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愛犬の進化版
しおりを挟むそれから数日後の、学校帰り。
教授が指定した追加の教材や参考書を書店で買い、ついでに気になっていた本も買って、更についでに履きやすくてオススメだと隆晴が言った靴もついつい買って、隆晴と共に帰宅した。
叶多があんな事を言うものだから変に身構えてしまったが、隆晴はいつも通り、頼りになる先輩のままだった。
「運んで貰ってすみません」
「気にすんなって」
そう言って優斗の部屋に荷物を置く。隆晴は当然のように一番重い本の入った袋を持ってくれた。
体格差が、とからかうように言いながらも、本当はただ優しいのだと知っている。昔からそうだった。
高校の頃もそうだったな、と思い出していると、隆晴はふと思い付いたような声を出した。
「やっぱ、礼して貰おうかな」
「あ、はい。俺に出来ることなら」
と、言うが早いか、隆晴の腕が伸びてきてギュッと抱き締められる。
「わっ、先輩?」
「しばらくこのまま、な」
「え、あ……はい……」
これがお礼になるのだろうか。優斗は首を傾げながらも、言われた通りにじっとしておく事にした。
抱き締められ、背を撫でられ、髪を撫でられて。それはいつもの事。
だが今日はいつものように愛犬用の手付きではなく……、まるで、恋人にするようで……。
――……って、いやいやいや、きっと先輩にとってはこれは、愛犬の進化版……。
「っ……、あの、先輩、そろそろ……」
「んー」
んー、じゃなくて。と言いかけてやめた。
動揺してはいるが、これがお礼になるならば。それに優斗としても嫌なわけではない。それこそ相手は、心から尊敬する先輩なのだから。
「優斗」
「はい?」
「……優斗」
「っ!? あっ、あのっ……」
「どうした?」
「っ、……えっと、声が」
「声が、なに……?」
ひっ、と上げかけた声は何とか抑えた。
隆晴の声が、……良く言えば、甘い。
悪く言えば…………いやらしい。
こんなの聞いた事がない。以前にされた時よりも更に腰砕け仕様になっている。女の子なら崩れ落ちている。男の自分でも、若干膝が震えている。
「優斗」
「っ……!」
吐息と共に唇も耳に触れ、たまらずに隆晴を押し返した。
「先輩っ、悪ふざけが過ぎますよ!」
「悪ふざけ、ってか、本気、ってか」
「なんですかそれっ」
「本気で、癒されるなって。ありがとな、優斗」
ポン、と頭を撫でる。
思わずポカーンとして見上げる優斗。隆晴は優しい瞳で見下ろして、今度はナデナデと頭を撫でた。
本気、の意味を、勘違いするところだった。優斗はスッ……と視線を反らす。
「顔、真っ赤」
「誰のせいですかっ」
「俺のせいだな」
「そうですよっ」
「俺のせい、な」
なんで嬉しそうなんですか、と優斗は頬を膨らませるが、可愛い事この上ない。
優斗が以前よりも顔を赤くするようになったのも、怒るのも、隆晴の事を意識し始めているからでは、と推測すると顔がニヤけてしまう。
叶多には優斗は男だ、後輩だ、と言ったが、とっくにただの後輩ではなくなっている。男だとしても、優斗が良い。
優斗が欲しくて本気でいくと決めたものの、焦って玉砕する気はなかった。今はまだ、伝える時ではないのだ。
思い出すのは、優斗の兄。……今更後には退けない。退く気もなかった。
優斗の事を守ると決めた。それなのに、一番危険なのは自分だと自覚してはいるのだが……。
「ちょっ……先輩、またっ……」
まだ足りずに抱き締めると、優斗が慌てた声を出す。今度はわしゃわしゃと頭を撫で、ポンポンと背を叩いた。
「あー、犬ですね」
すると優斗は苦笑して、ふっと体の力を抜いた。
一度得た信頼は、警戒心を殺してしまうらしい。
このまま彼をどうにでも出来てしまう自分は、一番の危険人物に違いなかった。
……優斗を傷付けるような事は、しないけれど。
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※続編はこちら。→ある日、人気俳優の弟になりました。2
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