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第2章 朝5時にピンポン連打する金髪ネコ耳公務員さん
第36話 テロリスト襲撃
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「はい、不測の事態に備えて警護に向いた部屋に引っ越して欲しいのです」
「トールと離ればなれになるのなら、断固拒否します」
エリカが即座に反論した。
「もちろんお二人一緒での引っ越しですわよ。それにかかる費用や家賃などはもちろん日本政府が持ちますのでご安心ください」
「ならオッケーです、バンバン進めてもらってオッケーです。素敵な家を楽しみにしていますね」
「すげぇ変わり身の早さだな、おい……。でも俺はあんまり引っ越したくないかなぁ」
「と、いいますと?」
「住む場所が変わるって、それだけで結構面倒だからさ。つい昔の住所を間違えて書いたりしちゃうし。それに不測の事態ってのは例えばなんなんだよ?」
「実は――」
ヒナギクさんが何ごとか言いかけた時だった。
ピンポーン。
うちのインターホンが軽やかに鳴った。
時計を見てみると朝の6時半を指している。
ヒナギクさんは朝5時に来たから、いつの間にか1時間半ほど話していたことになる。
まだ人の家を尋ねるには早すぎる時間だけど、朝5時に来るほど非常識ではない。
今日は平日だから、普通の成人男性なら仕事のために起きてても全然不思議じゃない時間だしな。
「悪い、来客だ。すぐ戻るからちょっと待っててくれ」
俺は立ち上がると玄関に向かった。
「こんな朝早くから来客だなんて、妙ですわね?」
背後でヒナギクさんがつぶやいた声が聞こえた。
「いやいや、なに言ってるんですか。その1時間半も前に来たヒナギクさんが言っちゃだめでしょ」
玄関に向かいながら軽く振り返った俺は、そんなヒナギクさんに苦笑気味のツッコミを入れたんだけど――。
「もしや――! いけませんわトールさん、ドアを開けないで! いえ、すぐにドアから離れてください!」
ヒナギクさんがハッとしたように言って立ち上がった。
「え?」
しかし俺はもう玄関のすぐ前まで行っていて――、
バン!!
突然大きな音がしたかと思うと、ドアが外から強く押されて無理やり開かれ、びっくりした俺は後ずさろうとして無様に尻餅をついてしまった。
「な、なんだいきなり!? ガス管でも爆発したのか!? まさかテロ!?」
尻餅をついた俺の目の前で、本来は外開きのはずの玄関のドアが強引に内向きに開いていた。
壊れた金属製の蝶番がプラプラと揺れている。
突然のことに気が動転していた俺の前には、なんと全身黒ずくめのいかにも怪しい風体の男たちがいて――。
(これってまさか、マジでエリカを拉致しに来た奴らかよ!? うそん!?)
俺は慌てて立ち上がろうとしたものの、急すぎる展開にびっくりして完全に腰が抜けてしまっている。
そんな情けない俺は、立ち上がることすら出来ずに男たちをただただ見上げていた。
「教祖様がいらしたぞ、すぐに確保しろ!」
そしてリーダー役と思しき奴の一言で、
「「「「了解!」」」」
黒ずくめの男たちが一斉に群がった――俺に向かって。
「えっ、俺っ!? なんで!?」
腰を抜かした俺は黒ずくめの男たちに簡単に担ぎ上げられてしまい、そのままどこかに連れ去られかけて――、
「そうはさせませんわ! 行きなさい、『美しくも束縛する者、ローゼズ・ウイップ』!」
しかしヒナギクさんの凛々しい声が響き渡ったかと思うと、ヒナギクさんの右手から薔薇のツタがブワッと広がって、黒ずくめの男たちの手足に一瞬にして巻き付いて動きを封じた。
「こ、今度は何が起こったんだよ!?」
俺が状況を理解しきる間もなく、総勢7名の黒ずくめの男たちはヒナギクさんの『美しくも束縛する者、ローゼズ・ウイップ』なる必殺技(?)によって、一瞬で拘束されて無力化された。
「ヒナギクさんすげぇ……! そうか、今のってもしかして――」
「はい、わたくしがかつて女神学院での厳しい修行によって習得した特殊能力――『美しくも束縛する者、ローゼズ・ウイップ』ですわ。薔薇のツタのごときムチを自在に操る、近接戦闘向きの攻防一体の特殊能力ですの」
「やっぱり、エリカの『運命を偽る者、デスティニー・フェイカー』と同じ特殊能力だったか!」
しかも黒ずくめの男たちを一瞬で制圧してしまう、ものすごく強い特殊能力だぞ!
「ほぅほぅ、なかなかやりますねヒナギクさん」
「なんでエリカはそんなに上から目線なんだよ……? しかもあんまり役に立たないって自分でも言ってたエリカの『運命を偽る者、デスティニー・フェイカー』と違って、こっちはかなりガチで実戦レベルなんだが……」
「よそはよそ、うちはうちですよ。わたしがわたしらしくあるためには、他人との比較なんぞに一喜一憂してはいけないんです。ナンバーワンより、オンリーワン。わたしという人間はわたししかいないんですから」
「またそういう心理カウンセラーみたいな含蓄あるセリフを、さらっと言ってくるし……」
「打てば響くとはきっと、わたしのような人のことを言うのでしょうね。どうぞ好きなだけ褒めて下さい。わたしはトールに褒められて伸びるタイプですので」
「俺限定なのかよ」
「それはもちろん、わたしは身も心もトールに捧げると心に誓っておりますので」
「まったく、そういうところも含めてほんとエリカはエリカらしいよ」
言動がやや常軌を逸する時があるだけで、基本的にエリカも超がつくエリート才女なんだよな。
本当にしっかりとした自分を持っているんだ。
30過ぎても確固たる自分すら持っていない、流されてこの年まで来た俺とは大違いだよな。
はぁ……。
今の自分があるのは全部自分のせいだとはいえ。
エリカとかヒナギクさんの人生充実感を目の当たりにすると、あまりの格差にちょっと悲しくなってきちゃうな……。
「トールと離ればなれになるのなら、断固拒否します」
エリカが即座に反論した。
「もちろんお二人一緒での引っ越しですわよ。それにかかる費用や家賃などはもちろん日本政府が持ちますのでご安心ください」
「ならオッケーです、バンバン進めてもらってオッケーです。素敵な家を楽しみにしていますね」
「すげぇ変わり身の早さだな、おい……。でも俺はあんまり引っ越したくないかなぁ」
「と、いいますと?」
「住む場所が変わるって、それだけで結構面倒だからさ。つい昔の住所を間違えて書いたりしちゃうし。それに不測の事態ってのは例えばなんなんだよ?」
「実は――」
ヒナギクさんが何ごとか言いかけた時だった。
ピンポーン。
うちのインターホンが軽やかに鳴った。
時計を見てみると朝の6時半を指している。
ヒナギクさんは朝5時に来たから、いつの間にか1時間半ほど話していたことになる。
まだ人の家を尋ねるには早すぎる時間だけど、朝5時に来るほど非常識ではない。
今日は平日だから、普通の成人男性なら仕事のために起きてても全然不思議じゃない時間だしな。
「悪い、来客だ。すぐ戻るからちょっと待っててくれ」
俺は立ち上がると玄関に向かった。
「こんな朝早くから来客だなんて、妙ですわね?」
背後でヒナギクさんがつぶやいた声が聞こえた。
「いやいや、なに言ってるんですか。その1時間半も前に来たヒナギクさんが言っちゃだめでしょ」
玄関に向かいながら軽く振り返った俺は、そんなヒナギクさんに苦笑気味のツッコミを入れたんだけど――。
「もしや――! いけませんわトールさん、ドアを開けないで! いえ、すぐにドアから離れてください!」
ヒナギクさんがハッとしたように言って立ち上がった。
「え?」
しかし俺はもう玄関のすぐ前まで行っていて――、
バン!!
突然大きな音がしたかと思うと、ドアが外から強く押されて無理やり開かれ、びっくりした俺は後ずさろうとして無様に尻餅をついてしまった。
「な、なんだいきなり!? ガス管でも爆発したのか!? まさかテロ!?」
尻餅をついた俺の目の前で、本来は外開きのはずの玄関のドアが強引に内向きに開いていた。
壊れた金属製の蝶番がプラプラと揺れている。
突然のことに気が動転していた俺の前には、なんと全身黒ずくめのいかにも怪しい風体の男たちがいて――。
(これってまさか、マジでエリカを拉致しに来た奴らかよ!? うそん!?)
俺は慌てて立ち上がろうとしたものの、急すぎる展開にびっくりして完全に腰が抜けてしまっている。
そんな情けない俺は、立ち上がることすら出来ずに男たちをただただ見上げていた。
「教祖様がいらしたぞ、すぐに確保しろ!」
そしてリーダー役と思しき奴の一言で、
「「「「了解!」」」」
黒ずくめの男たちが一斉に群がった――俺に向かって。
「えっ、俺っ!? なんで!?」
腰を抜かした俺は黒ずくめの男たちに簡単に担ぎ上げられてしまい、そのままどこかに連れ去られかけて――、
「そうはさせませんわ! 行きなさい、『美しくも束縛する者、ローゼズ・ウイップ』!」
しかしヒナギクさんの凛々しい声が響き渡ったかと思うと、ヒナギクさんの右手から薔薇のツタがブワッと広がって、黒ずくめの男たちの手足に一瞬にして巻き付いて動きを封じた。
「こ、今度は何が起こったんだよ!?」
俺が状況を理解しきる間もなく、総勢7名の黒ずくめの男たちはヒナギクさんの『美しくも束縛する者、ローゼズ・ウイップ』なる必殺技(?)によって、一瞬で拘束されて無力化された。
「ヒナギクさんすげぇ……! そうか、今のってもしかして――」
「はい、わたくしがかつて女神学院での厳しい修行によって習得した特殊能力――『美しくも束縛する者、ローゼズ・ウイップ』ですわ。薔薇のツタのごときムチを自在に操る、近接戦闘向きの攻防一体の特殊能力ですの」
「やっぱり、エリカの『運命を偽る者、デスティニー・フェイカー』と同じ特殊能力だったか!」
しかも黒ずくめの男たちを一瞬で制圧してしまう、ものすごく強い特殊能力だぞ!
「ほぅほぅ、なかなかやりますねヒナギクさん」
「なんでエリカはそんなに上から目線なんだよ……? しかもあんまり役に立たないって自分でも言ってたエリカの『運命を偽る者、デスティニー・フェイカー』と違って、こっちはかなりガチで実戦レベルなんだが……」
「よそはよそ、うちはうちですよ。わたしがわたしらしくあるためには、他人との比較なんぞに一喜一憂してはいけないんです。ナンバーワンより、オンリーワン。わたしという人間はわたししかいないんですから」
「またそういう心理カウンセラーみたいな含蓄あるセリフを、さらっと言ってくるし……」
「打てば響くとはきっと、わたしのような人のことを言うのでしょうね。どうぞ好きなだけ褒めて下さい。わたしはトールに褒められて伸びるタイプですので」
「俺限定なのかよ」
「それはもちろん、わたしは身も心もトールに捧げると心に誓っておりますので」
「まったく、そういうところも含めてほんとエリカはエリカらしいよ」
言動がやや常軌を逸する時があるだけで、基本的にエリカも超がつくエリート才女なんだよな。
本当にしっかりとした自分を持っているんだ。
30過ぎても確固たる自分すら持っていない、流されてこの年まで来た俺とは大違いだよな。
はぁ……。
今の自分があるのは全部自分のせいだとはいえ。
エリカとかヒナギクさんの人生充実感を目の当たりにすると、あまりの格差にちょっと悲しくなってきちゃうな……。
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