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58話 再会①
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イソトマ族の女性に囲まれ、私は人形のように彼女達にされるがままになっていた。
髪に何かを塗りたくられ、服を何枚も重ね着させられドレスを着せられ、仕上げに化粧をこれでもかと念入りにされる。
全て終えた後、イソトマ族の女性が持って来てくれた姿見に映る自分の姿に、私は驚いた。
ミルキーブロンドの髪色、首から靴の先まで全て隠れてしまいそうなロングドレス、白い手袋。
顔が痩せてしまっているのだけは誤魔化せないけれど、全体的に以前の私と同じに見える。
重ね着しているから少し暑い。
でもおかげで身体のラインが健康的な女性並になっている。
ひどい肌荒れも化粧の厚塗りで意外と取り繕うことが出来ていて、イソトマ族の腕の良さに感動した。
「すごい……これ、髪の毛どうやったの?」
「染色剤だよ。俺が作ったんだ。本来髪に使うモンじゃねえけどよ、ちょっと改良して使えるようにしたんだ。……これならひと目見るだけじゃなくて、アンタも自信持って王子サマに会えるだろ」
いつの間に呼んで来たのか、レダが私の背後から現れ、髪の疑問に答えた。
この姿なら……ライナスに会っても惨めな思いはしない……の、かしら……?
ライナスともう言葉を交わすことはないと諦めていた私に、一筋の希望の光が差す。
「……ねえ、本当に私、殿下に会っても大丈夫かしら。変に思われないかしら」
「ああ。ほとんど違和感ないぜ。俺が保証する」
「あなたの保証ね……」
「おい。何で不服そうなんだよ」
ここまでしてくれたレダには感謝の言葉を告げるべきなのに、死にかけている今でもジェナ節はしっかり健在のようだ。
ただ、レダは私がどれだけ憎まれ口を叩こうが気にした様子はない。
「さ、こっちも準備出来たし、送ってやるよ。王子サマ、ずっとアンタを探し回ってることだしな」
「え……?」
「厳密に言えば、国を挙げて俺達イソトマ族を血眼になって探してんだよ。アンタをどうしたのか聞きたいんだろうな。それは別に構わねえけど、俺達の首取りに来そうな勢いだったからよ、慌てて住処を移動したんだ」
「……殿下は、そんなにお怒りなの?」
私が瘴気を浄化して意識を失ってから今に至るまでそれなりに時間が経ったはず。
ノノメリアの王女を治療したことはさすがにライナスの耳にも入っているだろうから、またライナスに余計な心配を掛けてしまっているのだろう。
それにライナスとの別れ際、私の泣きそうな顔を見られてしまったのも痛手だった。
……あれが最後の別れにならずに済んで良かったと、今は思う。
まあ、それがさ……とレダは気まずそうに切り出す。
「実はアンタがノノメリアの王女救ったのと、瘴気を浄化したってビラをそこら中に撒いたんだけどよ。何勝手なことさせてんだって相当怒ったみてえで」
「ビラ? 何でそんなもの……」
「アンタが陰でこんだけ頑張ったのに、急に魔物が大人しくなったと平民どもにのほほんとされんのが癪だからな。ちゃんとアンタの活躍のおかげだと伝えてやりたかったんだ」
「……わざわざそんなことしなくてもいいのに」
気持ちは嬉しいけれど、私はただ与えられた自分の役割をこなしただけで、そんなに持ち上げられるような話じゃない。
そのビラで私が瘴気を浄化したこともライナスは知っただろうから、より一層心配を掛けたに違いない。
ライナスが私を必死に探してくれる理由がわかって納得する。
レダは私に頼むと言いながら、両手を顔の前で合わせた。
「だから戻ったら何とか上手く言っておいてくれよ。……確かに俺達がアンタに無理させちまったのは事実だけどさ」
「別に、あなた達に強要されたわけじゃないわ。瘴気を浄化すると決めたのは私だもの。殿下にはきちんとイソトマ族は悪くないと説明するわ」
「そう言ってくれて助かるよ。……じゃ、そろそろ行くか」
レダは笛を吹いてワイバーンを呼び寄せる。
私を見送る為か、イソトマ族全員も急いで集まってくれた。
私は彼らに向かって深く頭を下げる。
「……あ、あり、がとう。世話に……な、なったわね」
ジェナが絶対にしないであろう行動と言葉を伝える為に、私は無理矢理身体を折り曲げて、唇を何度も噛みながら辿々しく喋る。
いつもだったら唇から流血は避けられないけれど、ジェナの性格による抵抗はそんなに強くなかった。
元々ジェナを演じてしまうのは私自身だから、それほどまでに身体が弱っているということなんだろう。
顔を上げたら、イソトマ族は皆笑顔で手を振ってくれる。
ありがとうございました聖女様、またいつでも来て下さいと、口々に私への感謝を述べながら。
レダは荷物の入った大き目の袋から太いロープのようなものを取り出すと、私の目の高さに合わせて見せて来た。
「アンタ、多分ワイバーンに掴まる力もないよな。悪いけど落ちねえようにこの腰紐で俺とアンタを縛り付けさせてもらうぜ」
「とても嫌だけど、仕方ないわね。あまりキツくしないでよ」
「アンタ、最後までブレねえよな……」
呆れたように言いながらも、レダの顔は笑っている。
──境遇や立場が違えば、私達は友人にでもなれたかもしれないわね。
そんな一方的な考えは、レダに伝えることなく私の胸にしまいこんだ。
髪に何かを塗りたくられ、服を何枚も重ね着させられドレスを着せられ、仕上げに化粧をこれでもかと念入りにされる。
全て終えた後、イソトマ族の女性が持って来てくれた姿見に映る自分の姿に、私は驚いた。
ミルキーブロンドの髪色、首から靴の先まで全て隠れてしまいそうなロングドレス、白い手袋。
顔が痩せてしまっているのだけは誤魔化せないけれど、全体的に以前の私と同じに見える。
重ね着しているから少し暑い。
でもおかげで身体のラインが健康的な女性並になっている。
ひどい肌荒れも化粧の厚塗りで意外と取り繕うことが出来ていて、イソトマ族の腕の良さに感動した。
「すごい……これ、髪の毛どうやったの?」
「染色剤だよ。俺が作ったんだ。本来髪に使うモンじゃねえけどよ、ちょっと改良して使えるようにしたんだ。……これならひと目見るだけじゃなくて、アンタも自信持って王子サマに会えるだろ」
いつの間に呼んで来たのか、レダが私の背後から現れ、髪の疑問に答えた。
この姿なら……ライナスに会っても惨めな思いはしない……の、かしら……?
ライナスともう言葉を交わすことはないと諦めていた私に、一筋の希望の光が差す。
「……ねえ、本当に私、殿下に会っても大丈夫かしら。変に思われないかしら」
「ああ。ほとんど違和感ないぜ。俺が保証する」
「あなたの保証ね……」
「おい。何で不服そうなんだよ」
ここまでしてくれたレダには感謝の言葉を告げるべきなのに、死にかけている今でもジェナ節はしっかり健在のようだ。
ただ、レダは私がどれだけ憎まれ口を叩こうが気にした様子はない。
「さ、こっちも準備出来たし、送ってやるよ。王子サマ、ずっとアンタを探し回ってることだしな」
「え……?」
「厳密に言えば、国を挙げて俺達イソトマ族を血眼になって探してんだよ。アンタをどうしたのか聞きたいんだろうな。それは別に構わねえけど、俺達の首取りに来そうな勢いだったからよ、慌てて住処を移動したんだ」
「……殿下は、そんなにお怒りなの?」
私が瘴気を浄化して意識を失ってから今に至るまでそれなりに時間が経ったはず。
ノノメリアの王女を治療したことはさすがにライナスの耳にも入っているだろうから、またライナスに余計な心配を掛けてしまっているのだろう。
それにライナスとの別れ際、私の泣きそうな顔を見られてしまったのも痛手だった。
……あれが最後の別れにならずに済んで良かったと、今は思う。
まあ、それがさ……とレダは気まずそうに切り出す。
「実はアンタがノノメリアの王女救ったのと、瘴気を浄化したってビラをそこら中に撒いたんだけどよ。何勝手なことさせてんだって相当怒ったみてえで」
「ビラ? 何でそんなもの……」
「アンタが陰でこんだけ頑張ったのに、急に魔物が大人しくなったと平民どもにのほほんとされんのが癪だからな。ちゃんとアンタの活躍のおかげだと伝えてやりたかったんだ」
「……わざわざそんなことしなくてもいいのに」
気持ちは嬉しいけれど、私はただ与えられた自分の役割をこなしただけで、そんなに持ち上げられるような話じゃない。
そのビラで私が瘴気を浄化したこともライナスは知っただろうから、より一層心配を掛けたに違いない。
ライナスが私を必死に探してくれる理由がわかって納得する。
レダは私に頼むと言いながら、両手を顔の前で合わせた。
「だから戻ったら何とか上手く言っておいてくれよ。……確かに俺達がアンタに無理させちまったのは事実だけどさ」
「別に、あなた達に強要されたわけじゃないわ。瘴気を浄化すると決めたのは私だもの。殿下にはきちんとイソトマ族は悪くないと説明するわ」
「そう言ってくれて助かるよ。……じゃ、そろそろ行くか」
レダは笛を吹いてワイバーンを呼び寄せる。
私を見送る為か、イソトマ族全員も急いで集まってくれた。
私は彼らに向かって深く頭を下げる。
「……あ、あり、がとう。世話に……な、なったわね」
ジェナが絶対にしないであろう行動と言葉を伝える為に、私は無理矢理身体を折り曲げて、唇を何度も噛みながら辿々しく喋る。
いつもだったら唇から流血は避けられないけれど、ジェナの性格による抵抗はそんなに強くなかった。
元々ジェナを演じてしまうのは私自身だから、それほどまでに身体が弱っているということなんだろう。
顔を上げたら、イソトマ族は皆笑顔で手を振ってくれる。
ありがとうございました聖女様、またいつでも来て下さいと、口々に私への感謝を述べながら。
レダは荷物の入った大き目の袋から太いロープのようなものを取り出すと、私の目の高さに合わせて見せて来た。
「アンタ、多分ワイバーンに掴まる力もないよな。悪いけど落ちねえようにこの腰紐で俺とアンタを縛り付けさせてもらうぜ」
「とても嫌だけど、仕方ないわね。あまりキツくしないでよ」
「アンタ、最後までブレねえよな……」
呆れたように言いながらも、レダの顔は笑っている。
──境遇や立場が違えば、私達は友人にでもなれたかもしれないわね。
そんな一方的な考えは、レダに伝えることなく私の胸にしまいこんだ。
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