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第1章 朝5時にピンポン連打する異世界押しかけ妻

第20話「またしちゃいましたね♡」

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「またしちゃいましたね♡」
 座卓で向かい合いながらエリカが嬉しそうに言って、

「はい、しちゃいました」
 俺は身体を小さくしながら頷いた。

「しかも服を着たままでエッチしちゃうなんて、トールはとんだ変態さんですよ♡」

「エリカのミニスカ巫女服が可愛くて、ついな……」
 全裸とはまた違った魔性の誘惑がそこにはあった。
 そして俺はそのイケナイ誘惑に勝つことが、どうしてもできなかったのである!

「わたしが可愛いからって、さっきの今で延長戦だなんてトールはしょうがない人ですねぇ」

「くっ、さっき散々出し尽くして完全に賢者モードだったのに、えっちな巨乳美少女ミニスカ巫女さんが相手だとまさかのダブルヘッダーが可能だなんて……」

 これが30年以上にわたって積み上げに積み上げられた、童貞のエロパワーってやつなのか。
 30過ぎても童貞だったら魔法使いになるとは、こういうことだったのか。

 エッチしたい気分になるだけで、なんだか気力と精力が無限に湧き出てくる気がするぞ!

 そんな頭の悪い低俗朝チュン会話をしていると、

「あ、そうです」
 エリカが突然ポンと手を叩いた。

「どうした?」

 そして来た時にも持っていたポーチの中をごそごそ漁ると、とても見覚えのあるメタリックレッドのカードを取り出した。

「はい、どうぞ」
 手渡されたのは日本人なら誰でも知っているメガバンクの一つ、三菱東京UFJ銀行のクレジット機能付きのキャッシュカードだ。

 俺も学生時代に親からの仕送り先口座がここで、それ以来社会人になってもずっと使い続けていることもあって、だからとても馴染みがあった。

 名義を見てみると「ユサ エリカ」。
 エリカのキャッシュカードで間違いない。

「なんでそんなもんを持ってるんだよ?」

「異世界転移で一番困るのはやはり、お金の問題です。だから女神様は転移先で困らないようにと、その世界の通貨を転移時に融通してくれるんです」

「異世界転移の女神様って、想像以上に気が利くんだな……」

「それはもう全知全能の女神さまですので。これくらいデフォですよデフォ」

「まあいいや。それでいくらくらい入ってるんだ?」

「そこまでは存じ上げません。ですが支払いをする時には、これを見せて4桁の暗証番号を入れるかサインをすればいいと伺っております。使い方はばっちりです」

「うんまぁ基本はそうなんだけどな。でも中にいくら入っているか分からないと困るだろ? 支払い時に残高がないかもしれないし」

「そういうものですか」

「そういうものなんだ。ちょっと貸してみ」

 俺はエリカからUFJの赤いカードを借りると、ノートパソコンでインターネットバンキングを開いた。
 最近のパソコンはHDDじゃなくてSSDだからすぐに立ち上がって便利だよな。

「じゃあはい、こっちきて、ここの空欄に暗証番号入れてみて。あ、キャッシュ残さない設定だから安心してくれな」

「きゃっしゅ……? お金ですか? お金はこのカードで見るんですよね?」

 俺の隣に座ったエリカがパソコンを覗き込みながらよく分からないって顔を見せる。

「キャッシュはキャッシュでも、現金 (cash)じゃなくて貯蔵 (cache)って意味だ」

「はぁ……そもそもこの箱は何でしょうか? 小さなテレビ?」

「あ、パソコンは知らないの? テレビは知ってたのに?」

 なんかちょっと意外だな。

「異世界転移するにあたって『テレビ』だけは常識中の常識だから絶対に知っておくようにと、女神様がそう言い伝えていることもあって、女神学院では一番最初にテレビについて習うんですよ」

「へぇ、そうなんだ……女神様ってほんと気がきくんだなぁ」

「それはもちろん、数多の世界を管理する女神さまですから。過去の異世界転移のデータを基に綿密にPDCAすることでお客様満足度もピカイチです」

「PDCAとかお客様満足度とか、女神さまがやり手の経営者みたいなんだが……でもちょっと情報の鮮度が古いかな……?」

「それはまぁ、さすがに違う世界のことなので、リアルタイムでは追っかけるのは難しいんですよね。さらに言うと、学校で使う教科書に載るには、異世界文部科学省の教科書検定をクリアしないといけないので、余計に時間もかかりますし」

「異世界の話って都度都度違いを感じさせる割に、そういうところはほんとこの世界と変わらないよな」

 異世界って言うより、地球にある違う国の話みたいに感じてしまうよ。

「世の中の根本的な仕組みは、世界が違ったくらいではそうは変わらないとうことですね。それではガッテンしていただけましたでしょうか?」

「ほんとしっかりと予習済みなのな……さすが長寿番組だ。俺の親も大好きだよ」

「ちなみにテレビの件は、大昔に実際に女神様がこの世界に来た時にテレビも知らない田舎者と笑われて赤っ恥をかいたのが原因だそうですよ。後輩たちには絶対に同じ轍は踏ませないとその時に女神様は心に誓ったそうです」

「女神様も大変なんだなぁ……」

 大学進学で東京にきてすぐの頃、電車の路線を間違えて全然違うところに行ってしまい、駅員さんにここはどこなのかと恥ずかしい思いをしながら尋ねたことを、俺は思い出していた。

 なんとなく親近感を覚えてしまう。
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