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第2章 朝5時にピンポン連打する金髪ネコ耳公務員さん
第35話 もし俺が赤い彗星のごときオギャ男だったら・・・
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「もう、トールってば。結婚について詳しくない年頃の女の子なんていませんよ」
「そうなのか?」
「特に結婚後に誰もがうらやむ円満かつ理想的な夫婦生活を送るためにも、数多ある先輩方の失敗事例から『予習』をしておくのは必要不可欠ですから」
「そんなもんか」
「そんなものです。じゃあトールの同意も得られたことでヒナギクさん、そういうことでお願いしますね」
「かしこまりました」
「おいこら今の会話のどこに同意があったんだ。エリカも上手いこと言って、さらっと既成事実化しようとするんじゃありません」
「押しても駄目なら、もういっそのこと既成事実化しちゃえ、みたいな?」
「そこはちゃんと引けよな!? エリートらしくちゃんと脳みそ使ってクレバーに論陣を張れよな!? エリートが強引にごり押ししてんじゃねぇ!」
「名将・野村克也氏――ノムサンは言いました、地位が人を作ると」
「なぜ急にノムサンが……?」
ちなみにノムサンとはヤクルト、阪神、楽天などで監督を歴任した名将だ。
「結婚すれば自然と、トールにも夫としての自覚が出てくるのではないでしょうか。まずは挑戦、ダメならやめればいいんです。レッツ・チャレンジ! イエス・ウィー・キャン!」
「まったくもう、ああ言えばこう言いやがる……」
「親密なコミュニケーションは夫婦円満の秘訣ですからね♪」
笑顔で言いながら、エリカは横に座った俺にぎゅっと抱き着いてくる。
柔らかな感触と人肌の温もりが、俺の心にするりと入ってきた。
あとエリカと会話するたびにひしひしと感じるんだけど、頭の回転の速さが俺とは違い過ぎるんだよな。
俺が何を言ってもピシャリと2割マシで返されるこの圧倒的な敗北感。
もう既に今の段階で、尻に敷かれている未来が既にはっきりと見えつつある俺だった。
「でもな? なんていうか俺としてはもっとこう精神的な掘り下げっていうか? 真摯に想い合う2人がデートとか同棲とかで少しずつ愛を深めていって、その最後の一歩としての一緒に住む――それが結婚ってもんだと俺は思うんだよな」
「ふふっ、トールさんは結構なロマンチストなんですね。ですがその意見にはわたくしも賛成ですわ。結婚とはやはり誰もが憧れるようなものでなくではなりませんわよね」
ここまで俺とエリカのアホな会話を静かに聞いてくれてたヒナギクさんが、ここでバブみすら感じさせるほどに包容力抜群の笑顔で、優しく合いの手を入れてきた。
もし俺が、無償の愛を注いでくれる母親という存在を求めてやまない赤い彗星のごときオギャ男だったとしたら。
もう完全に赤ちゃんに退行してしまっているな、間違いない。
しかし割と現実思考なエリカは言った。
「いいえトール、最近は昔と比べて離婚率も上がっていると聞きおよんでいます。これは結婚への意識が変わり、今までよりも気楽に結婚する人が増えているからではないでしょうか? 世の中、物は試しとも言いますし」
「残念ながら人間には2種類いるんだよ。明るく行動的でパーリーなピーポーと、慎重に慎重を期しながらなかなか動こうとしない根暗な人間だ。そして俺はどうしようもなく後者なんだ」
「そうですか。まったくもうトールは奥ゆかしい今どき男子ですね。それもまた素敵だと思いますよ」
「あはは、さすがにもう男子って年じゃないな」
一般的に30過ぎのおっさんを男子とは言わないだろう。
「それではお二人は現状、結婚を前提に同棲中であるという認識で話を勧めさせていただきますわね」
「まぁそれくらいなら……」
ヒナギクさんが絶妙な落としどころで見事この話を着地させてくれた。
さすが国家公務員、結論を得るのが早くて上手い。
「では戸籍については以上となります。次に住む場所ですが、引っ越しをしてもらおうと思っております」
「え? 引っ越し?」
しかし続いて飛び出たその言葉に、俺はおうむ返しに聞き返してしまった。
「そうなのか?」
「特に結婚後に誰もがうらやむ円満かつ理想的な夫婦生活を送るためにも、数多ある先輩方の失敗事例から『予習』をしておくのは必要不可欠ですから」
「そんなもんか」
「そんなものです。じゃあトールの同意も得られたことでヒナギクさん、そういうことでお願いしますね」
「かしこまりました」
「おいこら今の会話のどこに同意があったんだ。エリカも上手いこと言って、さらっと既成事実化しようとするんじゃありません」
「押しても駄目なら、もういっそのこと既成事実化しちゃえ、みたいな?」
「そこはちゃんと引けよな!? エリートらしくちゃんと脳みそ使ってクレバーに論陣を張れよな!? エリートが強引にごり押ししてんじゃねぇ!」
「名将・野村克也氏――ノムサンは言いました、地位が人を作ると」
「なぜ急にノムサンが……?」
ちなみにノムサンとはヤクルト、阪神、楽天などで監督を歴任した名将だ。
「結婚すれば自然と、トールにも夫としての自覚が出てくるのではないでしょうか。まずは挑戦、ダメならやめればいいんです。レッツ・チャレンジ! イエス・ウィー・キャン!」
「まったくもう、ああ言えばこう言いやがる……」
「親密なコミュニケーションは夫婦円満の秘訣ですからね♪」
笑顔で言いながら、エリカは横に座った俺にぎゅっと抱き着いてくる。
柔らかな感触と人肌の温もりが、俺の心にするりと入ってきた。
あとエリカと会話するたびにひしひしと感じるんだけど、頭の回転の速さが俺とは違い過ぎるんだよな。
俺が何を言ってもピシャリと2割マシで返されるこの圧倒的な敗北感。
もう既に今の段階で、尻に敷かれている未来が既にはっきりと見えつつある俺だった。
「でもな? なんていうか俺としてはもっとこう精神的な掘り下げっていうか? 真摯に想い合う2人がデートとか同棲とかで少しずつ愛を深めていって、その最後の一歩としての一緒に住む――それが結婚ってもんだと俺は思うんだよな」
「ふふっ、トールさんは結構なロマンチストなんですね。ですがその意見にはわたくしも賛成ですわ。結婚とはやはり誰もが憧れるようなものでなくではなりませんわよね」
ここまで俺とエリカのアホな会話を静かに聞いてくれてたヒナギクさんが、ここでバブみすら感じさせるほどに包容力抜群の笑顔で、優しく合いの手を入れてきた。
もし俺が、無償の愛を注いでくれる母親という存在を求めてやまない赤い彗星のごときオギャ男だったとしたら。
もう完全に赤ちゃんに退行してしまっているな、間違いない。
しかし割と現実思考なエリカは言った。
「いいえトール、最近は昔と比べて離婚率も上がっていると聞きおよんでいます。これは結婚への意識が変わり、今までよりも気楽に結婚する人が増えているからではないでしょうか? 世の中、物は試しとも言いますし」
「残念ながら人間には2種類いるんだよ。明るく行動的でパーリーなピーポーと、慎重に慎重を期しながらなかなか動こうとしない根暗な人間だ。そして俺はどうしようもなく後者なんだ」
「そうですか。まったくもうトールは奥ゆかしい今どき男子ですね。それもまた素敵だと思いますよ」
「あはは、さすがにもう男子って年じゃないな」
一般的に30過ぎのおっさんを男子とは言わないだろう。
「それではお二人は現状、結婚を前提に同棲中であるという認識で話を勧めさせていただきますわね」
「まぁそれくらいなら……」
ヒナギクさんが絶妙な落としどころで見事この話を着地させてくれた。
さすが国家公務員、結論を得るのが早くて上手い。
「では戸籍については以上となります。次に住む場所ですが、引っ越しをしてもらおうと思っております」
「え? 引っ越し?」
しかし続いて飛び出たその言葉に、俺はおうむ返しに聞き返してしまった。
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