効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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347 アインヴェルク③

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 どどどどどどどどどどどどどど………………
 眩い光が爆音と共に全てを押し潰していく。
 右も左も、上下さえもわからぬような感覚。
 まるで魔力の津波だ。如何に指向性を帯びていないとはいえ、これだけの魔力を直接浴びればただでは済まないだろう。
 クロードのスクリーンポイントがなければ、どうなっていたか……

「また助けられてしまったな、クロード」
「ん……気にしないでください、ゼフ君」

 クロードの髪を撫でると、心地よさげに頭を押し付けてくる。
 しばらくそのまま魔力の濁流を漂っていたワシらだったが、すぐに解放され地面に投げ出された。

「っつつ……やっと解放されましたね」
「本来、コントロールから外れた魔力はすぐに霧散してしまう。あんなに長時間、大量の魔力が現界するなど、本来はあり得ないのだからな」

 大地に溜まりきったマナが、まるで噴火のように吹き出す現象に似ている。
 マナの噴火は一夜で国を滅ぼした事もある大災害の一つだ。
 それほどまでの魔力を込めた一撃……ティアマットは跡形も残っていない。

「……ところでクロード、もう離してくれても大丈夫なのだぞ」
「あ……は、はいっ! す、すみません……」

 ワシに抱きついていたクロードが、慌てて身体を離す。
 照れているのか、羞恥に頬を真っ赤に染めている。
 くっくっ、先刻までの凛々しい顔が台無しだな。
 そんなクロードの様子に、ワシの緊張もすっかり緩んでしまった。
 やれやれとため息を吐くワシの横で、いつの間にか普段の姿に戻っていたアインが、大きく伸びをしている。

「あーすっきりした♪」
「いや、お前は少し反省しろよ。無茶苦茶をしおってからに……」
「えへへ、ごめんごめん……あだっ!」

 可愛らしく舌を出すアインの頭を殴ると、すこんと小気味よい音がした。
 涙目でこちらを見ているが、許すものかとばかりに冷たい目で見下ろす。
 流石に許せる度合いを超えているぞ。全く。
 危うく死ぬところだったのだからな。

「……はっ! そういえば、レディアたちはどうなった?」

 辺りを見渡すが、共に戦っていたはずのレディア、メア、シルシュの姿が見当たらない。
 まさか先刻の魔力の大洪水に飲まれて……?
 嫌な考えに、冷たい汗がワシの背筋を伝う。

「おおーい、ゼフっちぃー!」

 だがワシの考えは、能天気な声にすぐ打ち消された。
 空を見上げると、上からレディアが降ってきて一回転した後着地する。

「よ……っとお」
「レディア! 無事だったか!」
「うん、皆も無事だよ」

 レディアはが空を指さすと、シルシュとメアがミリィの駆るウルクに乗せられていた。
 どうやら危機一髪でミリィが救い出してくれたようだな。

「しっかしギリギリだったとはいえ、私なんてウルクに首ねっこ咥えて引っ張り上げられたんだから」
「ゼフーっ! 大丈夫だったっ!?」
「それはこちらのセリフだミリィ。大分消耗していたはずだが、もう大丈夫なのか?」
「にひひ、とーぜん♪」

 ブイサインをするミリィだが、その足はぷるぷると小刻みに震えている。
 全身の魔力を使い果たしたからだろう。生まれたての小鹿のようではないか。
 流石に無茶をしすぎたようである。
 そんなミリィの背中を、後ろから近づいて来たメアが軽く叩いた。

「馬鹿を言わないでくださいなぁ、フラフラのくせにぃ」
「あたっ!」

 その拍子にミリィは足元をふらつかせる。
 転びそうになるミリィを、ワシは咄嗟に抱き止めた。

「ったく、全然大丈夫ではないではか」
「あはは……」

 立ち上がろうと力を入れていたようだが、すぐに身体を預けてくるミリィ。
 どうせ立っているのもやっとだったのだろう。

(まぁ実際ミリィはよくやったし、このまま休ませてやるとするか……っとと)

 支えようとしたワシの身体が揺らぐ。
 どうやらワシも既に力を使い果たしていたようだ。
 ミリィと二人、地面へと崩れ落ちる。

「ゼフ君!」
「ゼフっち!」

 クロードとレディアがワシらを支えようとするが、二人とも足をもつれさせ、支える事かなわず。
 そのまま四人共、ぐちゃぐちゃの体勢で倒れてしまった。

「いたた……」
「あらぁ、折角がんばったミリィさんにご褒美をと思いましたのにぃ、報われませんわねぇ」
「な……ど、どういう意味よっ!」
「いーえ、べつにぃ」

 そう言うと、メアもまたワシに飛びついてきた。
 払いのけたいが、もうそんな力もない。
 やれやれ、もう好きにしてくれ。

「あらあらゼフさんたら。仲がよろしいですわね」
「……ふん」

 いつの間にかウルクから降りていたシルシュが苦笑を漏らしている。
 まぁセルベリエは射殺さんばかりの目でこちらを見ているのだが……視線を泳がせていると、メイド姿に戻ったウルク――――もといヴィルクがぽんぽんと裾を払っていた。

「し、しかしヴィルクがウルクだったとは思わなかったぞ」
「……まぁ、はい。そうですね。隠しているつもりはなかったのですが」
「いや、ワシのイメージではウルクは結構アレな性格だったからな……」

 貧乳好きの馬鹿馬……などとは流石にこの場では言わず言葉を濁す。
 だがヴィルクは、ワシの言わんとする事はお見通しとでも言わんばかりにメガネをくいと押し上げた。

「取り繕う必要はありません。確かに私は獣の姿となると、あのような事になってしまいますから……」

 ヴィルクは忌々しげに唇を噛む。
 なるほど、強い力を得る代わりの副作用といったところか。

「しかし、あぁ! 可憐な少女の美しき平原を目の当たりにして、正気でいることが出来るでしょうか! いいえ出来ません!」

 ヴィルクが拳を握りしめ、何か言っている。
 えーと……平原というのは要するに胸の事を言っているのだろうか。
 平原好きというのもある意味馬らしいのかもしれない。
 ドン引きする皆に気付いたヴィルクは、取り繕うように大きく咳をした。

「……おほん……し、失礼。戻ったばかりで興奮しておりました。どうも獣の姿となると理性が保てなく……」

 普段の無表情を装うヴィルクだが、時すでに遅し。
 それを見たミリィはドン引きだ。

「ゼフ……私ウルクに乗るのが怖くなってきたんだけど……」
「いや、前々からもっと恐れるべきだったと思うぞ……」

 ウルクは前々からヤバかったが……ある種、動物だから許されていた部分もあるからな。

「……ま、ウルクにはしばらく乗らない方がいいかもな」
「……そうね」
「そ、そんな! 殺生な!」

 食い下がるヴィルクに、ミリィはびしりと手をかざす。

「おすわり!」

 すると、ヴィルクは大人しく頭を垂れて引き下がった。
 どうやらちゃんと手綱は握っているようである。
 これなら心配はいらんか。

「ふ、飼いならしているではないか」
「もう、言い方が悪いわよゼフっ!」

 言い方が悪いのはお前だろう。
 おすわりは犬に命じる用だぞ。
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