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報告とお祝いと

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 ロイは笑顔を穏やかなものに変え、姿勢を正す。

「神子様。兄上を選んでいただき、心より御礼申し上げます」
「フウマさん。本当に……本当に、ありがとうございます」
「っ……こちらこそ、俺をアールの恋人として迎えてくださって、ありがとうございますっ」

 頭を下げると、当然の事です、と返る。顔を上げると二人は声と変わらぬ、優しい笑顔で風真ふうまを見つめていた。


「神子様が兄上とご結婚されたら、神子様は私たちの兄上になられるのですね」
「そうでしたっ……!」

 ロイとアイリスが弟妹になる。アールが夫で、ユアンが父だ。

「が、顔面格差が残酷……」

 並んだ姿を想像し、絶望を感じた。肖像画は加工アプリ並みに盛って貰うしかない。だがもし夜会に出る事になったらどう対処しよう。

「この世界に召喚された時に、ミステリアス美人に見えるフィルターとか掛けてほしかったです……」

 本来の主人公でないのだから、そのくらいのオプションで後押ししてほしかった。


「フウマさんの魅力を、そのようなもので覆い隠されては困りますわ。ですわね、アール様?」
「へ? アール?」
「ああ。余計な事をしなかった神に感謝したい」
「アール!?」
「会いたくなり戻って来たら、ここにいると聞いてな」
「そっ、あっ、ありがとっ……」

 また甘い事をさらりと。風真は不意打ちを食らい、熱くなる顔をそっと俯けた。

「フウマ、少し詰めてくれ」
「っ、うんっ」

 パッと隣のケイを見ると、すでにソファの端に寄っていた。
 ケイは輝く笑顔で風真とアールを見つめる。先程の惚気話もだが、まだキスまでしかしていない事を聞き、ケイの中のアール株は急上昇だ。


「フウマ、会いたかった」
「ひぇっ!」

 座った途端に腰を抱かれ、目元にキスをされる。

「人前っ……」
「ああ。見せつけたかった」
「~~っ!」
「改めて紹介しよう。フウマだ」
「~~!!」
「今夜、正式に求婚しようと思っている」
「ンッ!? 本人が聞いちゃったけど!?」
「私の退路を塞ぐためだ。二人きりになると、緊張して言えそうにない」
「ンンッ、……そ、っか……」
「今夜、お前の全てを貰い受けに行く。覚悟していろ」
「ッ、言えてるっ、すごいこと言えてるよっ……」

 二人きりになると甘い言葉も控えめになるアールが、人前だと言葉も態度も甘さ特盛りになる。

(普通逆では!?)

 あわわ、と顔を真っ赤にして慌てているうちに、アールの顔が近付く。キスされる、と咄嗟に目を閉じる、と。


「フウマ、……好きだ」

 唇には何も触れず、全身を暖かな体温に包まれた。
 アールは、風真の嫌がる事はしない。見せつけたくとも、風真の心の方が遥かに大切だからだ。

「っ……、……俺、も」

 アールの背に腕を回し、ぎゅっと抱きつく。恥ずかしいのに、嬉しくて心がぽかぽかと暖かくなる。

(好きだなぁ……)

 じわりと込み上げる想い。ずっとこのままでいたい。だが、体温はすぐに離れてしまった。

「すまない。そろそろ戻らなければ」
「えっ、もう?」
「視察の帰りに寄っただけだからな」
「そっか……忙しいのに、ありがと」

 明るく笑いたいのに、寂しげな顔になってしまう。アールはそっと目を細め、風真の頬にキスをした。

「夕食までには戻るが、あまりロイと親しくなりすぎないでくれ」
「兄上、警戒しなくても何も起こりませんよ」
「知っている。だが、ただ単にお前がフウマと仲良くしていると気に食わない」
「酷いっ、兄上、差別ですよっ」

 ついワッと文句を言ってしまう。アイリスは隣で、愛しげにロイを見つめていた。


「こういうアールも、アール~って感じだよなぁ」
「殿下の溺愛モード、ゲームより甘いですよ」
「そうなのっ?」

 ケイに耳打ちされ、パッとそちらを向く。だがぐるんと戻された。

「私がいるうちは、私だけを見ていろ」
「ひぇっ……」

 間近で見つめられ、今更ながら顔の良さに致命傷を負わされる。更に台詞でとどめを刺され、へたりとアールの方へと倒れ込んだ。

「ケイも、あまりフウマに密着しないでくれ」
「はぁい」

(なにその返事っ、かわい~っ)

 ケイの顔を見たい。見て癒されたいのに、アールの手に頭を押さえつけられている。
 そのケイはというと、想像以上に風真を溺愛しているアールに感謝し、瞳をキラキラと輝かせていた。


「フウマ。また夕食時に」
「うんっ」

 アールと共に風真も立ち上がり、扉の外まで見送る。そしてキョロキョロと辺りを見渡し、アールの頬に手を当てた。

「仕事、頑張ってね。……大好きだよ」

 ちゅっと頬を啄み、へへ、と悪戯っぽく笑うと、一瞬唖然としたアールにきつく抱きしめられた。
 だがすぐに、離れがたくなるな、と寂しげな顔で体を離される。

「出来るだけ早く帰る。……愛している、フウマ」

 前髪をそっと払い、額にキスをして、アールは廊下を歩いて行った。


(い……いつまでも勝てる気がしない……)

 愛している。愛してる。アール、愛……。
 脳内で何度練習しても、恥ずかしくて叫びたくなる。「好き」なら言えるのに。
 あまり直接的に愛の言葉を伝えない文化で育ったとはいえ、ここは異世界。郷に入れば郷に従えだ。

「いつか……いつか、言うんだ……」

 きっとアールは喜んでくれる。アールの喜ぶ顔が見たい。頑張る、とキッと顔を上げた。


 風真がまた室内へと戻ったところで、柱の陰から護衛が静かに姿を現す。アールと風真が共に出てくる気配を感じ、先回りで身を隠していたのだ。
 二人の幸せな時間は、周囲の人々の努力と惜しみない愛情によって、今日も守られていた。

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