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討伐クエスト5-3
しおりを挟む「っ……」
「ケイ様!」
ふらつくケイを、騎士が支えた。
「ぁ……ありがとう、ございます……」
「我等がお支えしますっ」
「どうかっ……どうか、魔物をっ……」
罪悪感と、悔しげな騎士たちの顔。
よろけた拍子に外れたフードの中から現れたのは、儚げな少年だった。声もか細く、震えている。
こんなにも弱々しい少年が、魔物と戦っている。風真と同じ、特別な力を授けられたが為に、恐ろしい魔物と対峙しなければならない。
「我等の力不足でっ、申し訳ありませんっ……」
騎士はグッと唇を噛みしめた。
「……いえ。これは、僕の役目です」
ケイは彼らを落ち着けるように紡ぐ。
「ですが、……僕は、体力がないのです……」
お恥ずかしながら、と眉を下げた。
「なので、どうか……僕を、このまま支えていて、いただけないでしょうか……」
「っ、勿論です!」
「決して離しません!」
「ありがとうございます。これでまた、戦えます」
ケイはしっかりと声にして、綺麗な笑みを浮かべた。
「みなさんも、風真さんも、絶対に傷付けさせません」
神子の役目から逃げてしまった。その罪と、……護りたい、その気持ちで、力を振り絞る。
「風真さんっ、一気に片を付けたいです!」
「うん! いけるよ!」
風真の目の前には、“最大の祈り”が表示されている。
残りの魔物は十数体。ケイは今までで一番大きな火球を作り出した。
(最大の祈りを選択!)
風真とケイは視線を合わせ、頷く。同時に放たれた炎と光が混ざり合い、黄金の炎が辺り一面を覆った。
『ギィッギァァッ!!』
空まで包み込む炎。魔物の断末魔の叫びが響き渡る。
耳を塞ぎたくなるほどの絶叫と目映い光が収まると、キラキラとした光の粒が視界いっぱいに輝いていた。
その光景は、今までの戦闘が夢だったかのように、美しく穏やかだった。
「っ、やば……」
倒せた。そう考えた途端、ぐらりと視界が揺れる。
「フウマ!」
「っ……、ユアンさん……」
ユアンの腕に抱きとめられ、ホッと息を吐く。ユアンの腕の中は暖かくて優しくて、いつでも安心する。ふっと全身の力が抜けても、力強く支えてくれた。
「ケイ様っ」
隣でぐったりとするケイを、騎士がしっかりと抱きとめる。
「……すみ、ま……せ……」
「ケイ様っ、ありがとうございますっ」
「魔物、は……」
「全て消えました。どうぞ、ゆっくりお休みください」
騎士たちは優しい瞳でケイを見つめる。
魔物は討伐出来た。皆、優しく見つめてくれる。ケイは安堵の笑みを浮かべ、そのまま意識を失った。
(……主人公、だ)
儚げで、護りたくなる。ケイこそが主人公なのだと、そう感じても、以前のような焦りはなかった。
ケイは静かな寝息を立て、ただ眠っているだけ。それでも、ケイにこんな無理をさせないよう、強くなりたい。今はただ、そう思った。
「フウマ……。よくやった。頑張ったな」
閉じた瞼を持ち上げると、アールが傍にいた。
「へへ……、ありがと。俺、けっこう頑張ったよ……」
へらりと笑う風真の頭を、優しい手が撫でる。アールに撫でられると嬉しくて、また目を閉じた。
ユアンがそっと地面へと座り、風真を背後から抱きしめる。大きな木の幹に背を預けているような安心感があり、こんな場所だというのにウト……と意識が微睡み始めた。
「フウマさん、たくさん頑張りましたね。もう眠って大丈夫ですよ」
「……は、い」
「私たちを護ってくださって、ありがとうございます」
トキの手が髪を撫でる。穏やかな声に、ふわふわと意識が溶けて……。
「!?」
溶け切る前に、バサッと風を切る音が聞こえた。
意識が一気に覚醒し、風真は音のする方へ焦点を合わせる。
「っ……、違うドラゴンっ……!?」
今までの魔物より大きな姿。濃い青をしたドラゴンが、風真の正面へ降り立った。
今の状態で、どれだけ力が残っているだろう。画面には体力残量など表示されない。それでも、祈りの文字すら灰色になり選択出来ない事で察してしまった。
「……アール、神子君を頼む」
「っ、……分かった」
駄目だと、止める事が出来ない。今戦えるのはユアンだけだ。アールは唇を噛みしめる。
「ユアンさん、待ってください!」
「大丈夫だよ。心配しないで」
「駄目です! 俺、まだ戦えます!」
「神子君。ここからは、俺の役目だ」
「っ……、ユアンさんは、すごく強いです。でもっ……さっきのドラゴンよりっ……」
ユアンの服を掴み離さない風真に、ユアンはそっと笑みを浮かべる。こんなにも必死に止めてくれる。それだけで、充分だ。
『先程のものはワイバーンだ。一緒にされるのは心外だ』
「え……、ワイ……?」
「神子君?」
突然気の抜けた声を出し、キョトンとして魔物を見つめる風真の顔に、駆け出そうとしていたユアンは動きを止める。
先程とは違う。風真が注視すると、確かに先程とは違い、翼とは別に鋭い爪の付いた腕があった。
「神子君、どうしたの?」
首を傾げる風真。神の啓示だろうかとユアンはひとまず殺気を抑えた。
『……神子か』
風真は周囲を見渡し、また首を傾げる。覚えのある声ではない。随分と年齢を重ねた、低く落ち着いた声だった。
『今までの神子とは随分毛色が違うな』
呆れた声。風真は声のする方へ、……正面へ、視線を向ける。
『どの神子も美の化身かと見紛うばかりだったが、そなたは間の抜けた顔をしている』
「っ、アールと同じこと言ってる!?」
声の主は、目の前のドラゴンだった。
『そなた、私の声が聞こえるのか?』
「聞こえる! 喋ってる!」
「神子、どうした?」
「喋ってる! ドラゴン、アールと同じこと言ってる!」
「私と?」
『そうか、神子の資質だけはあるようだな』
「俺の知ってるドラゴンと違う~!」
『そなたの知るドラゴンとは?』
「クールで知的で時々皮肉言ったりして、かっこいいから許されるんだ! みたいな、…………え、ドラゴンじゃん?」
『いかにも。私はそなたの知るドラゴンだが?』
「ドラゴンじゃんっ!!」
思わず身を乗り出した。
「神子君、あれは魔物じゃないの?」
「はいっ、あっ、いえ、分からないですっ。でも、普通に会話してくるので……」
『私は魔物であり、魔物ではない』
「えっ、どっち?」
『浄化は必要ないという事だ』
「……でもドラゴンって、悪い魔物じゃないの?」
『そなたの基準で言うならば、善い魔物だろうな』
「本当に? 火を吹いたりしない?」
『火は吹くが、あれは疲れるうえに、はしゃいで見えるだろう? 若者以外は滅多に吹かない』
(火を吹くの、はしゃいで見えるんだ……)
『真のドラゴンとは、何もせずとも威厳を感じられ、目にするだけで畏れ敬わずにいられないものだ。そこの人間どもを見てみろ』
風真が背後を見ると、精鋭の騎士たちですらいつでも剣を抜けるよう構えながらも、ドラゴンを前に今にも膝を付きそうに震えていた。
ふと見ると、ユアンや、アール、トキも何かに耐えるように唇を引き結んでいる。
『そなたが平気な顔をしていられるのは、神子だからだろう。そなた自身が鈍感なせいかもしれぬが』
(ドラゴンに皮肉言われて鼻で笑われた……)
『私にそのような口調で話す者など、この数百年いなかったぞ』
「え? あっ、ほんとだ。初対面なのにすみませんっ」
『ふ……、まあ良い。元の口調で話す事を許す』
「あっ、ありがとうございますっ」
ここは思わず敬語になった。ドラゴンはまたクスクスと笑う。
風真以外にはドラゴンが首を振ったようにしか見えず、何が起こるのかと警戒を強めた。
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