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348 アインヴェルク④
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「そういえばアインさ、何だか雰囲気違って見えるけど、何かあったの?」
「まぁそうはそうなんだけど……んー、どこから説明したらいいのやら……」
ミリィの言葉に腕組みをして唸りながら考え込むアイン。
無理もない。今のアインは大分ややこしい事になっているからな。
自分でも説明しづらいのだろう。
「ワシが説明しよう。実はだな――――」
ある程度かみ砕いて、今までのいきさつを説明していく。
アインベルはこの国の女王になる為、邪な心を捨て去った。
その過程で生まれたのが、ベルである。
女王としてふさわしくない部分を凝縮したような存在であるベルが、大人しく城になどいられるはずもなく、物心つく頃にはすぐに城を逃げ出してしまったのだ。
だが、今回の戦いで再び元に戻ったのだ。
再度一つになった彼女はアインと名乗り、今に至るというわけである。
ひとしきり聞いた後、レディアが不思議そうにアインに訪ねる。
「へぇ、アインちゃんて元々は一人だったんだねぇ。それが二つに分かれて、また元に戻ったと……一体どういう理屈?」
「私たち精霊は身体の殆どを魔力で構成されているからね。まぁ色々と不思議なことが出来るのよ」
雑な説明だが、大体あってる。
使い魔アインも最初はネズミサイズだったが一気に成長したし、剣にはなるわ空は飛ぶわで色々ぶっとんでいるしな。
「ん、そういえばワシが呼び出していたアインの本体はアインベルだったようだが、性格は何故かベルに似ていたな。あれは何故だ?」
「使い魔として呼び出された精霊は、その精霊の素の部分が大きく出るのよ。アインベルも分かれる前は、結構奔放な性格だったみたい」
「そ、そうか……」
という事は今のアインが、アインベル本来の性格なのだろうな。
確かにあの性格では、女王など勤まりそうもない。
邪な心を捨てたのも理解出来る。
ティアマットとの戦いには力が必要と考えたアインベルは、今度はベルをベースとしてまた一つに戻ったのだ。
「……さ、積もる話は帰ってからにしましょうか。いつまでもここにいても仕方ないしねっ!」
「そうですね、やる事は沢山ありますから」
ずいと出てきたヴィルクにアインがびくんと震える。
そう言えば完全に忘れていたが、いたんだったなコイツ。
ミリィに叱られて、隅っこの方で暗くなっていたが立ち直ったのようである。
と思ったがヴィルクは目の辺りが赤く腫れている。
……どうやらまだ立ち直ってはいないようだ。
「今回の戦いで、この国は随分疲弊してしまいました。立ち直る為には柱が必要です。女王という、柱が」
「う、うぅ……」
アインはすごく嫌そうだ。
まぁこいつは面倒ごとが嫌いな性格だしな。
しかしこれは女王としての初仕事である。
ヴィルクも逃がすつもりはないようだ。
「た、確かに貧民街がめちゃくちゃになってるもんねぇ……」
「それだけではないですよアイン様。逃げ惑う人々で街は混乱を極めております。新たな整備も、街を守る備えも、大量に出た難民の食料、住居の問題……やる事は山積みです」
「ええっ! そんなの女王がやる事でしょ!」
「その女王があなたなのですが」
ヴィルクは冷たい声でアインを突き放す。
どうやら心の傷は、仕事で癒やすタイプのようだ。
アインが助けを求めるような目でワシを見ているが、諦めが肝心である。
首を振って返すと、がっくりとうなだれた。
やれやれ、まぁ励ますくらいはしてやるか。
「……アインベルも、お前になら出来ると思って女王の座を、その全てを託したのだよ。軽く応えてやれ」
「うぅ……面倒くさいなぁ……」
「面倒とは何事ですか。……やはり一から教育し直す必要があるようですね」
「ひいっ、鬼悪魔っ!」
「何とでも仰いませ」
そんなアインの言葉にも全く動じないヴィルク。
流石、巨乳には厳しい。
そういえばクロードにやたら絡んでいたのはそれが原因だったのだな。
「ともあれ一件落着ね。それじゃ帰りましょうか」
「ミリィさま、それでは是非とも私の背に……」
「じゃっ、行きましょゼフっ!」
ヴィルクが言い終わらぬうちに、ミリィはワシの手を掴みテレポートで飛んでいくのであった。
絶望に満ちたヴィルクをその場に残して。
――――その日、精霊の国では宴が行われた。
長年、国を苦しめてきた仇敵を倒したのだ。今日くらいは騒ごうとアインが言いだしたのである。
兵も民も疲弊していたし、ヴィルクも城の酒や食糧を振る舞い、飲めや歌えの大騒ぎであった。
ワシらはその功労者だ。
色々と珍しい料理や酒、歌や踊りを勧められながら、大歓迎を受けたのである。
夜は更けて尚、宴の火が消える事はない……
「う~もう食べらんないよぉ~」
ワシが喧騒を抜け出し休んでいると、同じように抜けてきたミリィが膨れた腹をさすりながら横たわってきた。
「ゼフがにげるからーそのぶんわらひがからまれたんだからねー!」
「それは災難だったな」
酔っているのだろうか。ろれつが回ってない。
ワシらは大歓迎を受け、あれを食べろこれを食べろと勧められて大変だったのだ。
ワシは適当に逃げてきたが、皆はまだあの喧騒の中にいる。
と言ってもそれなりにあしらいながら、各々楽しんでいるようだ。
そんな中、ミリィは勧められるがままに色々と口にしていたからな。
「おい大丈夫かよミリィ」
「よって……ないし……」
そう言って、ミリィはずるずると崩れ落ちるとワシの肩に寄りかかると、すぅすぅと寝息を立てはじめた。
食べてすぐ寝ると牛になるぞ全く。
「ま、今日は頑張ったからな。ゆっくり休むといい」
「ん……くぅ……」
ミリィの規則正しい寝息を聞いていると、ワシまで眠くなってくる。
遠くなっていく騒ぎの音を聞きながら、ワシは意識をまどろみに落としていくのだった。
「まぁそうはそうなんだけど……んー、どこから説明したらいいのやら……」
ミリィの言葉に腕組みをして唸りながら考え込むアイン。
無理もない。今のアインは大分ややこしい事になっているからな。
自分でも説明しづらいのだろう。
「ワシが説明しよう。実はだな――――」
ある程度かみ砕いて、今までのいきさつを説明していく。
アインベルはこの国の女王になる為、邪な心を捨て去った。
その過程で生まれたのが、ベルである。
女王としてふさわしくない部分を凝縮したような存在であるベルが、大人しく城になどいられるはずもなく、物心つく頃にはすぐに城を逃げ出してしまったのだ。
だが、今回の戦いで再び元に戻ったのだ。
再度一つになった彼女はアインと名乗り、今に至るというわけである。
ひとしきり聞いた後、レディアが不思議そうにアインに訪ねる。
「へぇ、アインちゃんて元々は一人だったんだねぇ。それが二つに分かれて、また元に戻ったと……一体どういう理屈?」
「私たち精霊は身体の殆どを魔力で構成されているからね。まぁ色々と不思議なことが出来るのよ」
雑な説明だが、大体あってる。
使い魔アインも最初はネズミサイズだったが一気に成長したし、剣にはなるわ空は飛ぶわで色々ぶっとんでいるしな。
「ん、そういえばワシが呼び出していたアインの本体はアインベルだったようだが、性格は何故かベルに似ていたな。あれは何故だ?」
「使い魔として呼び出された精霊は、その精霊の素の部分が大きく出るのよ。アインベルも分かれる前は、結構奔放な性格だったみたい」
「そ、そうか……」
という事は今のアインが、アインベル本来の性格なのだろうな。
確かにあの性格では、女王など勤まりそうもない。
邪な心を捨てたのも理解出来る。
ティアマットとの戦いには力が必要と考えたアインベルは、今度はベルをベースとしてまた一つに戻ったのだ。
「……さ、積もる話は帰ってからにしましょうか。いつまでもここにいても仕方ないしねっ!」
「そうですね、やる事は沢山ありますから」
ずいと出てきたヴィルクにアインがびくんと震える。
そう言えば完全に忘れていたが、いたんだったなコイツ。
ミリィに叱られて、隅っこの方で暗くなっていたが立ち直ったのようである。
と思ったがヴィルクは目の辺りが赤く腫れている。
……どうやらまだ立ち直ってはいないようだ。
「今回の戦いで、この国は随分疲弊してしまいました。立ち直る為には柱が必要です。女王という、柱が」
「う、うぅ……」
アインはすごく嫌そうだ。
まぁこいつは面倒ごとが嫌いな性格だしな。
しかしこれは女王としての初仕事である。
ヴィルクも逃がすつもりはないようだ。
「た、確かに貧民街がめちゃくちゃになってるもんねぇ……」
「それだけではないですよアイン様。逃げ惑う人々で街は混乱を極めております。新たな整備も、街を守る備えも、大量に出た難民の食料、住居の問題……やる事は山積みです」
「ええっ! そんなの女王がやる事でしょ!」
「その女王があなたなのですが」
ヴィルクは冷たい声でアインを突き放す。
どうやら心の傷は、仕事で癒やすタイプのようだ。
アインが助けを求めるような目でワシを見ているが、諦めが肝心である。
首を振って返すと、がっくりとうなだれた。
やれやれ、まぁ励ますくらいはしてやるか。
「……アインベルも、お前になら出来ると思って女王の座を、その全てを託したのだよ。軽く応えてやれ」
「うぅ……面倒くさいなぁ……」
「面倒とは何事ですか。……やはり一から教育し直す必要があるようですね」
「ひいっ、鬼悪魔っ!」
「何とでも仰いませ」
そんなアインの言葉にも全く動じないヴィルク。
流石、巨乳には厳しい。
そういえばクロードにやたら絡んでいたのはそれが原因だったのだな。
「ともあれ一件落着ね。それじゃ帰りましょうか」
「ミリィさま、それでは是非とも私の背に……」
「じゃっ、行きましょゼフっ!」
ヴィルクが言い終わらぬうちに、ミリィはワシの手を掴みテレポートで飛んでいくのであった。
絶望に満ちたヴィルクをその場に残して。
――――その日、精霊の国では宴が行われた。
長年、国を苦しめてきた仇敵を倒したのだ。今日くらいは騒ごうとアインが言いだしたのである。
兵も民も疲弊していたし、ヴィルクも城の酒や食糧を振る舞い、飲めや歌えの大騒ぎであった。
ワシらはその功労者だ。
色々と珍しい料理や酒、歌や踊りを勧められながら、大歓迎を受けたのである。
夜は更けて尚、宴の火が消える事はない……
「う~もう食べらんないよぉ~」
ワシが喧騒を抜け出し休んでいると、同じように抜けてきたミリィが膨れた腹をさすりながら横たわってきた。
「ゼフがにげるからーそのぶんわらひがからまれたんだからねー!」
「それは災難だったな」
酔っているのだろうか。ろれつが回ってない。
ワシらは大歓迎を受け、あれを食べろこれを食べろと勧められて大変だったのだ。
ワシは適当に逃げてきたが、皆はまだあの喧騒の中にいる。
と言ってもそれなりにあしらいながら、各々楽しんでいるようだ。
そんな中、ミリィは勧められるがままに色々と口にしていたからな。
「おい大丈夫かよミリィ」
「よって……ないし……」
そう言って、ミリィはずるずると崩れ落ちるとワシの肩に寄りかかると、すぅすぅと寝息を立てはじめた。
食べてすぐ寝ると牛になるぞ全く。
「ま、今日は頑張ったからな。ゆっくり休むといい」
「ん……くぅ……」
ミリィの規則正しい寝息を聞いていると、ワシまで眠くなってくる。
遠くなっていく騒ぎの音を聞きながら、ワシは意識をまどろみに落としていくのだった。
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