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その日はいつものように朝早くに起きて、庭の掃除から始める。正面玄関の庭、中庭、裏庭、ここは元公爵家の持ち物だったから広大な敷地の中に少しばかりの建物で、他はすべて庭となっている。
そして最後は、念入りに門扉を磨き上げることにする。バケツを持って、雑巾を絞り、拭いていると、見かけない馬車が付近に停まっているのが見える。
一緒に掃除しているクリスティーヌに聞いてみるが、知らないという。実は、クリスティーヌはその馬車の家紋に見覚えがあった。愛する婚約者の家紋だったからで、今日の日のために昨夜から、ここで寝ずの番をしている。
クリスティーヌは、キャロラインお嬢様に気づかれないように、注意をしながら、そっと馬車に向かって頭を下げる。
そう。今日という日は、キャロラインお嬢様にとっての一世一代の晴れの日になるはずの日で、婚約者と周到に準備している。
クローム伯爵家が朝食を摂っている時間帯に、王家から先触れが来て、これから国王陛下が行幸されるので、粗相のないようにとのお達しが来る。
食堂には、当然ながら、キャロラインの姿はない。キャロラインは、まだ掃除をしている。
食事の途中だが、大慌てで、着替えをしているところに、国王陛下が来られる。
「この家に、キャロライン・フォン・クリスタル公爵がいるはずだが……、会いたいのだ。どこにおる?」
「え?」
キャロラインのことを公爵令嬢ではなく、公爵と言われたことにクローム伯爵は心底驚いている。
「キャロラインは、私どもの養女でして……。その……今は、席を外しておりますゆえに……」
「ほう。では、いつ戻ってくるのだ?昨夜から、この家の出入りは見張っておるが、誰も出入りしておらぬ。このことをどう申し開きするのだ?」
「いえ、ですから、席は外しておりますが、今は自室に籠って、最近はなかなか顔を合わせてもらえません」
「そうか。なら、儂が直々に話をするゆえ、自室へ案内いたせ」
「ヒィィィィィッ!」
伯爵夫妻は、目を白黒させて、その場にひれ伏す。
いくらなんでも、陛下を屋根裏部屋に案内するわけにもいかず、さりとて、偽の部屋に案内して後でバレたら、どんな処罰が待っているか計り知れない。
それに養女というのは、名ばかりで、実質無給の使用人として、こき使っている。それも元公爵令嬢をだ。陛下の話によれば、すでにキャロラインは、公爵の家督を継いでいる様子に、明らかに自分たちよりも上位貴族に対しての振る舞いではないことから、ガタガタと震えが止まらない。
今日も今日とて、朝早くから、朝食も摂らせずに、バケツとモップを持たせ掃除させているということ、それに加え、自分たちだけが豪華な食事を平らげている。
このことだけでも、十分、断罪される可能性が高い。
どうしよう。どうしよう。頭の中でグルグルと考え事をしているが、いい考えは思いつかない。こうなれば、妻と子を捨ててでも、自分だけが助かる道を考えるが、そうはさせないという陛下の気迫にただただ冷や汗を流すばかり。
「キャロラインは、まだ朝食の場にも来ていないようだな」
食堂をジロリと睨む陛下は、そもそもキャロラインの席がないことに疑念を感じている。
「クリスタル公爵の席はどこにある?まさか、貴様らは……!」
「ヒィィィィィッ!」
「お許しください。陛下、すべては我妻が企んだことでございます!豪華な屋敷に住みたいと言われ、渋々キャロライン様を養女にした次第でございます!それにキャロライン様のお部屋を取り上げたのも、この女のせいでございますれば、何卒ご容赦のほどに!」
「な、なんてことを旦那様はおっしゃるのですか?」
「貴様は、キャロライン様の性根を叩きなおすといったではないか?俺はあの時、なんて腹黒い女だと呆れておったわ。それに今、身に着けている宝石は、すべて公爵夫人の持ち物を盗んだではないか!」
「そういう旦那様こそ、そのお召し物のほとんどは、亡き公爵閣下の持ち物ではございませんか?」
「ええいっ!うるさい!」
「控えよ!陛下の御前なるぞ!」
陛下は、ここまで見下げた奴だとは思っていなかったのか、諦めたように目を伏せ、騎士に目配せする。そして、前もって言われたとおり、公爵家の階段を上っていく。
そして最後は、念入りに門扉を磨き上げることにする。バケツを持って、雑巾を絞り、拭いていると、見かけない馬車が付近に停まっているのが見える。
一緒に掃除しているクリスティーヌに聞いてみるが、知らないという。実は、クリスティーヌはその馬車の家紋に見覚えがあった。愛する婚約者の家紋だったからで、今日の日のために昨夜から、ここで寝ずの番をしている。
クリスティーヌは、キャロラインお嬢様に気づかれないように、注意をしながら、そっと馬車に向かって頭を下げる。
そう。今日という日は、キャロラインお嬢様にとっての一世一代の晴れの日になるはずの日で、婚約者と周到に準備している。
クローム伯爵家が朝食を摂っている時間帯に、王家から先触れが来て、これから国王陛下が行幸されるので、粗相のないようにとのお達しが来る。
食堂には、当然ながら、キャロラインの姿はない。キャロラインは、まだ掃除をしている。
食事の途中だが、大慌てで、着替えをしているところに、国王陛下が来られる。
「この家に、キャロライン・フォン・クリスタル公爵がいるはずだが……、会いたいのだ。どこにおる?」
「え?」
キャロラインのことを公爵令嬢ではなく、公爵と言われたことにクローム伯爵は心底驚いている。
「キャロラインは、私どもの養女でして……。その……今は、席を外しておりますゆえに……」
「ほう。では、いつ戻ってくるのだ?昨夜から、この家の出入りは見張っておるが、誰も出入りしておらぬ。このことをどう申し開きするのだ?」
「いえ、ですから、席は外しておりますが、今は自室に籠って、最近はなかなか顔を合わせてもらえません」
「そうか。なら、儂が直々に話をするゆえ、自室へ案内いたせ」
「ヒィィィィィッ!」
伯爵夫妻は、目を白黒させて、その場にひれ伏す。
いくらなんでも、陛下を屋根裏部屋に案内するわけにもいかず、さりとて、偽の部屋に案内して後でバレたら、どんな処罰が待っているか計り知れない。
それに養女というのは、名ばかりで、実質無給の使用人として、こき使っている。それも元公爵令嬢をだ。陛下の話によれば、すでにキャロラインは、公爵の家督を継いでいる様子に、明らかに自分たちよりも上位貴族に対しての振る舞いではないことから、ガタガタと震えが止まらない。
今日も今日とて、朝早くから、朝食も摂らせずに、バケツとモップを持たせ掃除させているということ、それに加え、自分たちだけが豪華な食事を平らげている。
このことだけでも、十分、断罪される可能性が高い。
どうしよう。どうしよう。頭の中でグルグルと考え事をしているが、いい考えは思いつかない。こうなれば、妻と子を捨ててでも、自分だけが助かる道を考えるが、そうはさせないという陛下の気迫にただただ冷や汗を流すばかり。
「キャロラインは、まだ朝食の場にも来ていないようだな」
食堂をジロリと睨む陛下は、そもそもキャロラインの席がないことに疑念を感じている。
「クリスタル公爵の席はどこにある?まさか、貴様らは……!」
「ヒィィィィィッ!」
「お許しください。陛下、すべては我妻が企んだことでございます!豪華な屋敷に住みたいと言われ、渋々キャロライン様を養女にした次第でございます!それにキャロライン様のお部屋を取り上げたのも、この女のせいでございますれば、何卒ご容赦のほどに!」
「な、なんてことを旦那様はおっしゃるのですか?」
「貴様は、キャロライン様の性根を叩きなおすといったではないか?俺はあの時、なんて腹黒い女だと呆れておったわ。それに今、身に着けている宝石は、すべて公爵夫人の持ち物を盗んだではないか!」
「そういう旦那様こそ、そのお召し物のほとんどは、亡き公爵閣下の持ち物ではございませんか?」
「ええいっ!うるさい!」
「控えよ!陛下の御前なるぞ!」
陛下は、ここまで見下げた奴だとは思っていなかったのか、諦めたように目を伏せ、騎士に目配せする。そして、前もって言われたとおり、公爵家の階段を上っていく。
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