199 / 270
もうすぐ
しおりを挟む部屋に戻ると、ロイたち三人の微笑ましい笑顔に迎えられた。
「っ……、なんか、すごくすみません……」
居たたまれない。ケイの隣に戻り、膝に手を乗せて俯く。
「いえ、そんな。大変面白、……貴重な兄上を拝見出来ましたので」
「お二人がきちんと恋人らしくされていて、安心しましたわ」
ロイとアイリスは笑顔が止まらない。ケイは何も言わずに、溺愛アールルートの書き下ろし番外編、と嬉しそうに風真を見つめていた。
(元はBLゲームの世界だもんなっ)
男同士でイチャイチャしても、微笑ましく見守ってくれる。
この国は同性同士の恋人や婚姻はそう多くはないが、社会保障や養子縁組の制度も整っていると図書室の本で学んだ。何代か前の神子が同性と結婚してから、徐々に浸透していったらしい。
異性婚が主流の国や、異性婚以外は罪だという国もあるが、この国では嫌悪感を示す者の方が稀だ。
(だからって、進んで見せるものじゃないんだよなっ……)
つい目の前でイチャついてしまったが、堂々と見せるものではない。いや、この西洋らしい国では普通の事なのだろうか。だが、こういうプライベートな事は……。
悶々として首を横に振ったり拳を握ったり開いたりする風真を、三人は微笑ましく見つめながら、ゆったりとティーカップに口を付けた。
その後も四人で楽しく話し、帰りは風真が離れの玄関まで見送った。
風真とケイが前に立ち、後ろからロイとアイリスが付いてくる。
「……アイリス。いつの間に神子様と、そんなに親しく呼び合うようになったの?」
「え? あら? 今日からですわ。フウマさんがあまりに愛らしくて、つい」
「……そう」
「どうなさいました? ロイ様?」
「……別に、何でもないよ」
(ごちそうさまです!!)
拗ねた口調のロイと、分かっていてロイ様呼びをするアイリス。後ろの可愛いカップルに、今度は風真がにこにこしてしまう。
アイリスは悪役令嬢ではないが、聡明で優雅で凛とした公爵令嬢。ロイは穏やかさと腹黒さと庇護欲を擽る性格を持ち合わせた第二王子。大変お世話になった好きジャンルが背後で展開され、誰かこの二人を本にして! と笑顔のまま悶えてしまった。
・
・
・
部屋に戻り、風真はベッドに飛び込む。独りになるとアールの言動を思い出し、枕にぐりぐりと顔を埋めた。
(全て、って……そういうこと、だよな……)
お互い精一杯でキス止まりだったが、ついに今夜。カァ……と顔どころか体まで火照り、ごろんごろんと転げ回る。
どちらが抱かれる側だろうとふと考えて、考えるまでもなかったと、また転がる。アールは抱く気しかなく、風真も抱かれる前提で毎晩丁寧に体を洗っている。
他に何か準備する事はあるか、ケイに訊けば良かった。いや、訊けない。今日えっちするかもだけど、何か必要なものある? など訊けるものか。
(でも、しないかもだし……)
求婚されて、それで精一杯かもしれない。
だがもしする場合に備えて、ベッドを整え……なくとも、いつも整っている。シーツも天国の肌触りのものだ。アールの着替えもクローゼットにある。
「あっ……」
あった。準備するもの。
男同士でも、神子は子を成せると記述がある。この世界にあるか分からないが、男女間の行為で大事なアレだ。
(……絶対アールが準備してるよな)
しっかり研究して、風真の体に負担のない素材の物を選んでいそうだ。他に必要なものがあるなら、それも。アールは度々可愛いが、完璧な男なのだから。
ふう、と息を吐く。愛されすぎて安心感しかない。
(あー……でも、最初はそのままのアールを感じた、……)
「んっ、うあああっ~!!」
「神子様、どうされました?」
「何でもないです! すみません!」
あまりの大声に、外の護衛に心配されてしまった。風真はまた枕に顔を埋め、ぎゅっと目を閉じる。
アールは、やる時はやる男だ。もしアールの言う全てに風真の体が含まれているなら、有言実行、今夜決行される。
(……恥ずかしいだけで、俺もしたいのはしたいもんな)
アールと繋がりたい。アールが気持ちいい顔をするところを見たい。
挿れるのは痛くて苦しいかもしれないが、相手がアールなら頑張れる。拒む理由は何もなかった。
ただ、やはり恥ずかしくて胸がいっぱいで、風真はむくりと起き上がり厨房へ向かう。そして、さっき食べすぎてしまったので夜は軽めでお願いしますと伝えて、部屋へと戻った。
そして夕食時。部屋で食べると言えば良かったと、風真は後悔する。
向かいに座るアールに視線を向けられず、アールも風真を見つめては視線を逸らし、ソワソワしている。
こんなに不自然ではユアンとトキも気付いてしまうだろう。申し訳ない。そう思いつつも、普段通りには振る舞えない。
ユアンとトキはついに今日かと察し、頑張れ、とアールに内心でエールを送る。
そして二人と、自分たちのためにも、この後暇な部下たちを誘って飲みに行こうと視線で頷き合った。
・
・
・
風真は部屋へと戻りじっくりと体を清め、何を着ようかと迷って、部屋着を取った。胸元を紐で締めるタイプの柔らかな生地の白い服と、ウエストがゴムのベージュのズボンだ。求婚を受けるなら、パジャマではない方が良いだろう。
シャツとスラックスにすると、アールが緊張してしまいそうだ。そしてもしもの時に備え、ボタンの付いていない服にした。ボタンは、手が震えて外せそうにない。風真は、自ら脱ぐ事しか考えていなかった。
(よし、全てに対応した服も着たし……)
ソファに座り、また洗面所へと戻る。髪を整え、顔を確認し、ニッと笑う。ぎこちない笑顔になり、スッと両手で顔を覆った。
(予告とかするから、めちゃくちゃ緊張するじゃん……)
もうすぐ、求婚される。それだけでも心臓がドキドキして痛い。今まで散々求愛も求婚もされてきたが、好きだと気付くとこうも違うものか。
それに、その後はもしかしたら。悶々と想像してしまい、ふるふると頭を振った。
ふう、と息を吐いたところで、ノックの音が響く。
自分でも驚くほどにびくりと跳ね、風真は鏡で身嗜みを整えて、急いで扉へと向かった。
32
お気に入りに追加
827
あなたにおすすめの小説
異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました
ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
突然異世界転移させられたと思ったら騎士に拾われて執事にされて愛されています
ブラフ
BL
学校からの帰宅中、突然マンホールが光って知らない場所にいた神田伊織は森の中を彷徨っていた
魔獣に襲われ通りかかった騎士に助けてもらったところ、なぜだか騎士にいたく気に入られて屋敷に連れて帰られて執事となった。
そこまではよかったがなぜだか騎士に別の意味で気に入られていたのだった。
だがその騎士にも秘密があった―――。
その秘密を知り、伊織はどう決断していくのか。
捨て猫はエリート騎士に溺愛される
135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。
目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。
お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。
京也は総受け。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる