人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 私達は帰路に着く。
 辻を通ってヤード通りを抜けて大通りに出ると賑やかな街の様子が広がっている。
 歩いて行くと以前街に降りた時にウルリッカ様に声をかけてきた『風見鶏』のご主人がいた。
「この間はどうも! ティアです。覚えてる?」
「ああ、あんたウルリッカの妹か! 今日はあいつはいねえのか?」
「今は船の上よ。と言っても今回は短くてあと3、4日で帰って来るって!」
「そうか。なら、帰ったらウチに来る様に託けていいか?」
「構わないけど、もしかしたらウルリッカさん、私に会うより街に出る方が早いかもしれないわ。何か急用?」
 ご主人は頭を掻く。
「いやぁ、この所強盗が出るんだよ。売上狙って夜間が多いが、手際いいわ逃げ足早いわでなかなか捕まらん。この大通りだけでも何軒も被害が出ててな。ウルリッカは腕の立つ軍人だろ?相談に乗ってもらおうと思ってな」
「そう……大変ね。会えたら必ず伝えるわ」
「おう! 頼むな! 今日は飯食って行かないか? 嬢ちゃん」
「今日はちょっと急ぐから、また今度にしておく」
 私はそう言って手を振る。
「そうか。また来いよ!」
「ありがとう!」

 へリュ様を振り返る。
「お待たせしてしまいました。行きましょうか」
「……貴女は、自国におられた時と変わらないな」
「そうですか?」
「自国の民にも今の様に親しく声をかけていた」
「え? 普通の事じゃないでしょうか?」
「私は王族というのはもっと尊大なものだという印象を持っている」
「王族は威厳を重んじますからね。でないとどうしても侮る人が出て来ます。それに責任を取る事を放棄してる様に思われてしまいます。だから私はあまり立派な王女ではなかったのですよ」
「それでも貴女は自国を守る為に自身を賭した。それが立派でないなら王族など要らない」
「自分のしでかした事に責任を取っただけですよ? あの時は本当に失礼しました」
「……貴女が謝る必要などどこにも無い」
「いえ、国の至宝と呼ばれる方に失礼でした。軍師様がお怒りになったのも仕方ないです」
「……違う。あれはただ、ウチの宿六が貴女をあの男にと望んで難癖をつけただけだ」
「仮にそうだとしても、つけ入る隙を与えた私が外交に負けただけです。王族として軽率な行動を取った私がいけないのですよ」
「…………」
 私は初めて思い至った。
「……もしかしてへリュ様はずっとこの事で御心を痛めていらっしゃったのですか? ……でしたら、大丈夫ですよ? 私はこの国に来られて幸せですよ?」
 へリュ様は私をじっと見下ろす。
「貴女が幸せでも、マグダラスの民から貴女を取り上げてしまった。きっとマグダラスは今も貴女を案じ、悲痛な思いの中にいるだろうと想像出来る」
 へリュ様に言われて改めてマグダラスを想う。
 考えない様にしていたけど、マグダラスの皆んなは私を心配してくれているだろう。
 正妃になるという話は既に伝わっているだろうから、幾許かでもその心配が埋められていればいいけど……。
「そうですね……。へリュ様の言う通りですね。でも、マグダラスの王太子は約束してくれたのですよ?必ず国を守ってみせるって。私はその言葉を信じているんですよ」
 出来るだけ笑顔で言った。
「大丈夫。マグダラスは強い国です。貧しさにも負けないくらい、タフな国なので安心して下さい」
「……貴女も、お強いのだな」
 へリュ様は薄く微笑む。
「強くありたいと願ってはいます。たまにはへこたれる事もありますけどね」
 私も笑顔で応える。
 へリュ様はとても優しい人なんだとわかる。多分、その優しさの方向性は陛下と少し似てるなぁと思う。
「案じて下さってありがとうございます。へリュ様」
 歩みを進めて城へと帰る。
「……所で、さっきの、強盗の話、気になりますね」
 へリュ様が私をじっと見つめる。
「……わかった」
 へ? 何がわかったのだろう? 訊ねようと思ったらへリュ様が口を開く。
「さあ、城に着いた」
「ありがとうございました」
「こちらこそ送迎だけで頂いてしまった」
「ただの気持ちばかりの品ですから」

 城門は真っ赤な夕日に照らされている。
 門兵達が私達を迎え入れる。
「では、私はこれで」
 へリュ様はくるりと背を向けて城門から去って行く。
 夕日に照らされて、長い影を引いて歩くへリュ様を何故だかずっと見送ってしまった。
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