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私の名前は、キャロライン・フォン・クリスタル。元の名前を名乗っているわけですが、一応、実の父親と縁もゆかりもない伯爵を名乗る男がいきなり公爵邸に押しかけ、屋敷にいた使用人を全員クビにしてしまう。
「今日から、俺が養い親だ」
それどころか、見も知らない同年齢の兄妹達まで付いてきて、わたくしを屋根裏部屋へと追いやられてしまう。
お気に入りのわたくしの部屋は、末の娘が占拠して、「今日から、ここはマリリンが使うぅ。この部屋が気に入ったわ」
「この部屋はお嬢様のお部屋ですから、どうか他のお部屋にしてくださいませ」
侍女のクリスティーヌだけが、クビだと言われても、わたくしに付き添ってくれる。それを伯爵と夫人が窘め
「使用人の分際で無礼な!わきまえろ!」
「キャロライン、あなたはマリリンちゃんのお義姉さんに当たるのだから、辛抱しなさい。今まで、さんざん好き放題してワガママに育ってきているようね。これからは、その性根を叩きなおしてあげるわ!」
それから伯爵は、お父様の部屋へ行き、居座り
「なかなか重厚な調度品ばかりで、気に入ったぞ」
伯爵夫人も、お父様の部屋からお母様の部屋へ通じる扉を開け、クローゼットを開け放ち、ドレッサーの引き出しにも手をかける。
「まぁ!ステキなドレスだわ!それに、たくさんの高価な宝石の数々、旦那様ぁ、ありがとうございますぅ。こんなお屋敷をプレゼントしてくださるなんて、旦那様は素敵すぎますぅ」
養女とは、名ばかりで侯爵邸とおそらく侯爵家が所有する財産、領地を乗っ取るつもりだということが分かったけれど、今のキャロラインには、なす術がない。
頼りになる家令や執事は皆、解雇され、それもお給金の支払いがどうなっているのかわからないキャロラインと、家令や執事にも守るべき家族があり、タダ働きというわけにもいかないからだ。
そんな中で、ただ一人、クリスティーヌだけが、タダ働きに甘んじて、残っていてくれることになったのだ。元は、伯爵令嬢のクリスティーヌ、花嫁修業の一環として、クリスタル家に行儀見習いのため、侍女に入り、まだ侍女として仕え続けてくれている。もう、いい年齢だというのに……。キャロラインはクリスティーヌの身の振り方だけが心配なのだ。だから、こういう理不尽な仕打ちにも耐えている。
クリスティーヌはクリスティーヌで、キャロラインお嬢様のことが心配でならない。コークス伯爵がクリスタル家の乗っ取りを謀ったので、すぐに実家の父に相談したが、王国のお偉いさんを味方につけ、それ以上の反論はできなくなってしまったのだ。
これでは、キャロラインお嬢様は、まるでシンデレラのよう、シンデレラは舞踏会で王子様と出会い、幸せになるが、お嬢様には、社交界デビューもまださせていただいていない。それどころかそのうち、お嬢様のことを闇から闇へと消してしまうおつもりではないか、と心配している。
だから自分が、タダ働きをしても、お嬢様をお守りしなければ、という使命感から、婚約者に言って、結婚を先延ばしにしている。
クリスティーヌの婚約者は、王国近衛騎士団に所属する有望な騎士マイケル・ザビエル。マイケルは、先日、王都の広場で自分の婚約者が馬を取り押さえ宥めた少女のことを「お嬢様」呼びしていたことを、偶然にも目撃してしまう。
殿下から、「あの少女の素性を洗え」という命令を受け、あの少女を追いかけるよりも、自分の婚約者から辿る方が早いと思い、婚約者の実家の伯爵家へ向かったのだ。
婚約者の美しく白魚のような手は、すっかり荒れ果て、少しやつれたような感じがするのも、気のせいではないだろう。
婚約者のクリスティーヌからすべてを聞き、久しぶりに、愛しい人をこの腕に抱きしめる。マイケルはアーノルド殿下に、いやこの国に、きちんとした対応を求めるべく動き始めることを決意する。
「今日から、俺が養い親だ」
それどころか、見も知らない同年齢の兄妹達まで付いてきて、わたくしを屋根裏部屋へと追いやられてしまう。
お気に入りのわたくしの部屋は、末の娘が占拠して、「今日から、ここはマリリンが使うぅ。この部屋が気に入ったわ」
「この部屋はお嬢様のお部屋ですから、どうか他のお部屋にしてくださいませ」
侍女のクリスティーヌだけが、クビだと言われても、わたくしに付き添ってくれる。それを伯爵と夫人が窘め
「使用人の分際で無礼な!わきまえろ!」
「キャロライン、あなたはマリリンちゃんのお義姉さんに当たるのだから、辛抱しなさい。今まで、さんざん好き放題してワガママに育ってきているようね。これからは、その性根を叩きなおしてあげるわ!」
それから伯爵は、お父様の部屋へ行き、居座り
「なかなか重厚な調度品ばかりで、気に入ったぞ」
伯爵夫人も、お父様の部屋からお母様の部屋へ通じる扉を開け、クローゼットを開け放ち、ドレッサーの引き出しにも手をかける。
「まぁ!ステキなドレスだわ!それに、たくさんの高価な宝石の数々、旦那様ぁ、ありがとうございますぅ。こんなお屋敷をプレゼントしてくださるなんて、旦那様は素敵すぎますぅ」
養女とは、名ばかりで侯爵邸とおそらく侯爵家が所有する財産、領地を乗っ取るつもりだということが分かったけれど、今のキャロラインには、なす術がない。
頼りになる家令や執事は皆、解雇され、それもお給金の支払いがどうなっているのかわからないキャロラインと、家令や執事にも守るべき家族があり、タダ働きというわけにもいかないからだ。
そんな中で、ただ一人、クリスティーヌだけが、タダ働きに甘んじて、残っていてくれることになったのだ。元は、伯爵令嬢のクリスティーヌ、花嫁修業の一環として、クリスタル家に行儀見習いのため、侍女に入り、まだ侍女として仕え続けてくれている。もう、いい年齢だというのに……。キャロラインはクリスティーヌの身の振り方だけが心配なのだ。だから、こういう理不尽な仕打ちにも耐えている。
クリスティーヌはクリスティーヌで、キャロラインお嬢様のことが心配でならない。コークス伯爵がクリスタル家の乗っ取りを謀ったので、すぐに実家の父に相談したが、王国のお偉いさんを味方につけ、それ以上の反論はできなくなってしまったのだ。
これでは、キャロラインお嬢様は、まるでシンデレラのよう、シンデレラは舞踏会で王子様と出会い、幸せになるが、お嬢様には、社交界デビューもまださせていただいていない。それどころかそのうち、お嬢様のことを闇から闇へと消してしまうおつもりではないか、と心配している。
だから自分が、タダ働きをしても、お嬢様をお守りしなければ、という使命感から、婚約者に言って、結婚を先延ばしにしている。
クリスティーヌの婚約者は、王国近衛騎士団に所属する有望な騎士マイケル・ザビエル。マイケルは、先日、王都の広場で自分の婚約者が馬を取り押さえ宥めた少女のことを「お嬢様」呼びしていたことを、偶然にも目撃してしまう。
殿下から、「あの少女の素性を洗え」という命令を受け、あの少女を追いかけるよりも、自分の婚約者から辿る方が早いと思い、婚約者の実家の伯爵家へ向かったのだ。
婚約者の美しく白魚のような手は、すっかり荒れ果て、少しやつれたような感じがするのも、気のせいではないだろう。
婚約者のクリスティーヌからすべてを聞き、久しぶりに、愛しい人をこの腕に抱きしめる。マイケルはアーノルド殿下に、いやこの国に、きちんとした対応を求めるべく動き始めることを決意する。
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