効率厨魔導師、第二の人生で魔導を極める

謙虚なサークル

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343 誰がために鐘は鳴る⑧

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――――ォォォォォォォ。
重苦しい音が、荒野と化した森に鳴り響く。
吹き荒ぶ土煙が晴れた中には、飛び散った黒い竜の破片が見えた。

「な、なんですかぁ、今の爆発はぁ……?」
「ワシの奥の手中の奥の手だ。あれが効かなかったらどうしようかと思ったが……どうやらやったようだな」

流石の黒い竜にも復活の気配はない。
やれやれ、一安心と言ったところかな。
念のため、スカウトスコープで黒い竜を見る。

バクームロア
レベル179
魔力値0/999999999

「む……?」

おかしい。
あの黒い竜を、アインベルはティアマットとか呼んでいた気がする
アインベルの妹、ティアが魔物化したのがティアマットなのだ。
あの巨体、驚異度から言ってあれがターゲットだと思い込んでいたが……まさか違うというのか。

「クルルルルルルル……」

不意に、頭上から音が聞こえる。
見上げると、頭上を黒い影が旋回していた。
影は徐々に高度を下げ、大きくなっていく。
そして、突風を叩きつけるとティアドロップの爆心地へと降り立った。

「カロロロロロロロ……」

喉を鳴らしながら、翼を折りたたむのは黒い竜。
先刻のバクームロアと似てはいるが、ふたまわりは大きいだろうか。
横たわるタイタニアと比べて見れば、その巨体は一目瞭然である。
恐る恐る、竜へ向けスカウトスコープを念じる。

ティアマット
レベル254
レベル999999999/999999999

「ティアマット、か……!」

想定外の事態に、思わず口元が歪む。
ったく紛らわしい事この上ないな……しかもこんなタイミングで出て来やがるとは。

「た、タイタニアが……っ!」

メアの指差す先を見ると、ティアマットがタイタニアの身体を引き裂いている。
バキバキと音を立てながら、腕を、足を、首をもぎ取っては辺りに投げ散らかしていた。

「この……私のタイタニアを……っ!」
「待てメア!」

制止の声を聞かず、メアはティアマットへと走っていく。
まずい! いくらなんでもアレを相手に生身では……だがメアの速度は尋常ではない。
気づけば既に奴の足元に辿り着き、攻撃を加えるべく跳躍していた。

「はああああああっ!」

全身をばねのようにしならせ、一回転した後に繰り出される蹴りがティアマットの後頭部に突き刺さる。
ずどん、と重い音がこちらにまで届く程の痛烈な一撃。
だが、ティアマットはメアに気付いてすらいない様だ。

「くっ……! ならばこれでどうですぅ!?」

ティアマットの背に着地したメアは、身体を屈めて飛んだ。
反動をつけての跳び蹴り、ティアマットの首がぐらりと揺れた。
更に、メアはいつの間にか手にしていたロープをティアマットに投げつけ固定する。
それを頼りに、繰り出される連撃。

「クルゥ……」
「――――ッ!?」

ティアマットはそう唸ると、煩わしそうに首を振るう。
鼻先が振れた、その一撃でロープは千切れ、メアは吹き飛ばされてしまった。
転がるメアに、ワシは駆け寄る。

「大丈夫か、メア」
「く……う、受け身を取ったから……大丈夫ですわ……ぁ」

起き上がろうとするメアだが、身体に力が入らない様だ。

「動くなよ、回復してやる」
「あ、ありがとうございますぅ……」

そう言ってメアにヒーリングをかけてやる。
あの攻撃を受けて生きているだけでも大したものだ。
受け身で軽減できるようなダメージではないぞ。流石の身体能力である。

「しかし、まずいなこれは……」

クロードは気絶、メアはタイタニアを破壊され、今は動く事も出来ない。
ミリィとセルベリエは乗り物酔いでダウン。シルシュとレディアは二人を連れて安全な場所へ……か。
まともに動けるのはワシだけではないか。

「やれやれ、どうしたものかな……」

そう呟くワシの方へ、ティアマットはゆっくり向き直るのだった。



「これは……一体どういう事なのですか……?」

人の波を掻き分け、やっとの思いで貧民街に辿り着いたアインベルは思わず声を上げた。
結界も満足に張られていない貧民街に黒い竜があらわれたのだ。
しかもそれを抑えるべき軍が大幅に遅れての到着したのである。
さぞ酷い事になっているだろうと覚悟はしていた。

「おい! 包帯が足りねぇぞ!」
「ばっかやろう! どこも足りてねぇよ! 服でも破いて使ってろ!」
「湯が沸きましたよーっ! 取りに来てくださーいっ!」

だが、アインベルが目にしたのは、怪我人の手当や、救助を行う貧民街の人々の姿であった。
罵りあい、怒号を飛ばし合いながらも、互いを助け合っている。
軍の助けなど、待つ必要はないととでも言わんばかりに……

ふとアインベルの視界に、瓦礫に埋もれた子供を助けようとする少女が映る。
少女の身体は擦り傷にまみれ、その手は血で真っ赤に染まっていた。
細腕に力を込め、瓦礫を退けようとする少女の手からぽたぽたと血が滴る。
その少女は、アインベルの良く知る人物であった。

「ベル……!」
「あ、アンタ……!」

二人の視線が交わり、同時に声を出す。
まるで時間が止まったかのような静寂。
兵たちも、貧民街の人々も、そっくりな姿の二人を見て息を飲む。

「……遅いじゃない、何やってたのよ」

沈黙を破ったのはベルであった。
その言葉に、アインベルは自分のやるべきことを思い出す。

「皆、あの少女に手を貸しなさい! 瓦礫に埋もれている人を助け、傷ついている人を手当てするのです!」
「は、はっ!」

アインベルの号令で、兵たちは瓦礫に集まりベルに力を貸す。
余った兵たちは散らばり貧民街の救助を開始した。
最初は戸惑っていた彼らだったが、流石に訓練を積んだ軍隊である。
手慣れた動きで人々を助け出していく。

「よ……っとぉ!」

ベルの掛け声で瓦礫が持ち上がる。
下にいた子供を母親が抱きかかえた。

「ありがとうございます……ありがとうございますっ!」
「まぁまぁ、いいってことよ」

何度も頭を下げる母親に、ベルは手を振って返す。
そのまま立ち去ろうとするベルの手を、アインベルが掴んだ。
あからさまに不機嫌そうな顔で、振り返るベル。

「なぁによ、今更こんなところに来ちゃってさ」

先刻とは異なるベルの冷たい声に、アインベルは怯みそうになる。
だが負けじとベルの目を見つめ返し、応えた。

「……まずはお詫びとお礼を言わせてください。到着が遅れて申し訳ありませんでした。そして、民を助けていただきありがとうございます」
「んー……うん、まぁ。困ってる人を助けるのは当然だと思うからやっただけだよ。……じゃ私は行くから、あとはがんばって」
「お待ちなさい!」

強い口調で引き留めるアインベル。
ベルはため息を吐いて、もう一度振り返った。

「はぁ……言っておくけど、城には戻らないからね」
「……構いません」
「へ?」

てっきり連れ戻されると思っていたベルは、拍子抜けしたような声を出す。

「……私はベルの事を勘違いしておりました。自由を得たいがため、自分のわがままで城から逃げ出したのだと……だから心配していましたが、違ったのですね。私だけでは届かぬこの街を陰ながら守り、支えていたのですね」
「えーと……その……ま、まぁね」

当然ベルにそんなつもりは全くない。
だが、話を合わせねば面倒な事になると考えたベルは、したり顔で頷く。

「ベルにはこれからもこの地で、人々の事を見守って欲しい……もちろん援助は惜しまないつもりです」
「え、いいの?」
「はい、もちろんです。人には各々得意な技、出来る事、進むべき道がある……以前読んだ本にもそう書かれておりました」

本の知識か……と苦笑するベルだったが、そこは言葉を飲んだ。
堅物だと思っていたアインベルも、意外と話が分かるじゃない。そう思ったからだ。
何年振りかに二人が顔を合わせ、微笑んだ瞬間である。
眩い光が空を照らし、少し遅れて凄まじい爆音が辺りに鳴り響いた。

「な、なんですか……この音は……っ!?」
「~~~っ! 多分ゼフたちがやったんだよ! ここから離れたところで、街を襲った黒い竜と戦ってるって言ったんだ」
「なんと……あれをゼフたちが……?」

その威力に茫然と空を眺めるアインベル。
周りの人々も、手を休め立ち昇る光の柱に目を奪われていた。
これで、終わったのだ……もう黒い竜に怯える暮らしは。
喜び、抱き合う人々であったが、アインベルは胸の辺りの騒ぎが止まらなかった。
そしてその原因は、空から舞い降りる。

「クルルルルルァァァアアア!!」

裂くような鳴きが遠く空から聞こえてくる。
直後、雲海より舞い降りてくる黒い竜に人々はざわめき始める。
アインベルはその姿に見覚えがあった。

「ティア……マット……」
「ちょっと! 今ゼフたちが戦ったのが、それじゃないのっ!」
「いえ、恐らくあれは妹の親衛隊長であった、バクームです……黒い魔物と化した彼と姉は似たような姿をしている……それで取り違えたのでしょう」
「何言ってんの馬鹿っ! 取り違えたですむわけないでしょっ!」
「どちらが来たにせよ、倒す必要はありました……ですがまさか、同時に来るなどと……」
「そ……んな……あんなのが二体も……勝てるワケないじゃん……」

絶望し膝を落とすベルの手を、アインベルは離さなかった。
もう一度立ち上がらせ、ティアマットが舞い降りた場所へと、進む。

「ど、どうするんのよ! アインベル!」
「あれだけの戦いをしたのです。恐らくゼフたちは相当消耗している……あのままでは殺されるでしょう」
「だったら尚更、私らが行っても足手まといでしょうがっ!」
「先刻言いましたよね。人には各々得意な技、出来る事、進むべき道があると。私には……私たちにはまだ、出来る事があります」
「っても何が……」
「お待ちください、アインベルさま」

二人の前に立ち塞がったのは、ヴィルクである。
下げていた頭を上げると、二人の前に一歩進む。

「ゼフさまたちが離れた場所で戦っておられます。二人の速度では間に合わぬでしょう」
「そうよっ! 何が出来るか知らないけど、間に合わないって!」
「無論、私がいれば話は別ですが」

そう言うと、ヴィルクの背に大きな翼が生まれる。
続いて全身が光に包まれ、額には長い角が。

「な……!?」

驚き面喰うベルの目に映ったのは、一角と翼を持つ白馬。
アインベルはこくりと頷くと、ベルと共にヴィルクの背に乗りかかった。

「では、行ってくださいヴィルク。あなたもついてくるのですよ。ベル」
「はっ」
「いったいなんなのよぉーっ!?」

ばさり、と翼をはためかせると、ヴィルクは空へと飛び立つのだった。
ティアマットとゼフたちの戦場へ……! 
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