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349 アインヴェルク⑤
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――――数日後、万雷の拍手が巻き起こる中を女王姿のアインが手を振りながら進む。
ティアマットを倒しはしたが、ボロボロに壊された国を建てなおすには女王という「柱」が必要だ。
だが本来の女王アインベルはその力をベルへ受け渡し、今のアインとなってしまった。
その過程で性格などは完全に変わってしまったわけで、つまり今の女王が別人と言える。
当然、このままでは民は混乱してしまう。
そこで演説や立ち振る舞い、民への接し方などをヴィルクが教え込んだのである。
付け焼き刃の割に、見事こなしているではないか。
メイド姿に戻ったヴィルクが、それを見てうるうると涙を流している。
「素晴らしいです……まさにアインベルさまの生き写し……」
「いや、ある意味では本人なのだがな」
まぁしかし、立派なものではないか。
普段はおちゃらけているが、アインは意外とやる時は案外やるのだ。
ともあれ、これで思い残す事もない。
アインも無事、女王を務める事が出来そうだしな。
くるりと背を向け、歩き出す。
「ゼフ、もういいの?」
「アインのヤツ上手くやっているようだしな。それにイエラたちも待っているだろう」
「あ……完全に忘れてた」
はっとしたような顔のミリィ。だと思ったよ。バタバタしていたし、仕方ないではあるがな。
まぁティアマットを撃破するという目的も果たした。そろそろイエラたちの元へ帰るとするか。
「行かれるのですか? ゼフさま」
「あぁ、待ち人もいるのでな」
「……そうですね。でしたらこれをお持ちください」
ヴィルクが渡してきたのは、宝石をあしらったアクセサリーである。
高価そうな宝石がジャラジャラついた、豪華なものだ。
「いいのか?」
「売るなりなんなり、お好きにしてくださいませ。国を救って頂いた礼だと思えば、安いくらいです」
「そう言うことならありがたく」
貰っておくか。
実際十分すぎるほど仕事はしたからな。
「それではありがとうございました」
「うむ、しっかりアインの面倒を見てやれよ」
「それはもう、しっかりと」
そう言うと、ヴィルクは黒い笑みで見送るのだった。
何か引っかかるものを感じつつも、ワシらは森へと足を踏み入れる。
「うへぇ、またここを通らないといけないの……?」
「タイタニアもありませんしねぇ」
「ま、レベル上げついでと思えば悪くなかろう」
「そういえば、もうゼフまたレベルあがったのよねぇ」
「くっくっ、その通りだ」
ゼフ=アインシュタイン
レベル97
「緋」魔導値92 限界値99
「蒼」魔導値84 限界値92
「翠」魔導値83 限界値99
「空」魔導値81 限界値93
「魄」魔導値85 限界値97
魔力値5180/5189
そう、先の戦いで一気に97にまで上がったのである。
本来ならあと半年はかかると思っていたのだがな。
ティアマット、バクームロアの経験値はとんでもない量だった。
更に言うと緋の魔導値。
バートラムには流石に及ばぬものの、この戦いでかなり上がった。
だが、ワシには合成魔導もある。
これだけの戦力があれば十分奴とも渡り合えるだろう。
「首を洗って待っていろ。バートラム=キャベル……!」
「相変わらず悪い顔ねぇ、おじいってば」
後ろからの声に振り向くと、そこにいたのは先刻別れたはずのアインであった。
皆、あまりの驚きに固まる。
ミリィがわたわたと指差しながら、叫ぶ。
「な、何してるのアイン! さっきまであそこにいたじゃない! どーなってるのよ!」
「いやーあっはっは! 実はアレ、替え玉なのよねぇ」
「替え玉って……で、でもアレはどう見ても……」
「分裂したのよ。もう一回、ね」
そう言ってアインは、いたずらっぽく舌を出す。
「アインベルの性格を再現し、相手に対応して様々な行動を行えるようプログラムした魔力の塊よ。もし対応出来ない行動の場合は、0.1秒でこちらにコントロールが移り、念波で直に操る事も出来るわ」
「な……だ、大丈夫なの!?」
「まー今のところヴィルクにも民衆にもバレてないし、上手くいってるっぽいかな?」
呆れるミリィに、笑って返すアイン。
おいおい、笑い事じゃないぞ。
「だってさー大変なんだもん! ヴィルクはうるさいし! かたっくるしいし! みんながジロジロ見てくるしっ! あーもうヤダヤダヤダーっ!」
頭を抱え、ジタバタと駄々をこねている。
ええい、子供かおのれは。恥ずかしい。
冷たい目で見下されているのにも構わず、アインは縋り付いてくる。
「ねっ! 私を連れてってよ! 私のこと必要でしょ!? ねぇねぇっ!」
「うーむ……」
どうしたものかな。
確かにバートラムと戦うのにアインは必要だが、かと言って連れてきていいのだろうか。
考え込んでいると、頭の中にいきなり声が響いた。
《ゼフさまでございますか?》
《む、ヴィルクか。もしや……》
《えぇ。お渡しした宝石の中に、円環の水晶を混ぜさせていただきました》
なるほど、先刻これを渡された時に何か引っかかっていたが、理由はこれか。
という事は、用事も大体想像がつくな。
《お察しの通り、アインさまの事でございます。そちらに居られますよね?》
「どきぃっ!?」
と、声に出すアイン。
自信満々に何か言ってたが、お前の残してきた分身、バレバレみたいだぞ。
狼狽えるアインをジト目で見る。
《大分慌てているようですね》
《見えているのか?》
《えぇ、精霊は遠くの人と精神を通わせ、感覚を共有出来ますから》
なるほど、そういえばそんな力があったな。
というかそれを使われると、逃げてもすぐバレるではないか。
アインの奴、すっかり忘れてたという顔をしている。
アホだ。アホがいるぞ。
《……で、こいつを返せと?》
「い、いやよ! 絶対戻らないからね!」
ワシにしがみつき、首を降るアイン。
ヴィルクは、ふっと鼻で笑った。
《いいえ、その必要はありません》
《……そうなのか? てっきりそういう事かと思っていたのだが》
《アインさまが残してくれた分身は、素晴らしい出来ですから。十分仕事はしてくれるでしょう。むしろ本物におられると、民に混乱を招く可能性すらあります。どうぞ、ゼフさまが連れて行ってくださいませ》
そう言って、ヴィルクからの念話は途切れた。
抱きつくアインと、目が合う。
「……らしいぞ。よかったなアイン」
「それはそれで傷つくんですけど……」
なんだかよく分からんうちに、押し付けられてしまった気がする。
「ま、まぁ改めて、これからもよろしくね!」
複雑な顔で笑いながら、アインは言うのだった。
ティアマットを倒しはしたが、ボロボロに壊された国を建てなおすには女王という「柱」が必要だ。
だが本来の女王アインベルはその力をベルへ受け渡し、今のアインとなってしまった。
その過程で性格などは完全に変わってしまったわけで、つまり今の女王が別人と言える。
当然、このままでは民は混乱してしまう。
そこで演説や立ち振る舞い、民への接し方などをヴィルクが教え込んだのである。
付け焼き刃の割に、見事こなしているではないか。
メイド姿に戻ったヴィルクが、それを見てうるうると涙を流している。
「素晴らしいです……まさにアインベルさまの生き写し……」
「いや、ある意味では本人なのだがな」
まぁしかし、立派なものではないか。
普段はおちゃらけているが、アインは意外とやる時は案外やるのだ。
ともあれ、これで思い残す事もない。
アインも無事、女王を務める事が出来そうだしな。
くるりと背を向け、歩き出す。
「ゼフ、もういいの?」
「アインのヤツ上手くやっているようだしな。それにイエラたちも待っているだろう」
「あ……完全に忘れてた」
はっとしたような顔のミリィ。だと思ったよ。バタバタしていたし、仕方ないではあるがな。
まぁティアマットを撃破するという目的も果たした。そろそろイエラたちの元へ帰るとするか。
「行かれるのですか? ゼフさま」
「あぁ、待ち人もいるのでな」
「……そうですね。でしたらこれをお持ちください」
ヴィルクが渡してきたのは、宝石をあしらったアクセサリーである。
高価そうな宝石がジャラジャラついた、豪華なものだ。
「いいのか?」
「売るなりなんなり、お好きにしてくださいませ。国を救って頂いた礼だと思えば、安いくらいです」
「そう言うことならありがたく」
貰っておくか。
実際十分すぎるほど仕事はしたからな。
「それではありがとうございました」
「うむ、しっかりアインの面倒を見てやれよ」
「それはもう、しっかりと」
そう言うと、ヴィルクは黒い笑みで見送るのだった。
何か引っかかるものを感じつつも、ワシらは森へと足を踏み入れる。
「うへぇ、またここを通らないといけないの……?」
「タイタニアもありませんしねぇ」
「ま、レベル上げついでと思えば悪くなかろう」
「そういえば、もうゼフまたレベルあがったのよねぇ」
「くっくっ、その通りだ」
ゼフ=アインシュタイン
レベル97
「緋」魔導値92 限界値99
「蒼」魔導値84 限界値92
「翠」魔導値83 限界値99
「空」魔導値81 限界値93
「魄」魔導値85 限界値97
魔力値5180/5189
そう、先の戦いで一気に97にまで上がったのである。
本来ならあと半年はかかると思っていたのだがな。
ティアマット、バクームロアの経験値はとんでもない量だった。
更に言うと緋の魔導値。
バートラムには流石に及ばぬものの、この戦いでかなり上がった。
だが、ワシには合成魔導もある。
これだけの戦力があれば十分奴とも渡り合えるだろう。
「首を洗って待っていろ。バートラム=キャベル……!」
「相変わらず悪い顔ねぇ、おじいってば」
後ろからの声に振り向くと、そこにいたのは先刻別れたはずのアインであった。
皆、あまりの驚きに固まる。
ミリィがわたわたと指差しながら、叫ぶ。
「な、何してるのアイン! さっきまであそこにいたじゃない! どーなってるのよ!」
「いやーあっはっは! 実はアレ、替え玉なのよねぇ」
「替え玉って……で、でもアレはどう見ても……」
「分裂したのよ。もう一回、ね」
そう言ってアインは、いたずらっぽく舌を出す。
「アインベルの性格を再現し、相手に対応して様々な行動を行えるようプログラムした魔力の塊よ。もし対応出来ない行動の場合は、0.1秒でこちらにコントロールが移り、念波で直に操る事も出来るわ」
「な……だ、大丈夫なの!?」
「まー今のところヴィルクにも民衆にもバレてないし、上手くいってるっぽいかな?」
呆れるミリィに、笑って返すアイン。
おいおい、笑い事じゃないぞ。
「だってさー大変なんだもん! ヴィルクはうるさいし! かたっくるしいし! みんながジロジロ見てくるしっ! あーもうヤダヤダヤダーっ!」
頭を抱え、ジタバタと駄々をこねている。
ええい、子供かおのれは。恥ずかしい。
冷たい目で見下されているのにも構わず、アインは縋り付いてくる。
「ねっ! 私を連れてってよ! 私のこと必要でしょ!? ねぇねぇっ!」
「うーむ……」
どうしたものかな。
確かにバートラムと戦うのにアインは必要だが、かと言って連れてきていいのだろうか。
考え込んでいると、頭の中にいきなり声が響いた。
《ゼフさまでございますか?》
《む、ヴィルクか。もしや……》
《えぇ。お渡しした宝石の中に、円環の水晶を混ぜさせていただきました》
なるほど、先刻これを渡された時に何か引っかかっていたが、理由はこれか。
という事は、用事も大体想像がつくな。
《お察しの通り、アインさまの事でございます。そちらに居られますよね?》
「どきぃっ!?」
と、声に出すアイン。
自信満々に何か言ってたが、お前の残してきた分身、バレバレみたいだぞ。
狼狽えるアインをジト目で見る。
《大分慌てているようですね》
《見えているのか?》
《えぇ、精霊は遠くの人と精神を通わせ、感覚を共有出来ますから》
なるほど、そういえばそんな力があったな。
というかそれを使われると、逃げてもすぐバレるではないか。
アインの奴、すっかり忘れてたという顔をしている。
アホだ。アホがいるぞ。
《……で、こいつを返せと?》
「い、いやよ! 絶対戻らないからね!」
ワシにしがみつき、首を降るアイン。
ヴィルクは、ふっと鼻で笑った。
《いいえ、その必要はありません》
《……そうなのか? てっきりそういう事かと思っていたのだが》
《アインさまが残してくれた分身は、素晴らしい出来ですから。十分仕事はしてくれるでしょう。むしろ本物におられると、民に混乱を招く可能性すらあります。どうぞ、ゼフさまが連れて行ってくださいませ》
そう言って、ヴィルクからの念話は途切れた。
抱きつくアインと、目が合う。
「……らしいぞ。よかったなアイン」
「それはそれで傷つくんですけど……」
なんだかよく分からんうちに、押し付けられてしまった気がする。
「ま、まぁ改めて、これからもよろしくね!」
複雑な顔で笑いながら、アインは言うのだった。
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