

 小さな皇子様は目をキラキラさせて、宰相の単なる孫娘自慢の話を熱心に聞いています。時にはビックリ目になり、時には宰相と二人お腹を抱えて大笑いしながら。そうして時は過ぎていきます。

 俺はレオン・ド・ペンドラゴン。帝国第3皇子だ。帝国内では、小さい頃に廃嫡を希望した変わり者と言われている。
 そんな俺には秘密がある。5歳の時に流行り病で生死を彷徨って気がついた時には前世を思い出していた。そう所謂転生者だ。しかもこの世界、前世の姉貴がハマっていた乙ゲーだと分かってからかなり落ち込んだ。
 だって、俺は1周目をクリアした後に出現する隠しキャラだと分かったからだ。
 2周目でゲームのラスト、婚約発表の時にヒロインを王国第2王子から掠奪するキャラだ。現実そんな事をしてみろ? 戦争になるっての。それ以前に、いくら可愛くても婚約破棄をやらかす様な令嬢とは、関わりたくないね。
 それに俺はこの乙ゲーのヒロイン、好きじゃないんだよ。如何にも! てヒロインは好きじゃない。面白くないじゃないか。
 だからよく考えた。考えて考えて、8歳の時に廃嫡を希望した。俺が皇子じゃなかったら関係ないだろうと。しかしそれは保留となり俺には婚約者が出来た。宰相の孫娘、ルルーシュア・ティシュトリアだ。
 話を聞けば聞く程、興味深い。唯の御令嬢ではない。
 例えば、俺が8歳の時に聞いた話しだ。
 令嬢は俺より1歳下だから7歳か。どこの世界に魔物を討伐する7歳の令嬢がいる? 普通じゃないだろう? いくら二人の兄と一緒だったとしてもだ。いや、この兄二人も凄いんだが。
 宰相の話では、コッコちゃんと令嬢が呼んでいる魔物に飛び蹴りを食らわせたらしい。とんでもないよな! しかも押さえつけて威圧を飛ばし捕らえて連れ帰ったそうだ。それを何頭もだ。連れ帰った理由が、卵が美味しいから食べたかった。面白過ぎるだろ! 卵だぞ! そんな令嬢聞いた事がない!
 それだけじゃない。農水路を作ったり、森から樹々を引き摺りながら取ってきたり。話を聞くだけで楽しくなるじゃないか! 早く会いたくて仕方がない!
 宰相が言うには「娘に似てとても美人だ」そうだ。まあ、それは二の次だ。

 最近また思い出した事がある。ルルーシュアと言う名前だ。
 前世の姉貴がハマっていた乙ゲーに出てくるじゃないか! どうして俺は忘れていたんだ! 乙ゲーでは第2王子の婚約者で、ヒロインを虐めたとして婚約破棄され国外追放される悪役令嬢だ。たしかめっちゃ美人だった筈。
 しかし、今世では第2王子の婚約者ではなく俺の婚約者だ。婚約破棄される卒業パーティーも、もう過ぎたが何も起こらない。どうなっているんだ?
 俺の婚約者だからヒロインを虐める理由がないか?

 俺は18歳になった。帝国の学院も無事優秀な成績で卒業し、鍛練もサボらずやってきたから、剣術もそこそこ強い。
 10年待ったんだ。最初に話を聞いて、会ってみたい! と申し出てから10年だ。行くぞ! 誰が何と言おうとルルーシュア嬢に会いに行く!

「レオン殿下! レオン殿下!」
「なんだケイ。止めても無駄だ。俺は行くぞ! もうティシュトリアに触れの文も出した」
「いつの間に! 一人で行かれるのはお辞め下さい! 私が着いて参ります!」
「来なくていいよ。俺一人で行く。大袈裟にしたくないんだ」
「しかし殿下!」
「あー、文を出すよ。魔道具も持って行くから大丈夫だ」
「陛下の許可はお取りになったのですか?」
「………… 」
「あ、殿下! 逃げないで下さい! 殿下!!」


「なんだと!? あの馬鹿! 私は何も聞いてないぞ!」
「陛下、申し訳ありません。お止めしたのですが、逃げられてしまいました」
「ケイ、本気で止めてはいないだろう?」
「…… 」
「ハァ……まあ良い。気が済んだら戻ってくるだろう。ケイ、あれは一人でティシュトリアに辿り着けるか?」
「はい。余裕ではないかと」
「そうか。まあ、10年我慢したのだ。あれにしてはよく我慢したわ」
「陛下、私も…… 」
「いや、良い。何かあれば魔道具で知らせてくるだろう。宰相、テレスに連絡してくれ。レオンが行ったとな。宜しく頼むと伝えてくれ」
「畏まりました」

 ここから、ルルーシュアとレオンの波瀾万丈な日々が始まります。
 フェンリルのモモに支えられ、鍛えられ、ルビを保護し、ピアと出会い、黄龍のドラゴンにまで気に入られます。
 ルルーシュアと着実に絆を作っていくレオン。この先の二人の日々も見守ってあげて下さい。
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